もう少し早く語れば良かったか…。主人公の過去です。暗くて重い話なので、明かすのを躊躇してました。暗い過去を背負っていますが、奴は基本根明です。音楽に出会ってなくとも、たぶん人生何とかしたでしょう。でも、音楽が彼の人生の一助になった。それは、間違いありません。
未確認ライオット!ファイナルステージに進むのは…!!
あの後。未確認ライオットの結果。結局はファイナルステージに進むのはシデロスとケモノリアということになった。順当と言えば順当である。
実際問題、シデロスは当確だったのだが、ケモノリアとTEAMイバラギ、それから結束バンドは、審査員もどれを選ぶか最後まで決めかね、差はほとんどなかったようだ。嘘か誠か。イライザさんが銀さんに聞いた理由によると、TEAMイバラギの落選理由は、アニソンコピーバンドの筈が、最後のあいみょんの「マリーゴールド」は、アニソンではないと。ごもっともな指摘を受けたからであると。…くそ!!選曲の段階で気付いていれば!俺の馬鹿!ダンゴムシ!!
全く笑えない。正々堂々、戦って負けたならまだしも、ミスが原因で敗戦とは。しかも音楽関係ないミス!…あああああ!!すいませんイライザさん!!すいません俺達に夢をかけてくれたみんな!!どうかホントの理由が彼らに伝わりませんように!
あぁ。くそ…!これが。敗北の味…!か…!
「いつまで沈んでんだよ遥」
「…店長。これが沈まずにいられますか?負けたんすよ我々は」
「負けたことねえやつなんかこの世にいねえよ。いいからその辛気臭い感じやめてくれると助かるんだけどな?」
「うう…!畜生めドヤ槻ぃ…!この借りは必ず返すからなぁ…!」
「ははは。確かにドヤ顔すごかったね、大槻ちゃん。よほどうれしかったんだよ君たちに勝てたのが」
未確認ライオットライブ審査から数日後。俺はまだ冷めやらない敗北の余韻の中にいた。最後なんかヨヨ先輩から労いの言葉を頂いたけど、内容なんざ思い出せない。STARRYで大人の皆さんに愚痴でも聞いて貰わないと心が壊れそうだ。
全力を出し切った。悔いなんざもちろんないが。悔しいもんは悔しい。なにより、イライザさんに申し訳が立たない。イライザさんも、実力全部出して戦ってくれた。敗戦は俺の責任だ。これをイライザさんに言ったらひっぱたかれたが。
「素直に悔しがってる遥くんを見ると安心するよ。なんか、年相応な部分もあるのかなって」
「確かにな廣井。こいつなんか所々で変に大人びてるというか。16にはどうしても見えんのよな」
「割と青木くんはミステリアスですよね〜」
PAさんにまでからかわれる。なんすか、人のことおっさんみたいに。
「そうは言わねえよ?んでもさ。わたし、実はお前のことなにも知らんのよ」
「…え?」
「え〜と。青木遥。ぼっちちゃんや喜多の同級生の秀華高生。確か独り暮らしで家は笹塚。異様にギターが上手くて。…自分のことを黙して語らねぇ。どう?間違ってる?」
…そういえば語ったことないのか。なんか勝手に語った気になってた。店長に言われるまで気付かなかったぜ。
「わたしもちょっと興味あるな。どんな人生歩んできたのか。その並じゃないギターの腕。身に付けるのには生半可な努力じゃ不可能だ」
開眼した廣井さんに投げかけられる。…あまり気が進まない。聞いて、楽しい話じゃないのは間違いない。
「ミステリアスで黙して語らない男の半生。実に興味深いですね」
茶化し半分。まじめ半分と言ったブレンドの視線がPAさんから飛んでくる。
「…少し、胃もたれするかもしれませんよ?」
グルっとSTARRYの中に視線を回す。結束バンドのメンツはいないな。よし。
「どこを切り取っても人生ハードモード。聞くも涙。語るも涙のそんなお話。まず俺ね、両親いないんですよ」
「…んくっ!」
「…!」
「…!」
店長が飲んでた飲料を誤飲しかけ、廣井さんとPAさんは息を呑む。3人飲む物が違いますね!やかましい?
