【完結】 ギター爪弾きのバラッド   作:はま0821

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やっぱり1万文字とか多いかな?今回5千字くらいで纏めてみましたが…。コレばっかりは作家さんに寄りすぎるので、どっちがいいとか分からん。なんか気付いたら1万文字いってる。


53 忘れてるかも知れないけど、もうそろそろ夏休み終わりよ?宿題やったか?

 

 

ここはわたしのバイト先であるSTARRY。今日はまだ虹夏ちゃんの姿も郁代ちゃんの姿もリョウさんの姿も見ていない。私が一番乗りである。

 

珍しいこともあったもんだと思いつつ、いつもの定位置に荷物と腰を下ろす。店長もどうやら何処かへ出掛けているらしく、わたしひとりきりだ。ら、来客とかあったらどうしよう…!?

 

す、STARRYの来客ってことは、店長の知り合いのことが多いから、言うことがはっきりしていてウジウジしてるのが嫌いで気が短くて怖くて…!わたしみたいなのが対応したら。

 

「まどろっこしいんじゃ星歌出せ!」

 

ってなっていませんって言ったら無駄に手間取らせやがってってなってぴぃぃ〜!

 

どっか隠れとこうかなうん。だってわたし目当てにここ来る人いないし誰も困んないよね!郁代ちゃん。リョウさん。虹夏ちゃん。早く来て〜。

 

具合のいいゴミ箱を発見し、ヤドカリの要領で中に潜り込む。はあ…。暗くて狭くて、落ち着く…。

 

…こうして暗いと。こないだ行ったリョウさんちの別荘を思い出す。…わたしに良く似た顔の、幽霊の人だ。

 

後から思った。あの幽霊さんの顔。お母さんに似てたんだ。…だとしたら、あの幽霊さんがわたしと勘違いしたものって…。

 

最近、ふと気付くとあの霊さんのことを考えてる。…最後に見せた笑顔が、あまりにも寂しそうで…。なぜあんな顔だったんだろう。わたしに、もっとなにか出来なかったのかな…?

 

いつもの如く思考のループにハマりかけていると、ガタンと扉の方で音がする。本日、2番乗りの登場だな。

 

階段を降り、ギターケースを壁に立てかけると、ぐるりと視線を回して溜め息。どうやら見つかってないみたい。ムクリと。わたしの中の小さな悪戯心が立ち上がるのを自覚した。あったかいお茶を入れて、カウンターに座って、傍らに置き、お茶をすすって一息つく。…ふう〜。

 

「あ、青木…くん?」

 

肩が外れるんじゃないかぐらいに跳ね上がる。そして、錆びついたネジのようなスピードで首だけがこちらに回る。

 

「い、いたのか。声かけろよゴッチ〜。また心霊物かと思ったぜ」

 

「ふふふ。そ、それは勘弁だね…。ふふ。ふふふ…!」

 

面白い。普段堂々としてる人がビックリしてるのを見るのは面白いな。ドッキリとか仕掛ける人の、気持ちが分かったかも…。

 

「何笑ってんだよ。襲われた本人が。余裕だなおい」

 

「…うん。あのときはありがと。助けてくれて」

 

「ああ。…まだ何か気になるのか?」

 

「え?」

 

「そんな顔してるぜ。まあ…。なんだかんだ、俺は見えちゃいないんだ。詳細は内田さんに聞くしかないんだがな?きっとゴッチの言葉に満足して成仏してくれたんだと思う。じゃなきゃ全員生きて帰ってないしな。…今思い出してもゾッとするぜ」

 

参ったな。そんな分かりやすいか。

 

確かに怖かった。最初のころの視線なんて悪意しかなかったし。…でも、それ以上に悲しい人だったんじゃないかな。とも思う。霊というのは基本、死ぬ前に思った感情がぐるぐるぐるぐる回ってしまうものだと内田さんは言ってた。怒りや憎しみに縛り付けられて何年も彷徨っているうちに、人間らしい感情もなくなってしまったんだ。…だから、解放されてよかったのかな?

