【完結】 ギター爪弾きのバラッド   作:はま0821

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裸の付き合い。作者の描写能力不足…!!


29 裸の心と身体

 

 

…うぐおおお頭痛え。飲み過ぎた…。伊地知星歌は、久々のしっかりとした二日酔いに頭を抱える。

 

なんだ?昨日なにしてたっけな?確かわたしが誕生日だからってみんなにお祝いしてもらって…。

 

酒を廣井と2人して思うが様かっくらって…そんでこの惨状ってわけか…。

 

まだ誰も起きてねえな。一番乗りか。嬉しくねえや。ぼっちちゃんと喜多と虹夏は…毛布掛かってるから良しとして…。

 

現在時刻朝5時か…朝飯でも作るか。いやいやキツイな。何人居るんだそんな量用意できるか。そこまで思考して、机の上に置いてあった書き置きに気付く。

 

『全く寝れなかったので、体力の限界です!始発電車でいったん帰投します!体力を回復させて、夜のシフトには戻ってきます!すいません!青木 遥』

 

ふふっ、と。思わず噴き出す。アイツにも体力の限界とか。そんな殊勝なものがあるのだなと。あんまりな考えがよぎる。つまり帰ったのか。…他の連中も、大丈夫なんだろうか。明日の。いや、もう今日か。予定とか。起こしたほうがいいかな?などと考えていると、背中から声が掛かる。

 

「朝早くすいません!少し、よろしいでしょうか!」

 

この声は…。えっと、確か新宿でプレイしてるメタルバンドの、シデロス。そのリーダーさんの声だ。振り返ってみると、いつの間に起きたやらな、シデロスの面々、そして、廣井きくりを頭と足を持って、持ち上げているシクハックの面々がいた。

 

「ど、どうしたのさ。まだ朝早いし、ゆっくりしていきなよ。ご飯は全員分は無理かもだけど、コーヒーくらいなら用意できるし」

 

さすがにこんな時間に帰らせるのは忍びないと思い、少し引き止めるような文言が口からついて出る。だが、シデロスのリーダーの子は、ハキハキとした口調でこう答える。

 

「お気持ち大変有り難く。ですが、我々もシクハックも、今日の夜にまた、ライブを抱えてます。体調を整えるためにも、始発で新宿まで戻っておきたいのです…。一宿一飯の恩。忘れません。必ず何処かでお返しいたします。ありがとう、ございました!!シデロス!最敬礼!!」

 

ビシッと。4人の女の子が、斜め45°の礼を決めている!

 

「い、いいよいいよそんなかしこまんなくて!!わたしも、誕生日、祝ってもらって嬉しかったし。…帰るのね。わかったよ。気を付けて帰りなよ」

 

「…すみません。ありがとうございます」

 

全く全く。若いんだからもっと傲慢でいいんだよ。礼儀正しすぎるわ。こっちの襟まで正さなきゃならなくなるじゃん!

 

そんな事を思いながら、ついー。と。視線を横に動かす。なんか長めの家具みたいに抱えられて、構わず寝息をたてる廣井きくりを見て、一種の安心感を覚えた。

 

「…。すいません。伊地知店長。あまり、見ないで下さいませんか。…武士の情けで」

 

廣井のバンドの、ドラムス。岩下さんが、ほんと可哀想になるぐらい視線を彷徨わせながら、ついには俯き、そんな言葉を述べる。

 

「…。くくっ。あ〜あ。ホントはコイツくらい、ダラケてたって良いんだぜ?シデロス。大変だなお前らも、シクハック。…言えた義理じゃないんだけどさ。…廣井を、頼むよ。わたしも協力するけどさ、なんかそいつ。1人だと危なげしかないだろ?」

 

ハッと。シクハックの2人のメンバーが顔を上げる。

 

「ライブがあるんだろ?早く帰って休みな。もちろん、ここで休んでいってもいいけど…」

 

そう提案してみたが、岩下さんが、顔を真っ赤にしながらブンブンと首を横に振る。

 

