止まりたかった。あの指に。みんなで遊びたかった。…まだ叶うかな?
かくれんぼしてたんだ。わたしもみんなと一緒に遊びたかった。いまも、昔も理由はそれだけ。わたしはみんなが当たり前にできることに苦労する。止まりたかった指先に止まってみたかった。だから押し入れの中で足掻いてみた。みんなと友達になりたかったから。かまけ過ぎて中学生終わってたけど、ギターを弾けるようになったよ。
わたしの道はきっとこれが照らしてくれる。この先迷ってもきっと。自分で声をかけたわけじゃなかったけど、結局はあの日もギターが縁をつないでくれた。そしてわたしは出会う。わたしの世界を照らす日向に。
これからもわたしは歩いていける。向かう先を示してくれるものに出会ったから。音楽に出会えたから。もう。自分から歩いていける。押し入れの向こうに。暗闇の向こうに。
「ほお〜う。ぼっち。新境地だね」
「は、はい。まだイメージが定まってなくて恥ずかしいんですけど…、こ、これもわたしのドッペルゲンガーだと思って!思い切ってお見せします!リョウ先輩!ど、どうでしょうか!?」
「イメージ定まってないは確かに。…でもギターのイメージはいいと思う。ぼっちはやっぱりギターのイメージある」
「あ、青木くんに今までのことを歌詞にしてみたら?って言われたらなんか筆が乗って〜!やっやっぱ天才って奴ですかねえへえへえへ!」
「わたしが言うのもなんだけどぼっちはすぐ調子に乗るね!誰かに戒めてもらったほうがいいよ!」
ガーン!まさかのリョウ先輩にツッコまれた!?
ここは虹夏ちゃんの自宅。すなわち伊地知家。わたしたちは店長さんと虹夏ちゃんの手料理をいただき、そのまま楽曲を作っていた。今やっていたのは作詞である。
「うう…確かに家族からもすぐ調子に乗るって言われる…!直したいけど直し方がわからない…!」
「ぼっちの悲しいとこでてる。調子がいいときはそのまま乗ってっちゃうのもアリだよね」
「ひとりちゃんは調子乗るのは一瞬だけなんでむしろよく周り見えてる方かも?」
「甘いよ喜多ちゃん。周り見えてる子はピンクジャージ着て学校行かないから!」
「虹夏。即死カード切るのやめたげて。今のぼっちにはトドメになりうる」
泡を吹いて倒れ伏す哀れな陰キャを見咎めてわたしは親友に注意を促す。
「うわわ…!ぼっちちゃんゴメン!つい心の裏側を伝って本音が…!」
「…本音であることは認めちゃうんですね…!?」
「…でもぼっちちゃん。ショージキ制服じゃなくそのピンクジャージで登校ってのはあまりにも…」
…今度から学校には制服着ていこうかな。
「ひとりちゃん。この日向に当たる人達はひょっとして虹夏先輩とリョウ先輩?」
「あ、はい。…それと、郁代ちゃん。あとSTARRYのみんな」
…嬉しすぎて体が宙に舞いそうだよひとりちゃん。
「わたしはなんかそこ虹夏っぽいなって思った。虹夏ってさ。日向だよね」
「うええっ!?なにリョウどしたの?変なものでも食べた?」
「わたしは前のバンドやめたときバンド自体が嫌になってたんだ。そんなわたしを繋ぎ止めてくれたのが虹夏。あの日。わたしのベースが好きだって。そう言ってくれたよね。今も大切にその言葉を胸にしまってある」
「…楽器やるやつからしてみたらプロポーズみたいな言葉だよな。我が妹おっかねぇ…」
「ふえっ!?どどどどどこがプロポーズだって証拠だよ!?」
「虹夏は日向みたい。冷たく暗い場所を歩いていると思ってる人全員の。その朗らかな暖かさに惹かれる男多数。虹夏…罪な女」
「後半で面白がってるのわかったぞ?戦争か?戦争だな!?」
「先のゴッチの歌詞は光に向かって歩き出す感じだよな。押し入れの中は終わって。そしたら次は明るい人の出番じゃねーか?」
青木くんが歌詞についての感想をくれる。そう。前の歌詞はプロローグ。その後結束バンド結成してのわちゃわちゃだ。
「青木くんは凄いよね…。ぼっちちゃんの歌詞正確に意味拾ってるもんね」
「虹夏先輩はどっちかといえば陽寄りですからね。俺は陰。響きやすいんでしょ」
「結束バンド結成してからのわちゃわちゃか〜!わたしずっと必死だったからなぁ〜。気が付いたらここまで転がってきてたよ」
まさに転がる岩。ロックンロール。
「わたしも復帰してからずっと必死でした!もう逃げるわけには絶対にいかなくて!それでも心が寒くなるたび、悴みそうになるたび、青木くんの言葉が胸に響いたわ!」
「喜多さんはロックをやるべきだ。ってやつ?いや。そん時ホントに思ったんだよ。思考が誰よりもロックだなと。だから自然に口をついて出た」
「言った方はそんなもんよね!だからわたしは勝手に覚えておくわ!これはわたしのお呪い。ロックを歌いたい時に自分にかけるお呪い!」