 

「あの人の微笑った顔…。お母さんに似てたんだ。他人とも思えなくてさ。…ねぇ、青木くん。青木くんのお母さんはどんな人?」

 

思えばわたし。青木くんの事全然知らない。ううん。青木くんだけじゃない。郁代ちゃんのことも、あんなに仲良くしてくれてるのに知らないし。リョウさんのことも虹夏ちゃんのことも…。わたしは何も知らないんだ。…だから、知ってみたくなった。

 

「…ゴッチ。その質問に答えるには、俺の勇気が足りない」

 

「…どういう、こと?」

 

瞬間に思い出す。以前、いつだったかみんなで私の家に遊びに来てくれた時、家族の話をした時に青木くんがしていた顔を。しまった!立ち入り過ぎたか!?

 

「俺に勇気が足りないんだ。なあゴッチ。金も時間も。俺の持ってるものならなんでもやるから、ちょっと勇気ってやつを分けてくれねえか?」

 

「ゆ、勇気…?」

 

「そうだ。怯えてる自分を奮い立たす、気力みたいな?」

 

「青木くんはいっーぱい、持ってそうだけど…?」

 

「持ってねえよ!俺をなんだと思ってんだ!?…持ってたら、躊躇ったりしてねえよ…!」

 

不思議だ。わたしは確か、あなたに貰ってきた。自分を奮い立たす、心。初めてみんなで音を合わせた時からずっと。あの時もあの時だって。わたしは常にあなたに。みんなに貰ってきた。

 

虹夏ちゃんから目の前を照らす光を。リョウさんからは許容と共感を。郁代ちゃんからは、かつては混乱。後にとっておきの友愛を。青木くんからは…。なんだろう?勇気。勇気…か。

 

「青木くん。確認するけど、勇気って、怖いって心を握りつぶして前に進む。そんな力のことだよね?」

 

「…ああ。そう思う。怖いと思う事。それを乗り越える力。そいつを勇気っていうんだ」

 

「なら、わたしはこう言うしかないよ。練習だよ青木くん。練習して、寝ても起きても練習して!たまにギターを夢にまで見ちゃって!でも足りなくて練習して!指切って腕が上がらなくなっても!…そうして、寝てても弾けるんじゃないか?ぐらいまでして、わたしはようやく少しだけ自分を信じられた。怖いって思ってるときでも、少しだけ指が動いてくれた」

 

相槌を打ちながら青木くんは話を聞いてくれる。不思議だ。あなたに教えてもらったのに。

 

「だから、怖い心。自分の弱い心に打ち克つには、それしかないよ。練習。練習。練習!!そうしたら、たとえ寝てても!指が勝手に動いてくれるよ!てか!そうなればいいなって!」

 

その言葉に青木くんが吹き出す。

 

「いや、ごめん。あまりにもらしい答えで。…そうだよな。練習でやった通りに動いてほしいよな本番でも」

 

青木くんが笑いながら同意してくれる。だからつい楽しくなって。

 

「うん!何度も思ったもん!今アップしてるギターヒーローの動画のわたしが、今のわたしに成り代わってライブしてくれないかなとか!ギターヒーローの動画撮ってるときのわたしは緊張してないし!」

 

ホントに、何度思ったことか。気が付いたら、ライブは終わってて大成功。動画の中のギターヒーローのわたしがみんなと光の中で喜びあってて…。あれ?わたしは?みたいな。

 

「その光の中へ行きたかったから練習したんだな。みんなと分かち合いたかったから逃げなかったんだよな。…それが、ゴッチの勇気か」

 

…ホントに、不思議な人だ。気が付いたら引き出されてる。そうだ。怖かったんだ。最初のライブもオーディションも。でもわたし。逃げなかった。いや、逃げられなかっただけだけど!!

