【完結】 ギター爪弾きのバラッド   作:はま0821

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栃木は広い。なんと埼玉よりも。だが。さらにさらに長野がデカい。ほとんど山間部であるが。…さらに、埼玉と長野は実は県を接しているが、そこを通り抜ける電車は確か、存在しない。つまり、公共交通機関で埼玉から長野に行きたければ、バスを利用するしかないのだ。知ってた?


59 突撃!弾丸ハードオプ巡りの旅!栃木より愛を込めて

 

 

さて。みなさんお待ちかねのハードオフ巡りの時間だ。なぜこんなことになったのか?体育会系だが後輩であり、意外と純粋な思いでギターを求めてくれる姿に感銘を受けた、俺こと、青木遥は、今度の休み、その後輩である大山猫々てゃと約束し、必ずや後輩にあった、安くていいギターを見繕ってやると約束した。ここまではいいわな。

 

まあ少しは予想していたよ。確か1番下北に近い、リョウさんが店長が知り合いだと言っていたハードオプの規模は其処まででもない。

 

最初はそこに向かってみたが、どうにもどのギターにも一癖二癖…。いや、堂々と言ったろう。まともに弾けそうもない。そらあ、3万しかないこっちも悪い。良い楽器が欲しいならせめて倍は用意すべきだ。だがこちとら貧乏学生。しかも初心者だぞ?もう少し優しくしろよ。

 

ちゃら〜ん。チャランチャッチャッランジャッ!!

 

「へぇ〜。いい音じゃん青木くん。もうこれでよくない?」

 

「ホントね。凄いわねハードオフ。なんでもあるわ〜」

 

現在、気になったギターを店員さんに頼んで試奏させてもらっている。その音を聞いた喜多さんと虹夏先輩が口々に感想を漏らすが。

 

(う〜ん。確かになかなかいいギターだが、なんか6弦あたりのペグの感じが変なんだよな…。大山さんはまだギター初心者。できる限り、穴が少ないギターを渡してやりたい。まだまだ予算も頑張れるし、焦ることもないか)

 

「ど、どうですか?先輩…」

 

なにやら不安そうな顔で問い掛けてくる後輩に少し申し訳なさを覚えたが。

 

「まだ粘ろう。次行こうぜ」

 

「ええー。まだ粘るの〜?青木くん凝り性だね〜」

 

ちなみに虹夏先輩のドラムスティックはもう購入している。今のハードオプは2軒目だ。

 

「…何か駄目なとこがあるの青木くん。わたし、今の演奏を聴く限り、違和感を感じられなかったわ…」

 

喜多さんの隣りにいた大山てゃがこくこくと頷く。

 

「うんまあ。いいギターなんだけどさ、少し、ペグの状態が良くないように思うんだよね。まだ値段も頑張れるし、焦ることないかなと」

 

同行者にそう言うと店員さんにギターを返す。

 

「さて。試奏だけして帰るのもアレなんでなんか買ってこうぜ。折角だし大山さん。ギターを下げるストラップでも選んでみなよ。奢るからさ」

 

「ま、マジすか!?」

 

「そしたらわたしたちが選んだげる!かわいいヤツ!」

 

「やっと活躍できそう!大山さんにあってるやつ選んだげるわね!!」

 

女子群がキャイキャイと盛り上がる。それを傍目に見ながら、俺はピックの二、三枚でもいただこうかな〜。なんて、しけた考えをしていた。すると、後ろから声を掛けられる。見た感じ、中年ぐらいの男性の店員さんだ。髭を口の周りに蓄え、丸メガネをしている。

 

「失礼。先ほどギターの試奏をしていただいたお客さん?」

 

「はい。そうですが…なんでしょう?」

 

「いや。凄いなって。あのギター、整備したの自分なんですけど、ペグの問題に気付きませんでした。危うく、お客様に問題のある商品を売ってしまうところでした。申し訳ございません」

 

「いえいえ。全然売るのには問題ないレベルだと思いますよ。俺が特別、うるさい客ってだけですよ」

 