「これ以上迷惑はかけられません!!ほ、本当に勘弁してください!!」

 

ははは。なんとなく、そう言うだろうと思ってたよ。

 

「分かった。ありがとな、誕生日祝ってくれて。また遊びに来なよ。歓迎するからさ」

 

「は、はい!!すいません!今度菓子折りを持って改めて、お礼に参ります!!き、今日はホントに、ありがとうございました!!」

 

いいのに全く。わたしの誕生日を祝ってくれた。その礼に、わたしも色々したんだよ。それでいいじゃん。と思うが。目の前のクソ真面目2人は受け入れてくれないんだろうな。と苦笑する。

 

「そ、それじゃあ。すいません失礼します」

 

「ああ。廣井のことでまたなんか困ったら言いな?わたしがクンロクかましたるから。またな!」

 

まだ少し申し訳なさそうにシデロス、シクハックの面々が帰っていく。あ。玄関狭いから、廣井そのままだと通らなくない?どうすんだろ?お!二段階で曲がってる。1回外に出してから角度を調整してもっかい曲がった。これなら出れるわ。さすが。

 

…静かになったな。これで家にいるのは、結束バンドの4人だけ。

 

「ふわぁ〜あ。おはよ。お姉ちゃん。昨日は夜更かししちゃったよ全く」

 

おう。虹夏起きたのか。他のみんなはまだか?

 

「うん。リョウなんかコントローラ握ったまんま寝てるよ」

 

はっ。昨夜は随分楽しんだみたいだな。…5人分くらいなら、なんとかなる。朝メシ用意してやるか。

 

「ならわたしも手伝うよ。献立は?お姉ちゃん」

 

「ふむ…。レトルトのカレーがあったな?嫌いなやつなんかほとんどいねえだろう。それに、サラダでもタップリつけて、味噌汁でも出しゃいいんじゃね?」

 

「したら、ご飯炊くよ。サラダは任せていい?」

 

「おうよ。まあ、みんなが起きてからで良いわな。カレー温めるのは」

 

「うん。は〜あ〜」

 

我が妹がらしくないため息を漏らす。なんだよどした。

 

「いやさ。シクハックやシデロスのみんなは帰っちゃったんだよね。昨日はあんなに人がいっぱいいたのにさ。今日になったら、お姉ちゃんと二人きりだ。…少し、寂しく感じてさ」

 

なるほどな。分からんでもない。

 

「まあ、そこら辺は、あの3人が起きれば少しは変わってくるよ。…アイツラをさらに元気にするために、いい朝飯拵えたろうぜ?」

 

「…うん。そだね。…てかさ!青木くんは!?ヤツも帰ったの?居ないんだけど」

 

「帰ったぞ。眠れなくて疲れたって。殊勝なことがあったもんだよな」

 

「マジで!?疲れたんだ青木くん…。珍し。わたしたちは今日シフト休みだけど、青木くんは?」

 

「仕事だよ。だからアイツ復活するために家に帰ったんだ」

 

「マジか。大変だな…。お、お姉ちゃん。今日は青木くんには少し優しく…」

 

「考えとくよ。まあ、使うしかない状況になったら遠慮なく使うがな?」

 

「…青木くん。ご愁傷さま…」

 

虹夏と会話を交わしながら、朝食の準備を進めていく。サラダを作ってドレッシングを添えて、冷蔵庫で冷やし、みそ汁を準備する。後は結束バンド、残りの3人が目を覚ますのを待つだけとなった。

 

「さてと!じゃあみんなを起こしてきちゃうよ!準備よろしく!お姉ちゃん!」

 

「ああ。頼むな、虹夏」

 

そう答えるが早いか、少しだけ後悔の念に頭を苛まれる。…ぼっちちゃんの寝顔、撮っときゃ良かったー!!しまった、伊地知星歌2週間分くらいの不覚!などと一瞬思うが、すぐに思考の隅に追いやり、朝メシの準備に神経を注ぐ。結束バンド、クリスマスの朝が、明けようとしていた。

 

 

 

 

 

♪♪

 

 

 

 

 

 

 

「あっ!」

 

「おお!」

 

シデロスの面々と廣井きくりを抱えた、シクハックの面々は、約1時間振りに再会を果たした。そこは何処か。新宿にある、24時間営業のスーパー銭湯の、店頭である!

