【完結】 ギター爪弾きのバラッド   作:はま0821

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後藤ひとりちゃんは、本気で想いを伝えるときは噛みません、どもりません。


19 文化祭中篇 鳴り止まぬ歓声 結束バンドのロック

 

 

 

 

 

 

ずっと背中を、追いかけてきたような気がする。初めて音を、合わせたその日から。あなたは、わたしの方が上手いと言ってくれたけど、わたしは、とてもそうとは、思えなかった。何度助けてもらったか、何度救われたか。

 

あなたは、事あるごとに、わたしをギターヒーローと呼ぶけれど、わたしはあなたこそ本物のヒーローだと思う。鼻につくくらいの、キザな台詞回しでどんな強大な敵にも恐れず、引かず、不敵に笑って、敢然とギター1本で立ち向かう。

 

今日だってそうだ。文化祭の舞台なんて、ただでさえ、身が竦むようなシチュレーション。彼は、ひとりだというのに、それをおくびにも出さず、不敵に笑って、わたしたちに挑発までしてみせた。なんという、大胆不敵。なんという豪胆。

 

でも。それでも。そんなあなたにも怖いものがあるんだね。恐れるものがあるんだね。

 

完全無欠のヒーローなんかいない。ならばこの勝負、少しは勝ちの目があるのかもしれない。

 

あなたに恨みはないが、むしろ感謝しかないが。わたしは青木くんに、勝ちたい。勝って、あの時。中学の時の、3年間、足掻きに足掻いたあの日々を!そして結束バンドとして過ごした短いながらも絵空事のようだった日々を!肯定してやりたいんだ!!

 

わたしの中の暗闇!?ドッペルゲンガー!?なんでもいいから力を貸して!

 

 

 

 

 

 

思えばクソ生意気な後輩だよ。まったく可愛げがない。あたしのリーダーとしての役割をいっつも先回りして解決しちゃうから!まったくまったくだよ!

 

…でも。一方で感謝もしてる。あの、台風の初ライブの日。心ないオーディエンスの人たちにいろいろ言われたのに、あたし。何もできなかった。自分がショック受けちゃってたんだ。そういう時こそリーダーがなんとかしなきゃいけないのにね。

 

そしたら。青木くん。来てくれたよね。あたしたちは、練習を積んできた。だから大丈夫だって。そう言ってくれたよね。

 

あのライブを救ってくれたのは。間違いなく青木くんとぼっちちゃん。

 

あの日公園で出逢った変な2人のギタリストが結束バンドの運命を変えたんだ。不思議なものだよ。

 

なぜか今日は敵みたいだけど。青木遥くん。あなたには感謝しかない。恨みなどあろうはずもない。…でも!勝負となれば話は別だよ!あたしの方が先輩なんだから!先輩の威厳!とくと見せてやる!いくよ!青木遥くん!

 

 

 

 

 

 

 

青木遥。おもしろい後輩。思えばけっこう趣味も合う。

 

いろいろやった。廣井さんに拐かされて競艇場に行ったのはやりすぎだったけど。

 

アイツと居ると退屈しない。今日もなかなか面白い展開になってる。

 

馬鹿め遥。いかにお前が上手かろうと4人には勝てまい。

 

今日の文化祭勝負はもらったな。これ口実でまたいろいろ奢ってもらお。

 

 

 

 

 

 

 

 

弟子が師匠に牙を剥く…!きゃー王道ね!

 

…まさかここまで来れるなんて思わなかったわ。1番最初。わたし、まったくギターできなくて逃げ出して。そしたら青木くんと後藤さんが連れ戻しに来て。

 

…最初は罰なんだ。と思ったわ。でも、青木くんの言葉が。そしてなにより後藤さんの言葉が。嬉しくてわたし泣いちゃった。

 

覚えてるかな?青木くん。結構励みになったんだよ?君はロックをやるべきだ。って。

 

言った人が覚えてないのって定番らしいから、わたしは勝手に覚えておく。

 

あなたが教えてくれたギターで隣のキラキラ光るギタリストを支えてみせるわ!

 

わたし1人じゃ絶対青木くんになんか勝てやしない!でも!後藤さんと2人でなら!そして、結束バンドの4人でなら!!

 

負けないわよ!!青木くん!!

