【完結】 ギター爪弾きのバラッド   作:はま0821

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未確認ライオット篇、完!

なんか大人組に主人公が転がされてます。


47 祭りの終わり 西日が差すステージ

 

 

 

「はい。遥くん。あ〜ん!」

 

「…いや自分でできますから。やめてくださいなんか怖い」

 

なでなで…。

 

「ちょっPAさん?なんで脈絡なしに人の頭撫でるんですか?」

 

「…寂しい思い、してないかなって思って…」

 

「なんかおかしいよこの人達ぃ!」

 

くそっ!?なんだ!?なんか最近大人組が俺のこと凄え甘やかしてくる!やめろや好きになっちゃうだろ!?

 

なんとなく原因は察しがつく…!過去話したからか!?やっぱ秘密のままのほうが良かったか!?

 

「店長!こ、コレは一体!?」

 

「あ〜遥。多分だがコレはお前のあんまりな過去に同情して、廣井とPAの母性が一時的に爆上がりしてる」

 

「爆上がり!?俺はどうすれば!?」

 

「多分一時的だよ。されるがままにされとけ。いーじゃん甘やかしてくれるんだから」

 

「いやあ!大人のお姉さんにそんなんされたら俺がどうにかなっちゃう!助けて!!」

 

手を大袈裟に拡げてお手上げのポーズ。あはは、終わった。

 

その後も廣井さんは食べ物全部あ〜んしてくれたり、PAさんは飲み物出してくれたり、菓子を用意してくれたりやたら甲斐甲斐しい。…もう好きにしてくれや。

 

ここは下北沢STARRY。外界とは隔絶された、黒が基調のシックな店内。カウンター席で甘やかされる男を、結束バンドの面々は怪訝そうな表情で見てた。

 

「ちょっとお姉ちゃん」

 

「ここじゃ店長と呼べ。…なんだ?」

 

「いや。明らかに異常事態だよなんでスルーしてるのさ。あれはなに?」

 

あれか。たぶん虹夏が言ってんのは、後ろのカウンターでやたらと大人2人に甘やかされる遥の事だろう。多分あいつの過去が原因だが…あいつ言いたくないって言ってたな。…適当に誤魔化すか。

 

「さあな?遥に財布でも拾ってもらったんじゃねぇか?」

 

「100歩譲って廣井さんは分かるんだけど…それだとPAさんが説明つかないよ…そんな理由でああなりそうにないんだもの。それに…なんか、そんな感じの湿度じゃないんだよ2人共…」

 

我が妹ながら鋭いな。まあ奴は喋りたくないってんだ。続きは本人から聞いてくれ。

 

「む〜。青木くん!今日未確認ライオットのファイナルだよ!?行くの!?」

 

「虹夏さん!行く!行きます!」

 

「遥くんが行くならわたしも!」

 

「大丈夫です廣井さん!そこまで面倒見てもらわなくても!」

 

「いやいや。どーせファイナル審査はわたしも行かなきゃなんないし!一緒に行こ!」

 

「ぬわあああん!もう嫌!」

 

「…わたしはSTARRYで帰りを待ってま〜す」

 

「PAさん…、いかにバフがかかった状態でも、真夏の直射日光は嫌なんですね…」

 

「ギクゥ!!」

 

「あっなんか、青木くん…。ずっとお姉さんとべったりですね…」

 

「ぼっち。ヤキモチ?」

 

「どぅえ!?めめ滅相もない…!」

 

「ひとりちゃん…わたしとべったり…しとく?」

 

喜多郁代が手を広げる。

 

「い、郁代ちゃん…!」

 

「ぼっち。超えたら駄目なラインが足元にある気がする。気を付けて」

 

どこまでも冷静なリョウさんの声に正気に戻される。あ、ありがとうございます。

 

「ちぇ〜」

 

「…さてと。気乗りはしませんがそろそろ行ってやりますか。シデロス野次りに」

 

「いえ〜い!」

 

ジトーっ。

 

なんかさっきから虹夏さんがジト目だ。姉御。そろそろ勘弁してもらえませんかね?

 

「駄目!しばらくは大人しくわたしに甘やかされろ!わたしなしじゃいられなくしてあげる!」

 

冗談に聞こえないから怖いどぅおおお!お姉さん!?な、なにを!?

