【完結】 ギター爪弾きのバラッド   作:はま0821

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1回ピクシブかどっかで見たクォリティの高い心霊ものをやってみたい!と思い立ち、この話を作りました。難産だった…。不気味に書くのは難しいですね。えっ、クォリティ?さあ知らない子ですね…。


52 最期に見たものは?

 

 

 

 

…やだな。見てる。

 

ガヤガヤと。結束バンドのみんなに店長。青木くん。みんないる。こんなに人数がいるのに関係ないように、わたしに絡みつく視線。

 

始め、この集団の中の誰かかと思った。でも違う。粘りつくようなこんな視線。送る人をわたしは知らない。

 

みんなで魚釣りをした帰り道、まるで今度はわたしが狩られる側なのかと錯覚するような遠慮のない視線。視線は返してない。もちろんそうだ。…でも。何となく分かる。間違いなく好意のものではない。大体がにしてこんな夜分に山の方から感じる視線?大丈夫なのかコレ。相手人間なのかコレ。

 

…怖い。ハッキリ言って怖すぎる。周りのみんなはまるで気付いてないのがさらに怖さを助長する。わたしたちの歩く速度に合わせ、一定間隔で付けてくるその気配に、わたしは怖いながらも辟易としていた。怖いのは、確かめていないから。正体が分からないから。ならば、確かめてしまえばいい。

 

なあに。よくあったじゃんか後藤ひとり。視線の端にとらえる物が怖くて、ずっと幽霊だと思い込んでたものが実は、カーテンの端だったりとか。あるじゃんか。思い込みは怖い。今のこの感情ほどではないだろうが、怖いもんは怖い。どちらにしても怖いなら、確かめてしまえばいい。

 

勇気を出せ。このままは嫌だろう。怖いまま、原因が分からないまま帰るのは嫌なはずだ。なにより、モヤモヤする。知るは一瞬の勇気。知らぬは延々のモヤモヤ。悩む。迷う!

 

…悩みに悩んだ末、わたしは見てみることにした。一瞬の恐怖より、ずっと続くモヤモヤ。こちらを選んだのだ。そして。わたしはこの選択を後悔することになる。

 

鋭く視線を振り、悪意がある視線を感じる方向に、視線を投げ絡める。

 

なにも見えない。日など一切届かない、ネオンなどが煌びき、なんだかんだで夜でも明るい都会などではついぞお目にかかれない、真の暗闇。…だが、わたしは認識できた。絡みつく視線の正体。山の方から嫌と言うほど感じていた、明らかに好意ではない視線の正体を。

 

暗闇の中にシルエット。なぜそう思うか?う〜ん難しい。こう言ったら分かるか。混ざり物の暗闇と、真の暗闇。

 

月の光やら、何らかの光を含む、わたしが思う暗闇に。ポッカリとシルエットが浮かぶ。何もかもを飲み込む黒。ブラックホールは、光さえも脱出できないと、偉い科学者さんが言っていた。それである。すべての光を吸収し、飲み込み、なにも返さない。わたしが思うに人形のそれは、ポッカリと暗闇の中に真の暗闇を浮かばせながら、わたしの視線を受けていた。

 

「…ひっ」

 

ここにきて、わたしはようやく自覚した。本物の恐怖を。

こちらからどんなに動いても微動だにしない、希望的観測で動かないんじゃないかなんて楽観していた、件のものが、動いたからだ。わたしに向かって、たった1言。発したのだ。

 

「…欲しい」

 

…なにを?いや、わたし。分かるだろ。いままでの文脈。そして伏線の張り方。わたしに言ってるのだ。…え、いや。ならばだ。わたしの、なにが、欲しい?