そう言うと丸メガネ店員さんは口髭をなぞり、ふむ…。と鼻を鳴らす。そして、向こうでストラップ選び中の女子たちを見て。

 

「…ちなみに、今日買うギターはあなたのためではなく、あの子たちの誰かのため?」

 

へぇ。露骨だったかな。店員さん良く見てるな。

 

「はい。後輩が初めてギター触りたいって言ってきて。なんか嬉しくなりましてね。まだ予算も頑張れるし、いいギタープレゼントしてやりたいんすよ」

 

「…気に入った!」

 

「はえ!?」

 

「自身のためじゃなく、後輩のためにいいギターをね…。その心根、気に入りましたよ。ハードオプには横のつながりがあります…、少し遠いのですが、栃木のハードオプの店長に、若者が楽器を始めるのにハードルを低くしてやりたい。てポリシーを持つ変人がおりまして。もしよければ連絡してみて下さい。いいギター、安く仕入れているかもしれません」

 

栃木!!栃木かあ!!県2つ跨いじまうな!だが…有力な情報だ。

 

「ありがとうございます!連絡取ってみますよ!」

 

「頑張ってください。未来のギタリストたち」

 

そう言ってお辞儀してくれる店員さん。なかなかいいお店だな。覚えといて今度また来よ〜っと。お辞儀を返し、いつの間にやらストラップを購入して、入り口付近で待っていた女子組に合流する。

 

「決まったんだなストラップ」

 

「はい!御二人に可愛いの選んでいただきました!」

 

見るにそれは水色ベースに花柄が入った可愛らしいストラップ。実に快活で活発な大山てゃに似合ってる。流石結束バンドの陽キャ組。

 

「こっちも有力な情報を手に入れたぞ。なんか栃木の方らしいが、いい楽器を若者のために安く販売している変わりもんの店長が居るらしい。連絡してみて、もし良さそうなら行ってみないか?」

 

「栃木!!やば〜。夜までに戻ってこれるかな…?」

 

「かなり遠いけど!もう乗りかかった船よ!大山さん!虹夏先輩!行きましょ!」

 

「な、なんかわたしのためにそこまでしてもらうの悪い気が…」

 

「この程度どうってことないわよ!スポーツマンだったんでしょ!?このくらいで縮こまらないの!どーんと構えてなさい!」

 

「ううん…。えい!覚悟決めたよ!青木くん!連絡して!ただでは帰ってこないよ!こうなったら栃木の名物!全部制覇してやる気持ちで行こう!」

 

「うう〜。リボン先輩…!映え先輩!アゴヒゲ先輩…!感激です…!!ど、何処までもついていきます…!」

 

どうやら女子達の覚悟も決まった様子。ならば、行くか!

 

「ふっ…。了解。行くぜ栃木!待ってろまだ見ぬギター!いいの仕入れてやるからな大山さん!」

 

そういうが早いか。俺は先程の店員さんに教えてもらった栃木のハードオプの連絡先を入力し。通話ボタンを押した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ガタンゴトン。ガタンゴトン。急行の電車に揺られる。なに、特急電車で行けだと?んな金はない。在来線でえんやこらだ。ロインで結束バンドの陰キャ組にも連絡しておく。

 

なんか栃木に行くことになった。こうなったら意地でもいいギターを手に入れてみせる。吉報を期待しててくれ。

 

ロインの本文にこう打つ。

 

えっなんで?とはゴッチ。

 

意図がよく分からないスタンプ1個が山田。

 

概ね予想通りの反応だ。なんでだと?それが分かれば苦労はせぬわ!まあ…!言うならば!若さ故の過ち…!!