 

「…やっぱり、ここですか」

 

シデロスリーダー、大槻ヨヨコは、廣井きくりの頭を抱えている、岩下志麻に対して、そう声を掛ける。ちなみに、このスーパー銭湯は、足を伸ばせる大浴場にサウナ。暗くて背もたれもあり、個人用のテレビまで備えた休憩室もある、至れり尽くせりさで、新宿FOLTに出演するアーティストの中では知る人ぞ知る存在だ。ここでシクハックのみなさんと鉢合わせても、それは珍しい話ではない。

 

「あ、あはは。まあね。酔いを覚ませるし、休憩室で寝れるし、体調整えるのにやっぱちょうどいいかな〜。って。廣井は取り敢えず、休憩室にでも放り込んどくよ。ロインに、起きたら飯でも風呂でも、睡眠でも好きなの選べ。ほんで、ライブの時間までに体調整えとけと。入れといてさ」

 

なるほど、ここまで用意されたんだ。これで体調整えられなかったら、姉さんは、後が怖いな。と。一見柔和に見えるその笑顔からの、有無を言わせない迫力を感じ取りながら、大槻ヨヨコは思った。

 

「WOOO!わたしたちは大人だから大丈夫です!ですが…。シデロスまだ子供!みなさんしっテルでしょうガ、ココ新宿!しかも24時間営業のスパ銭!治安なんか推してシルベキです!大丈夫ですか!?ボディガードしましょうか!?」

 

イライザさんからもっともな心配をされる。…確かにここは新宿。しかも24時間営業とくれば、細かいところまでスタッフの手は回らず、治安なんざは推して知らねばならない…。だが!

 

「イライザさん。志麻さん、心配無用です。そのために我らシデロスは、団体行動を徹底してます。常に固まっていれば、変なのに絡まれる可能性もグンと減るでしょう!」

 

誰かがマズイ状況に陥っても、誰かが助ける。それを徹底してれば、そうヤバい状況にもならない…。私たちはそれで生き残る。これまでも。そして、これからも。

 

「…分かった。気を付けなよ。シデロス、なんかあったらロインくれ。すっ飛んで助けに行くよ」

 

なんとなくだが、志麻さんが男女問わず人気がある理由。分かった気がする。随所に散りばめられる、こちらを慮った優しさ。そして、対応できなそうな状況が発生したって、たとえ丸投げしてしまってもどうにかしてくれそうな頼りがい、誠実さ。あかん…!わ、わたしは姉さん一筋なのにぃ!?

 

「はぁ〜。やっぱカッコいいっすね、岩下さん。頼りがいというか、年上の魅力というか」

 

場面移ってここは脱衣所。流石にこの場ではマスクをとっている、素顔なあくびと雑談する。

 

「まあね。わたしは姉さん一筋だけどね!」

 

「一途さ草。ええ〜。旦那さんはどうなんすか旦那さん〜」

 

「あれは単なる幼馴染みよ!あくびあんたこないだからずっと面白がっているでしょう!」

 

シュルシュルと、自身の衣服を脱ぎ、身体にタオルを巻き付けながら、楽しげな後輩に突っ込む。

 

「確かに2人にそんな感じには見えないわ〜、仲のいい友達。くらいな感じ〜?」

 

「そうだね〜、ちょっと距離近い男女。みたいな〜」

 

幽々と楓子にそんな事を言われる。…それはそれで、少しショック。…ショック?なにがよ。いやいや。まさか。

 

少しだけモヤッとした気持ちを振り払うようにシャワー場に腰を下ろして、シャンプーで頭をガシガシやる。雑多に洗い流して鏡を見ると、小豆色の髪をストレートに下ろした、スレンダーな女性が隣に座るのが見えた。

 

「あ、姉さん!」

 

「おお〜。大槻ちゃんじゃんおひさ〜。いるとは志麻から聞いてたけど、隣になるなんて偶然じゃ〜ん」

 

やった!姉さんとシャワーで隣同士になれるなんて!これはやはり普段からいい子にしてたのを神様が見てたのね!うん!やっぱりわたしは姉さん一筋!

