【完結】 ギター爪弾きのバラッド   作:はま0821

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思い付いた短いのをいくつか投稿したいと思います。いろいろと回収し損ねた伏線もあるしね。今回のお話は伏線うんぬん関係ないけど。


本編終了後のエクストラステージ
シャッフルオブロック! 前編


 

 

「「「こ、声が出ない〜!?」」」

 

(あ、あうう…す、すみません…!)

 

「あらら」

 

こちらの場所は、ライブハウスSTARRY。上記は、ライブを3日後に控えた結束バンドと喜多郁代のやり取りである。ちなみに喜多郁代の方は、本人の申告通り声が出ないため、フリップに自身の意志を書いて応対している。

 

「えっ喜多ちゃん!いつから出ないの声!?」

 

(えっと。2日くらい前から…)

 

「病気?郁代」

 

(昨日病院行ったんですけど、なんか喉の疲労?みたいなものが溜まっているらしくて、少なくとも1週間は安静にせいよ?と…)

 

「「い、1週間…!」」

 

伊地知虹夏と、山田リョウ。2人が驚愕の表情を浮かべる。3日後のライブにはどう足掻いても間に合わない。どうしたものか。結束バンドの年長でもある2人は一瞬思考を迷わせていると、隣で俯いていた結束バンドのリードギター、後藤ひとりが喜多郁代に声を掛ける。

 

「い、郁代ちゃん!お医者さんに言われたんだから、無理しちゃダメですよ…!い、郁代ちゃん自分の責任だから、って無理しそうです。お医者さんが1週間は安静にしなさい。っていうぐらい喉の状態が悪いんです…、そんな状態で無理したら、ホントに喉に傷が付いちゃうかも…そんなの絶対に駄目ですから…!」

 

(ひ、ひとりちゃん…!ご、ごめんね…。みなさんも…)

 

喜多郁代がフリップを出すと、結束バンドのメンバーは三者三様の表情を作った。伊地知虹夏は目を閉じて顎に手を置き、考え事をしているような。リョウは目を細めて、致し方なしか。と言うような。後藤ひとりはただただ、喜多郁代の体を心配しているような表情だ。表情1つで結束バンドのメンバーの性格の違いが見て取れる。

 

「…喜多ちゃんがこんな状態じゃ仕方ない。お姉ちゃんに言って今回のライブは辞退しよう。ノルマ代は丸々払うしかないね」

 

虹夏が決断を下す。だが、リョウが抗議の表情を浮かべる。彼女は根っからの金欠。まあ自身の浪費癖が原因なのだが。ノルマ代払うほど金に余裕がない!ここで初めて表情が真剣味を帯びる。

 

「し、仕方ありませんよね…。び、病気ですもん」

 

後藤ひとりは、喜多郁代を庇うような発言だが、当の喜多郁代はその言葉を良しとしないような表情。そしてフリップに文字を走らせ。

 

(今回のノルマ代はわたしがお支払いします!わたしの都合でライブができないわけですから!皆さんに迷惑はかけられません!)

 

一瞬山田の表情がぱああっと明るくなる。いくら金欠とは言え後輩の悲痛な決意表明を聞いてその表情はさすがにライン超えではなかろうか。虹夏も恐らくそう思ったのだろう。リョウの脇腹に突っ込み手刀をグサリと刺し悶絶させたあと、喜多郁代に語りかける。

 

「喜多ちゃん。気持ちは分かるよ。でもそれはさせられない。わたしたちはバンド。家族。なんでしょ?喜多ちゃんの言う家族は、喉を痛めて参ってる子に1人でノルマ代を払わせるような、そんな事をするのかな?」

 

(…!!そ、それは…!)

 

虹夏の言葉に、隣で聞いていた後藤ひとりも同調する。

 

「迷惑だなんて思いませんよ郁代ちゃん。…わたしたちはチームです。誰かが追い詰められた時は、周りのみんなでカバーします!郁代ちゃんの喉も、ノルマ代だってそうです!郁代ちゃんが気に病むことなんかありません!」

 

キッパリと言い切る。山田だけは少し微妙な表情。ガメつい女である。だが、流石にそこまで分からず屋でもない。顔にはしっかりと、諦めの色も浮かんでいる。…のだが。どうもそれだけではなさそうな気もするのだ。

 

「んじゃ仕方ないけどお姉ちゃんにー。」

 

「待った虹夏。諦めることはない。ここにスーパーベーシストがいるでしょ?」

 

「うん。いるね、金欠ベーシストが。…何が言いたいのさ?」

 

「わたしが歌えばライブできる。ノルマ代払わなくて済む!」

 

執念を発揮するリョウ。そんなにノルマ代を支払いたくないのか。

 