 

「青木くーん!お姉ちゃんが宇都宮餃子!お土産に買ってこいって!」

 

「了解とでも打っとけ!実際買っていくかは別にしてなあ!」

 

下北から電車で栃木までワープ。どんな早くても片道で2時間弱だ。先ほど電話したハードオプの変わり者店長さんは大変優しいお方で、こちらの境遇を話すと痛く感じ入っていただき。予算が3万円程度と伝えると。あちらの方で良いギターを何本かピックアップして待っていてくれるらしい。有難すぎる。

 

「…埼玉ってこんなに広いんですね。…わたし。知らないことだらけだ」

 

喜多さんがポツリとそんな事を言う。すると虹夏先輩がそれに反応して。

 

「ねー。電車で移動してるだけなのに疲れてきちゃった。ホント広いね埼玉。見たことない駅がいっぱい!大宮より先の駅全然知らないよ!」

 

なんか虹夏先輩がイキイキしてるな。気持ち。分かるけどね。なんなんだろね。知らない駅に降り立つときのあの高揚。

 

「大山さんはまだ元気一杯だね?慣れっこか?電車移動」

 

「ヒゲ先輩。はい!運動部だったんで!遠征で色々いきました!北は北海道!南は宮崎まで!!」

 

「レベルが違った!すんませんナマこきました!」

 

「…。でも。なんか、在来線でこんなゆっくり。気の置けない仲間だけで行く、旅行みたいなこんな移動は初めてかもです。…あの、みなさん」

 

いつになく真剣な顔して大山さんが俺達を見やる。こっそり俺は心の中で背筋を正した。

 

「なんで、こんな、入りたてでギターのことなんか全く知らない、1後輩でしかないわたしにこんなに良くしてくれるんですか?ふつう、しないですよね?いちいちギター探すためだけに栃木に遠征なんか」

 

タタントトン。タタントトン。規則正しく車輪とレールが擦れる音が響く。なんで?か。さてどうやって答えようかと。一瞬思案していると。

 

「そんなの、わたしがやりたいからに決まってるじゃん」

 

隣から、あまりに簡潔な答えが導き出された。

 

「わたしがやりたいんだよ。大山さん。気の合う後輩たち3人と、ローカル電車でギター入手の旅!ま、まあ。目的地栃木は誤算だけど…。誤差だよ誤差!…だからさ。そんな、よく分からない遠慮みたいな顔、やめてよ。わたしはわたしがやりたいからやってるだけ!やりたくなかったらやってないし!ほら、大山さんも楽しも!車窓眺めてるだけでも結構面白いよ!」

 

大山さんが面食らう。だからイキイキしてるのか虹夏先輩。…楽しそうで何よりだ。

 

「…う〜ん。わたしは、多分大山さんに一番近い立場だから。かな?」

 

「…一番近い…?」

 

今度は喜多さんの言葉に大山さんが疑問符を浮かべる。

 

「そ。わたしも全然楽器なんか弾けないまんまバンドに入って。…怖くて逃げ出したのよ。だから。大山さんの。初心者さんが浮かべる不安とか。恐怖心とか。分かる気がするわ。それで力になってあげたくて…。そしたら青木くんがもってこいな事立案してて!ありがたく乗っけてもらったわ!だから。理由は虹夏先輩と同じよ!やりたいからやってるわ!大山さん!大船に乗ったつもりで任せて!大山さんだけにね!」

 

「映え先輩…。いや、喜多先輩…伊地知先輩…!」

 

「お。渾名がグレードアップした!でも!伊地知先輩はやめて!ここでならいいけど、STARRY内で呼ぶと、もう一人振り向くから!なので!特別に虹夏先輩と呼ぶことを許しましょう!まあ、ケッコー気に入ったからリボン先輩のままでもいいよ!」

 

「…はい!分かりました喜多先輩!虹夏先輩!ぎ、ギター探し!よろしくお願いします!」

 

言いたいことはだいぶ二人に言われちまったな。さて、そろそろ山の中から、宇都宮の。都会の光が見えてくるぜ。

 

「さあ!親交も深まったところでいよいよ目的地周辺だぜ。各々覚悟はいいか!?STARRY軍!初の栃木上陸だ!」

 

「「「おおーーーーーーーー!!!!!!」」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「うおおおお!!着いた!!着いたぞ宇都宮!!栃木!!餃子!!湯葉!!佐野ラーメン!!日光東照宮!!!」

 

