「えっ二人はギタリスト!?ギター持ってるもんね!弾けるの!?」
急に後ろから現れた金髪サイドテール女子からそう問われる。カッコつけたい思春期男子高校生としちゃ気の利いたセリフの一つも返したいとこであるが
「あっ…あっす、…しゃっす…弾けまっす…」
これである。しっかりしろ俺。そういうとこやぞ。突然の来訪にビビってしまい変な三段活用を披露してしまった俺を尻目に女子は続けて
「驚かせてごめん!あたしは下北沢高校の2年、伊地知虹夏!実は2人にお願いがあります!」
伊地知さん。年上か、見えねえな。失礼かな。などと考える。動揺した思考を戻すため、ふと横を流し見ると
「あっえっと後藤ひとりです…わっわたしもそのぅ、ギター弾けますぅ…」
しっしまった!まさか俺以上にコミュ障そうな子に自己紹介で遅れをとった!このまんまじゃ俺がコミュ障選手権優勝しちまう!つーか後藤さんていうのかこの子。初めて知ったわ!
「ご丁寧にありがとうございます!自分は青木遥と申します!秀華高校1年生、ギターはそこそこ弾けまっす!」
よし、かたくなりすぎた気もするが淀みなくいけたぞ。
「あははっ!なんかかたいよ!もっと気楽でいーから!ほんで2人にお願いがあるの!あたしのバンドがそろそろライブなんだけどギターの子が突然辞めちゃってぇ…お願い!今日だけでいーからあたしのバンドでサポートギターしてくれないかな!?」
えっおうぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!?
大チャンスやん。大チャンスが降って湧いたやん!コレは力一杯しばき回すしかない!ボールをよく見てコンパクトにフルスイングだ!ほとんど投げない神様のド失投!コレ見逃すほど俺はぼんやり生きてないぜ!
えっ!?今日いきなり知らない人のバンドのライブに!?できらぁ!!いや出来ない!!出来るわけない!!陰キャ桃色クソジャージにそんな芸当出来るわけないでしょ!?何を言ってんだこの金髪サイドテールのチャンネーは!?あっ顔可愛い…いい匂い…何考えてるんだ後藤ひとり!!今それ全く関係ないでしょお!?
2人が高速でブツブツ呟いている。伊地知虹夏は小さく「頼む相手間違えたかな」とこぼした。まあ…やっぱムリか。いきなり過ぎるしプレッシャーもあるだろうしね。少し諦めが思考に侵食する。
「やっやりまぁす!や、やらせてください!」
ほらやっぱり。…ん。え!?
「え!?ウソ!?やっ、やる!?やってくれるって言ったのいま!?」
「は、はい!ご迷惑でなければ是非!御バンドでギターを弾きたく…!!」
「いやかたい!!さっきからかたいよ青木くん!!あ、ありがとう!!よろしくお願いします!!」
「あっどうやらお話はまとまったみたいなのでわたしはこれで」
「ちょーっとまった!」
すかさず逃げようとした後藤さんの腕を伊地知さんが掴む。回り込まれてしまったな。苦労するぞ
「あたしのバンド、リズムギターとリードギター2つパートがあるんだ〜だからギタリストできれば2人いると助かるんだけどなっ?」
「あうあぅぅぅ…でっでもでもぉ…」
陰キャ仲間として(失礼か)後藤さんの心境考察をすると、頭では大チャンスってわかってるけどいきなりライブなんて!!の恐怖心のほうがだいぶ勝っちゃってるんだな多分。
まあそうだろう。フツーの高校生ならそうだ。俺なんかは恐怖心よりようやくギター弾けそうだ!のワクワクのほうが勝っているので気にならないがフツーはそう考える。
でもこれは間違いなく大チャンス。これ逃したらそうそう次なんか来ないくらい特大の。
俺は後藤さんにもこのチャンスを活かしてほしい!と勝手に願った。なのでシンプルに伝えることにした。
「後藤さん!」
「あっはい!」
「わかるよ。怖いんだよな。いきなりで。でも多分このチャンス、逃がすと後悔するぜ?この伊地知先輩は優しそうだ。下手うってもそんな大ごとにはならないさ。弾きに行ってみようぜギター!きっと楽しいよ!」
せっかくギター弾けるチャンスなんだ。逃しちゃもったいないぜ後藤さん!