 

その他にはあまり動きがないまま、わたしたちはとりあえずの帰路につく。別荘に帰り着き、バーベキューを始めるみんなは曰く、無事に帰ってきてよかっただの、これで安心して飯を食えるだのの言の葉を聞いた。それを聞きながら、わたしは確信めいた予感を感じた。

 

絶対にこのままでは終わらないという、予感を。

 

「第一回チキチキ!ポロリもあるよ肝試し大会in山田家〜!!」

 

リョウ先輩…なにも今日じゃなくても…。

 

「くっら!?本気なのリョウ!?」

 

目の前に浮かぶ都会の闇など比べるべくもない本物の暗闇に、虹夏ちゃんが思わず抗議する。後ろにはバーベキューを食べ終えリビングで寛いでいた、結束バンドの面々と、大人の皆さんが続いていた。

 

「折角出るって噂の別荘に来たんだ。ここは肝試ししなけりゃ嘘だろう」

 

「きゃー!!思ってた以上に暗い!怖いです先輩!」

 

車の中では肝試しを提案していた郁代ちゃんが、想像とは違う暗さに慄いている。

 

嫌だなあ。いるのかな。わたしを見てきた、アレ。いるんだろうな。さっきから、ほとんど時間たってないし。

 

あれは、欲しいって言ってた。多分、わたしをだ。なんでかは知らない。正直やめて欲しいが…。連れて行かれるのは最悪でもわたし一人にしなければ。…嫌だなあ。行きたくない。…怖い。怖いよ。

 

「ホントにやるんですか?山田さん」

 

PAさんがいつになく真剣な表情で、リョウ先輩に問いただす。眉間にシワが寄り、切羽詰まった印象を受ける。

 

「ムッ、PAさん。…もちろん」

 

リョウ先輩はPAさんからただならない雰囲気は感じたみたいだが、プランの変更はしなかった。そんなリョウ先輩をPAさんはしばし見つめた後、諦めたように深く溜め息をつく。

 

「そうですか。ならば…遊びの時間はこれにてお仕舞い。なにやらよくないものがこちらを監視してます」

 

…えっ。PAさん。気付いて…?

 

「なにいってんだ?PA?」

 

「店長。にわかには信じがたいかもですが、わたし。少し見えるんですよ。完全に見えたり、祓ったりはできませんが。そして。なにかよくないものがこちらを見ています。誰を見てるのか、までは分かりませんが」

 

わたしでーす!!PAさん!助けてぇ!!

 

「…なにやら、よく分からんが。人間か?人間ならいっちょぶん殴って…」

 

「店長、違います。わたしが言ってるものは多分、生きてないです」

 

「えっ、PAさん…ガチ?」

 

目の前に広がる闇。PAさんの話の後で雰囲気が変わった気がした。それを感じたのか、リョウ先輩が声のトーンを下げて、PAさんに問う。

 

「勘違いであればいいんですが」

 

違う。勘違いなどではない。だっていまだに色濃く感じる。濃厚な気配を。

 

「や、やめようよリョウ。わざわざ危険なことすることないよ!PAさんもこう言ってるしさ!」

 

「虹夏ちゃん。もう遅いです。誰なのかは分かりませんが、もう完全に狙われています。こちらが動かなくとも、向こうから来るでしょう。多少危険でも、こちらから出向いて祓うか、対話するしかない」

 

サワサワと。会話してれば耳につかないような、わずかな風に草花が身じろぐ音が周囲に響く。もはやレクリエーションの雰囲気はなくなり、周囲は沈黙が支配する。そんななか、お姉さんが言葉を発する。

 

「PAさん。実はわたしも分かる。怒ってるか、機嫌悪いかくらいしか分かんないけど、確かに質悪そうなのが、こっち伺ってるね」

 

「廣井さんも分かりますか。ならわたしの思い過ごしって訳でもなさそうですね…」

 

そう言ってお姉さんは、PAさんが見ている方向とおんなじ方を見る。わたしが感じる気配がいる方角を。やっぱり、お姉さんも分かるんだな…。

 

「家が心霊屋敷だからさ〜。否が応でも分かるようになっちゃったんだよね〜」

 

「心強いです。でも…。少し大元と対話するには、まだまだ心もとないですね…。誰か、心霊に強い人がもう一人いれば…」

 

「あっちょっと待って!?居たような!思い出してみる!」

 

お、お姉さん!頑張って!

