【完結】 ギター爪弾きのバラッド   作:はま0821

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もう2年生か〜。早いなあ〜。ふわりと花咲く出会いと別れの季節。大人たちは学生たちを皆羨ましく見るだろうけど。当人である学生たちはそんなことにまで気が回らない。難儀だよねぇこの世の中。真に欲しがってる人に与えられることはないのだよ。


36 2度目の桜。スプリング・ハズ・カム。バネ持ってこいってか?

 

 

つ、ついに来た。来てしまった。陰キャ耐えらんないイベントランキング第3位!進級からのクラス替え!今までようやく少しずつ関係築いてきた同級生たちに別れを告げ(当社比)全く新しい環境に放り込まれる…!慈悲はないのか慈悲は!主にわたしに対する!わたしにはわたしのタイミングがある!それまで待ってほしい!と。後藤ひとりは宣う。貴様のタイミングなぞ待っていたら日が暮れるわ。大人しく高校生のわちゃわちゃタイムに流されとけ!

 

うう〜!ヤッパリ未確認ライオット優勝して絶対高校辞めるんだ!音楽で食べていくんだ!郁代ちゃんと一緒になれなかったらマジで退学しよう。もしくは転校しよう…虹夏ちゃんとリョウ先輩がいる高校へ…。あ、わたしの偏差値じゃどうあがいても入れない…。へ、へへっ。ですよね。

 

「あ、青木くん…ひとりちゃんなにやってんのかしら?もう軽く10分くらいはああして祈ってるけど…?」

 

「見るのが怖いんだよ。誰も知り合いいなかったらほら。大変だろ?我らぼっちは。だからあらん限りの祈りを捧げてるんじゃね?」

 

「2人とも友達できたじゃない」

 

「まだまだ少ないのさ。俺かてせっかくできた友達と離ればなれにはされたくない。でも仕方ない。学校の行事の流れさ。出会いと別れの季節って奴」

 

「!!見て!ひとりちゃんが9字斬り出したわ!」

 

「長くなりそうだからカットインしよう。ゴッチ〜」

 

「んはあっ!?…あれ。郁代ちゃん。青木くん…」

 

「長い。長いのよお祈りの時間。大丈夫だよゴッチ。たとえおんなじクラスになれなくたって喜多さんは様子を見に来てくれるよ」

 

「も、もちろんよひとりちゃん!名前のようにはひとりにはさせないわ!」

 

「い、いぐよぢゃん〜」うるうる

 

喜多郁代。庇護欲発動。

 

「ああっ!?わたし…!この子置いては行けない…!青木くん!わたしたちは構わず、クラス表先に見て!」

 

「言われなくても。ふ〜ん。む、おおっ!?なんとお!?」

 

「えっうそ!?そんなに衝撃的なの青木くん!」

 

「あっあっあっあっ…!」

 

2人のリアクションが面白いな。もう少し泳がすか。

 

「よう青木ぃ。お前とおんなじクラスとは僥倖だぜ。お前の周りを漂っとけば女の子を見るのには困らないからな」

 

「千田…。でやがったな。色欲の猛獣。喜多さん。ゴッチ。俺の後ろに」

 

「「えっえっ!?」」

 

「やっほ!青木くん!また同じクラスだね!今年も文化祭出て派手にぶちかますんでしょ!期待してるわよロックンローラー!!」

 

おお!!鳩野さん!!やったぜ!何だかんだ前のクラスから友人2人は続投だ!