「ちょちょちょリョウ。確かに歌えるのは知ってるけど、わたしたちの持ち時間、3曲分だよ?1人で歌い切れるの?」

 

虹夏のその言葉を受けて、リョウはなぜか自信満々に。

 

「わたしの体力じゃ無理!」

 

腕組した虹夏の肩がカクッと下がり、後輩2人がずっこける。

 

「ほら〜。やっぱり無理だよ〜。お姉ちゃんに謝って辞退するしかないって〜」

 

虹夏がリョウを諭す。だが、当のリョウは何か考えがあるのか。不敵に笑いながら、言葉を返す。

 

「わたし1人ならね。郁代。言葉を借りる。わたしたちはバンド、つまり家族。家族が開けた穴は家族が埋める。わたしたちの持ち時間も丁度3曲分。わたし、虹夏、ぼっち。3人持ち回りで、郁代の穴を埋めるためにボーカルを廻す!ってのはどう?」

 

「ふはっ」

 

あかん。今まで黙って聞いていたけど、あんまりとんでもないことを言い出すもんで思わず笑いが。

 

「なんか可笑しかった?遥?」

 

心外だというように、リョウ先輩はジト目で俺を睨めつけてくる。

 

「…ふっ。突拍子のないようで、きちんと裏打ちもある、実にリョウ先輩らしい案ですよね。俺は面白いかと」

 

相棒のギターのワックス掛けをしながら、俺はリョウ先輩にそう答えた。

 

♪♪

 

 

 

 

 

 

 

「ちょっと青木くん!それにリョウ!頭沸いてるのわたしたち持ち回りでボーカルなんて!あと3日しかないんだよ間に合わないって!」

 

焦りながらもっともな理由を説く虹夏先輩と、その隣で涙目になりながら首を千切れんばかりに縦に振るゴッチ。頭沸いてるとは失礼な。ちゃんと論拠はありますよ。

 

「いや。ゴッチは前に歌っているのを聴いたことがありまして。なかなか綺麗で儚げで良い声をしてて。ボーカルに向いているなって。練習すれば1曲くらいならなんとかなるのかな?と」

 

ふええ…。と情けない声を出しながらゴッチが後ずさる。となりの喜多さんはゴッチと対象的に、ぱあっと明るい表情。喉を痛めてなかったら騒いでいたんだろーなーと思うほどの、会心のきたーん!!光線を放っていた。

 

「虹夏も。なんか自分じゃ下手とか言ってるけど、カラオケで歌う時は普通に上手い。1曲なら余裕」

 

リョウ先輩が虹夏先輩の歌唱力について補足説明をしてくれる。へえそうなのか。確かになんか前、下手だからって自分をボーカル候補から外していたけど。と思考すると、うぐ。と。如何にも痛いところを突かれた!みたいなリアクションをして、虹夏先輩も後ずさる。だが。

 

「で、でも。わたしはドラム叩きながらボーカルなんて器用なことはできないよ。残念だね青木くんにリョウ!」

 

ビシリとこちらに指を突きつけながら言い切るが、それはあまり問題にはならない。なぜなら。

 

「何、虹夏。虹夏がボーカルかます時は打ち込み音源使おう。虹夏自身が叩いたドラムの音源」

 

俺が言おうとしたことを先にリョウ先輩が説明する。これなら問題なく虹夏先輩はボーカルに集中出来る。

 

「因みにゴッチがボーカルやる時は俺がリードギターやってあげるよ!そしたらゴッチも集中出来るでしょ?」

 

ナイスアイデアとばかりにゴッチに提案するが、相変わらずの涙目で首をブンブン横に振られる。なんだよ嫌なのかよ、やってみりゃいいじゃん何事も。などと少し残念がっていると、リョウ先輩から話し掛けられる。

 

「マジか遥。初めてじゃね?遥がSTARRYのステージ上がるの」

 

「およ?そうでしたっけ?ならばその初めてのステージで伝説残したろうかな〜」

 

軽口を叩きつつリョウ先輩と雑談していると、後ろから鋭く突っ込まれる。

 

「「勝手に話を進め」」るな!!」ないで下さい〜!!」

 

なんだいなんだい。全く。ようやく盛り上がってきたというのに。

 

「なんですか?虹夏先輩、ゴッチ」

 

「なんですかじゃねんだよ!演るって決めたわけじゃないからね!」

 

「ただでさえ無理くりなのにあと3日だなんて〜!む、ムリですう〜!」

 

「ならばどうすんだ。大人しくノルマ代払って可愛い後輩にトラウマ背負わすの?」

 

リョウ先輩がもっともらしい理屈を並べつつ喜多さんの方を見やる。この守銭奴、絶対お金払いたくないだけだわ。と思いつつも何故か、有無を言わさないような迫力があった。

 

「…うぐ」

 

虹夏先輩が気圧される。騙されてますよ、目の前の女はガチでノルマ代払いたくなくて悪足掻きしてるだけですよ?と心の中で呟くが、多分聞こえていまい。この隙に、喜多さんに気になったことを聞いてみようか。

 

「因みに喜多さんは、声出せない以外は健康なの?熱とか、ある?」

 

こう聞くと喜多さんは首をフルフルと横に振り。

 

(いえ。喉以外は健康体って言われたわ!)