 

頭を抱えて考え出すお姉さんに思わずエールを送る。今のわたし、掴めるものならなんでも掴みたい気分だ。

 

「な、なんか、思った以上にガチな雰囲気に…」

 

「も〜、加減考えてよ〜リョウ〜。わたしそんな得意じゃないんだから〜心霊〜」

 

「ぼっちちゃん。喜多。なんかヤバそうだ。わたしの後ろから離れるな」

 

「は、はい!店長さん!」

 

「あ、ありがとうございます。店長さん…」

 

取りあえずは店長の後ろに付くが、もしものときは離れなきゃ。相手の狙いはわたし。連れて行かれるのは1人でいい。1人にしなきゃ。そう思った矢先。目の前の、暗闇がうねりを上げる。

 

「…!来ます!みんな固まって!」

 

PAさんの号令より一瞬早く、虹夏ちゃんの頭がカクンと下がる。…なに?狙いわたしじゃないの!?

 

「お、…おかあ、さん…?」

 

なにもないはずだ。なにもないはずの暗闇を見つめながら、虹夏ちゃんが漏らす。そして、道から外れるように歩みを進める。

 

「ちょっ…!虹夏!?どうしたの!?」

 

「おい虹夏!?どうした!なにがあった!?」

 

リョウ先輩と店長が同時に虹夏ちゃんに声を掛ける。でも。まるで聞こえていないかのように、虹夏ちゃんは足を進める。どういうこと!?狙いはわたしでしょう!?

 

よくよく感覚を研ぎ澄ます。そして気配の元を探すと。気配はいつの間にか3つに増えていた。そのうちの1つに虹夏ちゃんが引きづられていく。

 

「来ましたか!何か見えますか廣井さん!」

 

「うん!やっぱろくでもないね!…ほんで!思い出した!シデロスの内田幽々ちゃん!この子霊には滅法強かったはず!スマホに連絡先入ってるから、連絡して!わたしは妹ちゃんなんとかする!」

 

「っはい!」

 

お姉さんも加わって、現在5人で虹夏ちゃんを押さえつける。が、さすがに動きは止まったが、コチラの言う事にまるで聞く耳を持ってくれない。小さくずっとブツブツ呟いている。なんだ…?虹夏ちゃん!なんて言ってるの!?

 

「お、かあ、さん…いか、なきゃ…!」

 

「虹夏!?なに言ってるの虹夏!?正気に戻って!!」

 

悲痛なリョウ先輩の声が響く!連れていきたいならわたしを連れていけばいい!虹夏ちゃんに手を出すとは!許すまじ!こうなったらわたしだって素直について行ってなんかやらないから!

 

「想像以上にろくでもないや!妹ちゃん!そっちには誰もいないよ!戻ってこい!」

 

少しづつ暗闇に引き込まれながら、お姉さんも懸命に声を掛ける!すると。暗闇の中、1つの人影が気配の方向に走り抜ける!

 

「姉御!ちっとお酒を拝借するぜよ!!」

 

「!?遥くん!?」

 

言うが早いか。青木くんはお姉さんが持ってた一升瓶を奪い、お酒を口に含む。そして!気配の方向に向けて吐き出した!

 

ぶうっーーーー!!!

 

途端に気配が弱まり、虹夏ちゃんの力が緩む。その間にリョウ先輩たちが虹夏ちゃんを道へと引きずり戻す!

 

「おお!?凄いな少年!お酒が効くのか!?」

 

「姉御、多分人ならざる者は、人間の唾液とかが嫌いなんすよ!ほんでこれは悪い霊限定ですけどお酒も嫌いなはずです!今のはダブルで効いたんじゃねえかおい!?」

 

確かに。気配が弱まってる。す、凄い!青木くん!

