強力なアドバイザーであるシデロスのあくびさんがいるとはいえ、TEAMイバラギはやはりネットには疎い。この苦戦も致し方なし…。
「おっしゃらあああぁぁぁぁぁ!!!!とっぱじゃああああ!!!」
「イエッス!!なんとかなったね!!!遥!!」
最終結果…!!30位ピッタリ!劇的…!!逆転満塁ホームランよ!今年の甲子園より劇的じゃねーのかコレ!
「イライザさん!これ!30位以内だよね!?29位までみたいな勘違いないよね!?」
「ないハズよ!正真正銘突破ダヨ!やっぱり諦めの先に希望があるんだよ!!」
「諦めちまってましたよ正直…。やっぱイライザさん!あんたは凄いぜ!!」
「ハッハッハー!!褒めるな褒めるな遥〜!!」
ここは新宿FOLTのレコーディングスタジオの一角。なんとかドベでネット審査を突破した、青木遥と清水イライザのユニット、TEAMイバラギの2人が、喜びを爆発させていた!
「いや〜劇的だねぇ〜!お2人あれか。狙ってたのか?」
「んなわけないでしょ姉御〜!毎日朝起きたら順位チェックするぐらい必死でしたよ〜!」
「…なんか君が必死になってる姿を見ると安心する。よかったね。遥」
「………」
なんか最近姉御が引っ掛かる言い方をするんだよな…。何の意味もないわけじゃないんだろけど。今の俺には分かんない。…気にしても仕方ないか。
「おめでとうイライザ。意外と苦戦してんね?」
「志麻〜!危なかったよ〜!これぇ!これ間違いなくわたしたちが獲った未確認ライオットより格段にレベル上がってルヨ!」
「マジか。出てるイライザが言うんだからそうなんだろうな…。こんどの未確認ライオットのライブステージの前座やるから、練習しといたほうがいいなこりゃ」
志麻さんが冗談めかして話す。
「えっ?シクハックで?わたしは出なくてイーノ?」
イライザさんが志麻さんに問うと。
「大丈夫。こっちは任せとけ。イライザは、今やりたいようにやって、終わったら帰ってきてくれりゃいい」
「うう〜!アリガトウ志麻〜!」
シクハックメンバーの熱い友情だ。
「おっとわたしは除け者?除け者ですかい?」
「廣井…。お前は取り敢えず時間通りにこいよ…?」
「高校生のバイト君に送るアドバイス!なんだよ〜志麻!わたしの事全然信頼してないじゃんかぁ〜!」
「…逆に問おう。信頼できる要素がどこに…?」
「ねえか。あはっ!」
「…イライザ。ちょっとそっち持って。こないだみたいに水ぶち込んで漂白してやる」
「あれは勘弁して〜!シラフの時の記憶が一切なくて怖いの〜!!」
「逆だろ〜が普通よぉ!!」
「あ、あはは〜。2人ともどうどう!一応子供も見てマスよ〜」
大丈夫イライザさん。シクハックに関しては俺良識を期待してないから。廣井さんに至っては社会に出てからやってはいけないことの反面教師にしか利用してないから。
「なんか失礼な波動を感じるなぁ〜。主に遥くんの方角から〜」
ぎくぎくぅ!?妙なところで鋭いな相変わらず!いつもはのほほんとしてるくせに!?
