空港。それは出会いと。別れの場所。
あまり仲良くない親戚を見送る時でも、少し物悲しい気持ちになるのは何故なんだろう。
遠く小さくなっていく飛行機を見ると、なんかこみ上げるものがあるよね…。
ここは羽田空港。以前は国内線のみ、運航していたが、今は国際線も扱う、日本屈指の、マンモスターミナル。白のワンボックスから、わたしたちは、羽田空港の立体駐車場に降り立った。
「おらー!!遥!!出て来い!!逃げようとしても無駄だ!!」
「何も話さず海外逃亡なんて許さないわよ!観念しなさい青木くん!」
いきり立ちまくった野獣のような2人が先行する。止めても多分無駄なので、せめて指向性を与えておく。
「2人共!探すなら国際線の出発ロビーの方だよ!その中から、アメリカ行きの便をしらみつぶしに探して!!その中にいるはず!!」
「分かったよ!虹夏!!」
「了解です!!虹夏先輩!!」
その言葉を聞いた後、2人は勢いよく、国際線があるターミナルの方へと走り去っていった。先行隊はあの2人に任せよう。ひょっとしたら本当に捕まえてくれるかも。…まあ、羽田空港のこの広さだ。正直、それは望み薄か。
「に、虹夏ちゃん!わたしたちはどうしましょう!?」
「ぼっちちゃん!まだ青木くんの出発時間まではあと2時間ある!わたしたちは、羽田空港の待ち合わせスポットやカフェ、レストランとか、集合できそうな場所を手分けして、探ってみよう!時間になるまで、御飯とか食べてるかも!」
「な、なるほど…!わ、分かりました、行きましょう!」
「うん!ぼっちちゃんはわたしと一緒に!お姉ちゃんたちも、待ち合わせスポットやらなにやら!しらみつぶしに探してみて!よし行こう!ぼっちちゃん!!」
そう言って、結束バンドの残りの2人も、ターミナルへと走り出す。やはり、自分たちの足で探す気か…全くもって…若いね。
「先輩。わたしたちはどうします?」
そう廣井に問い掛けられたので、警戒すべき場所の意見を述べる。…虹夏の指示もまあまあだったが、やはりこういう場面では、経験が物を言うのだ。
「そうだな。青木も青木の姉も、まだ空港自体に来てないって可能性も考えられる。空港の地下には、地下鉄と、モノレールが乗り入れてるはず。そこにはわたしが向かうから、廣井は、その駅から、空港に向かう連絡通路を入念に。PA。PAは、あいつらが、もしタクシーやバスを使って乗り入れた時のため、ターミナルの外の道路と、タクシーやバスの発着場に、目を光らせとけ」
廣井が、おお〜。と声を上げ。PAが、感嘆したような声を漏らす。
「凄いです、店長。具体的で的確な指示。…昔、刑事さんでもやってました?」
「へ。褒めるのは、あいつら捕まえてからだな。…んじゃ、解散。それっぽいの見つけたら、声掛ける前に連絡。逃げられて、雲隠れされちゃかなわん。あとそうだ。最終手段で遥本人に連絡するって手もあるが、これは諸刃の剣だ。まだ保安場を押さえていない以上、使わない方がいい。では…はい。よーいすたーと」
その声を皮切りに、大人組も、羽田空港内に散った。…青木遥。アメリカへのフライトまで、後1時間と半。
「…はあっ、はあっ!」
居ないな。て言うか。羽田空港。めちゃくちゃ広い!こんなに広かったっけ!?待ち合わせ場所のスポットは粗方当たってみたけど、どうやら空振りに終わりそう。そんな事を考えていると、ぼっちちゃんからロイン。
(虹夏ちゃん!粗方レストランやカフェをしらみつぶしに回ってみましたが、それらしい人物は見つけられませんでした…!入店待ちの人の名前も見てみたんですけど…青木くんの名前は…。店の奥らへんまでは、さすがに見れてないんですけど…!)
マジか。これはこのままやってみても駄目そうだ。いったん作戦を練り直さなければ。…リョウたちの進捗はどうだろう?あまり期待はせずに、ロインしてみる。
(見つからん!おのれ遥何処に隠れた!?)