「正確には、いなくなった。ですかね。俺が2歳の時に。母親は病死。父親はほぼおんなじタイミングで蒸発しました。だから顔も思い出せない」
「…それは。難儀な…」
PAさんが渋い顔をしながら聞いてくれる。ほら。聞いてて気持ちいい話じゃないでしょ?
「母親はもともと呼吸器系の方に病を抱えてたみたいでして。折悪く、父親が海外に行ったタイミングでそれが悪化して。あえなく病死。父親は、申し訳なかったのか、母親の葬儀には現れませんでした」
「…マジか」
「マジです。なんせ当時2歳。なにも分かりませんでした。母親が死んだのも、なにも。…暑かったな。確か真夏だった。冷房もなにもかかってない部屋で母親の遺体と2人きり」
「…遥くん」
「母親に対して、申し訳ないなと思ってることが1つあるんですよ。今際の際。母親の呼吸がどんどん弱くなっていくのを感じて、俺。安心したんです。ああ。もうこの人は、苦しい思いして生きなくていいんだな。楽になれるんだなって」
廣井さんが泣きそうな目でこちらを見上げる。…優しいな。だから、聞かせたくなかった。リアクションが想像できるから。悲しませて、しまうだろうから。
「母親が死んで、俯いてばかりもいられなかった、なにせなにも処理してない遺体と真夏に2人。2日後ぐらいには匂い始めたので、このままでは居られないと。部屋の中の物もなくなったし、外に出ようと。なにもわからないまま外に出て、取り敢えず動きが遅いものを探しました。お腹が空いて、しょうがなかった」
「…遥くん。もう…!」
PAさん。ここまで言ったんだ。聞いて、貰えますか?
「セミやミミズ。腹に入りそうなものはなんでも腹に入れました。腹壊して吐いて。それでものど渇いて腹は減る。地獄ってのはこういうことかと、齢2歳で思いましたよ。近所の人に手を差し伸べられるまで、ずっとそうしてきました。それから、笹塚苑って児童養護施設に入れられ、今日まで生きてきた。…ほら。楽しい話じゃない」
自分で語っておきながら、少し怖くなり、周りを伺うように少し間を置く。何故か。この人達には聞いてもらいたかった。受け入れてくれそうな。そんな予感がしたからだ。
「でも。人生暗いことばかりじゃなかった。笹塚苑に入った後出会った人達は皆良い人で。育ての親代わりをしてくれた管理人夫婦。出会った仲間達。個性豊かな先輩方。俺は別に不幸じゃないな。人生、まだ歩いていけるな。って。思えたのは間違いなく、この時期に出会った人達のおかげです。この人達が居なかったら今の俺はない」
重苦しい空気。誰も口を開こうとはしない。廣井さんやPAさんはなんとか、なにか喋ろうと。空気を軽くしようとしてくれてるみたいだけど。…すると、店長が口を開いた。
「…よかったな。取り敢えず。捨てる神もいりゃ、拾う神もいるよ」
引くでも、押すでもなく。ただナチュラルに受け止めてくれたのが、なんか無性にうれしかった。店長の言葉を皮切りに、この場にいた大人な御二方からも言葉を頂戴する。
「…神様はどうして、何も罪が無い少年にそんなにも辛く当たるのでしょうね。境遇は選べない。とはよく言いますけど、これはあまりにも…酷…」
「で、でもさ!それから出会った人達は凄くいい人達だったんだよね!?やっぱり見てないようで誰か見てくれてんだよ!ホントに…!ご、ゴメンよ遥くん…!!わ、わた、わたし…!こんなこと話してもらうつもりじゃあ…!!」
言葉の途中で込み上げるものに負ける姉御を見て、俺の目に狂いはないなと。謎の自信を再確認する。ほら見ろ。やっぱり優しい人だ。
俺の胸に抱きつき、声も殺さずに泣き散らかす酒臭お姉さんをあやしながら、俺は温かい、タマシイ色の雫の温度を感じ取っていた。
「あ〜。すまんな遥。酔っ払いは涙もろいんだ。…言いたくなかったらいいんだが。まだ答えてもらってないことがある」
店長が廣井さんのフォローをしてくれると同時に、まだ質問があるみたいだ。
「なんでも聞いて下さい。聞いて貰った礼だ。答えますよ?」
「感謝する。お前、なんでギター始めたの?今の話の中じゃ始めるタイミングないように思えたからさ」