 

言うが早いか、姉御の見た感じなさそうな胸に抱き寄せられる!酒臭い中に感じる特有の女性の肌の甘い匂いが癖になりそう…!じゃねえー!!やめ、やめて姉御!!ジト目のパワーが上がった気がする!怖い!結束バンドの方向くのが怖い!

 

「…なんかやっぱりおかしい…、いくら廣井さんとはいえあそこまでじゃなかった気がする…」

 

「あはは。まあーしょうがねえかー」

 

「お姉ちゃんやっぱなんか知ってんでしょ?」

 

問いかけると、お姉ちゃんは首がグキリとなりそうな勢いで明後日の方向を向き、吹けてない口笛を吹き始める。

 

「…絶対なんか知ってる。いいもん。本人に聞くから」

 

遥にとってあまり良くない方向に決意する我が妹を見やり、

(すまん遥。意外と勘が鋭いから誤魔化せるのはここまでだ。後は自分でなんとかしやがれ!)

と伊地知星歌は独りごちるのだった。

 

 

 

やってきたぜ。未確認ライオットファイナル。コレは本格的に観客入れてのライブ形式の審査。てかマジでただのライブ。青空フェス。雲一つない日本晴。逃げ場のない日差しが容赦なく身を焼く。コレは今日は大変な1日になるな…。

 

さっきまでべったり引っ付いていた廣井さんは今はいない。なんか、お酒がわたしを呼んでる、とか世迷い言をほざいていた気がする。

 

少年、わたしがいない間、不安だろうけど頑張ってね!などと過保護すぎる言葉を頂いたが、あんたがいたほうがよっぽど大変だ。どうも今日は、結束バンドの。特に虹夏株がストップ安な気がする。…後で弁明しなければ。なにを弁明すればいいのか、分からないが。

 

「こら遥。なんか廣井さんやPAさんと親しげじゃねえか。どうやって引っかけた?」

 

会場に着くや否や、Switchやら漫画やらを持ち込み、フェスに自室を現出させた山田リョウに問われる。んなめんどい事するくらいなら来なけりゃいいのに。

 

「そうだよ!リョウよく言った!なんか今日おかしいよ廣井さんもPAさんも!青木くん!なにがあったのさ!?」

 

「うぐっ…!た、確かになんかあの2人の距離感おかしい気がしますが…!」

 

「オトボケじゃないよ青木くん!なんかしたんでしょあの2人に!吐け!いいから吐け!」

 

「抱いたか?抱いたのか遥!?」

 

「うええっ!?そんなまさか…!?あ、青木くん!」

 

アホかい。抱くか!?でもなんかあの2人の距離感…!そんな感じだな…!なんか大人のお姉さんは致した相手に対して、若干優しくなるきらいがあるらしい。(千田調べ)あかん!間違いまくってるのに弁明の弾がない!

 

「は、反論しないってことは…!嫌!不潔!」

 

「待てぃ虹夏先輩!そんなわけないでしょ!?あの2人にはなんか…秘密を知られたって感じというか…!」

 

「秘密!なんだ遥秘密って!どっちのだ!お前の秘密か、大人のオネイサンのあはんうふんなあの秘密か!?」

 

「イヤー!!青木くん不潔ー!!」

 

ちょっとまってくれ喜多さん!弁明!!弁明の余地をくれ!

 

「違うんすよ!知られたのは俺の秘密!オネイサンの秘密なんか盗み見てないッス!」

 

「ホントか!?なんか優しくなってるのは事後だから!ってことはないのか!?」

 

山田てんめぇ!面白がってんだろ確実に!ちげえってんだろ!!

 

「あ、青木くん…。お、お姉さん達を抱いたなんて…だいたんですね…な、なんて…」

 

ゴッチてめぇ今俺はワンセンテンスも冗談差し込む余裕なんざねえんだ!よっててめぇのクソつまんねぇダジャレにゃ付き合ってやらねぇ!時と場合を選びやがれ!!