「家康公のお墓以外全部食べ物!?青木くん落ち着いて!初めての島に上陸したルフィじゃないんだから!!」

 

「っきゃー!!人生初栃木!!撮るわよー!!!イソスタに上げまくりよー!!!」

 

「せ、先輩方…!!皆さんがチラチラ見てます…!どうか穏便に…!!」

 

「ほら後輩にまで心配されてんじゃん!いい加減落ち着けアホ2人!!」

 

虹夏先輩に一喝され、少しずつ深呼吸して気を落ち着ける。すーっ。はあ〜。すーっ。はあ〜。…よし。

 

「落ち着きました。みんな。目当ての店にはまだ20分程ある。観光しながらダラダラ向かおうぜ。あっちだ」

 

「落ち着いたときとのテンションの違いがエグいのよね…へー。ここが宇都宮かぁ。なんか…なんかすっごい!?えっめっちゃ都会じゃない!?」

 

虹夏先輩。思っても言っちゃいかんやつだそれ。言葉のニュアンスに(意外と)が付いちゃってんのよ!

 

「きゃー!!凄い!噴水がある!!凄く清潔感がある町並みね青木くん!!」

 

「あっ凄い!路面電車…!新幹線みたいな路面電車が走ってます…!」

 

各々興奮しているご様子。だが残念。今日はそちら方面に用はない。

 

「みんな。気が引かれるのも分かるけど、後にしよう。まずメインの用事をすませてからだ。さあ、こっちだ」

 

「ちぇ〜。青木く〜ん。ちょっとぐらいいいじゃ〜ん。ほら、旅は道連れ、世は情。なんて言うし〜」

 

多分使い所を間違ってるぞそれ。

 

「ほらほら。観光がてら。って言ったでしょ?目当てのハードオプの道すがら。美味そうな店探しといて下さいよ。ただで帰るつもりはないんでしょ?」

 

「はっそうだった!分かったよ青木くん!いろいろ探しとく!おっ美味そうな餃子屋!早速1つ!」

 

「虹夏先輩!!わたし、佐野ラーメンなるものも!興味あります!!」

 

「あっ。わたし…。トチオトメソフトクリームなんてのが気になります…」

 

お。大山てゃナイス。男だけで来ると大体の名物は食えるんだが、どうしても甘いものを見落としがちだ。やはりここは女子ならではのセンスが光るな。

 

みんなでやいのやいの言いながら歩いていると、あっという間に目的地の周辺だ。俺も気になる店の1つでも探しとくべきだったか…。うお。うおお!!デケェ!!なんてデカさだもはや俺が知ってるハードオプじゃねえな!!地元のハードオプの3倍は軽くあるぜ!これは期待できそうだ!!

 

「…うはあ。お、おっきい…」

 

「凄いわねこれは。…此処で揃わなかったら諦めるべきかも」

 

「く、首が痛くなりそうっす…!」

 

口々に皆さんが感想を漏らす。ていうか喜多さん。何気にネガティブボイス差し込むのやめて下さいよらしくないですよ。おし。行くかみんな!電話越しだったけど、ここの店長さんは頼りになりそうだった!さあ!ギターを探しに!レッツラゴー!よ!

 

予想以上の大きさに尻込みする3人を鼓舞し、いざ店内へ!向かうは楽器コーナー!待ってろよ!!ジャンクギター!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「へぇー。君等がねえ〜。ガールズバンドとは予想外だよ。まあ!ギター始めてくれる若者がいるのはいいことだ!!結構結構!!結構毛だらけ猫灰だらけ!ってか!」

 

何かの言い回しなんだろうか?さっぱり分からないが、大山さんは店長に気に入られたらしい。さっきから、3万円以内でいいギターを代わる代わる持ってきてくれる。

 

さっき試奏させて貰ったが、どれもいいものだ。もはやどれに決めても問題なさそうだ。後は好みの色とかか。流石だ店長。いい仕事してるぜ。

 

「みんなはアレなの。これからバンド組むの?」

 