 

「廣井さん!繋がりましたよ!内田幽々さんです!テレビ電話にしますね!」

 

「ナイスだPAさん!幽々ちゃん!突然でごめんけど、状況見える!?」

 

「ふふ〜。廣井さ〜ん。いきなり連絡くるから何かと思えば〜中々楽しそうなことをしていらっしゃいますね〜。電話越しでも分かる濃厚な気配…ズバリ!心霊関係でしょう!?」

 

なんか呑気だな!いきなりで仕方ないかも知れないが、思わず画面の向こうの内田幽々さんに毒づきたくなる。虹夏ちゃん取り憑かれかけてんねんぞ!?

 

「…ふうむ。なんだ。後藤さんいるじゃん。じゃあわたしの出番はほぼ無しかな。折角心霊ものの依頼なのにつまんな〜い」

 

うん?わたしがいるから出番がない?なにいってんだこのゆるふわ心霊ガールは。いいから早くこの窮地を脱するための策を授けろ下さい!!

 

「差し当たっては〜。さっき青木さんがやってた方法でいいと思いま〜す。お酒は悪霊は嫌いますし、人間のツバも混じればより効果的でしょ〜う。あと、塩なんかもいいですね〜」

 

す、凄い。勘なんだろうか。ほぼ完璧なムーブじゃん青木くん。あと、塩か、バーベキュー用に買ってきた粗塩が確か…!

 

「さて〜。PAさん?でよろしいですか?あなたは、紙を用意して下さい。なんでもいいんですが、このくらいの大きさの」

 

「は、はい。こ、これでなにを…?」

 

「ここにわたしオリジナルの祝詞を書き写してもらいます。出来上がった専用のお札を、対象に張り付けることができれば、相手の暴走する感情を、止めることが出来るかと」

 

「…!!了解しました!やってみます!」

 

「さて〜。暫くPAさんを借ります。お札が完成するまで、なんとか時間を稼いで下さい。わたしも協力しますよ〜!わたしは完璧に霊を見ることが出来ますからね〜!」

 

…数刻前の自分をぶん殴りたい。内田さん優秀すぎだろ。事態の収拾が見えてきた!用はお札を準備してるPAさんに、変なのを近付かせなきゃいいんだ!…でも。いまだに分からないのは、わたしがいれば自分は必要ないっていうあの発言。どういう意味だろう…?

 

「だって〜。後藤さんに憑いているのが〜本領を発揮すれば〜、多分そこにいる心霊どもはボスを残して一掃出来ますからね〜、今まだ静観してるみたいですけどぉ〜」

 

心読まれた!?つーか。そんなヤバいの憑いてるのわたし!?そしたら助けてよ!?ケッコーやばいよ今の状況!?

 

「力が強すぎるんですよ。山が動く。みたいなもんですからね。ちょっと動いただけで必要ないもん壊したり、噴火したりで大変なのですから。出来ればそれの力は借りずにすませたいところですね」

 

状況説明ありがとうございます!!正直全然分かんなかったけど!わたしに凄えのが憑いてるってことは分かりました!後はお札の完成までPAさんを守り抜けば…!お姉さん!お酒貸して下さい!わ、わたしも、戦います!

 

 

 

 

 

 

 

 

…ここは、夢の中?懐かしい夢を見た気がする。もう何年も会っていないような、でもとてもお世話になった顔なじみに会う夢。…懐かしいなあ…。また、会いたいなぁ…。

 

「虹夏。…寂しいが、今生じゃあそれは無理だ。代わりにわたしが支える。世界一、仲良しな姉妹になるって。あの人に約束しただろ。戻ってこい」

 

懐かしい匂い。忘れかけた。でもけして忘れたくない。そんな匂い。…おねえ、ちゃん?