「…突破したのね。おめでとう。青木遥」
「その声はヨヨ先輩。…ありがとうございます」
「確かかなり順位が厳しいって聞いてたけど…どんなマジックを使ったの?」
「それが俺にもサッパリ…。なんか、ばんらぼ?って記事載せといてくれるサイトに匿名で誰か書き込んでくれたみたいで…」
「ばんらぼ。バンドの活動をレビューできるサイトね。…誰かがあなたたちのひたむきな活動を見てくれていたのよ。まさに、活動が実を結んだのね」
「…ありがとう、ございます」
素直に謝意を表す。この人こういうとこがズルいとこ。人誑しというか。ふだん厳しいくせにこういう時、素直に褒めてくれるのだ。たいていの人はこのギャップにやられる。
「ま、まあ!?わたしとしては大分複雑なのだけれどね!?たぶんあなたたちより今回31位になったバンドのほうが与し易かった!厄介なほうが順当に残っちゃって残念至極よ!」
ハハッ。これがヨヨ先輩のツンデレ。この人はツン6。デレ4ぐらいだな。バランスがいいツンデレだ。しんどくなってきたところに適度に飴をくれる。
たぶんシデロスのみんなもこの飴がたまんねえんだろな。だからヨヨ先輩についてく。…シデロス。ついてく相手。間違えてないぜ。それは保証しよう。
〜閑話休題〜
俺の名は粋杉謙信。デスメタルバンド屍人のカーニバルのボーカル兼ギターだ。
同時にバンドのレビューサイトであるばんらぼのヘビーユーザーでもある。
このあいだ、対バンしたバンドのことを特に気にせず投稿したら、なんかバズった。
いいバンドだったし、いい演奏してたから、少しは役に立てると嬉しい。
…あいつらも仮装みたいなかっこしてたな。お互い見た目で苦労するよな…。
なに?やめりゃいいだろって?おいおい。デスメタルバンドにそれ言う?ポリシーでありアイデンティティだから。そこは不可侵なの。
多分あいつらもそう。…たく。カッコなんざ見てねえで、音楽聴けよ音楽。フェス来てんだからよ。あんたらもそう思うだろ?なあ。TEAMイバラギ。
も1つ閑話休題
「はい!もしもし!?」
「おーう。佐藤愛子。佐藤愛子の携帯で間違いねえかコレ!?」
「いきなり人の本名連呼すんな!だ、誰よあんた!?」
「あれだよ。こないだ池袋ライブで一緒になったSTARRYの伊地知星歌だよ。あん時は世話になったな?」
「ああ!ライブハウスの店長さん!んでなんでわたしの携帯知ってんのよ!?教えてないでしょ!?」
「なんか普通にお前のアンチに番号晒されてたぞ。気を付けろよ〜?わたしみたいに善良なのがかけてくるとは限らねえぞ〜?」
「あんたのどこが善良なのよ!?ほんでわたしの個人情報の保護とかはどうなってんのよ!?怖い!ネット怖い!!…んで?何の用よ?」
「アリガトな」
「はっ!?…はあ?なによ急に」
「お前だろ?結束バンドの記事、ばんらぼに上げてくれたの。あれのお陰で首の皮一枚つながったみてえだ。ほんとにありがとな」
「べっ別に!?わたしは成長した結束バンドに正当な評価を下しただけよ!前見たときもギターヒーローさんっていう色眼鏡かけて見ちゃったし、ちゃんとしなきゃって…!えっなに!?あんた泣いてない!?」
「うるへいよ!若い奴らが頑張ってんの見るの涙腺に来るんだよ!…あ、あとついでに。あれもお前だろ?TEAMイバラギの上げ記事。あれもありがとな。あいつらも審査突破できたみたいだ」
「えっ!?なんのこと?わたしが書いた記事は結束バンドさんだけで、TEAMイバラギは書いてないわよ?書こうと思ったんだけど間に合わなかったというか…結束バンドと二者択一で…結果結束バンドを選んで…え?」
「え?」
「「ええ??」」
いやしかし。助かったぜ。九死に一生だ。誰なんだろばんらぼに書いてくれた人。
「遥ちゃん。多分TEAMイバラギの方の上げ記事は愛子ちゃんじゃないと思うわよ?」
「銀さん。えっ?愛子さんって?」
「あっ失敬。ぽいずんちゃんのこと。あの子結束バンドの上げ記事は書いたけど、時間なくてそれ以外のバンドレビュー出来なかった〜ぴえんってSNSに書いてたから」
「えっありがとうございます銀さん。ってことはあのばんらぼの上げ記事はぽやみさんではない…?とすると一体誰が…?」
ほんでさ。もう1個。あの人まさか本名愛子さんなの!?ヤベェ。普通すぎて逆に推せる。こんどから愛子さん。って呼んでみよかな。
「やめたげて。あの子本名で呼ばれるの嫌がるから」
「そりゃそうでしょうね、じゃなくばペンネームでわざわざ名乗らないでしょうから。なんで銀さんはぽやみさんの本名知ってるんですか?」
「あの子アンチ多すぎて、普通にアンチが流出させてるのよ…あなたも気を付けなさいよ…ネットは怖い世界…」
うん。絶対に不用意に近づかないようにしよう。ネット怖い!ゴッチとか大丈夫かね?ああいう少しだけ使い慣れてわたし!ネットのことよく知ってます!みたいな奴がラインを踏み間違えるんだよな。ゴッチはギターヒーローで炎上したことあるのかな…。あるんだとしたらあどうやって消し止めたのか。こんどゴッチに聞いてみよ。
そしてぽやみさんの精神力よ…。普通自分の個人情報割れてたらそればっか気になって普段の生活どころじゃねえだろう。なんで普通にライターとして活動してんだよ精神力おかしいだろ。
いろいろ考えたが結局問題は解決しない。あのTEAMイバラギへの上げ記事は誰が書いてくれたのか。答えは…。どうやら闇の中になってしまいそうだ。くそう!お礼言いたい!!
