【完結】 ギター爪弾きのバラッド   作:はま0821

56 / 69


ぼっちちゃんが学校嫌がるのは、最早それ以外の態度の取り方を忘れてしまったから。今はかなりマシな環境のはずなのだが、徹底にして、学校を嫌いなのである。…なんか悲しいな!?



56 巡る季節。後藤ひとり先輩になる

 

 

この世界は完璧過ぎる。あさがきて、かならずひるをけいゆし、じかんというものはよるへとむかう。…けして、とどまったりもどったりすることはない。

 

おんなじスピードで、明日は来てしまうのだ。…そう。9月3日は来てしまうのだ。

 

「ああ…嫌だなあ…!学校」

 

おはこんばんにちわ、後藤ひとりです。…来てしまった。夏休み中ずっとこの日を意識してきた。後半になればなるほどその気持ちは大きくなって、どうしようもなくなっていた。多分わたしとおんなじような気持ちの人も多いだろう。…今日は夏休みが終わって、初登校の日である。

 

バターが香る食パンが食欲をそそるが、今日ばかりは気が進まない。控えめに食べ、コーヒーを啜り、学校へと向かう。

 

「…行ってきます…」

 

とぼとぼと。いつもながら元気がない背中で出ていく、わが娘のことを、両親は心配していた。

 

「全く。ひとりのやつ。少しは気持ちが分からんでもないが、あんなになるほどかね。相当学校が嫌なんだな…」

 

ひとりの父親である後藤直樹がそうこぼすと。

 

「学校辞める!とか言い出さないか心配よねぇ…。まあ、バンド関係で友達できたみたいだから、中学時代よりマシだけれど…」

 

母親の美智代女史もそう同調する。

 

「高校中退の娘なんか勘弁だぞ?やはりここは結束バンドのみんなに頑張ってもらって、ひとりを学校に残らせよう」

 

「安くないお金、高校に払ってるしね。…こんな所で辞められても困るわ。…ひとりが友達を連れてきた時、沢山饗して、バックアップしましょう!」

 

「ぼくらにできるのはそのぐらいか…。よし!こないだは唐揚げだったから、今度は別方向から攻めよう!あの、青い髪の子は食い意地はってそうだから勧めたら断らないだろう!最終的にはみんなで頂こう!的な流れになるはずだ!」

 

「そうね!今度はわたしに任せてパパ!甘味処で攻めてみるわ!」

 

当の後藤ひとりは知り得ないことだが、後藤家の結束バンド受け入れ体制は万全になりつつあった。

 

 

 

 

 

 

 

 

金沢八景から下北沢まで。都会に入るまでは乗り換え無しなので平和だ。ゆっくりと車窓を眺められる。…これが都会に入ると…。地獄だ。人は一気に増え、ギチギチの車内。しかも乗り換え…。これがメンドイ!電車で1本で着く人達!羨ましい!もはや目的の駅に着く頃には青色吐息だ。…1年と半ぐらいもうこのスタイルでやってるけど、…慣れない。…せめて乗り換えなしにしてくれれば、寝てるだけで着くのにぃ…!

 

下北沢の駅に降り立ちながら、身体のあちこちを伸ばす。首のストレッチをしていると、首からコキコキと音がする。…やっぱり凝り固まってるのかな?

 

「おっはようひとりちゃん!!」

 

「ぴぃあ!!い、郁代ちゃん!な、なんで!?」

 

「ひとりちゃん…!この喜多郁代を舐めないで!ひとりちゃんはかなり几帳面!下北沢の駅に到着する時間は大体朝7時半なのよ!ほら!」

 

突然現れた郁代ちゃんが指で駅の時計を指す!…あほんとだ。あまり意識してなかったけど…。遅刻しなければなんでもいいから…。

 

「さっ!学校行きましょ!今日から2学期!気合い入れ直しましょ!」

 

「あう〜。やだあ…!郁代ちゃん…助けてぇ…!」

 

「コレばっかりはムリよひとりちゃん!頑張って!わたしも協力するから!」

 

ああっ…。わたしの太陽。喜多郁代ちゃん。ホントに、この子いなかったらわたし学校辞めてるかも。そのぐらいには支えられてる。…おんなじクラスになれてホント良かった…。

 

郁代ちゃんだけではない。わたしは今回のクラス。過去最高だと思ってる。郁代ちゃんの友達で、わたしとも気兼ねなく話してくれる優しいギャル。佐々木次子さん。わたしにとって初めての音楽の友達。青木遥くん。うう…。頼もしい。…でも!周りにこの人達がいる頼もしい布陣も今日まで!