 

目を開ける。右に薄っすらとリョウが、左に喜多ちゃんが見え、両手に暖かな感触を感じる。そして、わたしの目の前には、反対になったお姉ちゃんの顔があった。

 

「…なにが、見えた?」

 

「あ、お姉ちゃん…。お母さん。懐かしかったぁ…」

 

「ばっかお前。母さんがこんな時間にこんな場所にいるわけないだろ。門限の6時過ぎるとこっぴどく言われるんだから」

 

「あははっ!そうだね。…ありがとね、お姉ちゃん。…少し疲れちゃった…。ちょっと眠るから、すぐ近くにいてね…置いていったら、やだよ…?」

 

わたしの膝の上。虹夏は再び目を閉じる。…寝顔は年相応だな。幼く見えるくらいだ。目にかかった髪を梳いてやる。

 

「リョウ。すまんが虹夏を頼む。喜多も」

 

「う、うん。任せて。…店長は?」

 

「キレたぜ。完璧によう…!幽霊だか神様だか知んないが!うちの虹夏に手を出した落とし前は付けさせてもらう!酒を吹きかけんのが効くんだろ!?伊達に三銃士なんて呼ばれてないってこと!見せてやらあ!!」

 

鬼の形相で吠える伊地知星歌を見て、山田リョウは思った。血の雨が降る。きっと降る…!と。

 

「なんか、相手がなんなのかわたしにはわからないですけど、相手に同情しちゃいますねぇ。…店長さんに八つ裂きにされなきゃいいですけど」

 

喜多郁代は虹夏の頭を膝に乗せながら呟くのだった。

 

 

 

 

 

 

 

「本家本元…酒スプラッシュ!!喰らいやがれ!!」

 

廣井きくりの見事な酒吹雪。気配が気勢を削がれるように弱まる。だが、直接前に来ない大元の気配は依然強いまま。青木遥と廣井きくりは攻めあぐねていた。

 

「勘違いだったらごめんだけど、こいつらぼっちちゃんばっか狙ってない?なんかそんな感じ!」

 

独り言のように呟く廣井きくりに電話の向こうから反応が返る。

 

「大元は分かりませんが、この少し弱い下級霊たちは、後藤さんの肩についてる強力な霊力を求めてるみたいですねえ。身の程知らずにも」

 

「なるほど。ならゴッチに気を取られてる間に隙をつけばいいわけだ!」

 

「そういうわけです。皆さんもう少しだけこらえて下さい!お札が完成すれば戦う必要もなくなりますよ!」

 

真っ暗闇の中でいまいち見えない敵に、なかなか正解の戦い方が分からない!でもだ。狙ってくる場所が分かれば少しはマシになるかも!

 

「おらー!!!うちの虹夏だけじゃ飽き足らず、ぼっちちゃんにまで手を出す不届きもんが!!文字通り酒を浴びさせてやらあ!喰らえ!!」

 

酒しぶきとともに店長登場。どうやら狙いはゴッチみたいなので、オフェンスは姉御と店長に任せて、ゴッチを下がらせよう。

 

「大丈夫か!?ゴッチ!」

 

「う、うん…!」

 

敵の狙いはなぜかゴッチ。ならば、前に出るのは姉御とか店長とか。関係ない人達が望ましい。後はPAさんのもとに行かせなければ…!と考えていると。

 

「遥くん!後藤さん!お待たせしました!内田幽々さん謹製のお札です!悪霊の場所は、わたしが持ってるテレビ電話の内田さんが教えてくれます!なんとかして、このお札を霊に貼りつけてください!暴走が収まるはずです!」

 

「ジャストタイミングすぎるぜPAさん。荒事なら任せろ。俺が貼り付けてきてやる!」

 

「あ、青木くん!わたしも行く!理由はなんだか知らないけど!わたしを狙ってきたヤツがみんなに迷惑をかけた!わたしがなんとかしなきゃ!」

 

「危険だぞ!…分かった。PAさん!スマホを!行くぞゴッチ!」

 

「は、はいっ!!」

 

