DELETERーX   作:ばりるべい

1 / 1




サスペンスー事件の始まりー

ネオンの街を一台のコンテナトラックが走行している。

 

臀部から伝わる揺れを感じながら、九条理奈は高ぶる気持ちを抑えようと手を握りしめていた。

車両の中(中と言っても輸送トラックのコンテナ内だが)には、理奈を含め6人が専用装備に身を固め待機している。出口に最も近い先陣を切る位置に諸星達也隊長、その次に副隊長の早川美雪が座り、次いで理奈、八津崎光琳、蘭堂快太、雨宮瑛美と並んでいる。このコンテナには純粋な地球人は殆どいない。組織のエージェントとして求められる身体能力は地球星籍を取得した異星人か、その混血にしか満たせないと言われていた。諸星隊長と早川副隊長は数少ない例外である。理奈を含む残り4人は純粋な異星人か異星人との混血だった。

理奈達が所属する組織ARMS-Alien Reaction Multi Squad-の目的は地球に不法滞在する異星人の逮捕もしくは抹殺である。組織の存在は公にはなっていないが、デジタル化の著しい現代社会において全てを隠し通す事は不可能だったらしく、組織の名は都市伝説としてそこそこ有名になっていた。今では、ペーパーカンパニーである人材派遣会社UGM-Utility Global Members-を隠れ蓑とし、理奈達メンバーも表向きはUGMの社員となっている。

 

今回、理奈達の部隊が突入するのは大手化学薬品販売企業メサイアだ。この企業は近年になって急激に売上を伸ばしているのだが、ARMSは不法滞在者から密輸された銀河連合によって製造と販売が禁止されている依存性の高い薬物を材料にしているのではないかと睨んでいた。数日前に別の班がメディアのインタビューを装って内部調査を行った。果たして、工場内部の大気中から違法薬物が検知され、社内に仕掛けたセンサーによって数年前に外部取締役に就任したメンバーが不法滞在者のエイリアンである事も判明した。彼等は時折社内に残って何やら会合を開いているらしく、その周期を計算した結果今夜が最も可能性が高いとされた。午後11時を下回った頃、メサイア本社内部に仕掛けていたセンサーが反応を示した為、理奈達の部隊が現場へ移動を開始した。

 

理奈達が身を包んでいるのは、異星人との戦闘に特化した対人用コンバットスーツだ。既存のSWATの装備等とは異なり、全身を覆う一体型のパワードスーツでパワーアシスト機能をOFFにすればまともに歩けない程の重量であり、着脱に時間がかかるが極めて高い防御力を誇る。メインウェポンに電磁小銃が支給されており、右太股に拳銃を、両腕には伸縮式の高周波ブレードを備えている。頭部全体を覆うヘルメットのバイザーからは人間の視覚では捉えられない様々な情報を得る事が可能だ。

これだけの装備がありながら、ARMSのエージェントは殉職者が非常に多い。現在のパワードスーツでも、エイリアンと戦うのには力不足だった。ARMSの職員となった異星人やその混血達の中には、鈍重なパワードスーツを着るよりも生身で直接戦った方が速いと言う者もあった。

 

午後11時半、理奈達を乗せたトラックがメサイア本社の物資搬入口に到着した。スーツが社内に仕掛けたセンサーと通信を行い、バイザーに社内の情報が表示された。センサーが複数の生体反応を捉えた。件のメンバーが丁度5人全員揃っており彼ら以外には見回りの警備員しかいない。警備員はエイリアンでは無い様だが鉢合わせるのは避けなければならない。隊長が作戦開始の承諾を本部に要請し数舜の内に承諾された。ロックが解除されたコンテナ開閉口がモーター音と共にゆっくりと上下に開いた。

 

「各員、セーフティを解除せよ」

 

隊長の号令によって全員が安全子を操作した。グリップを握る手にぐっと力が入る。

 

いよいよ突入ね…

 

諸星隊長を先頭にざっざっと音を立てて早足の歩兵部隊は社内へと進んだ。搬入口から社内へ通じる裏口までには物資の保管庫が幾つかあり、大小様々の物資の入ったボックスが安置されている。念の為全ての中身をスキャンして確認したが、殆どが警備用自動人形(オートマタ)かそのパーツだった。裏口は電子ロックが施されていたが、スーツのハッキングで難無く突破出来た。

 

社内は薄暗くオカルト番組のロケ地にでもなりそうだと理奈は思った。

一本道の廊下の先で道が二つに枝分かれしており、バイザーに表示された本社の3D構造図によると右側の通路の先に上階へ通じる階段があるようだ。エレベーターは相手に潜入がばれた時に閉じ込められる可能性があるので階段を使うのが好ましい。通路に仕掛けが無いか確認し、曲がり角では手前で一旦停止しその先に警備員や自動人形が待ち伏せしていないか確認する。これを繰り返しながら慎重に先へと進む。

階段は全階に通じており、対象は15階の会議室に集まっている。

小隊は足音を立てないように慎重に階段を踏み進んだ。

 

10階へ到達した時、灯りが全て消失しバイザーが暗視モードに切り替わった。

隊長がハンドサインで止まれと指示した。静寂が踊り場を支配する。顔を見ずとも誰もが緊張しているのが分かった。センサー上に仲間以外の反応はない。

隊長は恐らく本部へ指示を仰いでいるのだろう。小声で何か話しているのが聞こえる。

 

「これより3つの班に分かれて行動する」隊長が無線で話しかけてきた。

 

「分かれて行動するのは危険では?」副隊長の意見具申

 

「全員でかたまっていると一網打尽にされる可能性が高い」隊長が反論する。

 

隊長と瑛美、副隊長と快太、理奈と光琳に分かれて行動することが決定した。

本部によると警備員の反応がロストしたらしい。我々の潜入は割れていると思って良いだろうと隊長は言った。隊長と瑛美は階段を上り続ける事に、他の2班は別の階段へ向かう事に決定した。

各班とは無線機能で随時報告する事になっている。何かあれば即座に本部が応援をよこしてくれるらしいが、到着するまでにはタイムラグが発生する。エイリアンと戦闘になればその誤差が命を左右するだろうと理奈は思った。

サーチライトを点けると相手に位置を知られる可能性がある為、見にくいが暗視モードで先へ進むしかない。光輪が前衛、理奈が後衛となって暗がりを進んでいく。

無機質で冷たい壁、床、天井が背筋に冷たいものを感じさせる様に理奈は思った。

ビルの端まで来たようで下の階の休憩所らしきスペースと繋がった場所に出た。2階分突き抜けたガラス窓の外にネオンの光が灯ったビル群が鮮やかな夜景を生み出していた。

理奈は少しだけ緊張がほぐれ、暖かい心持ちになった。

 

「こちらGalax-01。12階にてオートマタと接敵、現在交戦中」

隊長からの通信が理奈を現実に引き戻した。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。

評価する
※参考:評価数の上限
評価する前に 評価する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。