 

 

 

 

 

 

虹夏先輩のハイハットで結束バンドのライブが始まる。俺はそれを袖で見守る。1曲目は新曲「忘れてやらない」だ。

 

やっぱ上手くなってんな。前のライブから1ヶ月と半。合わせの練習頑張ってたもんな。

 

やっぱ練習は裏切らないのよ。キレイに全員の音がハマって美しいグルーヴを奏でる。虹夏先輩のドラムスとリョウ先輩のベースに個性的なギターが2本乗っかって。喜多さんのボーカルで完成だ。結束バンドのいい持ち味が存分に出てる。そうこなくちゃ面白くねぇ!!

 

…んだが。1つ懸案事項。ゴッチだ。正確に言うとゴッチのギターだ。おそらくは壊れる直前。多分、ペグ。ほんで1弦だな。…だが。塩を送るような真似はしない。…アイツなら。ギターヒーローなら。いや…後藤ひとりなら。なんとかする。勝手ながら俺はそう確信していた。

 

やっぱ変だな。音がおかしい。ぼっちちゃんもたぶん気付いてる。廣井きくりは思う。

 

「やけに静かだな。不気味なんだけど」

 

先輩に気味悪がられる。失敬な。人をなんだと思っているのか。それはさておき。

 

「先輩。なんかぼっちちゃんのギターの音おかしくない?」

 

「…お前もそう思う?嫌な予感すんだよななんか」

 

先輩も思ってるってことは気の所為じゃないな。しかし…2曲目はもう始まっちまってる。何もないのを、祈るしかない。そう思った矢先。

 

「「「あっ!」」」

 

ぼっちちゃんのギターの右上あたりで銀糸がしなる。弦が、切れたんだ。まずい。確かこの曲にはぼっちちゃんのソロがあるはず。弦が切れた状態でいけるのか!?

 

う、うそ!?1弦が…!?後藤ひとりは未曾有の事態に直面していた。さらに2弦のペグも故障している。実質残った4本の弦で残りの演奏を何とかするしかない!

 

ど、どうしよう。せっかくの文化祭ライブがわたしの機材トラブルで台無しなんて…!!もうすぐソロがくる。どうしよう…!どうしたら!?しゃがみ込んで絶望に一瞬思考が止まる。すると。

 

ジャジャジャジャジャジャン!ジャジャジャジャジャジャン!

 

!!きっ喜多さん!すごい…演奏がブレなくなってる!きっと、すごく練習したんだ…!わたしが弾けないこの場面、繋いでくれてる!

 

みんなに見せてあげてよ!後藤さんは!ホントはすごくカッコいいんだから!

 

目を彷徨わせる!なにか!?なにかないのか!?喜多さんがあんなに頑張って繋いでくれた!わたしだって…!あっ!コレだ!咄嗟にお姉さんの目の前に飲み干されてるワンカップを拾い上げる!

 

ギュイギュイーンーーーーーーー!!!!!

 

会場すら観客ごと引き裂いてしまいそうなギターの咆哮!!お酒のボトルを弦に押し付けて力一杯に弾き鳴らす!ボトルネック奏法だ!こ、コレならチューニングズレてても関係ない!まだ、ま、まだ!戦える!!負けないぞ!!ギターバラッド!!

 

…や〜ばい。泣きそう。お前さ、こんな場面でそんな素早く動ける奴だったっけ?竦んで、動けなくなっちゃうような子だったじゃん。

 

音合わせの時も、ただ1回、しかも初回。失敗したくらいで下向いて俯いちゃうような女の子じゃなかったっけ?別人じゃんもう。

 

ふつうこの場面でボトルネック奏法なんか思いつくかね?ホントになんとかしちまいやがった。

 

こっちに目線送ってきたら足元にボトルあるよ?って教えようとしてたけど。そんな素振りまったく見せなかったな。ギタリスト後藤ひとり。相手にとって、不足なし。

 

そんで!そんで!!破格なのが喜多さんだよ!あの子ギター初めてまだ半年経たないんだよ!?この舞台に立ってる事自体凄いんだ。

 

頼れるギタリストの先輩のトラブル。ふつうならアタマ真っ白になって立ち尽くしてもおかしくねぇ。

 

ただ!この子は違った。誰よりも素早く友達のために駆け出して見せたんだ!アドリブでその場を素人ながらも繋いでみせた!喜多さんの最高のダッシュ力を見たよ。もはや君は逃げたギターじゃねぇ。君はこの先どんな場面に出会っても決して逃げることなどないだろう。君はあの日、逃げ出さなかったギターだ!!