「喜多さんに勇気を与えられてるなら言った意味あったなぁ。ありがとな喜多さん」
「うう〜!そういうところ!そういうところよ青木くん!」
「視点を変えてみたら?今までのはぼっちちゃんの心境でしょ?」
店長のカットイン。そうですね、そこまでがプロローグ。
「ここの店長として結束バンドみてるけどさ。わたしにとっちゃ結束バンドってリョウと虹夏なんだよね」
「まずぼっちちゃんの視点で初めてから、最初の結束バンドを描写してみたら?ぼっちちゃんが加わって、喜多が帰ってきて。その過程。凄く楽しそうに見えたぞ?リョウ、虹夏。」
「…うん。楽しかった。」
「ホント。絵空事みたいだった。喜多ちゃんが来てくれて。正直おもったもん。なにかの間違いだろって。こんなかわいい子がって」
「言い過ぎですよ虹夏先輩〜!」
「正直郁代はあの時点でギター出来ないって分かってても手放すつもりはなかった。そのぐらいのスター性」
「えっあのえっと…。リョウ先輩…?」
「この子真ん中に立たせときゃカッコつくもん。あとはわたしたちでどうにかしちゃえばいい。ね?虹夏」
「うん。でもそれだけに不安もあったなぁ。あまりに全てが上手くいきすぎてさ。そしたらなんと…」
「まさかの当日ドタキャン」
「あうう…、か、返す言葉もございません…」
「結果それで正解だったんだよ喜多ちゃん!そのおかげで公園で変なギタリストを2人拾えるわけだから!」
「あ、すいません変なギタリストです…」
「いやマジ。今はホントに感謝してます。よかった拾ってもらえて」
「最初ぼっちちゃんは大丈夫かなこの子って!ホント思った!なんかだしてる音と態度がチグハグでさ!すごくキレイな音出すのにリズムが全然合わなくて!」
「正直なんとなく思ってた。この子ホントはうまいって。最初間違えてギターだけ音源使っちゃったかな?って勘違いするほど。プロが出すみたいな音出すのにリズムが合わない。ホントにチグハグ」
「うう…ひとりでしかやったことなくて…音合わせなんて初めてだったからぁ…」
「もうひとりのギターはなんかやたら上手いしね」
「遥は最初から音程もトーンもリズムも完璧だった。今にして思うよ。もう少し本気出して引き留めるべきだった。虹夏に色仕掛けでもさせて」
「それやられてたら危なかったかな〜ほら俺そこら辺は標準の男子高校生だし」
「いやいや!何言っとんだリョウコラ!自分でやれ!」
「…遥。興味、ある?」
「うええっ!?ななななななにいってんすか!?」
「冗談」
「ほっ…良かった」
「反応の差がムカつくんだけど!?」
「すんません虹夏先輩!リョウ先輩はともすればやりそうな凄みがある!」
「ともすればって何さともすればって!」
「お金とかかかれば…」
「あっあー。あーね」
「わたしのことをなんだと」
「守銭奴」
「早い虹夏。もう少し考えない?」
「…でも。わたし。皆さんに全然合わせられなくて、リズム合ってなくて最悪だと思ったでしょうけど…」
「ぼっちちゃ〜ん!思ってないよ〜!イッパツで上手くいく音合わせなんかないから!」
「ありがとう虹夏ちゃん。それでもわたし…す、すっごく楽しかったんです。え、演奏の体なんてなしてなくて…ほ、ほんと素人さんと変わらないっていうか…そんなレベルでしたけど…。み、認めてくれた人がいたから」
「ぎ、ギタリストって。言ってくれた人がいたから。こんなダサいわたしでも。ただひとり。わたし、そのただひとりのために膝を折るわけにはいかなくて。いま、ここで改めていいます。青木くん。ありがとう。ギタリストだと認めてくれて。音を楽しませてくれて」
「俺なんかホントに何もしてないよ。今周りにあるすべてはゴッチが自分で集めたんだよ。だからお礼なんかいうな。あんときもうすでに俺たち友達だったじゃん?友達助けるのに理由いる?」
「ジタン・トライバルかよカッコつけやがってぇ〜!」
「どうどう虹夏。思わず本音が出ちゃってる」
そうして喜多さんが戻って来て。そっから激動だよ。8月のライブの為にオーディション受けて。
「あの時はぼっちちゃんが凄かったよね!もうなんか途中からグワァーッて!上がっていって!」
「流石ぼっち。いやギターヒーロー」
「あう…。す、すみません。最初から実力を発揮できれば…」
「ホントに凄かったわー!音楽で脳が揺れるって体験初めてだったもの!」
「ところで遥。なんかずっとステージの方睨んでなかった?お腹でも痛かったの?」
「ぐむう、リョウ先輩にはまるで効きませんでしたね。俺のガン付け」
「そうそう!なんか青木くんが怖くてさ〜!絶対お姉ちゃん入れ知恵したでしょ」
「さ、さあ〜なんのことかな〜?」ぴ〜ひゅるる〜♪
店長。下手すぎます。嘘が。そのまま投げといてくれたらこっちでなんとかしたのに。吹けない口笛まで吹いて!