 

多分今日は…!休み明けの席替え!恒例行事だ!誰が恒例にした!しばくぞ!

 

「嫌だ怖い今の席順以外になるの嫌すぎる他の人となんて喋れないよきっと向こうだってそう思ってるんだ折角話しかけてもらっても気の利いた答え1つ返せないから次第に扱いが雑になって遂には居るけど居ないみたいな扱いに空気みたいな存在に前のクラスの時とおんなじ扱いに折角ここまで人間の尊厳が回復したのにああああ〜!」

 

「でたわね…。ひとりちゃんの領域展開!領域展開を破るにはこちらも領域を展開する!より優れた領域がこの場を支配するのよひとりちゃん!」

 

領域展開ー花神楽百繚乱ー

 

瞬間。ひとりの領域は破られ、足元に花畑が展開しているさまを幻視する。これが喜多郁代の領域。この領域に足踏み入れしもの。一時的に超スーパー陽キャ人になる!

 

「うぇーい!!バイブスあげてこー!夜通し踊ろー!!まだ夜は始まったばっかだぜー!!」

 

「よし!今のうちに!行くわよひとりちゃん!」

 

突如明るい性格になったひとりの手を引いて、喜多郁代は、学校への道すがらを行く。…願わくばこのまま少しは明るくなってほしいものだが、そうは問屋が卸さない。この明るくなる効果は、精々学校に着いてホームルームが始まるぐらいまでだからだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ずーーーーーん。

 

あらかたの予想通り、教室に到着し、ホームルームが始まるまで、後藤ひとりのハイテンションは持たなかった。慣れないハイテンションの反動からか、上記の擬音を纏って、いつも以上にローテンションである。

 

「も〜う。頑張ってよひとりちゃん。たとえ席離れちゃっても話しに行くから!」

 

「約束ですよ郁代ちゃん…。わ、わたし。もうムリなんです。暖かい海を知ってしまったら、とても北極海みたいな以前の状態になんか戻れません」

 

「前北極海だったんだ。大変だな後藤」

 

教室で合流したさっつーさんも加わって、仲良し3人組が雑談する。

 

「…あれ?そういえば青木くんの姿が見えませんね?」

 

「ホントね?たまにズル休みするみたいだけど、来るときは真面目に1時間目から来るのにね〜」

 

「あたしは今日は見てねえな〜?来てないんじゃねあいつ?」

 

言うが早いか。教室の後ろの扉が開かれ、話題に上がった人が来た。

 

「うい〜っす。みんな早いな」

 

下こそ制服の指定されたズボンだが、上はTシャツを腕まくりした状態。かなりラフなかっこだな。…暑いからね。

 

「いや~暑いね。ようやく9月になったって〜のに、太陽のやつは自重ってやつを知らないね!」

 

「何処行ってたんだ青木?ずいぶん暑そうじゃねえか?」

 

「いやさっつー。早くに来すぎてさ。普通にしてたら眠くなっちゃうからさ。屋上でギター弾いてたんだよ。直射日光が当たって暑い暑い」

 

「この日差しで屋上は無理があるわよ青木くん!熱中症になっちゃうわよ!」

 

なるほど。なぜ汗ダクなのが理解できた。…元気だなあ青木くん。今日35度くらいはあるよ?

 

青木くんは制汗タオルを使い、Tシャツの裏の汗を拭き取りつつ、制服の上の方を羽織る。

 

「はあ〜。涼しい。涼しい感じがする!スゲ〜な文明の利器」

 

「その涼しく感じるのって、化学物質のメンソールってのを使って、脳を騙してるんですってよ?」

 

「マジか。じゃあ実際には涼しくなってないわけだ。これは騙されるよ。しょうがない。実際に涼しいもん」

 

郁代ちゃんと談笑する青木くんの後ろから、ニヤけ面のさっつーさんが唇に人差し指を当てながら、制汗スプレーを持って忍び寄る。…なにをしたいのかは想像に難くない。わたしも人差し指を当て答える。