 

「…、んじゃ〜なんなのさ〜。あの2人の感じ見ると〜生半な事じゃなさそうなんだけど〜!」

 

どうしよう。言っちまうべきか?あんな重い話するの気が引けるな…。…まだいいか。なにも暗い話をわざわざ聞かすこともない。逃げようがなくなったら話そ。

 

「いや、なんか俺の昔の失敗談聞いてもらって…あまりにも俺が不憫だったからと、憐れんでくれてるのかも…」

 

「恋愛?すったもんだの恋話?」

 

「キャー!惚れた腫れたよ!女子高生の恋バナの花形よー!!」

 

この2人が組んでると手がつけられねぇ!誰かこいつら引き離してくれ!

 

「喜多ちゃん、リョウ!いったん落ち着いて。そんで。青木くん。…マジで?」

 

なんでそんな目キラッキラなんだよ虹夏先輩よぉ!?ニュアンス的には似てるけれども違うよ!?違いますよ!?

 

「な〜んだ。…なに?廣井さんやPAさんには話しておいて、わたしたちには秘密なの?」

 

ぐっ。痛いとこ突いてくんな虹夏先輩。

 

「いやまあ。廣井さんにもPAさんにも話すつもりはなかったというか。成り行き上偶然というか。…いつかみなさんにも、お話しますよ」

 

「遥。それは、楽しい話?」

 

リョウ先輩に聞かれる。単刀直入に答えとこう。

 

「全然。暗くて、重い話です。できれば話したくない。…今日は、もういいでしょ」

 

「…。そうだね。悪かった」

 

「いえ全然」

 

「え〜?わたしはまだ気になるんだけどな〜!」

 

虹夏先輩は納得いってなさそうだ。さてどう誤魔化すかと、考えていると。

 

「虹夏。折を見て話してくれるって。わたしはそれを、待つことにするよ」

 

「む〜!…分かった!青木くん!廣井さんやPAさんにした話!わたしにもいつか絶対教えてよね!」

 

と言って、この場は引き下がってくれた。助かった。リョウ先輩が空気読んでくれた気がする。ありがたい。

 

「ほらリョウ!こんな遠くに陣取ってないでもっと前行くよ!シデロスもケモノリアも見えないよ!」

 

「え〜ここでいいよ、前人多いし。ぼっちあおいで〜」

 

「あっはい」ひらひら。

 

「ぼっちちゃん!リョウのほうが先輩だからってなんでもいうこと聞かないでいいんだよ!断る時は断って!」

 

「うへあ。前の方すんごい人。ホントに行くの?」

 

「青木くん!男の子なんだから、道切り拓いて!」

 

「無茶言うなよ喜多さん。満員電車の3倍くらいの人口密度あるぞコレ」

 

「ほらリョウ!道は青木くんが切り拓いてくれるって!」

 

「なら行く」

 

「ちょっと虹夏先輩まで!大体こんなライブ形式みたいなとこで人口密度高いとこいったら碌なことないですよ!」

 

「だめだよそれじゃ見えないから!シデロス応援しにきたんでしょ!?せめてもう少し前に出ないと!」

 

「別にシデロス応援しにきたわけじゃねえし!奴らの音楽なんざ聴きたくないわ!ええいもう!どうなっても知りませんからね!ゴッチ!俺の後ろから離れんなよ!」

 

「あっはい!」

 

ふぬ!おらあ!っと人混みをかき分ける。なんとか隙間なしの人間の羅列に隙間を作って前に進んでいく。数分頑張っているとなんとか人が少ない開けたところに出た。

 

「ふう!どうすか皆さん。ここなら見やすいでしょ?」

 

「うん!バッチリだよ!流石青木くん!」

 

「お褒めにあずかり恐悦至極…!」

 

虹夏さんに褒められたので、素直に喜んでおく。

 

「…まだでも始まるまでありそうね…!虹夏先輩!皆さん!わたし、フェス飯なるものを食べてみたいです!」

 

「ほう喜多ちゃん!ナイスアイデアだね、せっかく来たわけだし!ほらリョウ行くよ!」

 

「なぜわたしが!2人で行ってくればいいじゃん!」

 

「か弱い女の子2人だけで行かすつもりなの!?青木くんがやったみたいに道切り拓いて!」

 

「ははっ…!無茶言うなよ虹夏。大体遥のほうがパワーあるんだから遥にやってもらえば…」

 