スタジオの虚空を眺めながらそんな思考を一人回す。想い人はネットの海の向こう…。なにを捨ててでも会いたい!という情熱は残念ながら…ない。
「いやないんかい!」
「ヨヨ先輩。ないです。やっぱめんどくさいんで。まあもちろんできればお礼言いたいですけど」
「案外あの池袋の闇鍋ライブの誰かかもよ〜?なんか色々いたらしいじゃない?」
ああ。いた。個性豊か過ぎるメンツが。地下アイドルにデスメタルバンドにシンガーソングライター。ほんで結束バンドに俺だ。でも終わってみて思うけど、メンツ以外は意外と普通のライブだったと思う。ブッカーの人が一癖あったみたいだけど。
「なんて奴?」
ヨヨ先輩に問われるので答える。
「なんか…名前柳って人。界隈じゃ有名なクソブッカーらしいよ?」
「ああ。柳。名前だけならわたしも聞いたことがある。メンツ集めてライブする事だけにしか興味がない、評判悪い奴だって。よくそんな奴のライブ行ったわね?あなたも、結束バンドも…。意外と強心臓?」
「なんか、星歌さん、店長は知ってたっぽい。俺はまるで知らんかった」
「…こんどから箱とブッカーは確認とったほうがいいわよ?箱はともかくとしても、ブッカーはクソに当たると今回みたいなことになるしね。まあ、あなた達には関係なかったみたいだけど?」
手を大げさに広げてのやれやれポーズ。褒められてんのか貶されてんのかわかんねーなコレ。
「肝に銘じますよ。イライザさんも俺も楽しんだけどね」
「それはあんたらの精神力が強いのよ…。あなたたちを基準に語らないで」
へいへい。
「その点、新宿FOLTは文句付けようのない箱よ。立地よし、客層よし、スタッフよしサービスよし…。あなたも早くこんな素晴らしい箱でライブ出来るようになりなさい」
「へっ。確かにね!一度出てみたいもんだ」
「あら?次のライブ審査はこの新宿FOLTよ?知らなかったの?」
「…まじかよ。いや全く。つゆ知らず」
「ふふ…。良かったじゃない夢が叶うわ。わたしたちの根城で迎え撃ってあげる。精々足掻いてみなさい。青木遥」
「へっ…。ただじゃ終わらないぜヨヨ先輩。土産に右腕1本くらいは食いちぎってやるよ。そして俺の相方は清水イライザさん!ここでの戦い方をよく知ってるお方…!一筋縄で行くかな?」
「ふふふ…。楽しい夜になりそう。精々踊りなさい。そしてわたしや、シクハック。そしてこの新宿FOLTのオーディエンスを沸かせてみせなさい!」
「上等!ヨヨ先輩!ライブ審査でお会いしよう!」
「ええそうね。わたしは行くわ青木遥!結束バンドにも伝えなさい!精々仕上げてきなさい!新宿FOLTは身動ぎせずあなたたちを待つわ!と!」
踵を返してヨヨ先輩が行く。は〜カッコいいなぁ。
まあ、演奏力で挑んだら、当たり前のように分が悪かろう。ギターで負ける気はないが、如何せんベースとドラムスを音源に頼っているこっちは、やはりすべて生音であるシデロスに比べちまうと見劣りしてしまう。
ここはやはり選曲の妙とイライザさんの意外性に賭けるしか…ない。
毎度のことながらの迷路のような。人がまるで働きアリのように行き来する新宿駅を行く。マジで迷子になりそう…。廣井さんとか絶対道覚えてないだろ。よくFOLTに通えてるな。
網の目のような路線図から小田急線を選び取り、僅かな間列車に揺られる。車窓を見る暇もなく、目当てのホームタウン下北沢に帰還だ。そのまま我が母なるSTARRYを目指す。
「うい〜っす。お疲れ様で〜す」
STARRYの扉を開けると、結束バンドのみんなが迎えてくれた。ああ我がホームライブハウス…!