 

2曲目、「星座になれたら」の演奏が終わる。かなり会場は盛り上がってる。…すまん。観客のみんな。興奮した脇役が、一瞬ステージに上がることを許してほしい。ギグバッグを開き、相棒を取り出し、ステージ上の結束バンドに向けて。後藤ひとりに向けて歩き出す。

 

「えっえっ!?あ、青木くん…?えっ?」

 

困惑してる、ゴッチにギターのネック部分を返して差し出す。

 

「使え、俺の魂だ。チューニングは好みに変えてくれて構わない。イカれてんだろ?そのギター」

 

こう言ってギターを手渡す。会場がざわざわする。

 

「えっなに?ドラマ?」

 

「なんか怖いくらいハマってる〜!カッコいい〜!」

 

やめい。恥ずいわ!

 

「ラスト1曲。期待してるぜ?ギタリスト」

 

ゴッチのギターを預かり、そのまま会場を降り姉御達のもとへ。このライブ、最前で見たくなったぜ。

 

「…随分カッコつけたね〜。遥く〜ん?」

 

「やっぱイカれてんのか。そのギター」

 

姉御達に声をかけられる。ふうむ…。

 

「やっぱペグがイカれちまってます。コレじゃ実質4弦だけしか使えないはずです。よくやりきりましたよホント」

 

そんなこと言いながら、舞台上の結束バンドに目を向ける。ラスト1曲。なに演奏するんだろう。

 

「え、えっと!なんか親切な観客さんの好意で演奏続行できそうです!ぼっちちゃん!いける!?」

 

「あっはい!いけます!」

 

「よっし!んでは、最後の曲!いきます!これもあたし達のオリジナルです!なにが悪い!!です!いきまーす!!」

 

虹夏先輩の力強い宣言!!ラストの曲は、どうやらバラードだな。スタートした曲のテンポと演奏でそう判断する。ハイテンポな曲が多い結束バンドの中で珍しい構成だ。

 

…てか。ゴッチこんな歌詞書けるんだな。少しだけ陰がさすところもあるけど。すごく明るい。なんか、いい意味でらしくない歌詞だ。それがミディアムなバラードの曲に乗っかって、マリアージュを引き起こす。

 

演奏もすごく安定している。リズム隊がイキイキしてんな。特にリョウ先輩だ。バンド全体を統率してる。虹夏先輩と息ぴったりだ。喜多さんもよく声でてるし、ギターもほとんど目線下げず力強く弾けてる。ゴッチも上手い。相変わらず目線は下がってるが。

 

てゆーか…。たまには人に鳴らされる相棒をみるのも悪くないな。お前そんな声で鳴くのかよ。たまんねぇなぐへへ…。

 

「先輩怖いよ〜変態がいるよ〜」

 

「しっ見ちゃいけません」

 

姉御たちが茶化してくるぜ。なんだとこら!あぁでも。なんだこの曲すごくいいな。最後らへんの歌詞。ゴッチの人間的な成長を感じる。閉じこもってるだけの時間はもう終わったんだな。断言できる大切なものが、出来たんだな…。よかったな…。何が悪い。何が悪いね…。そういう意味だったのか。…あかん。泣いてたまるか!!

 

最後は結束バンドと観客のコール&レスポンスとなる。みんなで合唱だ。そしていいところで虹夏先輩のドラムでグルーヴをまとめ上げ…ゴッチのギターで締めだ!

 

会場は大盛り上がり。大歓声だ。やべぇ。俺これに勝てんのか?なんっでトリだよ、自分の運のなさに辟易してくる。

 

「おんやぁ〜?遥く〜ん?ヤバいって思ってんじゃな〜い?頬に一筋の汗が見えますよ〜?」

 

「…こらきついな。この空気の中のトリ。失敗できねぇぞ。遥」

 

どことなくニヤついていそうな大人組2人に囃し立てられる。ぐぬう楽しみおって。

 

確かに。会場はこれ以上ないほど盛り上がっている。そんな中トリだ。失敗したら大ダメージだろう。鳩野さんには失望されビンタをくらい、俺はぼっち生活に逆戻りだ。観客にも失望され、ブーイングをくらってしまうかも。悪い方向に考えたらきりがない。

 

「お、おい。遥?」

 

「ご、ごめ〜ん!やっぱプレッシャーだよね!大丈夫だよ〜、きっと!」

 

どうにもお2人はフォローしてくれてるみたいだが、聞こえない。だから、どうした?舐めるなよ。俺はギターバラッド。ギターを謳わせるものだ。昔の逆境にくらべりゃ屁みたいなもんだ。こんぐらいちょうどいいハンデよ。

 

結束バンドよ。お前たちは跳ねのいい踏み台だ。最後はこの俺が会場を大爆発させてやるぜ!