(虹夏先輩!どうやら出発ロビーにはまだ現れてないみたいです!2人でしらみつぶしに探しましたが、それらしい人物はいません!!)
…だめか。仕方ない。
(皆いったん集合!作戦を練り直そう!わたしたちが出発ロビーに向かうよ!2人は、その間保安場に目を光らせといて!わたしたちはチケットがないから、そこ超えられちゃったらアウトだからね!追えなくなっちゃうから!)
(了解!虹夏!!)
(分かりました!!虹夏先輩!)
やれやれ!そんな感じは何となくしてたけど、苦戦しそうだなヤッパリ!青木くん!何処言った!!隠れてないで出てこい!!
青木遥はすでに空港に居た。姉と一緒に。ただ、STARRYの面々にとって不幸なところがあったとしたら、それは2人が選んだ集合場所だろう。飛行機が行き来するのを1番近くで眺められる、展望デッキ。そこに2人は居た。コーヒーを片手に、飛行機を見ながら、世間話が出来る場所。という、青木遥たっての希望で選ばれたこの場所。残念ながら、探してる場所が場所なので、見つかるわけがない。轟音を立てながら離発着を繰り返す、飛行機たちの腹を見ながら、青木遥は溜め息をつく。
「そもそものところを聞くけどさ〜。あんた、ホントに俺の姉なわけ?なんか似てなくない?」
そこからすでに疑問なのだ。もし、この姉が偽物であったとしよう。ならば俺はこれから何処に連れて行かれるのか。怖っ。いつでも走って逃げれる準備をしておかねば。
「戸籍上、間違いなくね。お父さんも間違いなくお父さんだよ。なんなら調べてみる?」
どうやら自信がありそうだ。取りあえずは、変なところに連れてかれる危険は減ったか。
「ふふ。嬉しいよ。そんなに疑っているのに、来てくれるなんて。でもさ、見送りとかは来ないの?仲良くしてくれた子とか、いたんじゃない?」
ああ。いたさ。滅茶苦茶後ろ髪を引かれる思いだ。だがもう引き返せない。
「…いたんだけど、彼女らは今大事な用事の真っ最中だ。俺の個人的な都合で、騒がせたくない」
「…ふ〜ん。女の子なんだ。憎いね〜。隅に置けないねっ」
…あ〜。なんか今のイントネーションの切り方。母親に似てるな。今なんか唐突に思い出した。…やっぱり血縁なんだな。などと関係ないことに思考を投げていると。
「…でも。まだ君とは出会って間もないけど、君は女の子って生き物を甘く見てるかもよ?そろそろレコーディングってのが終わる時間なんでしょ?今頃、血眼になって探してるかも」
見透かしたかのような発言に、背筋が寒くなる。…確かに、レコーディングが終わって、なんも連絡がないのはおかしい…。え、マジ?
「もしその娘達が来てたんだったら…。話ぐらいは聞いてあげてよ。連れてきた本人が、何言ってるんだなんて。思うかもしれないけど。…黙って出てきちゃったんでしょ?すれ違った思いのまんま、何処かに行くのは寂しいもんだよ。…わたしも憶えがあるし」
すれ違ったまんまか…。確かに、そうだな。
「もちろん。話ぐらい聞くさ。いくらでもな」
俺の答えを聞いた後、目の前の自称姉はクスッと笑った。その笑い顔は、思い出の中の母親に実によく似ていた。
「いた!?リョウ!喜多ちゃん!」
「いない!くそ、もう保安所の向こう側か!?」
「わたしたちが来てからは、通っていないと思います!」
「よし、取り敢えずこの場所確保して…!お姉ちゃん達の進捗を聞こう!」
現在場所、羽田空港の保安場。所謂、身体検査を受ける場所だ。空港内に持ち込み禁止のものは、ここで改められ、場合によっては外すように指示されたり、取り上げられたりしてしまう。また、ここから先は、飛行機のチケットを持っていないと入れないので、出発していく人と、見送りに来た人の最後の別れの場所でもある。
つまり、ここを通らねば飛行機には乗れない。故にここを抑えとけば、すでにここを通過していない限り、いずれは青木くんに会えると。そういう算段だ。
お姉ちゃんにロインをうつ。…だが、流石のお姉ちゃんでも、この羽田空港の広さだ。目立った成果は上げられてないだろうな。
(どう!?お姉ちゃん!青木くん見つかった!?)