PAさんからスマホを受け取り、目の前の光景を映しながら、内田さんの指示通りに進む。…どうやら、今姉御や店長が相手してるやつは2体ともそこまで強くない、低級霊みたいだ。本丸は別に居る。

 

「頼みましたよ遥くん。後藤さん。…ご武運を…!」

 

遠くなる背中を見つめながら、PAはひとりごちた。

 

「そちらです。濃厚な気配がさらに強くなる…」

 

内田さんの指示通りに方向を変える。…だが、もはや指示は必要ないかも知れない。ここまで濃厚になってくると、霊が見えない俺ですら、何かがいるのは分かってしまう。

 

「…いた」

 

内田さんの声と一緒に足を止める。目の前には闇が広がる。だが。そのほかに、少し小さな、朽ち欠けた祠のようなものも見えた。

 

「…あっ」

 

「見えるのか。ゴッチ」

 

小さくゴッチが声を発する。どうやら狙われてるゴッチはその悪霊を認識できるみたいだな。となるとこの場で霊が見えないのは俺1人…。ヤダ。なんか心細い。

 

「依然後藤さんに強い感情を向けていますが、お札を貼れば、対話可能かもです。…頑張ってください。青木さん。後藤さん」

 

さて。どうしようか。こちらに近付いてくれば内田さんが教えてくれるはず。ただ、お札を貼るにはまずは動きを止めんと。見えない敵にどうやって?などと考えを巡らせていると、ゴッチが動いた。

 

「…ねぇ。少し、お話、しない?」

 

ゴッチが霊に向かって話しかける。なるほどゴッチ。戦うわけではなく、対話か。霊が聞く耳持つかね?

 

「あ、あなたは。わたしが、欲しい、って言った。それは、どういう意味?」

 

暗闇を真っ直ぐ見つめてゴッチが問う。交渉が決裂したら荒事か。願わくば、対話でなんとかなんないかな〜。などと、怠慢なことを思っていた。相変わらず、いるとされている暗闇の主はなにも答えない。だが。

 

「…分からない。この地に縛り付けられて幾星霜。さまざまな思いが巡る後に、怒りや憎しみ以外の情などなくした。無くしたはずなのに…お前が欲しい。なぜかは分からない」

 

スマホの中の内田さんが言葉を紡ぐ。

 

「…通訳します。大体、言ってること分かるので」

 

凄えな内田さん。ホンマモンじゃん。霊能力者じゃん。

 

「どうやら地縛霊の類ですね。この地に対する思い入れが強すぎて、死んだ後もここから離れられなくなってしまったのでしょう。後藤さん。もう少し、お話、聞き出せますか?」

 

コクリと、ゴッチが頷く。

 

「ひょっとして、わたしは誰かに似てるの?」

 

いくつめだったか。ゴッチがしたこの質問に、激しく霊は反応した。

 

「…わたしだけ。わたしだけ、奪われた。なにもいらなかったのに。あれいがい、なにも。それすらも、奪われた。こんどは、わたしが、奪ってやる」

 

底の知れない狂気と悪意が膨れ上がっていく。充満しきったドス黒い感情が、世界すら塗り替えそうだ。

 

「わたしからすべてを奪った者たちよ。わたしと同じ絶望を味わえ」

 

「いやいや!!冷静に通訳してる場合じゃないぜ!?どうすんだよこれ!図星ついちゃったっぽいよコレ!」

 

「そのようですね〜。ですが。我を忘れて怒り狂うとき、逆に隙も生まれます。…後藤さん。この質問を」

 

なにやら内田さんは紙に書いた質問をゴッチに伝える。それを見たゴッチは再び頷いた。

 

殺意と悪意と狂気が限界まで膨れ上がり、ついには溢れようとしたとき、ゴッチは、再び悪霊に対して言葉を投げた。

 

「わたしは!あなたの!なに!?」

 

その言葉に。この場を呑み込もうとしていた、感情の渦が止まった。

 

「…なにもいらない。それさえあれば。あ、あれ…?な、なんで…?思い、出せない…?」

 