 

「コイツにビビるとか、そういうのはないのか…」

 

「やっぱ凄いね〜キミ。俄然楽しみになってきたよ。キミのステージ!」

 

「…うっす!期待しといてください!」

 

お2人と別れ、控え室?の袖に戻る。そこにはついさっき演奏を終えた結束バンドの面々がいた。

 

「あっ青木くん…」

 

ゴッチに声をかけられる。

 

「とんでもない空気にしてくれたな!やりづらいわまったく」

 

「あう…ご、ごめんなさい…」

 

「遥。おとなしく爆死して来い。一緒に文化祭トラウマ背負おうぜ?」

 

「応援するとかそういうのはないんか!?あ、青木くん!大丈夫だよ普段通りやれば!」

 

「青木くん!頑張って!!」

 

結束バンドにそう声をかけられる。普段通りか…。

 

「喜多さん。ゴッチ。…いや。結束バンドのみんな。ホントに凄い。みんなめちゃくちゃ成長したと思う」

 

「ふっ…」 「ありがとっ!」 「…へ、へへ…」 「ありがとう!青木くん!」

 

「だからさ。もし負けちゃったとしても、そんなに落ち込むなよな。それはもう相手が凄すぎたってだけなんだから」

 

「「「「…はっ?」」」」

 

「まあ見てなって。ギターバラッドの生き様。見せてやるよ!あっゴッチはギター返して?」

 

「あっはい!」あせあせ。

 

「ホイゴッチのギター。ゆっくりでいいぞ〜。あっそうそう。いい音だったぞ、後藤ひとり。そんで結束バンド。…負けねぇぞ」

 

ギターをゴッチに返しつつそう言って踵を返しギターのチューニングに向かう。なるほどゴッチの好みはこんな音ね。俺としてはもう少しこう…音を鳴らしながら少しずつ調整していく。

 

「ホントに!かわいくない後輩だわ!あのメンタル見習わなきゃ!」

 

「おとなしく爆死しろ遥〜。トラウマと言う名の十字架。一緒に背負え〜!」

 

「まだいうか!」

 

「青木くん!頑張って!謝りたい子が、いるんでしょ!その子のために!」

 

喜多さん。ありがとう!そうだ。鳩野さんのためにも失敗できねぇ。だが。やることは一緒だ。俺のすべて。毛先の1本から爪先の先っちょに至るまで、雑巾みたいに絞り出してぶち当たる!!うおおおお!!やってやらぁ!!

 

「あ、青木くん!!」

 

「なんだ!ゴッチ!!」

 

「あ、わたし、口べたで!気持ち表すの苦手で!だから、長くは語りません!!ど、どうか。頑張って!!」

 

わたしは短い言葉にありったけの思いを込める。それを聞くと青木くんは何も言わずに振り返り背中を向ける。

 

「ヒーローは最後に現る。悪いがゴッチ。今日のおいしいところは俺がいただいていくぜ?よく見ておけよ!」

 

そして振り返らずに右手でサムズアップ。そのまま颯爽とステージに向かっていった。

 

カッコいいな。カッコ、いいなぁ…。あの背中。わたしが憧れて追いかけ続けた背中そのまんまだ。本人なんだから当たり前か。

 

わたしにも、あの強さが。あの優しさがあれば。もっと早くに友達できたのかな。

 

一瞬考えて首を振る。人間、与えられるとどんどん贅沢になるな。と思いながら結束バンドの仲間たちの方に振り返る。

 

何考えてるんだ後藤ひとり。伊地知虹夏ちゃん。山田リョウさん。そして…喜多郁代ちゃん。こんな最高の仲間に恵まれて。

 

「なんだぼっち!金か!?やらんぞ!」

 

「少しは空気を読め!今ぼっちちゃん感慨深そうな顔してただろ!?」

 

「いだだだだ!虹夏!早い!最近卍までのスピードが早いご勘弁をあだだだだ!」

 

「もー先輩方!狭いんですから暴れないでください!!」

 

「あ、あわわ…虹夏ちゃん…。ど、どうか冷静に…!」

 

 

 

 

 

 

高校生らしいわちゃわちゃ。主人公などどこ吹く風、まさかの文化祭篇中篇だぜ。次回は後篇!主人公の登場だ!

 

don't miss it!!

 

 

 

 

 

 






結束バンドだと、筆者は1番、小さい海が好きです。ぼっちちゃんボーカルの転がる岩、君に朝が降るもいいな…。何が悪い!も好きです。秘密基地もいいなぁ〜。やべっきりがないわ!
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