 

「あっいいな…。わたしも誰か…」

 

「落ち着いてひとりちゃん!前のクラスにはひとりちゃんの友達ひとりも居ないでしょ!」

 

「あっそうでした…あうう〜」とろとろ

 

「溶けないの!頑張ってほら!きっとわたしが一緒だから!」

 

「郁代ちゃん!!」

 

「ひとりちゃん!!」

 

にまーっ。仲いいよなお前らな。

 

「よう喜多!またおんなじクラスだな。ストーカーすんなし」

 

「さ、さっつー!えっ!?じゃ、わたしはこのクラス!?」

 

「なんだ。表の紙見てないの?ちなみに後藤も同じクラスだよ。これから1年よろしくなあ〜」

 

おお〜すげえ。そこまで反るんだ。ゴッチの体って。プラトーンのポーズだ。映画好きなら知ってるかも。

 

「ひとりちゃん!!よかったわね9字切ったのが役に立ったのね!!」

 

いやそれはどうかと思う。

 

「郁代ちゃん!!き、きっとそうだと思います!!」

 

ひしぃ…!抱き合う。仲いいなホントに。

 

「ははっ。受ける。後藤はそんなにこのクラスが良かったんだ?」

 

「知り合いいないと嫌みたいで…。別に最初から少ない友人。いようがいまいが関係ないだろうに」

 

「こらこら青木くん。そんな事言うならもう話しかけてあげないよ?」

 

「あごぉ!?それは何とかご勘弁を鳩野さん!言葉の綾!言葉の綾ですので!!」

 

「てゆうか青木。酔いどれバンドお姉さんはいつ俺のもとに来るの?季節柄もう毎晩全裸になるには辛いんだけど」

 

「死ね!」

 

「おいおいきついな!」

 

「いや。でも打診はしたよ?あの人には珍しい心底軽蔑した顔されたけど」

 

「んじゃ望み薄だな。今日からやーめよ」

 

千田よ。お前がたまに見せる狂いながらも氷のように冷静な判断力はなんなんだ。飲み会の終盤辺り。全員酒に酔って潰れたあたりで頼りになりそうだな。役割りが限定的すぎるか。

 

「で、でも…!よ、よかった…!さっつーさんも郁代ちゃんも!青木くんも一緒で!わ、わた、わたし!ほんとに不安で〜!」

 

「まったく。何でそんな気弱かね。まあ不安なとこもあるか。さておき。みんな一緒でよかった」

 

「ほっ…!よかった。ひとりちゃんに会いにいちいち休み時間に動かなくて済むわ…!」

 

「やっぱ喜多さんでもめんどくさいとか思うんだな…」

 

「そ、そんなこと!…でも。まだ懸念事項がなくなったわけじゃないわよ…?」

 

「なして?クラス替えの結果はこれ以上ないでしょ?」

 

喜多さんに聞き返す。何かまだ抱えてるらしいなゴッチ関連で。

 

「青木くん甘い。あのひとりちゃんよ?まともなホームルームになると思う?」

 

「…。ああなるほど。無理だな!!ど、どうすんの?」

 

「…席が近いから。何か不穏な動きを見せた瞬間。沈めるしかないわね。可哀想だけどひとりちゃんの名誉を守るため…!致し方なしよ!」

 

「そ、そんな!ゴッチがいつまでたっても成長できないではないですか!?」

 

「普通のやらかし程度ならわたしも気にしないけど…。なにぶん彼女はわたしの想像の斜め上を行くし…ギター逆さに出して武田信玄!軍配!みたいなことくらいならやりそう」

 

「まさかそんなはははは。いくらゴッチでもそんな事…やるな 」

 

2人してゴッチを見やる。ゴッチはなぜ見られているのかわからないのかきょとんとした顔で見返してくる。お前の心配をしてんのよ!

 

これは思わぬ任務だ。何か変な。ぼっちっぽいことをやらかそうとした瞬間。ゴッチの意志関係なくそれを阻止する事。いきなり俺と喜多さんに課せられてしまった。…仕方ない。やるしかない。なあに。未確認ライオットのステージに比べりゃ楽だろ!楽だよな!?

 

「あい〜皆さんおはよう〜これから1年間よろしくなあ〜。あいじゃあ席ついて」

 

先生が現れ、もはや会議をする余裕すらなくなる。喜多さん分かってんな!?

 

合点よ青木くん!妙な動きを感知した瞬間!違和感なく止めてみせるわ!!