「強すぎる感情に引き摺り回されて、思いのもとを忘れ去る。悪霊にはよくあることなのですよ。そして、忘れているからいつまでも想いを晴らせない。このままでは、誰も幸せにはならない。…少し、落ち着きましょうか」

 

霊の動きが止まった。いや、正確には、見えないけど、そんな気がした。そして。

 

「青木さん。そのまま。真っすぐ前にお札を出してください」

 

言われるがまま、お札を前に出すと。確かになにかに触れた感触とともに、その場を包んでいた暗く沈んだ空気が霧散していった。

 

「なんだ!?どうなった!?」

 

「成功しましたよ青木さん。ピッタリ、悪霊のオデコにお札が貼られました!」

 

見えないのに!?俺凄いな。貼る場所まで完璧じゃんか。冷えピタみたい。

 

「…あ…」

 

相変わらず俺は見えないため、霊がどうなったかは分からない。だが、ゴッチのリアクションを見る限り、無力化には成功したらしい。

 

「ど、どうなったんすか内田さん?」

 

「…先ほどまで霊を動かしていた恨みや憎しみの感情は止まりました。今なら対話が可能でしょう、後藤さん!」

 

「は、はい!…あ、あの…、今なら聞こえますか…?わ、わたしの声…れ、霊さんでいいのかな…」

 

「…通訳します。…分かる。聞こえる。どうして忘れていたのか。今なら思い出せる。あなたに執着した理由」

 

「ど、どうしてわたし、なの?なんでわたしにこだわるのかな?」

 

「…あなたがいれば、何もいらない。わたしにとってあなたは、全て。…でも。違った。あなたは、わたしの、大切なものではないんだ。…ようやく気付いた」

 

「なにかと後藤さんが良く似ていて、勘違いしたみたいですね。そしてその過ちに気が付いたと」

 

「そうなのか。ゴッチには不幸なことだな」

 

「…わたしはあなたの、何に似ていたのかな?」

 

「…あなたが知っても、詮無きこと。…でも、あなたには、わたしの勝手な思いとしてあなたには、少しでも幸多い人生を、送ってほしい…」

 

「どうやらあなたは理性がない悪霊ではない様子。この地に残る祠を修復し、あなたが忘れ去られないように手を尽くします。恨みを忘れて、お眠りください…」

 

内田さんが霊に対して語りかける。

 

「続けて、通訳します。…永きにわたり、恨みや憎しみに引き摺り回されて、もう疲れた。お前の言う通り…もう眠るべきなのかもな…。お見事です。御二人とも」

 

やれやれ。ミッションコンプリートか。悪霊と対峙するなんざ初めてだぜ。そう考えていると、ゴッチが悪霊と呼ばれていたものに対して言葉をかける。

 

「あ、あの!霊さん!あなたは、勝手にわたしに、幸せになってほしいと、仰ってました!な、ならこれも!わたしの勝手な思い込みなのですが!」

 

「あなたに!人生なにもいらない!あなたさえいればなにも!…そうまで想われた、わたしに似た人は、とてもとても!幸せだったんではないかと!勝手にそう想います!」

 

霊と呼ばれたものは、ゴッチの言葉を聞いていた。身動ぎ1つせず、真っ直ぐに。そして。

 

「…瞬間、思い出した。あれの笑い顔を。…何も出来なかったと思っていた。だが、あんな顔をさせられたのなら、わたしがこの世に生を受けた意味も、あったのかもな…。優しい人の子よ、ありがとう。もはや思い残すことはない。これで、わたしは逝ける…」

 

気配が揺らぎ、薄れ、そして消えてゆく。見えなくても分かった。満足して、成仏したのだと。

 

「今回は話が分かる霊さんで助かりましたよ。…後は祠を掃除して、お供え物もして…。長居は無用です」

 

内田さんが事態の収拾を告げる。…ゴッチは、ずっと霊がいた場所を眺めていた。覗いた横顔からは、どんな感情か読み取ることは出来なかった。

 