「俺は、児童養護施設の寮長…、オジキに、ギターを教えてもらいました。…8歳の時だったかな。ギターを渡されて。音楽の知識を教えてもらった。それ以来ギターを弾き続けています。…。俺が今でも使い続けてるレスポール。青いレスポールは、葬式の日、うちの家の塀に誰かが立て掛けていった奴を、そのまま使ってます。オジキが言うには、このギターは俺の親父が残してったギターなんじゃないかって。息子である俺にせめて、残していってくれたものなんじゃないかって」
勝手に俺はこう考えている。何故親父はギターを残したのか。これは、俺にギターをやれと。ギターをやれば、音楽をやってれば、いつかは会える。っていう、親父からのメッセージなんじゃないかって。…店長が、口を開く。
「…親父さんは」
「…これは俺の勘なのですが。多分生きてます。母親の葬式の後、どこから送金されてるか分からない、俺のものであろう養育費が口座に振り込まれてるみたいです。…なので俺はギターを弾く。こいつを弾いてれば。音楽を続けてれば、いつかは親父に会えるかもしれないから。そんな希望で俺は音楽をやります」
そこまで語り終えると、胸の中の姉御が急に。
「会えるよ!君はきっと!父親に会える!君の思いが報われる日は必ず来るから!わたしの勘は当たるから!」
少し赤い目をまっすぐ俺に突き刺しながら、姉御は言う。
「姉御。ありがとうございます。あなたが言うなら、信じられる」
「う、うう〜!きつい環境だったろうに、こんなに真っ直ぐな少年に成長して〜!偉い、偉いよ〜!」
再び姉御が泣きながら俺の胸にグリグリと顔を埋める。…今日は随分と泣き虫だ。
「あなたは。きっとどんな環境で育っても、あなたなんでしょうね。…ありがとうございます。話してくれて」
PAさん。ありがとうございます。聞いてくれて。
「お前の鉄メンタル。理由が分かった気がしたよ。幼い頃そんな体験してりゃ、大体のことは、些事だわな」
「店長。そうですね、死ぬわけじゃないから大丈夫だと。死ぬ以外のことは、大体平気だろと思うようになりました。…あん時に食べたミミズの味は、いまだに忘れられません」
「…因みにどんな味なんだ?」
「うえっ!?店長!?そこ掘り下げなくてよくないですか!?」
店長の聞き返しにPAさんが反応する。聞きたいのか…。
「土の味です。そいつ自体の味はほとんどしない。あ、因みにセミは結構上手いです。食べるところは殆どありませんが」
「ははは。お前、大したもんだよホント。お前がどんなライブの時も全く動揺せず、平常心で臨んでた理由が分かった」
他愛ない話を店長としていると、廣井の姉御が反応する。
「…そっか。だからか。分かったような気がする。君のギターに欲がない理由」
「…ずっと姉御が言ってたことですね。理由を聞いても?」
最近姉御が言ってたこと、ようやく理由が聞けそうだ。
「君は、お父さんに会いたいから音楽をするんだ。音楽で勝ったり負けたり、認められたりしたくて、音楽をやるわけじゃないんだよ。だから欲を感じないんだ」
「…そうかもしれません。だから、目の前の勝ち負けに、執着できないのかも。そうか…。俺、親父に会いたくて音楽やるのか。はっきり言われるまで分からなかった」
「だからかも。君が普通に勝ち負けに執着できてるの見ると安心した。君でも負けたくないんだなって。でもでも!今回の未確認ライオット、なんか君、いつもと違ったよ?いつも以上に負けたくない!って欲が出てた気がした!…なんでかな?」
姉御に問われる。指摘されて初めて探る、自分の深い部分…。
「…多分。俺は今回1人で戦ったわけじゃないからです。俺があの舞台に立つために倒してきたほかのバンド達。イライザさんもいたから。だから、負けたくなかった…のかな?」
「成る程…そっか。君は優しいね。納得できたよ」
「しかし。いや〜。なんかぼっちちゃんくらいの。本人は笑えないんだろうけど、カジュアルなのが出てくるのかなと思えば、ガチの闇が出てきてわたし困惑」
