シデロスは、いや大槻ヨヨコは、結束バンドが何かと気になる存在。まあ、気にかけるほどでもないんですがね。
結束バンド…何かと気になる存在。
…今はまだシデロスの敵足りえない。でも…まず姐さんに認められている。…正確には結束バンドが、ではなく、ギタリスト後藤ひとりが。…気に食わない。
そして、STARRYにはもう1人、姐さんに認められたギタリストがいる。…青木遥。正直言って、こっちはいい。音楽の腕如何は聞いたことがないので、正直分からないけど、なにせ姐さんが認めているのだ。そんな酷くはないだろう。
だが、結束バンドの後藤ひとりの方は気に食わない。こちらの方は、彼女らが自ら発信する動画等で、実力見せてもらったけど、まだまだである。ギタリストとして駆け出しもイイとこ。確かに光る部分もなくもないが、正直なぜ?な部分のほうが大きい。
姉さんに認められるような部分…映像で分からなければ、直接見るしかないわね!わたしはそう思い立ち、彼女達の本拠地、STARRYを訪れることに決めた。…一応、自己紹介が必要かしら?新宿FOLTの筆頭、シデロスのリーダー兼ギターボーカル兼扇の要!大槻ヨヨコよ!以後見知りおきなさい!
…ふむ。下北沢。新宿から目と鼻の先にあるオシャレタウン。
…そういえばちゃんと訪れたことなかったわね。必ずと言っていいほど雑貨屋さんから流れてくるあの特徴的な香りはなんなのかしら?
なんか新宿の雑多な感じに比べて、こっちは洗練されたイメージ…。い、いや!他人の家の芝生は青く見えるものだって!
…ここ下北は音楽の街という顔以外に、古着屋の街、カレーの街といった顔も持つ。風景の節々に立ち並ぶそれらに興味を惹かれつつ、この季節なので飾り付けてある綺麗なイルミネーションにもしっかり目を奪われながら、目的地を目指す。
…見えてきたわね!下北沢STARRY!しっかり変装もしてるし、そう簡単に私だってバレることはないはずよ!いつもはツインテールな髪を下ろし、ゆるふわにまとめ、眼鏡をかけ全体的におとなしい印象。よし。いざ。敵地へ!背水の思いを秘めて、大槻ヨヨコはSTARRYの階段を下った。
「こんにちわー!今日はどのバンドを見に来られましたかっ!?」
…大天使。こち亀の日暮寝男でも飛び起きそうなとびきりの笑顔ね。確かこの子が結束バンドのリーダー。ドラムスの伊地知虹夏さん。同い年!こういうキラキラ光る明るさはうちにはないもの。…やるとしたら、誰かしら。あくび、幽々はないわね。楓子にでもやらせましょうか。
「…結束バンドで」
そう言うと途端にすでに明るい顔がさらに明るくなる!かわいっ。分かりやすい。…しっかり見せてもらうわよ。あなたたちのステージ。チケットをゲットし、ドリンクを頂きにいく。
「ありがとうございます!どのドリンクをお飲みになりますか!?」きたーん!
目が潰れる!どいつもこいつもピカピカ光りおって。サングラスかけてくればよかった!
この子は確かギターボーカル。フロントマンであり花形。この子にピッタリね。喜多郁代さん。実力的には声が小さいし、ギターの腕もまだまだだ。
…でもこんなの、歌い方マスターしたらすぐどうにかなる。伸びしろ1番なのもこの子ね。ある種結束バンドのキーマンかも。
「じゃあ、コーラ」
「はいっ!ありがとうございます!!」きた~ん!!!
ぐおおっ目が!目があ!
…ライブが始まるまで、あと30分ほど。お客さん。思った以上には入ってるけど、やはり少し物足りないわね…。この辺は勝ってるわね!ふんす!
「……………」
はうあ!まずい!なんか見られてる!黒髪の愛想がない目付きをした男性店員に見られているわ!?バレたかしら!?
「…なにしてんだ。大槻ヨヨコ」
「ぎくぎくーっ!だ、だれが大槻ヨヨコだって証拠よ!?」
「敵情視察?結束バンドの。もっと堂々とくればいいのに」
話聞きなさいよ。青木遥。だがしかし…バレては仕方ない!
「そう!わたしが大槻ヨヨコ!今バレると結束バンドのパフォーマンスに影響出るかもだからオフレコでお願いするわ!」
「ふむ。歓迎するぜ。ゆっくり見てやってくれ」
「…本当に久しぶりね。前はゆっくり話す時間もなかったから」
「なぁ。まさかヨヨ先輩がシクハックガチ勢になっていたとは知らんかった」
「…本当に大きくなって。あんなにちっちゃかったのに。別人みたい」
「それはヨヨ先輩もだ。すっかり美人になって」
「そそそそそんな!美人だなんて!それほどでもあるけどぉ〜!」
しっしまった、つい嬉しくてオーバーなリアクションを。おのれ褒めるの上手くなったわね!照れ隠しも込めて話題を変えましょう!