(いや。交通機関を中心に洗ってみたが…。キツイな。フライトの時間まで、後1時間だろ?最終手段使うか。お前ら今何処にいる?)
(えっ!?ほ、保安場!お姉ちゃん、最終手段って…)
(いや、遥本人に連絡とるんだよ。よほどじゃない限り、会ってくれるだろ?)
……………………………。
ああああああああああああ!!!!!!
なんで気付かなかったんだ!そうだよこんなまどろっこしいことしないで本人に連絡取ればよかったんだ!焦りすぎて忘れてた!!
(ふっ…。まだまだだな妹よ)
うるさいよ!!
「みんな!!こーなったら青木くん本人にロインするよ!!居場所教えてもらおう!」
「そ、そうか!虹夏その手が…!」
「す、凄いです!完全に失念してました…!!さ、さっそく青木くんにロインを…!」
結束バンドの、血気盛んな、先攻隊である2人と話していると、それよりは少し冷静さを保っているぼっちちゃんから話しかけられる。
「に、虹夏ちゃん、あの…探す必要、ないかもです…」
「え?なんで…、」
「ま、前、見て下さい…」
言われたまま、保安場を背にして反対側。人いきれでむせ返る空港内部方面。
「本当に来てたのか…」
「あら〜、あんなに可愛い娘が4人も。誰が彼女なのぉ?」
「ちょっ黙っててくんない?」
待ち人来たる。空港内をしらみつぶしにしてまで探していた探し人が、目の前に現れていた。
「青木くん!?」
わたしがそういったのもつかの間に。
「はぁーるーかぁー!!!!!」
傍らのリョウが駆け出していた!!喜多ちゃんもそれに一瞬遅れて続いている!!ちょっ2人共!暴力はなしだよ!そう言おうとしたが、遅かった。
ぱあん!!!!
リョウの右平手打ちが、青木くんに炸裂していた。突然の出来事に、流石の青木くんも目を白黒させて、呆けた表情をしている。だが、そんな事はお構い無しに、平手打ちした返す手で、リョウは青木くんの胸ぐらを掴む。
「り、リョウ先輩!!だ、駄目です!!」
ぼっちちゃんが叫んで、リョウを制止しようとする。ぼっちちゃん。そんなに大きい声、出せるんだ。…仲間のためだもんね。ホント、成長したよね。…分かってる。出てくる前にわたしは言った。あの2人を止めるためにわたしも行くって。だから、わたしは結束バンドのリーダーとして。あの場を納めるべきなんだろう。…でも。同時に。
「ぼっちちゃん。待って。もう少しだけ、リョウにやらせてみよう。初めてなんだよ、あんな。前のめりな、感情に焼かれた、みたいなリョウ。…本当に、まずくなりそうだったら止めるからさ」
「に、虹夏ちゃん…!」
普段は涼しい顔して、感情なんかおくびにも出さない。無表情な親友。…今は違う。あれがリョウが抑えてた。胸の内から湧いて出た、本物の感情なら。わたしは。無理にそれを抑えたくはない。ぼっちちゃんを手で制して、事の成り行きを見守る。すると。
「…嫌なんだ。もう、嫌なんだよ!!」
リョウが、青木くんに叫んだ!