長めの髪の毛を後ろにまとめ上げ、赤いバンダナで髪をしまった見た目の店長が、虹夏先輩に問い掛ける。

 

「あ〜。それもいいですねぇ。まあもうわたしたちは組んでるんですけどね。バンド!」

 

「はい!虹夏先輩!」

 

「へぇ。こりゃ驚いた。おじょーちゃん達はすでにバンドマンなんだ。兄ちゃんは?バンドやってないの?」

 

「…そっすね。残念ながら。組みたいとは思ってるんですけど」

 

そう言うと、虹夏先輩が鋭く反応する。

 

「店長さん!聞いて下さいよ!昔、こいつを誘ったことがあるんですけど断られて!何で断られたかって言ったら!自分以外が全員女だから!なんて訳分かんない理由で!あったまきちゃいません!?」

 

「いやいや!?自分以外男居ないのはじゅーぶん辞退の理由になりますー!大体!俺が入ってたら喜多さんのポジションがなくなるでしょうが!」

 

「ははは。みんなにもいろいろ理由があるんだな〜。…あと、自分以外に男が居ないってのは十二分に辞退の理由足り得ると思うよ…。その女子が可愛ければ可愛いほど」

 

店長ー!分かってくれるか〜!やっぱ男だな。この悩みは男性にしか分からんわ。

 

「かっかわっ!?え〜なんでー」

 

「ホントですよね虹夏先輩。結果的にはリズムギターの枠が空いたからわたしが戻ってこれましたけど、別に青木くんが居ても何の問題もないのに」

 

この話を聞いた店長は、長く少し束になって、目にかかった髪を、耳に掛けながら俺に視線を投げてくる。

 

(女の子にこの男の機微は分からねえよなぁ〜。兄ちゃん。同情するぜぇ〜)

 

(店長さん…!やっぱり理解者は男性しか勝たん!)

 

男同士で謎に通じ合っていると、鏡と向き合ってギターと自身の姿を見ていた大山てゃが、声を上げる。

 

「あ、あの!わ、わたし!このギターがいい!…いいです。はい!」

 

ほおう?どれどれ。その場にいた大山てゃ以外の4人がしげしげと大山てゃの姿を見やる。

 

大山ちゃんが選んだのは。少し大山ちゃんの身体には大きい、黒がベースにピンクのラインが走った、なかなか渋いデザインのレスポールだった。…色から、誰をリスペクトしているかは丸わかりで、少し微笑ましい。

 

「うん!カッコいいと思うよ!決まってよかったね!」

 

「わたしもいいと思う!栃木まで来た甲斐があったわね!」

 

喜多さんと虹夏先輩から合格点が出される。かく言う俺も、なかなかいいギター選んだなと、思っている。

 

「なかなか似合ってるぞ。大山さん。晴れて、新しいギタリストの誕生だな!よしっ。これ貰います。いくらすか店長さん!」

 

「35000。でも、30000に負けといてやるよ。予算30000なんだろ?毎度あり。…いつかそのギターで練習して。バンド組んだら。もしくはメジャーとか。デビューしちまったら!また来てくれよな。サイン飾る場所。あけといてやるぜ?」

 

…かっけぇ。この人もギタリストなんだろうか。どうも俺の周りのギタリストはカッコいい人が多い。星歌さんに、直樹さん。ほんでマッケンジーも入れといてやるか。ほら。大山さんが涙ぐんでる。みんな優しいからな。よかったな!

 

「まあ〜。このセリフ言って帰ってきたやついないんだよね〜。だから頼むよ君たち!ぜひこのハードオプ初のメジャーデビュー!君たちが果たしてくれ!期待しないで待ってるぜ!」

 

ズコーッ!おらんのかい帰ってきたやつ!まあしょうがないのか。それだけメジャーデビュー。狭き門ということだ。きれいにオチがついたところで。

 

「んじゃあ、そのギターを入れるギグバッグをプレゼントするよ。すんません。売り場何処すかね店長さん」

 

「気前いいねぇ〜お前さん。…気に入ったぜ。また来なよ。アンタなら。アンタの友達なら。サービスしてやるよ!」

 