「2000円あげよっかな〜ついてきてくれたら」

 

「うおおおお!人間ブルドーザー山田リョウここに見参!何処向かえばいいんだ郁代!虹夏!!」

 

「キャー!リョウ先輩頼もしーい!!先輩!わたしケバブ食べたいですケバブ!!」

 

「ならあっち方面にあるみたい!ぼっちちゃんと遥くんは留守番しといて!その場所確保しといてくれればいいから!喜多ちゃん!リョウ!行くよ!!」

 

「応!!」

 

嵐のような騒がしさ。フェス飯ね。俺も少し興味あるなぁ〜。人混みを蹴散らかしながら進むリョウブルドーザーに付いていく2人の後ろ姿を見送りながらそう思う。ゴッチと2人きりか。

 

「あ、青木くん」

 

「どしたよゴッチ。話しかけてくるとは珍しい」

 

「…お姉さんやPAさんになにを知られちゃったの?」

 

「ぷふぉっ。…なんだよお前も気になんのか?」

 

「なんか、お姉さんが見たことないようなテンションだったからつい、気になって…あ、はな、話したくなければ別に、い、いいんだけど…」

 

意外だな。こういうの気にしないタイプの子だと勝手に思ってた。…まあ。まだ話さないつもりだ。聞いてほしくないわけではないが。…暗い話だし。

 

「フフン。ゴッチにはまだ秘密」

 

「え…。あ、うん…。む、無理言って…ゴメン…」

 

「コレは、ゴッチや、結束バンドのせいじゃなくて、俺の責任。俺が怯えてるだけなんだ。…いつか。心に整理がついたら、話してみようと思う。…その時は、ゴッチ。聞いてくれ」

 

「えっ…?う、うん。わ、分かった…」

 

「ありがとう」

 

「…なんか意外」

 

「なにが?」

 

「…青木くんでも怯えるんだ」

 

「なんだと思ってるのさ人のこと。人並みにビビるし、怖がりもするわ」

 

「…ふふふ。そうだね。あ、青木くんのお話。いつか。是非聞かせてね」

 

暗くて重い誰も得しない話だけどな。…まあ。いつか。そんなことを思っていると、食糧調達隊が戻ってきた。

 

「ただいま2人共!留守番ご苦労!ハイこれケバブ!」

 

「なんか廣井さんがバイトしてたわ!お酒飲めるって騙されたんですって!」

 

「シクシク泣いてた」

 

姉御がお酒が呼んでる。って言ってたのは、それのことか。たまには労働しなさい。いい薬だろ。などと思いながら買ってきてもらったケバブを食べてみる。うん、少しボソッとしてるが味はしっかりしてて美味い。

 

「あっ美味しいです…虹夏ちゃん…郁代ちゃん…」

 

「よかったよぼっちちゃん!もっと食べていっぱいあるから!」

 

「あっはい!」

 

その後もモッシュなるフェス名物にもみくちゃにされたり、結束バンドの弱者グループのほうがサークルに巻き込まれて行方不明になったりと色々あった。太陽が燦々と照りつけ、油断すればふらりときそうな気温の中、ついに奴らの登場だ。シデロス!そして!ヨヨ先輩!くっそぉ〜次こそ!次こそ雪辱を晴らしてやるからなぁ〜!

 

「ぷぷ。遥すごい顔。よほど負けたのが悔しかったんだね」

 

「リョウ先輩。俺はこの悔しさは同じフェスで返そうと思いますよ…」

 

「いいと思う。わたしたちも、負けてばかりはいられない。次は勝つために。今はこのプレイを目に焼き付けておこう」

 

互いにステージ上のシデロスを見上げる。…勝ち残ってたらあんなデカいステージでやることになってたのか…。こーっわ。すると。シデロスギターボーカル大槻ヨヨコがマイクに向けてしゃべりだす。

 

「あーみんな暑い中お疲れ様。少しだけ時間を頂戴」

 

そう先置きし、ヨヨ先輩は語り始める。

 

「この未確認ライオット。いろんなバンドを見てきたわ。すごいギタリストにも出会った」

 

「おお。遥ドヤ顔」

 

「ふふん!よく分かってるなヨヨ先輩!」

 