「やっぱお姉ちゃん指令だったんだ!もうなんでそんな意地悪するかな!」
「し、仕方ねえだろ。やらせは無しにしたかったんだよ。ライブハウスの店長たるもの、ホントにステージに上がりたいやつに上がってもらいたかったからな。お前とわたし。どうしたって身内だろ?やらせみたいなもんなんだから」
「あの時のわたしたちじゃダメだった?」
「…そうだな。あんま、気概みたいなもんが見えてこなかった。だからオーディションをお前たちに課したわけ」
「1週間でなにも変わるわけがない。だから見てたのは技術じゃなくて気持ちだったわけか。納得」
「流石だなリョウ。その通り。見たかったのはバンドマンとしての気概」
「…むむむ。それならそうといってくれれば…」
「はっ。そうしたらお前ら意識しちゃってダメだろ?言ったじゃんやらせは無しだって。遥にステージ睨ませたのもそういう理由。弛緩した空気を出したくなかったからな。緊張したなかどこまでやれるか見てみたかった。…なかなか良かったと思うぞ?」
「もー!ホントに怖かったんだからね!青木くん!お姉ちゃん!」
「悪かったって。その詫びに…ほら。合格にしただろ?」
「ごめんよう虹夏先輩。店長に言われて仕方なく…」
「遥お前このタイミングでわたし売る!?」
まあしょうがない。俺やりたくなかったもん。それより…作詞だ。グルーミーグッドバイだよ。陰気な気分にサヨナラだよ。
「ぼっちちゃんが押し入れを後にして、結束バンド入ってくれて…喜多ちゃんが来て。それでもあの台風ライブは苦戦したねぇ。みんな初めてだから舞い上がっちゃって。お客さんに心ないこと言われて」
「まさに陰鬱な(グルーミー)でしたな。吹き飛ばしたのは…誰でしたっけ?」
「割とマジメに遥じゃない?名演説だったと思うよ?」
「マジすか?光栄です。やっぱりやってきたことちゃんと出せないのは歯痒いじゃないすか。みんなはきっちり積んできてた。あとは心持ちだと。言葉を送らせてもらった次第ですよ」
「あとぼっちちゃんだね!ほんと!あのギターソロは痺れたよ!打ち合わせなしの1発勝負!」
「ひっ、必死で…。絶対にこのまま終わりたくなくて。わ、わたしたちはこんなもんじゃないぞって。わたしの代わりにギターが。叫んでくれたような気がします」
「まさにギターヒーローだったよ。わたしたちの前をギター1本で切り裂いていった」
「…わたし。ひとりちゃんが前に出たとき、安心したの。息できないくらい怖くて。お客さんの方まったく見れなくて。ひとりちゃんが切り開いてくれたとき、ああ…息してもいいんだ。ここにいていいんだ。って。そのぐらい安心した。ひとりちゃん。カッコよかった」
「い、いやぁ〜!そ、それほどでもぉ〜!あ、ありますけどぉ〜!」
(あっダメよ郁代!ひとりちゃんはすぐに調子に乗っちゃうわ!?)
「やっぱり台風ライブのハイライトは2人のギタリストかな。青木くんが焚き付けてぼっちちゃんが燃え上がらせた。…どう?ぼっちちゃん。浮かんでこない?歌詞」
虹夏ちゃんにそう声をかけられる。実は…浮かんできてる。でもこれはみんな勘違いをするだろうけど、わたしのことじゃない。わたしはまだギターヒーローにはなれない。とてもそんな器じゃない。でも。あなたなら。
オーディションの時も音合わせの時も台風ライブの時も文化祭ライブの時も。まるで1つも物怖じせずに不敵に笑ってただの1人で立ち向かう。
今回は青木くんをモデルに歌詞を書こう。そして。いつかそれがわたしのことになるように。結束バンドのギタリストとして。一歩一歩前に進もう。
グルーミー(陰鬱な)グッドバイ。暗闇を一瞬で切り開いて。そしてわたしにギタリストって呼び名をくれた。あなたにこそふさわしいよ。青木くん。
いつかわたしも。あなたのように。
かくれんぼしてた。日が暮れてた。見つからないまま暗くなっちゃった。みんな帰ってた。るららりらら。かくれんぼしてた。ずっと待ってた。