翌日、俺は両手にガソリンを持って再び訪れた。理由はあの施設を炎上させる為。この為に近くの町で盗みをしたのだ。正直、身内に見られなくて助かった。
ガソリンはポリタンク20kg分。幾つかに分けたとはいえ持てるはずも無いので一緒に盗んだ荷車を死に物狂いで引いてきた。
見つからない様に少し遠い所に置いてこうして運んでいる。正直、腕が引きちぎれそうだが約束した以上は頑張るしかない。
ふと下を見て歩みを止めた。足跡が明らかに増えている。ポリタンクを茂みに隠し俺自身も茂みに隠れながら進む。
建物の前に着きはしたが見張りは居ない。この時点で怪しさ満点だが根気強く待つ。
だが待ち続けても誰一人として出てこない。俺は尚も隠れながら入口のドアを開いた。
そこには昨日は無かった真新しい死体だらけ。それに地下への扉も開かれている。
「最悪だな。」
俺は警戒しながら降りて行く。相変わらず酷い臭いが充満している。懐中電灯を付けようとした途端、首を捕まれ壁に叩き付けられた。
「おぐっ!」
「・・・子供?それにこれは・・・。」
暗がりでフードを被っている為、顔は見えないが声は女だ。しかも力が異常に強い。異形種だろう。
「答えなさい。あなたの持つ呪具は何?」
更に首を絞められる。喋らせたいのか殺したいのかどっちかにして欲しい所だが、このままだと本当にマズイ。
腰に付けてある盗んだ小型ナイフを抜き彼女の腕を切る。突然の痛みに驚いたのか俺の首を離してくれた。
「ゴホッ、ゴホッ!」
「・・・やってくれたわね。」
「ま、待て!先に仕掛けたのはアンタだろ!?」
魔法陣を展開した様を見て慌てて止める。彼女も動きを止めるが警戒を緩めるつもりは無いらしい。
「俺はコイツらを弔いに来ただけだ!」
「・・・あなた、正教会の人間ね?どうやってここを見つけたのかしら?」
「コイツだよ!」
俺は腰に下げたコンパスを見せる。怪しんでいるだろうが助かるには本当の事を言うしかない。
「・・・嘘は言っていないようね。いいわ、信じましょう。」
彼女はようやく魔法陣を閉じた。それを見て俺は大の字に横になる。初めて死を感じた。昨日のアイツらもこんな気持ちだったのか。
「・・・それで?アンタはここで何してる?ここは教会の縄張りだぞ。」
「呪いを集めに来たのよ。」
「呪い?」
「ええ。私は呪いの研究をしているのよ。」
彼女は再び魔法陣を展開すると真っ暗だった地下に明かりが灯る。フードを外すと白髪で耳が長く褐色気味の肌。
「ダークエルフってやつか。」
「勤勉ね。それで?その呪具をどこで?」
「貰い物だよ。俺は転生者ってやつだ。」
なんとか立ち上がり服に付いた汚れを落とす。彼女は少し考える素振りを見せて俺に視線を戻した。
「あなた、名前は?」
「ジャック。ジャック・スパロウだ。」
「私はソビーニャよ。ジャック、あなた、呪いに興味ある?」
「呪いに?・・・まあ、無いと言えば嘘になるな。」
「この世界には呪具が大量にある。中には神々でさえ噂しか聞かない様な呪具も。私と共にそれを集めない?」
俺の中で衝撃が駆け抜ける。神々でさえ噂しか聞かない呪具。
「そいつは最高の宝じゃないか!」
「ええ。その通りよ。それを引き渡してくれるのなら報酬も約束するわ。」
「なら、交渉は成立だ!ここでやる事は終わった?」
「ええ。」
「なら弔いを手伝ってくれ。」
俺はコンパスを開き針の指す場所へ歩を進める。目的の物はすぐ近くにあった。
「それは何?」
「兄弟の形見さ。さ、弔いを始めよう。」
俺が拾い上げたのは玩具の指輪。兄弟の証として俺とアーシア、イザイヤが持っていた物だ。
ポケットに入れ、持ってきたポリタンクの中身全てを使い果たし火を付け、炎上する建物をソビーニャと共に見届けた。