「後藤さんも闇を抱えてますけど、比べるべくもありませんでしたね〜…」
店長が感想を漏らし、PAさんが苦笑しつつ同調する。すんません重い話で。
「重い話しついでに。わたしたち姉妹もな、母親いないんだ」
「え!?」
店長の突然の告白に、PAさんと廣井の姉御も目を見開く。どうやらここにいる誰も知らない話らしい。
「だから。遥。1人じゃねーぞ。なにか、家族のことでもなんでもいい。抱えきれなくなったら相談しろ。わたしに言いにくかったら虹夏でもいい。まああいつじゃまだ未熟だからお前の相談なんか手に余るだろうがな」
なんか。俺と虹夏さん境遇が似てるな。母親が死んで。父親は恐らく健在…。でも虹夏さん。そんな素振り少しも見せてない。…強いんだな。
「8年前だったかな?交通事故で。わたしも虹夏も、現実受け入れられなくって。んで、わたしは逃げた。当時9歳だった、虹夏をおいて」
これは、恐らく店長の独白。店長の懺悔。聞き届けるのが筋だと、そう思った。
「バンドと音楽活動って逃げ道に、わたしが逃げ込んだ後も、虹夏は母親の死って現実と向き合い続けて…ある日壊れた」
「もう学校行きたくないって。もうリボン結いたくないって。結んでくれたお母さんは、もういないからって。馬鹿なわたしは、そん時初めて理解した。自分だけじゃなかったこと。虹夏も、幼いながらに母親の死と向き合っていたこと。そして、この世のどこを探しても、もう母親はどこにもいないこと」
…噛み殺した嗚咽が、漏れる音が聞こえる。俺は、店長の話に黙って耳を傾けていた。
「でもさ。死ぬ前に母親が言ってたんだ。世界一、仲の良い姉妹でいて。って。うんって言えなかったあの言葉に、わたしは答えることにした。ほんで、わたしは虹夏のリボンを結んでやって、いろいろあって今に至る。多分、仲が良い姉妹をやれてると思う」
「あうう…!美しいかな姉妹愛…!家族って…!姉妹っていいなあ…!わたしも…姉か妹が欲しい…!」
グスグス泣きながら、廣井さんがこんな事を言う。
「なにが言いたいかというとだ。人には秘密にしときたいことの1つや2つある。虹夏も別に必要性を感じなかったからお前たちには話さなかったんだろう。遥。お前も負い目を感じることねえぞ」
「わたしが実はスプリットタンだということも…隠し事の1つですかね?」
「それは別に秘密のままでも…。おお!?凄えなお前どうなってんだそれ」
PAさんが、場を和ませるために決死のスプリットタンギャグを披露する。ほほう…。
「ふふふ…。聞いていただいたのが、皆さんでよかった。隠してたわけではないのですが、やはり少し重い話。話すのが憚られました」
「遥。この話、結束バンドの連中には?」
「話してません。…情けない話。怖いんですよ。この話を聞かれて、距離を置かれてしまうのが」
店長に聞かれたので答える。まだみんなには話していない。
「うちの虹夏はそんなん気にしないぞ?虹夏をなめるなよ?」
「分かっています。彼女たちのリアクションを勝手に想像して、勝手に怯えているのも。コレは俺の問題。小学の時と中学の時。結束バンドの子たちと同じように仲良くなれた人達がいたんですけど…。親のことを知られた時に距離を置かれて…。結束バンドのみんなともおんなじ事になってしまわないかと」
「気にし過ぎだと思うがなあ。まあ。お前のタイミングで話せばいいさ。取り敢えず、今は。未確認ライオット、お疲れ」
「はい。勝てなかったのは残念ですが、負けた原因は悔いだらけですが、演奏自体は満足にできました」
「遥くんは見に行くの?ファイナルステージ。結束バンドのみんなは行くみたいだけど」
「気持ち的には見たくないすけど…みんなが行くなら…まあ…」
嘘ついても通用しそうにないので正直に言うと、見たくない。負けたムカつきで、見る目が歪んでしまいそうだからだ。
「うはははは〜!そうそう!学生の時分は、そうやって素直に悔しがってればいいんだよ〜!君のそういうリアクション、安心するよホント〜」
姉御が大笑いしながら言う。
「なんか…いじってませんか姉御?」