「わたしはもう嫌だ!一緒に音楽をやってきた仲間が、わたしの前からいなくなる!!前のバンドの時もそうだった!わたしが好きだったあいつは、どんどんスタイルも姿勢も変えて…!わたしの前からいなくなった!遥!お前も!わたしの前からいなくなるのか!!わたしと!わたしたちと、ずっと一緒に、音楽を…、してくれるんじゃ、なかったの…?」
「…え…。あ…」
だんだん、言葉が尻すぼみになり。リョウの腕から力が抜け、青木くんの胸ぐらが解放される。一筋。リョウの頬に、伝うものがあった。流石の青木くんも二の句をつげないようだ。…すると、今度は。
「…少しは。分かりましたか。青木くん!置いていかれる!ただ、何も言わないで置いていかれる寂しさが、少しは!伝わりましたか!?」
喜多ちゃんが叫ぶ。今度は、青木くんは、喜多ちゃんに向き直り、ただ、見据えている。となりのぼっちちゃんは、気が気じゃないのだろう。3人の一挙手一投足に、あっ!とか、うっ!とか、声を出しながら見守っている。
「わたしには分かりません!あなたや!ひとりちゃんの気持ちは!だってわたし陽キャですもん!嬉しいこと楽しいことがあったら、SNS使ってでも共有したい!陽キャですもん!あなたは!陰キャには少し遠慮めいた気持ちがあって!大事な事や気持ちを伝えられないこともあるって!言ってた!確かに、ひとりちゃんも誕生日が間近に迫ってるのに教えてくれなかった時もあったわ!」
あうっ。と。隣から声が漏れる。まさかの流れ弾。まあ、言われてもしょうがないよぼっちちゃん。あれはわたしもまだ納得してないからね!
「その結果がコレよ!あなたに関わりが深い人はみんな、あなたを心配して、ここまで来てる!リョウ先輩に至っては、泣かせまでして!コレは本当に、あなたが想定していた結果なの!?こんな風になるって!ちゃんと分かってた!?」
「…。そ、それは…!」
喜多ちゃんは青木くんを見つめる。少しだけ、目に浮かぶものが、あるようにも、見える。
「…青木くん。流石にもう分かったでしょ。あなたは、あなたが思うほど、わたしたちにとって小さな存在じゃない…!何処かに行くなら、教えてよ!いつだっていい!わたしたちが大変な時期だって、構わないから…!!あなたに何も言われないで、置いていかれるのは、寂しい…!」
そこまで言って、喜多ちゃんは俯く。着てきたスカートの裾を、言葉とともに、きつく、握りしめながら。
「…喜多さん」
少しだけ心配そうに、先程とは変わって、何処となく小さく見える喜多ちゃんを眺める青木くん。それを見やった後。
ぽんと。ぼっちちゃんの肩を叩いて、顔を合わせる。少し不安そうなぼっちちゃんの表情を見ながら。ごめんね。先、譲って。と。アイコンタクトをしてから、青木くんの下へと、向かった。
「痛かった?青木くん」
ハッと顔を上げる青木くん。うん。ちゃんと左頬に紅葉型に腫れが確認できるな。手加減してないなリョウのやつ。
「ごめんね。リョウに代わってわたしが謝るよ。でも、わたしもリョウと気持ちは同じ。大体言いたいことは前の2人が言ってくれたからもう言わないけど。…何か。言っていってよ。…寂しいじゃん。多分。みんな恥ずかしいから口に出さないだけでさ。此処にいる人はみんな。青木くんに何も言われずに置いてかれるのは、寂しい、って思う人たちなんだと、思うよ?」
少し、顔を伏せてしまって、髪の毛で目元が見えなくなった、青木くんに。語りかけるように呟く。
「…うん。うん。ありがとう虹夏先輩。みんな」
囁くような声量で、青木くんから言葉が返ってくるので、それを聞き届けた後。