「凄い青木くん。行く先々の店長さんに気に入られてる…!」

 

「わ、悪いですよ先輩!ただでさえお金出してもらっているのにさらにギグバックなんて!」

 

「大山さん!ここまで来たらジタバタしないの!青木くんに!わたしたちに任せなさい!」

 

そのとおりだぞ大山ちゃん。そうだな。でももしどうしても返したいと言うなら。

 

「んじゃあ、後払いな。STARRYの給料から、少しずつ返せ。それでいいさ」

 

「は!はい!必ず!」

 

「よっし!みんな!話も纏まったし帰ろ!もちろん!栃木という栃木を食べ尽くしてからだけど!みんな!お腹すかした!?」

 

「あ…!朝から何も食べてないからペコペコです…!みんなに贈る写真の撮影なら任せて下さい!」

 

虹夏先輩が確認し、喜多さんが応える!俺もそろそろ腹ペコだ!今日の残りの時間は宇都宮観光と洒落込むか!!

 

「青木先輩。虹夏先輩。喜多先輩!今日は本当にありがとうございました。…お金だけでなく、大事なことを教わりました!みなさんの後輩として、少しずつ返していければと!そう思います!!」

 

「うん!!」

 

「全然いいわよ大山さん!!」

 

「おう!待ってるぜ!」

 

去っていく4人の背中を見送りながら、もしかしたら彼女らはホントにプロになるかもな。と。店長は考える。…なにか、お気楽に楽器を買っていく奏者たちとは一味違う。そんな雰囲気を彼女たちからは感じたのだ。

 

「…まあ。俺の勘なんざ、どっかの新宿の酔いどれベーシストと違って当てにならんがね。さあて。仕事仕事。…楽しみだぜ。あんたらが、雑誌の表紙か。もしくはワンページだけでも、飾ってんのを発見するのが」

 

しまった、バンド名聞いとけばよかったかと。店長は独りごちた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ふわあ〜っ!けっこ、ギターって重いんすねぇ!ひっ引っ張られる…!」

 

ギターと同じく、さっき買ってやったギグバックを背負った後輩が、何処かおぼつかない足取りで歩く。まあ、買った当初はそんなもんでしょう。

 

「すぐ慣れるさ。それより何食う!?いろいろあるぞ湯葉に佐野ラーメン!餃子にシューマイ!!」

 

宇都宮の街並みを広げた手で指し示しながらみんなに問う!すると!

 

「まずは軽めの麺者から攻めるよ…!そして少しずつ重くしていき!お腹が限界に達したら、電車に乗ろう!みんな!!お金の準備は万端か!?」

 

虹夏先輩の訓示が読み上げられる!食って喰って悔いまくってやるぜ!!お金だあ!?明日の俺!頑張れ!!

 

「わたしはまだまだ懐に余裕あります!STARRYの給料払いで貸し付けもしますよ!!今日はガンガン食べましょう!」

 

「先輩方!帰りの電車賃くらいは残しといてくださいね!」

 

いつもの如くハイテンションな喜多さんと、すごく冷静な大山さん!そんな廣井さんみたいなミスするかよ!

 

「さあ行くよみんな!まずは佐野ラーメンだ!その後餃子!その後はその時に考えよう!それじゃあ…!レッツラゴー!!」

 

そのセリフさっきの俺のパクリ!…まあいいか!!まずはラーメン!!かかってこい!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…ふっ」

 

「な〜に笑ってるんですか店長」

 

ここは下北沢STARRY。店長は店長でも、ハードオプ店長ではなく、下北沢STARRYの店長である、伊地知星歌は、突然届いた妹からのロインに思わず笑みを作る。

 

「晴れて新しいギタリストたんじょ〜!…でも。もう食べられないよ〜!」

 

との文面に添付された写真。真ん中に最近入った新人の大山。右に虹夏が。困り顔で餃子かな?をほおばりながら視線を送ってきている。左の喜多は、これはラーメンかな?を必死に啜り上げている。手前に出ている指2本がおそらく遥かな?指だけの出演とは随分殊勝だな。