 

…なんて。浮ついた気持ちが一瞬わたしを支配しかけたけど、多分岩下さんが気を回して姉さんに声を掛けてくれたんだろう。いわば、ボディガード。それでもありがたいが。すると、姉さんから声を掛けられる。

 

「大槻ちゃんはさ〜、やっぱメタルでいったらこのへん、新宿じゃ頭1つ出てるよね〜すごいよ〜」

 

…嬉しい。褒めてもらった、憧れの先輩に。手放しで喜びたいところだが。あんまり姉さんは、わたしのことを単純には褒めはしない。大体第一声で褒めてくる時は、本命が別にある時なのだ。いわく、お金貸してだの。いわく、連帯保証人になってだの。少し警戒感を上げながら、わしわしと頭を洗う先輩に対して答える。

 

「あ、ありがとうございます!ど、どうしたんですかいきなり」

 

「ん?いや〜。大槻ちゃんはさ、青木くんと幼馴染みだったんだね」

 

?何故そこで青木遥が。確かに姉さんはヤツの腕を認めている。それは本人に聞いたし間違いない。だが、わたしは彼の実力を見たことがないので、まだ納得はしてない。…良い機会だ。姉さんが、どの程度青木遥を評価してるのか、測るチャンスである。

 

「はい。わたしが小学校、卒業する前の3か月間だけ一緒にいました。ヤツがなにか?」

 

「2人はさ、その時には音楽始めてたの?」

 

「いえ。向こうはどうか知りませんが、わたしが音楽を始めたのは、中学入ってからです」

 

ふ〜ん。と。頭についたシャンプーを洗い流しながら姉さんが呟く。わたしは体を洗いながら、次の姉さんの言葉に注意を向ける。

 

「じゃあさ、今の遥くんの腕前は知ってる?」

 

は、はるかくん。さ、さすが姉さん。気安い。だが、今はそこではない。

 

「いえ。ですが、姉さんが認めるなら、かなりの腕だろうと想像はしてます」

 

完全に泡を洗い流し終わり、頭を軽く振った後、姉さんがこちらに振り返る。特徴的なグルグル目に、つり上がった口角が、如何にもコレから面白いことを言うぞ?というような、不敵さに満ちていた。

 

「かなりの腕、どころじゃないよ。あれは、ヤバい。ギターだけなら、あなたに匹敵するかも」

 

廣井きくりはよく知っている。こと音楽について、隣の女の子は実直で、とても嫉妬深い性格であること。そして、自身を尊敬してくれてることも、僭越ながら理解していた。そんなきくりが、隣の女の子を差し置いて、他の者を評価するとどうなるかも。だが、それらを推してでも、言っておきたかった。

 

あいつのライブを見た時に、わたしは一瞬酒を飲むのを忘れた。それは、わたしが誰かのライブを見る際の、最大に近い賛辞だ。歌こそまだ拙い。音程が合ってないし、まだボーカリストなんて口が裂けても言えないレベルだが、ギターは凄まじい物があった。今はまだ敵足り得ないだろう。だが、将来間違いなく1番を目指す大槻ちゃんにとってライバルになるであろう男の出現を、どうしても教えておきたかったのだ。

 

思えば自分の怖いもの見たさな性格にも困ったものである。こんな事を言ったら大槻ちゃんがどんな反応をするか。想像しないわけじゃないのに、反応が見てみたい一心で言ってしまった!恐る恐る。チラリと横目で大槻ちゃんの様子を窺うと。

 

目を見開いてキラキラさせ、口元を押さえる大槻ちゃんがいた。あれ?なんか思ってた反応と違うな?