 

「…はい。きっとそうです。…青木くん。もし勇気が必要なら。練習して自分を磨いて、もしそれでもまだ怖かったら。…相手を信頼してみてください。…わたしじゃ、まだ頼りないかもですが、結束バンドのみんな。店長さんに、廣井さん、シクハックの皆さん。PAさんだって!」

 

「そっか…。練習と、相手への信頼か。ありがとなゴッチ。参考にする」

 

「うん!頑張って青木くん!青木くんの怖いもの、乗り越えられるといいね!」

 

相変わらず何処か晴れない顔をしているが、取り敢えず青木くんは頷く。そんな簡単に迷いが晴れたら苦労しないよね…。

 

「いや、ずいぶん参考になったぞ?それで、なんだっけ。俺のお母さんの話か。…少しの間しか一緒にいなかったんだが、聞いてくれるか?」

 

…やっぱり。何らかの事情があって、今は一緒に居ないんだ。お母さんと。聞かれたくない部分なんじゃないかな!?だ、大丈夫かわたし!?

 

「2歳くらいまでしか一緒じゃなくてな。もういろいろと、忘却の彼方なんだが…。いつも笑顔だった気がするな。叱られた時も、最後の方は笑ってた。明るい人だった。と思う」

 

青木くんのお母さん。どんな人だろう。やっぱり青木くんみたいに、小さいことは気にせず豪快に笑い飛ばして、みんなを鼓舞するような、そんな人なのかな…?

 

「随分昔に別れちまったから、最早どんな声でどんな顔だったかも忘れたが…。作ってくれる料理の中で大好物が1つあってな」

 

口を噤む。今絶対に茶化したり、話の腰を折ったりしてはならないと。わたしの本能が告げた。軽く語っているが、目の前の人が冗談を言ってるようにはどうしても思えなかった。生みの親であるお母さん。その人の顔や声。それが思い出せなくなるぐらい、離れ離れで生きていた。目の前の人はそう言っている。…青木くんが大人っぽい理由。分かった気がするな。わたしはお母さんなしで生きられるだろうか?…想像できないや。

 

「いやこれが。ハンバーグとかカレーとかも、美味しいんだけど、スープがあってさ。コレが美味くてよ〜。もっかい飲みたいんだ。どうしてもさ。…でも、最早茶色かったくらいしか覚えてないんだ。…ほら、2歳だったからさ」

 

わたしは聞かないことに決めた。…もちろん、わたしが受け止めきれないかも。な懸念もある。だが、青木くんが言いたいなら語ってくれていただろう。その人が、(勇気が足りないんだ)とまで言ったんだ。…ならばわたしは、青木くんの勇気が貯まるまで、待つ。お母さんと青木くんの顛末は、青木くんが自分で話してくれるまで、待つことにした。

 

「…茶色。…味噌汁?」

 

「いや、違うんだよ。昔の家は洋食派でさ。パンが主食で、スープも洋風だったんだよ。も少し大人になったとき、味噌汁飲んだんだけど、これじゃねえって思った」

 

違うんだ。茶色くて洋風で美味しいスープ…。なんだろう?洋風で。っていう条件がなければわたしの中では味噌汁なんだなけどなぁ〜!とない頭を絞っていると、入り口のほうが騒がしくなる。

 

「おっはよ〜う!あれ!?ぼっちちゃん、青木くん!早いね!」

 

「オス。遥。ぼっち」

 

「おはようひとりちゃん!青木くん!2人で内緒話!?」

 

結束バンドの面々だ。…これ以上は聞けないかな。…残念。自分で聞いたくせに、少し安心しているところもあった。…ズルいな、わたし。

 

「おはようみんな。みんなも一緒に思い出してくれ。めっちゃ美味いスープなんだけど、どうしても思い出せないんだ。大好物なんだけどさ」

 

「大好物を思い出せないってどうなのよ青木くん!老けてるのは見た目だけにしときなよ!」

 

辛辣!たまに出る辛辣虹夏ちゃんだ!わたしがこんな物言いされたら泣いちゃうかも。…てか、この話題続けるんだね青木くん。

 

「いや〜、昔過ぎてよ。最高だった。としか覚えてないんだわ。…年は取りたくねえな」

 

「ぷぷ。おじんみたいな事言ってるね遥。ふむ…洋風?和風?」

 

「洋風です、リョウ先輩。茶色で。なんかコクがあって。美味かったんすわ〜」

 

「えっなんだろう…?洋風で茶色…?」

 

郁代ちゃんが顎に手をやり考える。青木くんの好物のスープ当てゲームが始まっている。まだ言い当てるには手掛かりが少なすぎる気がする。

 

「青木くん!なにか具材は入ってなかった!?ほら味噌汁で言ったら大根とかさ!」

 

流石虹夏ちゃん。具材が特定できればグッとイメージも湧いてくる。

 

「え?あー。なんか透明な具が入ってたような…?」

 

透明な具。ますます分かんない!そんなんあったっけ!?