「ほんっと〜〜〜に、申し訳ない!!」

 

山田リョウが思い切り頭を下げる。珍しく本気で反省しているみたいだ。

 

「リョウコラ。わたしは休暇だと聞いてきたんだぞ?なんだって霊とガチバトルなんかせなあかんのだ」

 

「ほんとだよリョウちん。最初に気配を感じたとき、悪い冗談かと思ったもん」

 

「ま、まあまあ。山田さんも、ここまで危険な場所とは思わなかったのでは?わざとではないようですし…」

 

店長と姉御に激詰めされるリョウ先輩に、PAさんが助け舟を出している。

 

「わ、悪かったって!こんなヤバいとこだとは思ってなかったんだ!あ、明日!明日こそしっかり休めるからさ!」

 

「下北に夜までに帰るには昼回ったくらいで車出さなきゃ間に合わないんだよ。つまり休めるのは午前中だけ!…まあ、もういいかそれで」

 

「流石のわたしも今日はいろいろ疲れたよ…もう寝よう」

 

あの後は内田さんの主導で、出来るだけ朽ちた祠を修復して、廣井の姉御のお酒をお供えして、その場を後にした。いろいろ世話になった内田さんにお礼を言ったが、「いえいえ全然。またこういう話があったら持ってきてください。霊絡みなら大歓迎ですよ?」と仰っていた。大した人だ。

 

「今回はマジですまんかった。虹夏、大丈夫だった?」

 

「大丈夫なわけないでしょ!?なんか取り憑かれかけたらしいし!覚えてないけど!」

 

「虹夏先輩の寝顔は可愛かったですよ!とても取り憑かれかけた人の寝顔には見えませんでした!」

 

「やめて喜多ちゃん!恥ずかしいから!」

 

どうやら虹夏さんが結構危ない目にあったらしいが、なんとか助かったらしい。事が終わるまで、喜多さんの膝の上で寝こけてた虹夏さんをリョウ先輩が心配していた。

 

全員で何とか生還できた。とても喜ばしいことだ。たが、目の前で霊の最後を見届けた、ゴッチの顔は冴えないままだった。見えなかったから、ことの正確な次第を知るのは、ゴッチと内田さんだけだ。

 

「浮かない面だな、ゴッチ。あの霊が気になるのか?」

 

ハッとゴッチが顔を上げる。気になることは聞いてみるのが俺流。

 

「なんか良く分からんが、悪霊にしては珍しく満足して成仏したんだろ?お前に出来る、最善だったんじゃねえのか?」

 

「青木くん…。うん。そう、思いたい。…でも…最後に見たんだ。幽霊さんの表情。きっと、表情にしてわたしに伝えてくれたんだと思う」

 

「どんな顔してたんだ?」

 

「うん。満足したって言ってたけど、…それがホントだとするなら、あまりにも寂しそうな…笑顔、だった」

 

万人に満足する死などはない。あの幽霊さんも、いろいろあったんだろうよ。

 

「それでもさ。多分、その霊さんは、お前に最期。救われたと思うぜ」

 

「…うん。ありがと、青木くん」

 

ゴッチが寂しげにそう答える。そういえば結局、ゴッチは幽霊さんの何に似てたんだろうな?

 

はあ〜。いろいろあった。ありすぎた一泊二日だった。もう当分は心霊ロケはごめんだぜ。早く帰って自宅のベッドで寝たい…。旅行に来ておきながら疲労困憊な結束バンドの面々とやさぐれ三銃士。戦い疲れた戦士たちを夜の闇が包み込む。…願わくば、もう幽霊は出ませんように!コレが全員の総意であろう。ぐっすり眠って、帰宅の途につくぞ!!

 

 






大切なものを奪い壊し、絶望を与えるのも人間なら、何も見えない闇の中、一筋の光を射すような言葉をくれるのもまた人間だ。
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