 

その答えを聞くとリョウ先輩が。

 

「なら郁代にも参加してもらおっか。リズムギターで。ほら、郁代言ってたじゃん?ぼっちを支えるギタリストになるって。きっと今がその時」

 

口が上手いなこの人。なんつ〜か、人のツボを心得ている。どう言ったら人がノッてくるか、とか。言われた喜多さんは、まさにリョウ先輩の術中だろう。目を爛々と輝かせて。

 

(や、やります!今のわたしにはコレぐらいしか出来ませんがやらせて下さい!きゃーひとりちゃん!夢だったわ!あなたをギタリストとして支えるの!!)

 

きたたーん!!と沈んでいた喜多さんが一気に勢いづく。そんな喜多さんの勢いにはもはやゴッチもどうすることも出来ず。ただ両の肩を掴まれてガックンガックン揺らされるしか術はなかった。

 

「上手いもんですね口八丁手八丁。この流れは想定通りですか?」

 

隣でシメシメと含み笑いしている腹黒ベーシストに聞いてみる。

 

「ノルマ代払いたくないも勿論あるけど、わたしがあの2人のボーカル聴いてみたい、ってのもある。あと、この先なにが起きるかわからない。今日みたいに郁代になにかがあった時、バンドとして取れる選択肢は多い方が良い。そうじゃない?」

 

そう言われるとなにも返せんな。今日のリョウ先輩は口が上手い。全て掌の上だ。…3日後。かなりキツイが、もはややるしかないな。

 

「やけに口が上手いじゃんリョウ。…もしかして、想定してた?こういう事態」

 

上手くリョウ先輩に転がされて、内心悔しそうな虹夏先輩にそう問われるも、リョウ先輩は不敵な笑みを浮かべながら、言葉を返さない。

 

「…ふう〜。仕方ない。やるしかないよぼっちちゃん!ライブで歌いたいのに歌えない!喜多ちゃんの無念を濯げるのはわたしたちしかいないって!前向きに考えよう!」

 

「あ、あうあう、虹夏ちゃん〜!確かにそうなんですけど心が!まだ心の準備があ〜!」

 

溜息を付きながら虹夏先輩が覚悟を決める。そしてゴッチに同意を求める。

 

「ぼっち」

 

(ひとりちゃん!)きたーん!!

 

他の結束バンドも追随する。憐れゴッチ。ああなっちまってはヤツに出来ることなど何もあるまい。ただ流されるのみ。…俺がゴッチに出来ること。…精々ゴッチのリードギターを完璧に覚えて、本番みんなには気持ちよく歌ってもらうぐらいしかあるまい。喜多さんが開けてしまった穴を埋めるため。結束バンドの今後のために、存分に俺の腕を捧げさせてもらおう。結束バンド。頑張れ!!

 

 

 

 

 

 

♪♪

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

山田リョウの恐ろしい所は、全くの無策で言い出した事のように思えることにも、ある程度の理屈付は有る所である。例えばセトリ。誰が何を歌うかなど、1番揉めそうなものだが、リョウ先輩の頭の中に青写真があったためスムーズにいった。虹夏先輩は、文化祭ライブで披露した「何が悪い」あの曲を虹夏先輩ボーカルでお届けだ。…言われてみれば確かに、優しくて温かい中にも少しの寂しさを感じさせる歌詞が虹夏先輩に似合っている。リョウ先輩自身は、「カラカラ」という曲を歌うようだ。自身が作曲した際、気に入ってデモ版から歌い倒しているため、自信がある!とのこと。…そして、ゴッチ。個人的には1番イメージが湧かないので、どうするつもりか注目していたのだが、これのリョウ先輩の中にはイメージがあったようだ。

 

「アレにしようよ虹夏。わたしたちが初めて合わせたあの曲」

 

「ああアレ?リョウがハムキタス抜けてから初めて2人で合わせたやつ。…確かに良いかもね。あの曲ならわたしたちは合わせ慣れてるし、ボーカルもそんなに難しくない…」

 

2人の間でトントンっと話が進むため不安になったゴッチが間に入る。

 

「えと、どんな曲なんですか…?け、結束バンドの曲じゃない…?」

 