「わたしからは、最後に1つ。…必ず、戻ってきてね。…また、黙って帰ってこないとか、やだよ…?お父さんには、初めて会うんだよね。色々、あるだろうけど、帰ってきたら、ちゃんとお話聞かせてね…?」
それだけ言うと、くるりと青木くんに背を向け、歩き出す。すると視界に収まるのは、割りとハッキリ腫れてる青木くんのほっぺたを見ながら。
「や、やりすぎたかな…?痛そうだな、あれ…」
と、今さらながらに少し青ざめてるリョウ。カッコつかねえ女だなもう。
「いーんですよリョウ先輩!いい薬ですよあのニブチンには!」
とは喜多ちゃんの弁。今回わたしは喜多ちゃんの意見に賛成。…そして、視界の最後にぼっちちゃんを捉え。
「ごめん。先譲ってもらっちゃって。待たせたね」
そう言って肩を叩く。すると、ぼっちちゃんは小さく頷き。青木くんの下へと歩み寄って行った。…なんとなくその背中から、台風ライブの時も、オーディションの時も放たれていた、ギターヒーローの時の、ぼっちちゃんの雰囲気が流れ出ていた、そんな気がした。
「な、なんか。照れます。青木くんに、何か言うの。わ、わたしは。言いたいこと。みんなが言っちゃったから。なんか別にもう、言うこと、ない…」
「…そうか?この際だ。言いたいことあったら、言ってくれよ。今さら、遠慮なんかなしだぜ?もはや、意味ないし。前の人たちが、凄かったから」
開き直ったのか。ニヤリといつもの調子で笑い、表情をつくる青木くん。でゆうか2人とも。前の人達の意見が凄い。みたいなのを共通認識にするのやめてくんない?やじゃん。なんか嫌じゃん。わたしたちがなんか、滅茶苦茶言ったみたいで!そんな事を思いながら、事を見守る。
「わたしは言葉で伝えるのは苦手です。あ、青木くんと同じで、陰キャだから。さ、さんざん、コレまでのマズイ所は、皆に、叩かれたでしょうから、わたしは、その…青木くんが、アメリカに行った時の話を…」
「あ、青木くん。お父さんと会ったら。色々話してみて下さい。悲しかったことも寂しかったことも。嬉しかったことも楽しかったことも全部。あなたの話なら、お父さんは全部聞きたいと、勝手に思います。…きっと。親ってそういうものだと思うから。そしたら、会ってなかった、十数年の時間も、少しずつ埋まると思います。…頑張ってください。青木くん。…少し寂しいですけど、この下北沢から、応援しています。…後は、みんなと一緒です。…必ず、帰ってきて下さい…」
「うん。分かった。ゴッチ。みんな。必ず帰ってくる。…親父とも、よく話してみるよ。…本当にありがとう」
青木くんは、まず初めにぼっちちゃんを見て、柔らかい笑顔を浮かべた。そのまま、リョウ、喜多ちゃん。そしてわたしを見回した後、深々と頭を下げた。
「やべぇなコレ。下手な映画見るより面白いんだけど」
結束バンドと青木遥の邪魔にならぬよう、少し離れた場所にあるベンチスペースから、事の成り行きを眺めていた、ヤサグレ三銃士とプラスアルファ。その急先鋒である、伊地知星歌はそう漏らし。
「いや〜ん♡うちの弟が可愛い娘しかも4人に、あんなに熱烈に思われてるのを見ると、不謹慎だけど興奮しちゃうわ〜!もっと!もっとやって!!」
「あひゃひゃ!!あの弟にしてだよ!この姉ろくでもねー!
!でも気持ち分かる〜!メチャおにころ進むわ〜!」ずぞぞー!
「迸る青春の奔り…!湧き出る汗と情熱…!!ああっ眩しい…!わたしにもあんなに誰かを思い思われた!そんな青春が、あったんですかねぇ…!?」
シランガナ。おいおい。あいつらは見世物になるつもりはなく、真面目にやってるんだぞ。そんな見方したら失礼だろ。気持ちは分かるけどな!!めっちゃ!分かるけどな!!