「うえっ!?そそそんなことないよ〜。でもたぶん遥くん来ないと大槻ちゃんショック受けるよ〜?」
「受けりゃいいんすよショックなんか。なんで俺が自分が負けた相手の演奏見に行かなきゃなんねぇんだ。って思いでいっぱいですよ」
吐き捨てるように言う。
「あはは〜素直〜。でも、シデロスとケモノリアのプレイは参考になると思うよ?結束バンドと一緒に見に行ったほうがいいと思うよ?」
なんか妙に粘ってくるな今日の姉御。
「姉御。こういうのは気持ちの問題なんですよ!気持ちだけ言うなら俺は見たくないすけど、みんなが行くなら…しょうがない。見に行きますよ」
「…ほっ」
「姉御。なんすかそのほって。さてはヨヨ先輩に俺のこと連れてくるように指令受けてましたね?」
「うっ!?やだな遥くん!そんなわけ無いじゃんか!勘良すぎるだろエスパーかよ!」
「やっぱり。意外と狡い真似しやがるなあの女…心配しなくてもしっかり野次りに行ってやるから待っとけって言っといて下さい」
「よかった…遥くんが行かないと、なんでいないんだって大槻ちゃんに詰められちゃうんだよ〜!わたしの苦労も分かって〜!」
知るかんなもん。などと辛辣なことを頭の中で考えていると。
「まあ。お前も結束バンドも。ようやく小休止だな。休める時に休んどけ。どうせまたやることが見つかって、忙しくなるんだから。…親父さん。見つかるといいな。お前が諦めない限り、いつかきっと会えるさ」
バシッと。店長から背中をたたかれる。…はい。ありがとうございます。
「…青木くん。あなたの音楽を、応援してます。どうか。貴方が往く道に、幸多からんことを。いつか、会えますよ。貴方が貴方でいる限りね」
PAさん!ありがとう!
こんなやり取りを交わしていると、STARRYのドアの辺りが騒がしくなり、ドアが開け放たれる。結束バンドの面々が帰ってきた!
「おっ青木くんとやさぐれ三銃士のみなさんじゃん?どったの真面目な顔して」
「…はあ〜、なんかシリアスにしてんの馬鹿らしくなるな。なんでもね〜よ阿呆」
ペシッと虹夏の頭をはたく。なんかむくれている。
「も〜なにさ〜」
「やかましい。あとなんだやさぐれ三銃士って。わたしをこいつらと一緒にすんな」
「えっ?なんかおねーちゃんって夜の2時くらいに高円寺あたりでこのメンツで飲んでそうだな〜って」
「わ!わたしは高円寺なんて行きませんよ!」
「PAさん!そうだねPAさんはあまりイメージないかも!やっぱり…大人な麻布十番とか、六本木とか〜!?」
「きゃー!!PAさん素敵ー!!大人の女よー!!」
喜多さんと虹夏先輩が色めき立つ。帰ってきて早々元気いっぱいだな。
「わたしは別に飲めればどこでも〜…」
はいはい、あなたには聞いてないですだいたい分かるから。あなたにはアメ横の高架下が似合いですよ姉御。
「もももちろん!ザギンでシースーでもギロッポンの夜でも何でもござれですよ!」
「はあう!!あわわわわ…!!怖い!パリピ御用達の夜の盛り場怖い!!PAさんは夜の女なんだ…!」
「おい大丈夫かPA。ハードル上がってきてるけど」
「大丈夫です!一応嘘は言ってないですから!」
「なんか含みがあるな…」
わちゃわちゃしているSTARRYの面々を見ながら、俺は遠くにいるであろう男に思いを馳せる。…親父か…。忙しすぎて忘れていたぜ。
まだ、生きてるんだろうか。生きているなら、聞いてみたいことが山程ある。なぜ、俺を捨てたのか。なぜ、俺にギターを残したのか。なぜ…母親の葬式、来てくれなかったのか。会えると思っていたのに。
昔ならいざ知らず。今は殆ど恨んではいない、ただ無事に、生きていてくれれば何よりだ。そんなことを思いながら、顔も声も名前も知らぬ、この世に残る唯一の肉親に対してひとりごちた。
笹塚苑って児童養護施設はフィクションです。青木遥はそこの出身で、自分たちより小さい子どもたちによく音楽を聴かせてやっていたため子供をあやすのが上手いのです。因みにここで青木遥は、自身の音楽人生を決定づける、ギターの師匠に出会います。いずれ、本編で語るやも…。