確かに。結束バンド結成前に合わせてた曲なら結束バンドの曲じゃないね。なんだろう。カバー?思考を彷徨わせていると、リョウ先輩が答えてくれる。

 

「アジカンさんで、『転がる岩、君に朝が降る』って曲。この曲ならぼっちの歌い方にも合ってるしイケると思う」

 

アジカン!?男性ボーカルじゃん大丈夫なんか?などと一瞬思ったが。

 

「うええ!?虹夏ちゃん、リョウ先輩。わたしその曲滅茶苦茶好きです…!い、いつもお父さんに影響されて歌ってました…!い、いい曲ですよね!」

 

へえ。面白いこともあったもんだね。それなら歌詞とか、歌い方とか、細かい所は無視しても良いわけだ。などと思っていると、リョウ先輩が何処か嬉しそうに溢した。

 

「ふふ。ぼっち。まさにカルマ、だね。わたしたちがいつかバンドを組んで、一緒にヤりたくて合わせてた曲が、ぼっちの大好きで得意な曲だったんだ。…小さな偶然だけどさ、ぼっちが書いた歌詞みたいに、出会うべくして出会ったのかもね、わたしたちは」

 

「確かにねぼっちちゃん!小さな偶然だけど一刻を争う今のわたしたちには大きなアドバンテージだよ!憧れのボーカル!ホントに出来ちゃうかもね!」

 

虹夏先輩が追随する。…しかし。ゴッチボーカルやりたかったの?なんか意外だな。

 

「えっ虹夏ちゃん…。な、なんで…」

 

「なんとなくだけどね!喜多ちゃんが歌ってるとこ見てる、ぼっちちゃん見てたら、最終的にはボーカルやりたいのかな〜?って!」

 

相変わらず周りの人をよく見てる。間髪入れずに喜多さんがフリップを出す。

 

(ひとりちゃん!わたしはあなたに全部教えてもらってギター出来るようになった!次はわたしの番よ!ひとりちゃんのやりたいこと出来るように協力したい!ボーカルで分からないことがあったらなんでも聞いてね!!)きたーん!

 

「は、はい!!ありがとうございます皆さん…!わ、わたしも覚悟決めて頑張ります…!郁代ちゃんの穴はわたしたちで埋めましょう…!」

 

喜多さんがニッコリと笑い、虹夏先輩がグッとサムズアップ。リョウ先輩は小さくガッツポーズを取る。

 

かくして、3日間だけという、僅かな時間しかない結束バンドの戦いが始まった。

 

 

 

 

 

 

♪♪

 

 

 

 

 

(ほら!!ひとりちゃんまた声小さくなってる!遠くに声を投げるように歌うのよ!リズムはドラムスを参考に!)

 

「は、はいい〜!郁代ちゃん〜!」

 

割と喜多さんがスパルタである。仕方がないがね。なにせ3日しかないんだ。…しかし。意外と歌えるなゴッチ。恥ずかしがって声が出ない時もあるが、やはり儚くそしてとても透き通ったいい歌声をしている。ふふ、やはり俺は見る目があるぜ…。

 

(青木くん!リードギター今ミスったでしょ!?油断しないでよね!)

 

ヤッベ間違ってた。集中せんとな。

 

「へ〜え。なんか変わった練習してんね結束バンド。ボーカル変えんの?」

 

いつの間にやらライブハウスSTARRYに現れた赤ら顔。小豆色の髪を片側におさげでさげ、特徴的なグルグル目に、グリーンのワンピース。廣井きくりが、隣にいる、結束バンドの練習を眺めていたこのライブハウスの店長、伊地知星歌に話し掛ける。

 

「ああ〜、酒くせえ、…ああまあな。なんか喜多が喉の疲労で歌えないから、他のやつが持ち回りでボーカルやるんだと」

 

「なるほどね〜、へ〜。妹ちゃんもぼっちちゃんもいい声してるじゃん!しかも遥くんにギターやらせるんだ〜」

 

「ああ。意外かもしれんがあいつがこのSTARRYのステージに立つのは初めてだぞ」

 

「遥くんかあ〜。なんかあいつがステージ立つだけでなんかやらかしそうな予感がするから凄いよね〜。…大槻ちゃんにも教えたろ」

 

「いいね〜。お前らも来い、チケット買え。STARRYの売り上げに貢献しろ」

 

本人たちの預かり知らぬ所で少しずつ熱を帯びる、結束バンドのシャッフルボーカルライブ。その運命や、如何に。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 






長くなりそうなので前後編。次回はライブ編。ただただ結束バンドのボーカルを入れ替えてみたかった回。ぼっちちゃんは実は原作でギターボーカルやってみたい。って願望があったんだね。
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