 

「ヤバい。味噌汁と大根しか思い浮かばない」

 

リョウさんが唸っている。わたしもです。一番最初に思い浮かべたもんが、ほかのイメージの邪魔をする!

 

「…コンソメ?コンソメじゃない青木くん!?ほら!透明な具材はタマネギで!」

 

「それだ!喜多ちゃん凄いよ!コンソメスープだ青木くん!」

 

「コンソメ!それかも!」

 

青木くんが驚いた顔をしながら頷く。あー!コンソメ!洋風で茶色で具材はタマネギ!凄いな郁代ちゃん。

 

「なに?食べたいの青木くん。コンソメスープ」

 

「ああ。大好物でさ。昔母親が作ってくれたんだ」

 

「なら今日わたしが作ったげるよ!夕食食べていきな!」

 

話が早すぎる。ほら虹夏ちゃん。青木くんの顔見てみて。唖然とした顔してるよ流石に。

 

「JALの機内食よりうまいスープ仕上げるから是非食べてって!もちろんコンソメスープだけじゃ味気ないからほかになにか…」

 

「虹夏!その夕食会…途中参加は可能か!?」

 

「虹夏先輩!わたしも手伝いますから、わたしも食べていっていいですか!?」

 

流れるように今日の練習が終わってからの夕食会が決定する。郁代ちゃんとリョウさんが前のめりだ。

 

「もちろん!みんなまとめて面倒見てあげるよ!ぼっちちゃんも来るよね!」

 

「あっはい!」

 

そんな感じでわちゃわちゃしていたら、STARRYの入口の扉が開く。

 

「わたしは揚げ物じゃなければなんでもい〜ぞ〜」

 

コンビニ袋を下げた店長さんが虹夏ちゃんにリクエストしながら階段を降りてくる。

 

「ヌルっと帰ってきたねお姉ちゃん!ふむ。コンソメスープにあった揚げ物じゃない食べ物…。ハンバーグなんてどう!?青木くん!」

 

虹夏ちゃんが店長のリクエストを取り入れつつ、メニューを考案し、青木くんに提案する。

 

「いやもう、なんでも。いいんですか?虹夏先輩?ご馳走になってしまって」

 

「いまさら遠慮すんなよ!ハンバーグとコンソメスープ!腕によりをかけるから、今日も練習頑張ろう!」

 

「きゃー!虹夏先輩の料理美味しそう!練習頑張るわよー!」

 

「うし。今日の夕食なんとか確保」

 

夕食会に対する意気込みの温度差がひどい。ホントいつでも金欠だなリョウさんは。

 

「よっし!じゃあ今日の練習終わったらみんなで買い物行こう!お菓子も2個までなら買っていいよ!」

 

「よっしゃ!ママレードにプリンアラモード!いやまて、シュークリームも捨て難いな…!?」

 

「リョウだけ実費!」

 

「えっ!?そんななんで!?虹夏大臣!?」

 

「お前ら仲良いよな〜」

 

暴走するリョウさんをいつも通り虹夏ちゃんが抑える。そんな結束バンドのやり取りを見ながら、店長さんが感想を漏らす。いつものSTARRYの風景だ。

 

青木くんを見やる。一応今日の発端となったのだから、今日の主役と言ってもいいだろう。その青木くんの顔は…。分からない。わたしが主観でそう見てしまっただけかも知れないけど。いつもの笑顔が。少しだけ陰っていたような。そんな気がしたのだ。

 

 

 






ギリギリの綱渡り。ぼっちちゃんはすべてを把握したわけではありません。母親とは子供の頃、離婚などの理由で生き別れになったと思っています。ちなみに主人公は最早、ぼっちちゃんに知られてしまってもいいや。と開き直って話しています。大事な情報は口に出していませんが。
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