最早何処か生暖かく、青木遥と結束バンドを見守る、ヤサグレ三銃士とプラスアルファ。その目には、かつて自分たちが持っていて、失ってしまったものに対する、ある種の憧憬のような物が宿っていた。…そして、時は進み。それは訪れる。
「じゃあ。楽しかったですよ。廣井きくりさん。PAさん。伊地知星歌さん。結束バンドの皆さん。少しの間だけ、弟を借りていきます。ちゃんと返却するのでご安心ください。…PAさん。次会う時は、本名を教えてくださいねっ」
「あはは〜。わたしの本名なんてあるのかな〜?分かりました〜」
「あははは!いや本名はあるでしょ!…あるよね?…おねーさんも、成人したら一緒に飲もうねぇ〜」
「ああ。今度はゆっくり遊びに来なよ。下北なら案内できるし、なんならうちでライブ、見ていってくれてもいい」
2人の飛行機の時間が近づいたので、舞台を保安場の目の前に移す。わたしたちがすったもんだしている間に、なんかおねーちゃん含めた大人組と、青木くんのお姉さんは、打ち解けたみたいだ。…何喋っていたんだか。
「…ほらあんたも。なんか言うことあんでしょ。うりうり」
青木くんが、隣の人から肘でぐりぐりされる。少しうざったそうにそちらを見た後、わたしたちに向き直る。
「ご、ごめん遥。割りと本気で叩いちゃった。い、痛かった…?」
1番最初に口を開いたのはリョウだ。なんからしからぬ殊勝なセリフ。青木くんもそう思ったのだろう。すっと口元を崩す。
「いえ。すんません。あの1発で、ようやく自分の阿呆さに気付きましたよ。…リョウ先輩。ありがとう。大事な事に気付かせてくれて」
青木くんの返事を聞いた後、リョウは少し安心したように表情を崩した。喜多ちゃんは、青木くんに対して、人差し指をビシッと!真っ直ぐ突き刺した後。
「次またリョウ先輩を泣かせてみなさい?その時はわたしが直々に、黄金の右で、アメリカまでぶっ飛ばしてあげる!」
「うっ…!き、肝に銘じます…」
「よし!…青木くん。ごめんね。最後に厳しいこと言って。気を付けて。怪我なく帰ってきてね…?」
「ああ!ありがとう喜多さん!」
「青木くん!急ぐことないけど、なるべく早く帰ってきてね!心配だから!そんで!お父さんと何話したか!いろいろ教えてくれると嬉しいな!」
「ああ、分かったよ虹夏先輩!色々済まして、落ち着いたらすぐに帰ってくる!心配しないで待っていてくれ!」
「うん!!」
そして、青木くんは最後に、ぼっちちゃんに向き直る。
「…あ、青木くん。わたしは、みなさんほど上手には喋れない…、な、なので、一言だけ。け、怪我なく。無事に帰ってきてね…?」
「…ああ。ありがとうな。ゴッチ。みんな!!…レコーディングしてるみんなのノイズにはなりたくない。コレも紛れもなく本心なんだけど。そのせいで心配させたり、悲しましたりしてたら、意味ないよな。最期に悔いを残していくとこだった。みんなにもう一度会えてよかったよ」
「山田リョウさん」
名前を呼ばれて、リョウが顔を上げる。先ほどの影響からか、少し目が赤い。
「喜多郁代さん」
一瞬、ムッとした顔になるが、すぐに仕方ないか。というような、苦笑いに変わる。わざとじゃないと思うから、許したって!
「伊地知虹夏さん」
「…はい!」
「そして、後藤ひとりさん。ありがとな。来てくれて。みんなのおかげで楽しかった。…しばしの別れだ。向こうで自分のことに決着つけたら、すぐ戻って来る!また会おうぜ!」
最後に、青木くんは、右の手を顔の横に開いて、わたしたちに笑いかける。所謂、ハイタッチというやつだ。
「行って来い!遥!!」ばしっ!!
「気を付けてね青木くん!」ばしぃっ!!
「時差には気を付けるんだよ青木くん!よく寝るように!!」ばしぃっ!!
「いっ、いってらっしゃい!!青木、遥くん!!」ばちっ!!