「…でも、わたしたちはそのバンドたちを押し退けて、今このステージに立ってます、だから!背負ってるものが半端ないの!わたしたちに負けた彼らのためにも!わたしたちは負けられない!!最初から死ぬ気で飛ばしていくわよ!振り落とされないでついてきなさい!」

 

ヨヨ先輩の挨拶からの、相変わらずな凶悪メタルサウンドをシデロスは展開していく。…ヨヨ先輩。ヨヨ先輩も考えることは一緒か。やっぱすげーな。負けた人たちの思い。一緒くたにして、それでも前に進んでいく。…ちくしょう。今回は負け。か。悔しいもんだな。負け。シデロスの演奏に呑まれ、どんどん過熱して盛り上がっていく観客たちを何処か他人事のように感じながら、独りごちた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

フェスは大盛況のまま終了。結局未確認ライオットを獲ったのはシデロスだった。さすがヨヨ先輩と仲間たち。元気一杯だった真夏の太陽光線もいつの間にか西に傾き出し、祭りの終わりを演出しているかのようだった。

 

「…。さて!暗くなる前に帰ろっか!名残惜しいけどね!」

 

「次は俺が。俺とイライザさんがこのステージに立つぜ…。首を洗って待ってろシデロス!」

 

「激しくうるさかったフェスも、終わっちゃうと寂しいものですよね…。真夏のセミが、鳴き終えた後。みたいな…」

 

「絶対日焼けした。痛いからやなんだよな。日焼け」

 

「そらクリーム塗らないからだろ…」

 

結束バンドのみんなとそんな会話を交わす。そんな中。1人だけ離れた場所で、名残惜しそうに未確認ライオットのステージを眺め続ける背中があった。ゴッチだ。

 

「さあ。行こうぜ。夜になったら夏とはいえ、少しは冷えるぜ?」

 

バシッとゴッチの背中を叩く。それと同時に、俺は気付いた。ゴッチの頬を伝う、一筋の光に。

 

「ぼ、ぼっちちゃん!?どしたの!?」

 

「どうしたのひとりちゃん!?おなかでも痛いの!?」

 

「あーあ。遥が加減なく叩くから…」

 

「ええ!?いやちゃんと加減はしましたよ!」

 

「あっ…!い、いえ。違うんです…。やっ、やっぱり、その…悔しくて…。も、もっと。みんなで音楽、やりたかった。こんな、大きな場所でめいっぱい…ギターを、弾いて、みたかった…!もっと大勢の人に…!結束バンドの曲…!き、聴いてほしかった…!誰かに、認められるより…もっと、ずっと…!」

 

「…やめてよ。ぼっちちゃん…。わたしも今日、ライブしたかったよ…」

 

「虹夏先輩…」

 

ゴッチの涙をキッカケに、みんなが我慢していた感情が流れ出し始める。…そうだろうな。悔しいだろうな。

 

「大丈夫だよ。ぼっち。郁代。虹夏」

 

「わたし。見たから。結束バンドがもっと大きいフェスで大歓声かっさらうとこ。見たから。だからそこに、みんなで行こう。なあに、直ぐだよ」

 

リョウ先輩がニヒルに笑いながら言う。

 

「いくらでも泣けばいい。いくらでも笑うがいい。いつかその道も、ロックスター後藤ひとりの道に繋がる。それだけは確かだ。頑張れよギターヒーロー。まだまだ、道すがらだろ?」

 

もう一度、バシッと背中を叩く。…今度は痛くないように多少加減して。さあ。帰ろうぜ。胸を張ってな。

 

「待って!!」

 

帰ろうとした矢先。聞き覚えのある声が背中から掛かる。貴様、確か!