 

何やら殺気を感じる後藤ひとり。前の席には喜多。後ろの席に青木遥。本人だけが知らぬ間に包囲網が完成していた。

 

や、ヤバい。ヤバいヤバイヤバイヤバイヤバイ!なんか先生の変なアドリブから過去1年の軽いおさらいと自己紹介しなきゃいけない流れになっちゃった!ど、どうしたら!?

 

…ヤバい。この流れは計算外だと。青木遥は独りごちる。自己紹介だとぉ…!?あのぼっち。何を言い出すか皆目見当がつかんぞ!?と、とにかく!何か変な動きをする前に抑える!

 

「あいじゃあ次!喜多!」

 

「わたしの名前は喜多です!今は校外で結成してるバンド、結束バンドに所属してます!前からのクラスで面識ある方!変わらずよろしくね!新しくクラスメイトになった方々!気軽に話しかけてください!あと。わたしのあとに自己紹介する後藤ひとりちゃん!去年の文化祭で活躍したから知ってる人も多いかもだけど、ホントにギター上手いのよ〜!一聴の価値あり!みんな!話しかけてあげてね!」

 

ぱちぱち〜!

 

…流石だ喜多さん。喋りが壊滅的なゴッチのために場を温めとく名采配。これでいくぶんかゴッチも喋りやすかろう…。そう。思ってた。

 

ずあっ。みんなの注目が一気にゴッチに向く。それを受けてゴッチが喋り始める…。

 

「あっえとあっえっあっ…!」

 

なんかすげえ恥ずい!ナニコレ!なんで俺がダメージ受けんの!?どんなマジック!?

 

「わ、わわわわたしの名前は後藤ひとりです…!し、出身は神奈川です…。わたしは人見知りであまり人と話すのは得意ではありません…」

 

ああ!うああ!受けが!受けが悪い!かくなるうえは!2か月ぐらい前から温めてた武田信玄軍配ギャグで…!!

 

おもむろに後藤ひとりが。ギターケースに手を伸ばそうとした時。2つの人影が動いた。

 

ふんっ!ずん!

 

はあっ!がすっ!

 

喜多郁代は後藤ひとりの脇腹に手刀を。青木遥は首筋に手刀を落とし後藤ひとりの意識を刈り取る。

 

「はひゅん…!」

 

情けない声を上げて後藤ひとりは沈黙した。

 

「あ〜?えっ。後藤それ大丈夫なの…?」

 

担任の先生が流石に心配そうな声を漏らす。

 

「はい大丈夫です。なんか不穏な空気を感じたので先に刈り取りました」

 

「あ、ああそう。…まあいいか。はい次〜青木〜」

 

いいのかよ。クラス全員がそう心のなかで突っ込んだ。

 

「ええと。青木遥と申します。好きな食べ物はカレー。嫌いな食べ物はセロリです。あと少々ギターをやります。音楽が好きな方。いらっしゃいましたらどうぞお気軽にお声がけください…」

 

ずいぶん丁寧ね青木くん!緊張!?緊張してんの!?喜多郁代はそう一人思う。

 

…あいつ知ってるぜ。去年文化祭で大暴れしたやつだ。

 

ヤバいくらいギター上手いよな。将来プロかね。

 

あのピンクの子も文化祭出てたよねー!カッコよかったー!

 

聞かせてやりたかったぜゴッチにも。数少ない称賛だぞ?何故かあいつは可愛い女子に褒めてもらっても喜ぶからな。

 

んはぁ!!まただ!また記憶を失った!どこだここ!追い詰められると記憶飛ばす癖なんとかしたい!気が付いてみるとわたしは何故か青木くんと郁代ちゃんに見守られながら自分の机で気を失っていたようだ。…なんか気を失うまえ2人が襲いかかってきたような…?まさか。

 

「…すまんゴッチ。不可抗力だった」

 

なにが?青木くん。わたしになにかしたの?