 

「多分、喜多さんがイソスタに写真あげるって言って聞かないから身バレを恐れたんでしょうね。ガールズバンドに男交じると嫌がる層が一定数いますから」

 

「なるほどなPA。んなもん気にしなきゃいーのに。つまんない事気にするねあいつも」

 

そんな雑談をしていると、今日のクルーであるリョウと、ぼっちちゃんがやってくる。…そう。家族と用事があるはずの彼女らだ。

 

「店長。きた?虹夏たちからロイン」

 

「あぁ。今来た。お前らもついていきゃ良かったのにな?まあ、人少ないから、こっちのバイトを選んでくれて助かるけどよ」

 

あうっと。目をバッテンにしてぼっちちゃんが呻く。あぁあぁ違うよ?リョウに言った訳で、ぼっちちゃんに言ったわけじゃないんだよ?と。心の中で言い訳しておく。当のぼっちちゃんに届かないから意味などないが。

 

「…わたしがいっても、空気悪くしちゃうかも。ほら。わたし体育会系苦手だし。虹夏たちのが適任かなと。そう判断した。…当たりだったみたい」

 

確かにな。確実に行く前より仲良くなってそうな4人を見て、思わず口角が上がるが、同時に1つ懸念する。

 

「これさ、リアルタイムだよな。帰ってこれんのかこいつら」

 

現在時刻夜10時。まだ終電はあるにしても、なにか1つでも問題が発生すれば、今夜中に下北に帰ってくるのは不可能になる。…個人的には、そろそろ切り上げて帰り支度をするほうが無難と考える。

 

「あっ…。ホントですね。みんな。帰ってこれるかな…?」

 

ほら見ろぼっちちゃんが心配してる。いらん心配かけやがって。などと一瞬思うが…。少し困り気味でも、楽しそうな写真の中の妹を見て考えを変える。

 

「んまあ。大丈夫だよぼっちちゃん。あいつらだって大人なんだしそこはちゃんとわきまえてるさ。そんなことよりあいつらに頼んだお土産。ちゃんと買ってくるかどうかを心配しようぜ?」

 

少し心配そうなぼっちちゃんの頭を撫でつつそう言っていると、リョウが反応する。

 

「確かに。宇都宮土産。きっちり買ってくるか。これが問題。これ次第でわたしの来週以降の生存率も大きく変わってくる」

 

そんな事を宣い出すので、こちらも頭が痛くなる。

 

「…お前に聞いたわたしが馬鹿だったよ。万年腹ペコベーシスト」

 

かくして。下北の夜は更けていく。やっぱりいつになっても、姉は、妹のこと、心配な生き物で。出来れば日を跨ぐことなく、無事に帰ってきてほしいものだと。遥か遠く。栃木の街並みにいるであろう、妹に心を投げたのだった。

 

「店長店長。綺麗に締めてるとこ悪いけど、わたしたちが行かなかった理由は、何も陽キャタイフーンに巻き込まれるのが嫌だっただけじゃない。ぼっちがスランプ」

 

「あっ、え、えへへ…、普段はわたしが作詞書き上げて、それからリョウさんが作曲するんですけど…。ま、まったく浮かばないので、り、リョウさんの曲のほうが先に出来てしまいました〜。っ!!不味いですかね店長さん!?首ですかねわたし!結束バンド!!」

 

「こんな感じでぼっちのネガティブが止まらない。店長。助けて」

 

…オーマイガ。まあ、帰ってきてから虹夏たちには話すか。今は楽しく旅行させてやろう。…せめて、今だけは。また、帰ってきたら問題にぶち当たるのだから。

 

 

 






二回連続店長さん落ち。これが噂の二回攻撃ってやつか。使い手は少し年配の女性に多いと聞く。ついでに全体攻撃も。…うん?何処からか殺気が…。


あと久々に10000文字近く。すいませんなんか長くなっちゃった。普段の5000字くらいと、どっちが読みやすいかな?
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