そこは果てしなく続く青い海と白い砂浜。波打ち際に気を失った2人の男女が横たわっている。波に打たれて目を覚ました男は、隣の女の身体を揺すって呼びかける。
「祢音!おい、祢音!」
「………んにゅ…キューン……?」
「そうだ。立てるか?」
「うん……え……?どこ…ここ…………」
女…鞍馬祢音はゆっくりと身体を起こすと、あたりを見まわした。雲一つない青空、水平線の果てまで続く海が却って不気味さを際立たせている。
周囲にいるのはキューンと呼ばれた男のみ。砂浜の遠くに人影が数個見えるが、この距離からでは視認できない。状況が完全に飲み込めない中、とりあえず人影を目指して、祢音とキューンは歩き出す。
「ねぇ、これもしかしてデザグラ?私なんにも聞いてないんだけど」
「いや、あまりにやり方が手荒すぎる。新体制となった運営が関わっているとは思えない」
浮世英寿/仮面ライダーギーツ一派によるスエルの討伐後、ジーンとツムリの主導の元、デザイアグランプリは運営を一新する形で生まれ変わり、人命を軽視する危険なゲームは開かれなくなった。ましてや、命の重みを知ったジーンとツムリが、予告も無く参加者を砂浜に放置するなんて手荒な真似をするとは考えられない。
「キューン、ここに来るまで何してたか覚えてる?ぜんっぜん覚えてなくて」
「動画の企画について打ち合わせしていたことは覚えている。だがそこからの記憶が…」
ふと、祢音がキューンに目をやると彼の首に禍々しい色の首輪が付けられていることに気付いた。打ち合わせの時は無かったはず、と思った祢音は念のために自分の首元に手を当てると、案の定同型のものが付けられていることを理解した。
「ねぇキューン、そのチョーカー何?」
「分からない。気づいたら身に付けていた。ただ、無理に外すのはやめろ。嫌な予感しかしないんだ」
「今この状況が十分嫌なんですけど~」
「…ちゃーん…おーい!祢音ちゃーん!」
人影の方から声がする。祢音が目を凝らすと、人影は高身長で後ろに結った長髪と眼鏡が特徴的な青年と、やや身長が高い童顔の女性に変わった。五十鈴大智と桜井沙羅である。やはり禍々しい黒の首輪が付けられている両者の下に祢音が駆け寄る。
「沙羅さん!?…と、大智さん?何でここに居るの?」
「それはこっちが聞きたいよ、ナーゴ。僕らも気が付いたらここに居たんだ。しかし…ハクビといい、妙な因果を感じる組み合わせだね」
デザイアロワイヤルでの一件を思い出した大智は、やや苦笑すると祢音の横にいたキューンに目をやった。
「君は…一緒に歩いていた辺りナーゴとは初対面ではなさそ…」
「あーっ!!もしかして、祢音TVの裏方のイケメンさんでしょ!」
沙羅の「裏方」という言葉にキューンは顔をしかめる。キューンは祢音TVのプロデューサーを務めているが、時たま野次馬に撮影現場を撮られ、2人でいる写真をSNSで拡散されるのである。尤も、鞍馬財閥によってこの類の投稿は全て消されているため、ファンの間では「祢音TVのイケメン裏方」と半ば都市伝説のような扱いを受けているが。
「俺はキューン。祢音TVのプロデューサー、そしてデザイアグランプリでの彼女のサポーターだ。ナッジスパロウと祢音の友人の桜井沙羅だな。君達のことはデザイアグランプリを通じて知っている」
キューンは敢えて「プロデューサー」を強調して言ったが、沙羅は嫌味に気付くわけもなくいつも通り朗らかに応対する。
「はい!桜井沙羅です。祢音TVいつも見ています!」
「サポーター…つまり未来人だね。スエルが倒された後もナーゴと交流があるということは、味方とみなしていいのかな?」
大智の問いに、祢音は「うん」と頷いた。現代人とは相容れない価値観を持つ未来人にとって、キューンは異端に入るが祢音にとっては心強い味方である。
「あっ!祢音ちゃんだ!」
「陽花里!走ると危ないよ!」
陽花里と呼ばれた小学生ほどの外見の少女は、姉の制止を振り切って祢音の元へ駆けて行く。彼女の後ろからは姉である高校生ほどの少女とその彼氏と思わしき少年が歩いてくる。
「あのね、陽花里ね、祢音ちゃん大好きなの!会えてとっても嬉しい!!」
「あ、ありがとう!お姉ちゃんとっても嬉しいよ」
祢音はやや戸惑いつつも、笑顔で応対し陽花里と握手した。積極的なファンサービスは彼女の長所である。
「ごめんなさい。うちの妹、祢音ちゃんの大ファンで」
陽花里の姉は祢音に一言謝ると、深々と頭を下げた。言葉遣いこそ丁寧で育ちの良さが見て取れるが、髪はボサボサで肌荒れも酷く、服装もかなりみすぼらしい。
「はっ、どうせ頭空っぽのバカ女だろ。配信者ってのは皆カスだよなww」
少年の方は、少女とは対照的に服装やアクセサリーこそ高価なブランド品だが、所作に品が無い。露骨に侮蔑的な少年の態度に立腹した沙羅は、一言文句を言ってやろうと意気込んで詰め寄ろうとするが、大智に無言で制止された。「あの手の輩は無視するが吉」と言わんばかりに。一触即発の空気となったその時、辺り一帯に甲高い男の声が響いた。
『あーあーマイクテストマイクテスト、聞こえるかな、諸君』
「何?誰かいるの!?」
驚いた祢音はすぐさま周囲を確認するも、7人以外誰もいない。冷静に状況を俯瞰した大智が口を開く。
「マイクテストということは、声の主はマイクのある別室から僕らに呼びかけている。救助にしては態度が軽いから、黒幕としか考えられないね」
「流石大智くん!頭いい!」
沙羅が大智の推理に感心すると、謎の声が飄々とした態度で答えた。
『まぁそんなところ。何でこんなことしたかって言うと、デスゲームもどきやるからなんだよね。名前は…“デザイアサバイバル”!Ⅶエリアの参加者は鞍馬祢音、キューン、桜井沙羅、五十鈴大智、屋良卓、馬渕たきな、馬渕陽花里の以上7名。これからスタッフがルール説明しに向かうんで、ちゃんと聞いてね~』
謎の声はそれっきり聞こえなくなった。一同が状況を呑み込もうとしている中、一人キューンが顎に手を当てる。
「この声、まさか…」
「知ってるのキューン?」
祢音がキューンに尋ねた時、祢音を馬鹿にした少年・卓が下品な高笑いを上げた。
「へっへー!なーにがデスゲームもどきだゴラァ!騙されねぇぞ、殺して見ろやバーカ!!あひゃひゃひゃ」
しかし、その嘲笑はすぐに悲鳴に変わった。卓の首輪が黒い光を上げると、一瞬で彼の身体に激痛が走ったのである。絶叫しながらのたうち回ると、間も無く彼の身体は黒い霧に変化し跡形も無く消えていった。再びドスを効かせた謎の声が響き渡る。
『言い忘れたけど、本気でゲームに参加しない奴はぶっ殺すから。以上』
突然の出来事を前に、一同は絶句する。陽花里は酷く怯えてたきなに抱き着いた。
(子供まで…一体なんなの、デザイアサバイバルって…)
祢音がゲームに関して思案していると、空間が大きく歪み、中から怪物が現れた。
DGSルール
ゲームには真剣に取り組むべし
ふざけた者には、死あるのみ
次回
混濁Ⅱ: 欠けたA