 

「お、大槻ちゃん?どしたの?」

 

「いえ。少し、驚いてしまって。そんなに、そんなにヤツは上手いですか?」

 

「う、うん。大槻ちゃんや、ぼっちちゃんも、この世代じゃかなり上澄みだろうけど、間違いなくあいつも食い込んでくるよ。無視できる存在じゃないと思う」

 

…。姉さんの評価を聞いて。やはり嫉妬する感情はある。自身に嘘はつけない。だが、それ以上に。なんだろう。嬉しい…?よくわからない感情が、胸中を支配した。…青木遥。流石じゃない。姉さんに評価されるなんて。姉さんは、音楽に関しては、偽物になど目もくれない。本物しか、評価しないのよ。

 

「な、なんか。今わたし、嬉しい、かもです」

 

「うへえ!?意外。その心を聞いても良い?」

 

「はい。な、なんかわたし。青木遥に置いては、幼馴染みというよりは、人生で辛い時を一緒に過ごした、いわば戦友…そう、戦友!みたいな感情を持ってて!そんなヤツが、音楽で姉さんに評価されるくらいにまで成長してて…なんかそれがすごく嬉しいなーって!!」

 

ははあなるほど。戦友…。確かになんか、しっくりくる。幼馴染みじゃなく、戦友か。だから嬉しそうなのね。納得。と、廣井きくりはひとりごちる。

 

「…わたしも出ようかな。未確認ライオット」

 

「ほう!面白くなりそうだね、それはシデロスとして?」

 

「はい。もちろん、みんなの賛同がなきゃ駄目ですけど、そんなに姉さんに評価されるあいつの実力。自分で確かめてみたくなりました」

 

不敵に笑う後輩を見て、空恐ろしくなるくらいの頼もしさを感じる。それでも、自分が負けるなど、微塵も疑わない、普段の練習に裏打ちされた自信。…面白くなってきた。もう1つ、薪を焚べるか。

 

「ちなみに未確認ライオットには、結束バンド。つまり後藤ひとりちゃんも出るよ!倒すべき敵が1つに集まったね!大槻ちゃん!」

 

「!ホントですか姉さん!こ、こうしちゃいられない…!早く練習するために、まず体を休めなきゃ!姉さん!サウナ!付き合ってください!」

 

いきり立ち、サウナに向かって歩いていく後輩を見送りながら、若いって良いなあ。と思いつつ、いかんいかん。志麻にせっかくバイト代頂いたんだ。しっかり見ててやらないと、またカミナリ案件が増えちゃうよ。シデロスの4人に虫がつきそうになったら祓う。所謂ボディガードの役目だ。どれだけ立派に見えても、みんなまだ子供。大人のわたしたちが、フォローできる所はしないとなと。廣井きくりはひとりごちながら、大槻ヨヨコの後を追うのだった。

 

 

 

♪♪

 

 

 

 

またも場面変わりて、今度は伊地知家。今は伊地知姉妹が用意した朝ご飯を結束バンドのみんなして平らげ、コーヒーを啜りながらテレビを見ている。

 

「ううっ…!にがい…」

 

「ぼぼぼっちちゃん!?ムリしないでほら、ミルク使って」

 

「だ、大丈夫です虹夏ちゃん…わたしも大人。コーヒーぐらいはブラックでいってみせます…」

 

「ふっ。ぼっち。ブラックコーヒーくらいで咽るとはまだ子供。見ていろわたしの飲みっぷり。んくっ!ぶへあ!にが!」

 

「即落ち2コマやめろや!」

 

「きゃー!ブラック飲めない先輩も可愛いわー!!」

 

「喜多ちゃんはもうなんでも良いんだね!!」

 

目の前でわちゃつく結束バンドのメンツを見てると、さっきまで人が居ないのが寂しいなんて感情があった自分が馬鹿らしくなる。ちょっとだけさっきの静寂が懐かしいなと。伊地知星歌は思った。だが、ここでわたしは、いつもと違う真面目な顔を下げている、リョウに気が付いた。…珍しいこともあったもんだなと。思いながらもコーヒーを啜り。動向を見守ることにした。

 