 

「ひとりちゃんゴメン…でもなんかひとりちゃん。持ってきたギター逆さにして武田信玄!軍配!!みたいなギャグするかも!って思ったら居てもたってもいられなくて…!」

 

せ、正確に読まれてる!え、駄目ですか!?武田信玄モノマネ!

 

「なぜそれでイケると思ったんだゴッチよ…!」

 

ダメか…!ヤッパリダメなんだ。青木くんが言うなら間違いない。

 

「ま、まああれよ!これから挽回のチャンスなんかいくらでもあるわ!ポジティブにいきましょう!」

 

挽回しなければならない何かを今日わたしは犯したのですね…。

 

「…ゴッチ気にすんな。去年の文化祭の活躍はおおむね好評だったから!」

 

「ほ、ホントですか!?よ、よかった…。空気のように誰にも触れられずにさみしく来年のクラス替えを迎えることになるのかと…!」

 

この一瞬でそこまでネガティブになれるのはある意味才能だよな…。

 

「まあ取り敢えず。これで進級もすんだんだ。よかったじゃねーかゴッチ。特に問題もなく進んでよ。喜多さんやさっつーとかと一緒のクラスだぜ?喜んどきなよ」

 

「わたしも!ひとりちゃんと一緒のクラスになれてうれしいわ!楽しく毎日過ごしていきましょうねー!!」きたーん!

 

「わたしも後藤と一緒になれて嬉しいよ、青木もだけど、去年の文化祭…マジで後藤もカッコよかったと思う」

 

「あっ…さ、さっつーさん…」

 

「後藤。ギター弾いてる時のあんたは間違いなく輝いているよ。自信持ちな!これから楽しくクラスで過ごそうな〜」

 

「あ、ありがとうございます!!」

 

「かてえって。喜多。コレはどうにかならないの?」

 

「うええっ!?」

 

何やら驚くひとりちゃんのかわりにわたしがさっつーに答える。

 

「ひとりちゃんの性分よ…」

 

「そっか。難儀だな後藤」

 

「す、すみません…な、何とか次くらいにはクラスメイトの皆さんに挨拶できるくらいにはなります…」

 

「いいのいいの!その暗さや内向的な部分合わせて後藤だろ?変に蓋する必要ないって!」

 

さっつーがひとりちゃんを気遣う。流石我が無二の友人。気が遣えるじゃない!

 

かくして桜の花びらが舞い、春の香りが漂い始めるシーズンが幕を開ける。…早くもこの学校に入ってから2度目だ。青春とは音のようなスピードで流れ去っていってしまうものと何処かの歌手が言った。確かにそう。わたしたちが学生でいられる時間も。僅かしかない。悔いなく。満遍なく。与えられていく今日を精一杯生きるのみ。

 

…なんだけどな〜。なんか気が抜けるよな〜。と。後藤ひとりは独りごちた。…ダジャレにあらず。

 

ふわりと暖かい風。舞い散り視界を埋め尽くす桜の花びら。わたし。春が。桜が舞ってる春が1番好きな季節かも。確かに激動だ。未確認ライオットに応募して。すでにデモテープは送って審査待ち。だというのに。何やら穏やかな気持ちになれる。窓際から見下ろせる満開の花びらたちを見て、そう後藤ひとりは、ひとり思うのだった。…ダジャレにあらず。

 

…またこの季節かと。青木遥は誰にも悟られずにひとり思う。この季節。ゴッチ見にくいんだよな。だって奴ピンクじゃん。ペー、パー、もびっくりなぐらいピンクじゃん。恥ずかしいから誰にも言っていないが。勝手に後藤ひとりにつけているあだ名が彼にはある。…桜色の彼女。だ。まさに彼女にぴったりだよな。俺のセンス間違えてねえよな。と。ひとり青木遥もごちるのだった。




いつか、この日を思い出して懐かしむ日が来るのだろうか?信じられないな。当たり前のように日々を食らっていく。一瞬一瞬。1秒1秒が、あまりにも輝いて煌めいていたことに気付きも。一瞥もせず。学生諸君よ。それでいいのだ。
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