「ときに。貴方から見て、結束バンドはどう?」
「ふむ。卓越した実力を持つベーシスト山田リョウを扇の要にして、元気印のリーダー、伊地知虹夏がドラムスでリズム隊を組む。この2人は幼馴染みで息もピッタリ。なかなか崩れることはないだろう。ここに安定性に少し欠けるけど凄まじい爆発力を持つリードギター後藤ひとりが加わり、飛び道具となる。そして、まだ音楽を始めたばかりの素人だけどセンス抜群な、喜多郁代さんが加わり、七色にその魅力を放つ、下北沢新進気鋭のガールズロックバンド、かねぇ」
「そのまんまロッキンに載ってそうなしっかりした品評をありがとう!えっ!わたしもう見なくても良さそう!」
「そこはもうすぐ始まるし見てあげてや!」
言うが早いか。ライブハウスが暗くなる。結束バンドの登場だ。途端に大槻ヨヨコの目が鋭く、アーティストの目となる。まるで見定めるかのように、ステージ上の結束バンドを見据える。
「結束バンドです!よろしくお願いします!!」
いつも通り虹夏先輩の挨拶とハイハットで、結束バンドのライブが始まった!
「ありがとうございました!みなさんお気を付けてお帰りください!」
「喜多ちゃん!ロックバンドなのに礼儀正しすぎぃ!みんな!気を付けて帰ってね!」
…なぜかしら。滑ったMC聴いてると自分自身のことのように恥ずい。なぜ!?なぜわたしがダメージを!?おのれ結束バンド!!
…ライブの方も思った程悪くなかった。順調に成長していってるみたい。後藤ひとりも、言うほど安定感に難があるというほどでもないわね。確かに少し不安定なところもあるけど、普通にうまかったわ。
ライブの感想を頭の中でまとめ上げていると、結束バンドの面々がコチラに来る。ヤベッ。
「遥。誰だその女子。彼女か?彼女!」
「うええっ!?青木くんの彼女!?」
うーわ。世界1ダルい絡まれ方してる。青木くんを生贄に捧げて上手いこと逃げましょ。
「あ、青木くんの彼女さんなんですか…?」
「きゃー惚れた腫れたよー!!」きたたーん!!
しかし、回り込まれてしまった!
「遥。誰だこの女は。いつ誑し込んだ。隅におけんのう!うりうり!」
リョウ先輩のうざ絡み!青木遥の怒りポイントは3上がった!
「違いますよ!この人は…あ〜。うん」
こっちを伺いつつ、青木遥が迷ってるわね…。勝手にバラして良いものかと。仕方ない。結束バンドと関わりを持っておくのも悪くはない。
「わたしの名は大槻ヨヨコ!新宿FOLTはシデロスのリーダー!お初にお目にかかるわね!結束バンド!」
「…シデロス。聞いたことがある。今飛ぶ鳥を落とす勢いのメタルバンド。メタルバンドらしく全員演奏力バカ高で特にこの大槻ヨヨコのギターの腕はかなりの物らしい」
「流石は結束バンドの扇の要。勉強熱心ね。山田リョウさん」
「!わたしの名前…!」
「あなただけじゃないわ。ギター、後藤ひとり。ドラムス、伊地知虹夏。そしてボーカル、喜多郁代。ライバルの戦力分析には余念がないわよ!」
「わ、わたしの名前まで…へ、へ、へへへへ…!」
「ひとりちゃんすんごい嬉しそう…!ダメよひとりちゃん!なんかあんまり友好的な感じじゃないわよ!」
…大丈夫なのかしらこの人たち。
「あなた達は今のところ思った以上の実力の持ち主みたい。…でも、まだまだわたしたち、シデロスには遠く及ばない。…見に来れてよかったわ。近い内にまた会いましょう。結束バンド!行くわ!青木くん!また近い内に!」
「ああ。またな!ヨヨ先輩!」
「ガッツポーズ。(少し距離が出来てた呼び方が戻ったため)」ぐっ!
嵐のように現れて去っていったな。まさに台風。
「なになに。青木くん。ずいぶん親しげじゃん。リョウじゃないけど、隅に置けないね〜。えへえへえへ!」
虹夏先輩に肘でグリグリやられる。
「ありゃ。話しませんでしたっけ?ヨヨ先輩とは幼馴染なんすよ。3カ月くらいしか一緒にいませんでしたが、小学校の時。なので親しげなのです」
「い、いいな…幼馴染。わたしも幼馴染欲しい…。何でもできてわたしの全てを肯定してくれる万能幼馴染…。そしたら友達作るのも学校生活も楽勝なのに…」
「ひとりちゃん!4月からはわたしが面倒見たげるからそれまで耐え忍んで!任しといて!目の付く人目の付く人全員ひとりちゃんの友達に仕立ててあげるわよ!」
「き、喜多ちゃん…!」
「ひとりちゃん…!」
ニマーっと2人で笑い合う。仲いいなあ。
「まぁ喜多さんがゴッチとおんなじクラスになれるとは限んないわけだが。ぼそっ」
「」しおしおしお…。
「きゃー!ひとりちゃんが塩かけたナメクジみたいにしぼんでいくう!余計なこと言わないでよ青木くん!」
わちゃわちゃやる秀華校生たちを尻目に結束バンドの先輩方は冷静だった。
「大槻さん。近くにまた会う。なんて言ってたけど、未確認ライオット。出る気かな…?」
「口振りから恐らくは。今のレベル差で正直正面から行ってもかなりキツイ。…やはりライブやりまくってレベルそのものをあげるしかない」
ふむ…根詰めすぎるのもアレだろう。まあ俺も出るわけだが、本格始動は年明けてからでいいのではないか?