 

次の瞬間、青木くんの首にさっつーさんの制汗スプレーが炸裂した。

 

「つっめた!?野郎誰だ!?」

 

「あっはっは〜!暑そうにしてたから冷ましてやったぜ〜!?感謝しろよ青木〜!」

 

「野郎…!さっつー?俺もお返しに制汗スプレーかけてあげる。メンズ御用達のクソ冷たいやつ」

 

今度は青木くんがさっつーさんの首筋目掛けて制汗スプレーを乱射する。さっつーさんは逃げ回り、教室には男子用の、香水みたいな制汗スプレーの匂いが充満した。

 

「…全く。小学生みたい。ねえひとりちゃん」

 

「あはは。楽しそうで何よりですね…」

 

「あ〜い。なんか遊んでんな〜。そこまでにして、ホームルーム始めんぞ〜」

 

教室の前の方の扉が開き、担任が姿を現す。

 

さて。楽しい時間はおしまい。地獄のホームルームの始まりだ。どうせやるんでしょ?席替え。色即是空。無量空処。…こうなったら。どんな結果でも受け止めるしかない。頑張れひとり!今までなんだかんだ頑張って踏みとどまってきたじゃんか!今度もどうにかなるって!

 

「喜多。やるの?」

 

「イカサマはあまり好きじゃないけど。あまりにもひとりちゃん好みじゃなさそうな場合。致し方なしね。GOよ」

 

後藤ひとりは願いをかけていて気付かなかったが、何やら陽キャ2人には策があるらしい。…席替えに策もクソもないような。

 

席替えの結果。

 

今度も前が喜多さん。後ろは今度はさっつーさんだ。…おお。神はおはしたんですね…!

 

「凄いわねひとりちゃん!また近くの席よわたしたち!」

 

「おー後藤!今度は近い席だなよろしくなぁ〜!」

 

「は、はい!よろしくお願いします!!」

 

仲良し三人娘が談笑してるな。俺はゴッチから離れちまった。…まあ席なんぞどこでもいいんだが。

 

「はろろ〜ん。久ぶりじゃんロックスター!忘れられたかと思ったわよ?」

 

「おう青木!久々だな!と、同時に俺の出番も久々だぜ!」

 

おっ。鳩野さんに千田か。知らない仲じゃない奴と席近いと嬉しいもんだな!

 

「青木く〜ん!今年の文化祭も期待してるわよ〜!今度は銀杏BOYZ以外も聴かせて!」

 

「実際問題、今度は向こうから出て下さいって来るかもなぁ〜。去年のあの活躍ならよ〜!」

 

「任せとけって。今回もトリで文化祭のスターの座は俺がいただきよ!」

 

かくして、一大イベント(笑)席替えも終わった所で、改めて二学期の始まりである。休みは終わり、また忙しい学生生活の中へと強制的に放り込まれるのだ。

 

時は不可逆。右から左に。後ろから前に。そして、今日から明日に。寸分の狂いなく流れていく。そしてそれは、彼女ら彼らとて、例外ではない。

 

ここはライブハウスSTARRY。いつものようにシフトに入っていたわたしと郁代ちゃんと青木くんは、ここに来たらすぐ日課の掃除にとりかかっていた。すると、虹夏ちゃんから声がかかる。

 

「ぼっちちゃん!リョウ!青木くん!喜多ちゃん!今日から新しいバイトの子達が入ります!わたしが学校の勉強とかでシフト入れなくなっちゃうから、その穴埋め!仕事教えてあげてね!」

 

そうなのだ。虹夏ちゃんはわたしの先輩。そして、わたしたちも1個学年が上がったのだから…!来るのだ。出来るのだ。後輩が。時の流れは不可逆。…わたしたちも、いつまでも後輩ではいられないと。そういうことか。

 

「珍しい時期っすね。普通4月とかじゃないの?」

 

「なんか、わたしたちの未確認ライオットの活躍を見てくれたらしいよ!嬉しいよね!ごめん!わたし今日は受験関係で用事あって…!分かんないことあったらお姉ちゃんに聞いてね!もう来ると思うから!」

 

青木くんの問いかけに虹夏ちゃんがそう答える。そして、足早にSTARRYを出ていってしまう。

 

えっ、行っちゃうの虹夏ちゃん…!こ、心細い…!…新しいバイトの人かあ。どんな人なんだろ。

 

「店長さん!新しいバイトの人ってどんな人ですか!?」

 

気付けば郁代ちゃんが店長さんに質問していた。相変わらずわたしより動きが1・5倍くらい早い。

 

その質問を背中で受けた店長は、キリのいいところでタイピングの手を休め、わたしたちに向き直る。

 

「…表現が難しいな…。ひとり、体育会系ミニマム。ひとり、ドル厄介ヲタ」

 

???体育会系ミニマム??ドル厄介ヲタ???

