「やぁぁぁ!」
「雑。」
「ふぎゃ!」
付き纏われて一週間。俺はイリナと軽く稽古をしている。
飯を食った後、解散したかったがしつこく付いてきた。お陰で剣を試す暇が無い。それどころか、毎日の様に付いて回ってくる。
流石に夜は寮へ帰る為、アーシアとの関係はバレて無いが少し面倒にも思えてくる。
「こ、今度こそ!」
「んじゃ、まずはその直球をどうにかしろ。」
「言われなくても!!」
そう言いつつ直球で攻めて来た為、木剣の腹を叩いて落とす。イリナはそのまま地面に転がった。
「もー!!なんで勝てないのよ!」
「だから直球過ぎるんだよ。もっと頭を使え。」
木剣を地面に投げてコンパスを開く。コンパスの差す方角は東。ちなみに心に思っていたのはイザイヤの事だ。
あの日、俺が思っていたのはイザイヤの遺留品であり、イザイヤ自身では無い。これに気付いて開いて見ればコンパスは場所を示した。二日前は真下を向いていたが今は気にしないでおこう。
姿形が変わろうと俺にとってアーシアとイザイヤは兄妹なのだ。俺の大切な小さな世界でもある。
「そういえばお前、本部に呼ばれてるって言ってなかったか?」
「あ!そうだったわ!行ってくる!」
そう言って木剣を拾い上げて去っていく。まるで嵐みたいな女だ。
「随分と好かれてるのね。まるで子犬じゃない。」
「会って間もないのに嫉妬してくれるとは嬉しいよ。ソビーニャ。」
正直、急に後ろから話し掛けられてびっくりしたが表情に出さないよう務める。見破られていない様でソビーニャは面白くなさそうな表情をしている。
「面白い冗談ね。まあいいわ。お話でもしましょうか。」
「なら、酒が必要だな。」
俺は未だにバレていない荷車から2本の酒瓶取り出し、1本をソビーニャに差し出す。彼女は少し表情を動かしたが受け取ってくれた。
「敬虔な信者だとは思わなかったけれど、まさかお酒を渡されるなんてね。死んだ神も泣いてるわよ?」
「死んだ神?」
「・・・ああ、そういえば末端には知らされて無かったのよね。聖書の神は既に死んでいるわ。」
「なに?」
「大昔、三つ巴の戦争があったのは知っているかしら?」
「いや、知らないな。」
「天使、堕天使、悪魔の三大勢力は他勢力をも巻き込みかねない戦争を引き起こしたのよ。結果は悪戯に兵力を消耗しただけの痛み分け。悪魔、天使に至ってはトップを失うという最悪の結果に終わったわ。」
「待て待て待て。なら、アイツらの信仰は無駄だと?」
「全てが無駄という訳ではないでしょうけど、機能しているのは二割もないんじゃないかしら?」
つまりアーシアの捧げる祈りも、イリナが信じているものも全て無駄だと?腸が煮えくり返りそうだ。
「当然だけど、この話は教会にとってはこれ以上無いほどの禁句。誰かに伝えた瞬間、あなたは死ぬ事になる。」
「なら、なんで教えた?」
「あなたを完全には信用してないからよ。そもそも、下っ端共に言いふらした所で信じないと思うけど。」
そう言って彼女は酒を煽る。全く、嫌な話を聞いてしまった。俺も酒を飲んで聞いた話を頭の隅に追いやる。
「ここからはお仕事よ。あなた、いつまで自由でいられるの?」
「さあ。俺が知りたい位だよ。いい加減、暇を持て余すのにも飽きてきた。」
「そう。なら情報だけ教えるわ。北欧のとある遺跡に呪われた盾があるの。名を『死の盾』。持ち主に最大の不幸と絶望を与えると言われる盾よ。あなたにはこの遺跡を見つけて欲しいの。」
「場所が分からないのか?」
「ええ。そもそも、その遺跡自体がほとんど幻みたいなものよ。恐らくはこの遺跡自体が生きている。」
そんな遺跡が本当にあるのか・・・?だがあの化け物を見た後だ。あながち嘘とも言い辛い。
「ま、とりあえず外出許可は貰ってみるがあまり期待はしないでくれ。なんせ、こんな身なりだしな。」
「分かっているわ。私は長命種だもの。あなたが死ぬまでに見つけ出してくれるなら文句はないわ。」
彼女はそう言ってフードを被ると姿が消えてしまった。気配すら感じない。なるほど、気付かない訳だ。
にしても神の件はどうすればいい事やら。後々に響いて来そうなのに辟易しながらもう酒を煽る。