 

「えっ…。ぽいずんさん…なんで?」

 

虹夏先輩が言葉を返す。そう。我々の後ろに立っていたのは、ペンネームと格好以外はまともな人物、ぽいずん♡やみその人であった。

 

「えと…。残念だったわね」

 

ぽいずんさんの言葉に、結束バンドの元気印たちは下を向く。そんな結束バンド達にぽいずんさんは続けて。

 

「でも!めちゃくちゃいい演奏だったわよ!ライブ審査の演奏!わたしは、このファイナルステージ。結束バンドが来ててもおかしくない。って本気で思ってるわ。誰が何と言おうと、わたしの中ではあなたたちが1番いい演奏をしてた!それだけは伝えたくて!」

 

その言葉に、なんとか落ち着きかけてた虹夏先輩達の涙腺がまた緩んでいく。

 

「…追い打ちかけないで下さいよー!」

 

「えっ!?」

 

「あれです。みんな感傷的になってるところに優しい言葉かけるから。でもみんな。あなたの言葉に感謝してると思いますよ」

 

「胡散臭男…あなた、ただの腹黒かと思いきや、ちゃんと人を思いやる心も持っているのねぇ…」

 

「おいこらなんだその名前は。スルー不可だよ。不可不可だよ?」

 

やみさんとお喋りしていると、タイミングを計っていたかのように、後ろから声を掛けられる。

 

「ご歓談中失礼します。お話を伺ってもよろしいでしょうか」

 

声の主は、けだるそうな雰囲気をたずさえた緑髪の美女。はて?

 

「うん?どなたさまですか?こんな美人の知り合いいたかな?」

 

「なにナチュラルにナンパしてんのよ。あんたには関係ないわよ。結束バンドに用があるの。今日結束バンドに会いに来たのは、この人を紹介したくて…」

 

「えっ…わたしたちに、ですか?」

 

「はい。わたし、ストレイビートというレーベルでマネジメントをしている、司馬都と申します。この間のライブ審査の演奏を見て是非。結束バンドの皆さんにお話を伺えたらな。と思いまして」

 

「れ、れーべる…?」

 

「「「レーベルーーー!?」」」

 

凄え!結束バンドにレーベルの話きてるよ!なんだよまた先に行かれちまうな!

 

「おいこらやみさん!この間のばんらぼの上げ記事といい、今回のレーベルといい、あんた少し結束バンドを依怙贔屓してないか!?なんで俺には上げ記事もレーベルも書いてくれねんだよ!?」

 

「うっ…!ご、ごめん…!前の路上ライブも、池袋の闇鍋ライブも、凄くいい演奏だったわ…!ただ、そのう…。タイミングがね…!」

 

ぐぬぬ…!くそ!たまには俺を取材してくれてもいいんじゃねえか!?そんなに結束バンドのほうがいいのかよ!

 

「いや…。あなたの演奏、凄かったわ。ギターヒーローさんとどっこいの演奏できるやつがまさか高校生の中にいるとは…。こないだの話。撤回させて。いつかインタビューさせてもらうわ。えっと…。ギターバラッド!」

 

「ふふふ…。分かりゃいいんすよ分かりゃ。あなたは特別に俺をあだ名で!ギバちゃんと呼んでいい権利を差し上げましょう!」

 

「いらんわ!」

 

いらんのかい!やみさんとのミニコントを尻目に、結束バンドが喜びの声を上げるのを、俺は聞いていた。ゴッチと虹夏さんの夢にまた一歩近づいた。歩みは遅くとも、結束バンドは少しづつ前に進んでいく。しかしレーベルか。なんか凄いな。アーティストって感じ。やっぱ給料とか出んのかな?カッコいいな…。俺もいつか。レーベルに所属して、ギター爪弾いて、CMの1つにでもでちまった日には。ひょっとしたら親父に会えるかもな。有名になれば、向こうからアクションを起こしてくるだろう。…なんだ。希望だらけだな。俺の人生。まあ、焦ることはない。ゆっくり探すさ。

 

結束バンドよ。負けを経験しとくのも悪いことじゃないぞ。酸いも甘いも噛み分け、前に進むといい。…あと。レーベル所属の件。良さそうだったら感想教えて欲しい。給料どんだけ出んの?とか。…まあ、駆け出しのミュージシャンに出してくれる金額なんざたかが知れてるだろうがね…。世知辛いぜ世の中。音楽だけで食ってはいけないのさ…。

 




シデロスの4人は優勝賞金100万円。なにに使うんですかね?ひとり頭25万ですから、結構派手な旅行とかいけますし、やっぱり旅にでも出るのかな?それとも堅実に、今後のために貯金するのかな?仮にもロックンローラーともあろうものが宵越しの金どころか、貯金なんざしないでくれ!なんて思うのは勝手な話か。
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