 

わたし以外の人もよく分からなかったようで、わたしと同じようにはてなマークを量産している。

 

「…分かんね〜よな〜。まあ…見りゃ分かるよ」

 

それだけ言うと店長さんは再び、ノートパソコンに向き直った。

 

「ドルヲタは兎も角として、体育会系…!郁代。体育会系は任せた」

 

「苦手なんですねリョウ先輩…!任せて下さい!体育会系なんか、わたしがどうにかしてあげますよ!」

 

「あっ郁代ちゃん…。わたしも体育会系の人怖い…!」

 

「わ、分かったわ!ひとりちゃんも!なんとかしたげる!」

 

そのやり取りを遠目で見ていた青木遥が、苦笑い気味に独りごちる。

 

「あんな調子で大丈夫かね…?」

 

するとそれを聞いていた店長が。

 

「喜多1人だと手に余るかも知んねえ。お前も頼むぞ。遥」

 

「了解しました。仕事教えときゃいいんですよね」

 

「ああ。頼むよ。喜多の手助けをしてやってくれ」

 

やれやれ。しかし。遂に俺もこの仕事で先輩かあ。感慨深いものがあるなあと。思っていると。STARRY入り口のほうが騒がしくなり、ガチャリとドアが開かれた。

 

「おっす!!先輩のみなさん!お疲れ様です!秀華高校1年生!そこにいらっしゃいます後藤先輩の後輩にあたります!大山猫々と申します!以後!お見知り置きを!」

 

「えっと〜。日向恵恋奈と申します〜。通信制高校通ってます〜、趣味は小説執筆と、アイドル鑑賞だったんですがあ〜、最近バンドに沼りました〜。結束バンドのみなさんが好きだから、このSTARRYでバイトしたいです〜。よろしくお願いします!」

 

…ああ〜。確かに言われてみれば。大山猫々さん。…チッサイな。150ないだろうなありゃ。激混みの満員電車で会ったら気付けない多分。そして声は大きい。ハッキリしていて聞き取りやすい。

 

…そして。日向恵恋奈さん。俺この子知ってるな。うむ。確かにミニマム体育会系と、ドルヲタだわ。看板に偽りなし。

 

現行のSTARRYの面々のリアクションを見比べてみる。喜多さんは通常営業だ。若干、新しいバイトの子という環境のお陰で、少しワクワクしてるくらいか。

 

ゴッチとリョウ先輩の、結束バンド陰キャ二連星は、ビビってる。…しょうがないかも。新しい子のかたっぽ。大山さんは、今までSTARRYには居なかったタイプだ。警戒心マックスだ。

 

全く。気持ちは分からんでもないけど、明らかに向こうのほうが緊張しちゃうシチュレーションなんだから、我々が大人の余裕というものを見せないと…。

 

後輩2人よ。こんな役に立たなそうな陰キャに聞くよりも、俺に色々聞くといい。初めて出来た後輩だ。懇切丁寧に教えてあげるよ?と。恐らくは緊張しているであろう後輩2人に対して、優しい言葉を胸中で投げ掛ける。

 

喜多さんをフォローしつつ、お仕事教えてあげよう。将来的には俺が楽できるようになるはずだ。先輩風を吹かす気満々な青木遥は、そうやって思考を締めくくった。

 

 

 






ドルヲタは兎も角として、体育会系は苦手だろうね。特にバンドマンという人種は。ざっくばらんに切り分けると、一応バンドマンもオタクに属すると思うの。音楽オタク。そして、ヲタクと呼ばれてる人達の、天敵にもなりうるのが、この体育会系。そら相容れないわな!頑張って!STARRYの先輩の方々!
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。