わたしたち4人とハイタッチした青木くんは、にやりと笑って、左手でサムズアップを作った後に、それ以上は喋らず、背を向けて保安場へと歩き出した。隣にいた青木くんのお姉さんがそれに続く。…ああ。行っちゃうんだな。そのまま2人は保安場をくぐり、曲がり角を曲がって、ここからは見えなくなった。…最後に、見えなくなるときに、こちらに向けて、人差し指と中指を立てて、振ってくれた。
「…行ったか」
「感動的な別れだったね〜。お姉さんおにころ進んじゃう」
「お前さっきのイザコザをエンタメか何かと勘違いしてない?」
廣井さんにお姉ちゃんが的確にツッコミを入れている。ホントだよ、楽しんでるんじゃないよ全くっ。
「…帰りましょうか。名残惜しいですけど」
PAさんが、少し寂しそうに呟く。
「だな。明日も仕事だ。おめ〜らも、明日学校だろ?全員、家まで送ってってやるから、車乗れ」
「えっえっ…!?でも店長さん!わ、わたしは、金沢八景…!」
「気にすんなぼっちちゃん。こんな時間じゃ、1つ間違いありゃ、終電になっちまうだろ。それじゃ、ご両親に申し訳が立たねぇ。心配しないで、送られてくれ」
「あ、ありがとう、ございます!」
全員で、羽田空港から、車が止めてある、立体駐車場へと向かう。途中廣井さんが、まだやってるオシャレそうなバーとか居酒屋とかに興味が惹かれるのを諌めながら。そして、空港の飛行場をパノラマに映す、大きな窓ガラスの前で、何の気なしにみんなの足が止まった。いつの間にか日も落ちて、とっぷり暗くなった飛行場には、飛行機と誘導灯の灯りだけが、キラキラと揺らめいていた。…行く先が分からない。1機の飛行機が飛び立っていく。全員で、それを見送る。…あの飛行機に、青木くんも乗ってるのかな。…そう思った瞬間。
「…うっ。ぐすっ…。す、すみませっ…」
啜り泣く声。反応して、その方向を見ると、ぼっちちゃんが、涙を零していた。…そっか。そうだよね。悲しいよね…。わたしが動くよりも早く。ぼっちちゃんの肩に手を置いた人物がいた。廣井さんだ。
「…分かるよ。ぼっちちゃん。なんで夜の空港って、悲しくなるんだろうね。雰囲気かな?…すぐ帰ってくるよ。よしよし」
「うっ…。うう。ううう〜…」
ぼっちちゃんの背中を優しくさする廣井さん。それを見ながら、小さくなっていく飛行機を見送る。
「ふん。遥め。ギルティ。ぼっちちゃん泣かせた罪だ。しばいた後に、STARRYでこき使ってやるから、…さっさと帰ってこいよ。もちろん、自分のやるべき事をやってから、な」
「おお〜♪店長カッコつけましたね〜♪」
「うるせ。減俸にすんぞ」
「それは勘弁…ふふっ」
いつも通りの、お姉ちゃんとPAさんのやり取りを見ながら、わたしもぼっちちゃんに歩み寄り。
「さあ行こう!ぼっちちゃん!心配しないでも、すぐ帰ってくるよ!そう言ってたし!」
そう言いながら、ぼっちちゃんに自分のハンカチを手渡した。
「にじがぢゃん…!ううっ、あ、ありがとう〜…」
「せっかく羽田まで来たんだから、なんか食べて帰ろうよ」
ぼっちちゃんの背中をさすりながら、リョウはこんな事を言い出す。こいつもういつも通りか。腹ペコベーシストめ。
「いいですね先輩!!キャー大田区の食事処!イソスタ更新よー!!」
片手でぼっちちゃんの頭を撫で撫で。もうかたっぽの腕を突き上げて、リョウに賛成の意を示す。器用だなあ喜多ちゃん。
「明日早いんだから勘弁しろよ…またの機会にしようぜ。それこそ、今度遥を迎えに来た時とかな」
「ちぇ〜」
そんな会話を交わしながら、今度こそ、帰るために、立体駐車場へとみんなが足を向ける。わたしは、今一度パノラマの空港に振り返り。
…みんな。ぼっちちゃんも。待ってるよ。…待ってるから。
誰に聞かれるでもなく、広がる夜空に気持ちを投げた後。みんなに遅れぬように、足を早めた。
そして。それから3週間が流れた。
海外には行ったことがない…。今は特に、円安なので。昔ならばもう少し行きやすかったんだろうな〜。
アメリカって国は、精緻な部分と、大胆な部分が、豪快に二分してそうだ。