「…だね。よし!さしあたってクリスマスライブのこと考える?お姉ちゃんの誕生日会も兼ねてるのだけど!」
「なんと!店長はクリスマスイブが誕生日なんで!?」
「ヤッベ言うの忘れてた!そう!1週間後だよ!うちの姉はサプライズ派なんで、プレゼントはコッソリ買ってくるように!」
「ヤッベ普通に忘れてた」
「リョウは後で説教!1番最初に教えたでしょうが!」
後ろでわちゃわちゃしとる先輩方を尻目に。やべぇ大人の女性へのプレゼントなんざしたことないぞ。どうしよう…!と!取り敢えず!1人で無理ならみんなを巻き込むんだ!
「喜多さん!ゴッチ!店長さんへの誕生日プレゼント決めたか!?」
「えっ!?店長さん誕生日なの!?いつ!?」
虹夏パイセン〜!!誰にも話してないじゃん意外とズボラだなあの人!
「あ、あう、め、目薬しか…!」
ゴッチ。コロされるぞ!!
取り敢えず喜多さんしかここじゃ頼れる人がいない!手を貸してくれ!
「…むむ。取り敢えず1週間後ね…。もちろん、1つずつ!みんなで用意しましょう!頭使って!」
さすが喜多さんだ!頼りになるぜ!困った時の女子頼み!
「ほらひとりちゃん!青木くん!なんか入浴剤とか、ヒーター付き手袋とか、ハンドクリームとかいいみたいよ!」
「ううう…!!喜多ちゃんありがとう…!わたしひとりじゃ絶対出てこない発想…!」
俺は喜多さんの発想をベースに、1つ踏み込んだプレゼントを探ってみるかな。ほら、まだ時間あるし。
「どっかで時間あわせて、3人で買いに行きましょう!抜け駆けはなしよ!」
「は、はい!喜多ちゃん!わたしはなにを買えばいいか教えてください!」
おいおい。たしかに自信ないのは分かるが、誕生日プレゼントってのは相手のことを思って真剣に悩んでこそ価値があるって物でよう。
「丸投げもどうかと思うよゴッチ〜」
「で、でも…わたしが選ぶより絶対喜多ちゃんが選んだほうがいいプレゼントになります…!」
「こういうのは気持ちよゴッチ。多分ゴッチが一所懸命考えたプレゼント、星歌さんも嬉しいはず」
「そうね!舵取りはわたしするから、ひとりちゃんプレゼント選んでみて!」
「あうあうう…!は、はい!が、がんばりましゅ!」
「そうと決まれば…!虹夏先輩!」
「どうした!?青木くん?」
「店長は何色が好きとかありますか?」
「…ふむ。ちゃんと考えてるね。結構結構。ピンクとか好きだよ!」
「…もうゴッチにリボン巻いて献上するか」
「ダメよそんな安直な!確かに店長さんひとりちゃん好きだけど!」
「わたしのこと好きになってくれる人なんかいません…」
「いや…?ぼっちちゃん。試しに自分にリボン巻いてプレゼントしてみる?お姉ちゃん泣いて喜ぶと思うよ?」
「えっえっえ!?」
「ぼっちちゃん自分を卑下しすぎ。でも…自分にリボン巻いてプレゼントはやめとこうか。帰ってこれなくなるから」
なるほど。好きな色はピンクね。他今なにか、店長さんがハマってるものはありますか?
「う〜ん。最近料理にハマってるのか、朝ごはんとか頑張って作ってくれるよ!」
となると、料理系のプレゼントも道が開けてくる。エプロンとか、お玉とか包丁とか。
「あ、青木くん…!凄い…!」
「いっぱい選択肢を用意しておくのも有りよね。青木くん。ナイス!」
取り敢えず忙しない年の瀬が迫っている。クリスマスライブなんて息巻いているが、要は店長さんの誕生日会!なんとかこの年内最後のイベントを上手いことクリアできればSTARRYもみんなも平和に年を越せるはずだ!今年最後の試練だ!ギターバラッド頑張れ!超頑張れ!!年上女性へのサプライプレゼントなどという無理難題をクリアするのだ!!
ぼっちちゃんはピンク色。店長の好みど真ん中。まあ、気に入られる程度ではすみません。リボン巻いて自分プレゼントもひとつの手ですが、虹夏ちゃんが言うようにマジで帰ってこれなくなるのでオススメしませんですわ。色欲の猛獣!