「…ぼっち。それにみんな。聞いて。これは、わたしの決意表明」

 

「いつになく真面目な顔してどしたのさリョウ」

 

「…わたしは、この未確認ライオットは、ぼっちの仲間として。結束バンドの一員として戦う。ぼっちは、泣いてくれた。わたしに。わたしたちに。あのいけ好かない女に認めてもらえなかったわたしたちに。ぼっちの涙に報いることが出来るのは。蔑ろにされたわたしたちだけだと思うから。わたしはこのフェス。全力で戦う。新曲も良いの書くし、ひとつひとつの演奏に、今まで以上に魂を込める。わたしは、ぼっちの仲間なんだと。ギターヒーローと肩を並べられる、凄腕ベーシストなんだと!みんなに証明してみせるから!…だからさ。ぼっち。もう泣かないでよ」

 

「…!!!!…うっ。えぐっ、り、リョウ…せんぱぁい…!」

 

リョウはぼっちちゃんの肩を叩き、いつの間にか泣き出していたぼっちちゃんを気遣う。…ほんと、肝心な時にしかカッコつけないやつ。

 

「リョウ!喜多ちゃん!ぼっちちゃん!!わたしも、リョウと全くおんなじ気持ち!わたしは、ギターヒーロー、後藤ひとりとおんなじバンドのドラムス。伊地知虹夏!あの人だけじゃなく全員に!納得してもらえるように!未確認ライオット!全力で戦おう!よろしくね!みんな!!」

 

見回してみると、みんな力強く頷いてくれる!ありがとっ!

 

「ひとりちゃん!!あなたは名前と違ってひとりじゃないわよ!あなたの背中はわたしが支えるわ!そういうふうに誓ったから!1人で駄目なら2人!駄目ならば4人!わたしたちなら出来るわよ!!」

 

結束バンド全員の想いを受け取り、ぼっちちゃんは満面の泣き笑いの笑顔を見せる。そして。

 

「みなさん。わたしも同じ気持ちです。わたし1人じゃ未確認ライオットなんて、とても戦い抜けない…。でも!みんなとなら!!何度でも言います!この未確認ライオット!わたしたちで獲りましょう!!みんな!頑張ろう!」

 

ぼっちちゃんの言葉で場が纏まりかけたので、逃さずに。

 

「結束バンド!ファイヤー!!!」

 

「「「ファイヤー!!!!!!!」」」

 

それぞれ左手の人さし指を合わせて、上にあげるポーズを取る。すると、場の動向を見守っていた、お姉ちゃんから、パチパチパチと。拍手が送られる。

 

「頑張れ、結束バンド。負けたって、勝ったって、それはいい経験だ。それより大事なのは、そこに至るプロセス。今、お前らは凄く良いプロセスを歩んでいるぞ。今の道を信じて、がむしゃらにイケよ。結果はついてくるさ!」

 

サムズアップを贈られる。良いよ!今凄く良いんじゃないわたしたち!!

 

「み、みんな!!練習しようよ!なんか今なら凄い演奏ができそうな気がする!!」

 

「虹夏先輩!わたしもそう思ってました!やってみましょう!」

 

「は、はい!!頑張りましょうみんな!!」

 

「ええ〜今日は徹夜明けで眠い…」

 

「オメーここは空気読めよ!!」

 

ふふ。若いねえ。羨ましいよその若さ。負けても勝っても、大丈夫さ。今のお前らならな。と伊地知星歌は、光り輝く恒星のような明るさを纏った結束バンドの面々を、目を細めて見守るのだった。

 

 






ああ。俺にしては珍しくタイミングミスった。帰るタイミングなんていくらでもあったはず。ゲームやるなんてあくびさんが言い出すからどんどん帰りづらく…。あのね。ガールズバンドに入ることすら躊躇する俺がだよ?俺以外全員女。そんな状況で寝れるか!?一睡も出来んわマジで!!なんであんないい香りすんだよなんなんだよ!?ですから逃げ帰りました。はい。笑わば笑え。『青木遥の独白』
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