「おかえり青木くん!どうやらマジで突破したみたいだね!しぶといね!」
「虹夏先輩…。もちろん。ただでは死んでやりません。こうなったら大槻ヨヨコの腕1本くらいは食いちぎってやりますよ」
「怖いよ!でも…そのぐらいの気概でやるってことだよね!?その意気やよし!だよ!」
虹夏先輩と右拳を合わせていると、今度は店長から話しかけられる。
「なんかさ。遥。あのTEAMイバラギの上げ記事書いたの例のライターじゃないらしいぞ?本人に確認した」
「マジすか?実は銀さんからもそんな話聞いたんすよ。そしたら一体誰なんだろう…、お礼を言いたい相手が行方不明ですよ」
「…まあ。誰でもいいんじゃない?きっと池袋の箱で対バンした誰かだよ。結果的には未確認ライオットの突破につながった。それだけでいいじゃん?」
「リョウ先輩。いやでも気になりますよ。誰だったんだろう…」
「意外と屍人のカーニバルあたりが怪しい。喋ってみるとまともな人達だったし」
「メイクバリバリでパソコンに向かってる姿がイメージに合わないんですけど!」
「いや、プライベートはメイク落としてるでしょ流石に…」
それもそうか。それにしても。ようやく何とか一息。次のライブ審査は2週間後。少しの間が空く。
「はあっ…はあっ…!も、もう限界…!な、なんとか乗り切りました…!」
「お疲れ様ひとりちゃん!温かいお茶をどうぞ!」
「あ、ありがとう郁代ちゃん…」
ゴッチと喜多さんのミニコント。ホントにな。縁側でお茶でもしばきたい…。今まで激動すぎた。イライザさんはそのほうが生き生きしそうだけどな。しかし。なんとかあの曲をライブ審査まで温存できた…。コレはでかい。ライブ審査で満を持してお披露目してやるぜ。これでいただきよぉ!
ゴッチのお茶が羨ましくなったので俺も自分で淹れていると。
「青木くん。土壇場でのうっちゃり。お見事でした」
「PAさん。ありがとうございます」
「…あなたたちの輝かしい時間。一瞬たりとも、無駄にすることのないように。不安でしょうが。今は振り返る必要はありません。息を切らして、全力で走ってください。力尽きる、その時まで」
「…!はい!頑張ります!!」
「ふふふ。応援していますよ。この小さな箱から」
「小さくて悪かったなコラ!」
思わぬカットイン。流石のPAさんもビビる。
「こ、言葉の綾ですよぉ〜♪」
ゴッチと喜多さんが座るテーブルの椅子が1つ空いていたので、お茶を置いて腰を下ろす。
「あ、青木くん。…お疲れ」
「流石ね青木くん!今回ばかりは無理かも。なんて思っちゃったわ!」
「…ああ。疲れた今回ばっかりは。ネットは明るくないんだよ…」
「でも。これで一段落よ!やっと少し落ち着けそうね!」
「まったくだ。息も絶え絶えだよ。やっと少し休憩できる…」
「な、なんとか苦手なネット審査…。突破出来たね…」
「ああ!ゴッチのアドバイス凄え参考になったよ。やっぱ投稿頻度は重要なんだな!」
「あっ、役に立ったならよ、よかった…」
そうゴッチ達とのほほんとしていると、いつの間にかテーブル後ろのカウンター席に移動していた虹夏先輩から提案を受ける。
「ここいらで少し休憩してみる?ずっと気合入れて走り通しで疲れたし!」
「キャー!そしたら虹夏先輩!下北沢ブラ散歩しましょうよ!いつも練習ばっかしてたら気が滅入っちゃいます☆」
「喜多ちゃんそんな事思ってたんだ…」
「なら郁代にオススメのカレー屋紹介してあげようか。そしてそのまま下北の店をハシゴしよう」
「キャーやった!求めてた女子高生感!これよこれー!イソスタのイイネもこれで安泰だわー!」
「それが本音か!…でも。いい機会かも。よし!次の結束バンドの活動は下北ぶらり旅だ!」
「あっ、陽キャっぽい企画…!と、とろけちゃう…!」
「そう言わんと。頑張りなよ。みんなゴッチと行きたいんだと思うよ?」
「えっ、わ、わたしと…?えへ、えへへ、えへへへへ…」
でた、ゴッチの領域展開。怖いんだよな〜これ。まあ。下北ぶらり旅。女子高生らしい企画でいいんじゃない?PAさんと店長と茶でもしばきながら待ってるよ。
「なに言ってんの青木くん?君も来るの!いつぞやのアー写撮影の時は上手いこと逃げてくれちゃって!しかもその後リョウやぼっちちゃんと会ってたみたいじゃない!?今度は逃さないよ!」
しまった回り込まれている!…でも。前に行きそびれた下北沢散歩か。元気な女子高生に案内してもらうのも悪くない。
「よしっ!そしたらみんなで行きましょう!下北沢散歩!」
「「「「おー!!!!」」」」
練習学校!家帰って寝る!それだけじゃあ疲れちまう。たまには高校生らしく遊ばないとな。人生でもバンド活動でもメリハリが大事よう!たまにはハメ外して遊び倒してやろう!
やるからには全力で!
練習ばっかりしてるやつは実は大したことがない。一流とは自分に合ったリラックス法を開発し、力を抜く方法を知っている。大谷翔平だって10時間は寝るんじゃ!まあ残りの時間は全て練習に回してるんだけどな。エグ。