「うんうん!きっと楽しいよ!楽しいバンドであることは保証しよう!だからお願い!ひとりちゃんもチカラかして〜〜〜〜!」
「あ、あうぅ…で、でもぉ…」
「よーし!了承とれたところでホームタウン下北へゴー!!」
伊地知先輩は後藤さんの手を引っ掴むと引きずらんばかりの勢いで歩きだす。まだ後藤さん迷ってましたよ!?多少強引な手段も辞さないってことか…陽キャって怖え…
ライブハウスに向かう道すがら、伊地知先輩はいろんなことを話してくれた。
今からライブする場所はSTARRYといって伊地知先輩のお姉さんが経営してるライブハウスであること。
伊地知先輩はドラマーでもう一人山田リョウという名前の人と二人でバンドを組んでいること。
もう観念したのか後藤さんは今は伊地知先輩に歩調を合わせてちゃんと自分で歩いてる。
てゆーかこの伊地知先輩は人間できてる。こっちの歩くペースとか気にしてくれたり道中退屈にならんようにいろいろ話振ってくれたり。
可愛くて優しくておまけに気まで回るなんて…天使だな。間違いない。
そんなくだらんことを考えていると伊地知先輩から声がかかる。
「ついた!こっこだよ〜!」
後藤さんと2人して視線を下げる。十段くらいの階段の下に看板でOPENの文字。そして上のきらびやかな看板には確かにSTARRYの文字。話には聞いたことがあったがはいるのは初めてだなライブハウス。やべぇ興奮してきた!
「おっ俺のホーム…へへふへ…!」
「いやあたしんちだよ!」
黒を基調とした空間が広がり、ところ狭しとバンドのフライヤーが貼り付けられた見た目からロックな風体の場所が目の前に開ける。
あれ…なんか落ち着くな…暗いけどなんかここで完結してる。みたいな…狭くてもなんかいい…なんかすごく落ち着く…!
「うへへ…私の家…」
「いやあたしんちだよ!この短時間でこのツッコミ2回するとは思わなかったよ!」
後藤さんもこの圧迫感が気に入ったのかな?と妙な共感を得ていると声がかかる
「あっ虹夏。やっと帰ってきた」
「あっリョウ!ごめんごめん、でも捕まえてきたよ!野生のギタリスト2人!」
「そんな◯ケモンみたいな。えっマジで連れてきたんだ虹夏すげえ」
「すごいでしょ!自分の豪運ぷりにちょっと怖くなっちゃったよ!甲斐甲斐しくリョウのこと世話して貯めた徳がここで大爆発したっ!て感じだね!」
人を負債みたいに、とひとりごちる山田リョウ先輩は視線を後藤さんに移す、それから俺。
「うおっでっか!」
「ただいまご紹介に預かりました野生のギタリストこと青木遥です!ちなみに身長は175cmありまっす!秀華高1年です!」
「うん。わたしは山田リョウ。ベーシスト。一つよろしく」
「うっす!よろしくお願いします!山田先輩!」
「かたい。リョウでいいよ。わたしも遥ってよぶし」
「先輩はキッチリリスペクトしていきたいと思っていますのでしばらくはこれでいかせてください!」
「ふむ…かたいけどなかなかいい後輩ムーブ。悪くないぞよ。…それで」
はう!?話題振られそう!!どうしようどうしたら!!トトと取り敢えず自己紹介!!
「ごっごごっごご後藤ひとりです!申し訳ございません!」
「なんか急に謝ってきたぞ虹夏」
「あはは〜ひとりちゃんこーいうとこあるから」
「ふむ…よろしく。ひとり。面白い名前だね」
はうう…!表情が読めない…!な、なんか怒ってるのかな…!あう…!見られてる…!見られてるよう…!!値踏みしてるみたいにじっくり見てくる…!
「ふむ…なかなかどうして。虹夏。いい仕事したかも。2人ともなかなかいい佇まい」
「ホント!?よーしじゃあ2人とも!さっそく今日のライブに向けて練習だ!スタジオ行こう!」
「あっそれはそうと虹夏。勝手にスタジオ抜けたから店長がプリプリ怒りながら買い物行ったよ」
「やっば!?なおさら急ごう!早くスタジオに逃げ込もう!!」
軽妙な2人のトークに口角を少し上げつつ、いよいよだ!ギター弾けるのだ!と俺はひとりで興奮していた。確かに初めてのライブだしお客さんに見せるなんてのも初めて。つーかバンドで合わせたことなんか3〜4回くらいしかない初めてづくしの俺だが、恐怖なんざより高揚とやってやるぞ!という前のめりな気持ちが胸中を支配していた!
あうう…!流され流されもう逃げ場なし!私の人生いつもこんなん…!で、でも。虹夏ちゃんやリョウさんは優しそう…。あ、青木くんはまだどうかわかんないけど。あ、青木くんが言ってた言葉だけど。確かにこのチャンス。逃したら後悔しそう…。よ、よし。やってやるぞ。わ、わたしだって、ネットじゃ少しは有名なんだ。な、なんたって、あのギターヒーローなのだから!えっ知らない?あ、ど、どうもすいません…
ぼっちちゃんは奇人ぶりを抜いてしまうとただの引っ込み思案な可愛い子ちゃんになっちまうので塩梅が難しい…ちょうど味噌ラーメンに酢を回しかける時のように…ふた回し…半行くか!あーあ全部酢になっちゃった!みたいな。家系にもおんなじことが言えますね。ちょうどいい境があるんですよ。聞いてない?すいませんでした!