最近またひぐらしシリーズを読みまして。偶然ながらうちの主人公が罪滅ぼし。なんて言い出したんで、これだ!!と。まあ、はい。それだけっす。
うう〜ん…。眠い。今何時だあ…。寝覚めこそそんなに悪くないけど、睡眠時間が足りない。よって眠い。二度寝するには最高のコンディションだ。
「そういう訳にもいかないっ…か!」
腹筋に力を入れて起き上がる。いろいろ薄汚くなっているだろう顔を洗顔剤で綺麗に洗い、歯を磨いて身だしなみを整える。…なにせ今日は、可愛い後輩の初、デート!だがしかし不安もいろいろ。あの子は基本的には良い子なのだが、失敗とかすると連鎖的に色々やらかす癖がある。
「やはり、先輩であり、カリスマミュージシャンでもあるわたしが付いててあげないと!」
もちろん、大槻ちゃんのことを完全に信頼してないわけでもない。適当に待ち合わせ場所の雰囲気をチラ見して、大丈夫そうならそのまま帰る腹づもりだ。頑張れよ大槻ちゃん!
中野のボロアパートを颯爽と後にするわたしこと廣井きくりは、心の中で後輩に精一杯のエールを送るのだった!
♪♪
現在時刻、朝の9時半。待ち合わせの場所は下北沢駅であること。時間は10時オークロックであることは大槻ちゃんのロインを盗み見て把握している。ん?倫理?道徳?んなもん気にしてロックが出来るか。
いつもは片側おさげの髪をポニテに纏めてキャップの中にしまい込む。簡単に身バレしそうな目元にはサングラス。口元にはそこら辺のコンビニで適当に買ったレイコー(冷たいコーヒーの古い言い方ね)を当てて隠しておく。いつものグリーンのワンピースとトレードマークの下駄は今日はスタメン落ち。代わりに志麻からお下がりで貰った黒Tとダメージジーンズだ。完ぺきだ…。お釈迦様でも廣井きくりだなんて気付かないんじゃないかこれは…。
もはや張り込み中のデカみたいになってるが、警戒しすぎることに越したことはない。あの子妙に勘が鋭いからな。…さて、大槻ちゃん。いるかな?
不自然にならない程度に下北沢の駅前に視線を回すと、すぐに発見。大槻ちゃんだ。30分前なのに既に来てる!この辺は大槻ちゃんの真面目な性格が出てるね。…遥くんは、まだ来てないか。まだ時間じゃないから当たり前だけどね。
にしても…。大槻ちゃん可愛いなおい!?今日はいつものツインテールじゃなくてお下げだ!お下げが2本!ベレー帽被って黒のアウターと丈上スカートに赤のピンヒール!いつにもましてビジュが強い!…わたしが男ならほっとかないなありゃ。…まずい。大槻ちゃん。知ってる?君みたいな可愛い子は駅前でいかにも退屈だわ。みたいな感じでスマホポチポチしてたらダメなんだよ。
「うおう!女神だ!女神がいる!!」
「行くか!?俺の人生の一世一代!今日使っちまうか!?」
ほら見ろ。見つかっちゃったよ。変に愉快な男子2人に。悪いが今日は後輩の大事な日。邪魔はさせんぞ。
「おねえっさーん!?ひま!?ひまなら俺らとランデブーしなあい!?」
「好きでえええす!!!」
がしり。愉快なセリフを吐きながら大槻ちゃんに突進をかける男子2人の首根っこを掴み、持ち上げる。つーか1人告白が早すぎるだろ。
「いだだだだ!?え!?なに!?勇次郎!?」
「なんだこれショベルカーででも掴まれてる!?痛い!!」
「墳っ!!」
ゴツン!!そのまんま2人のオデコをぶつけ合わせる!声を上げる間もなく昏倒した2人を適当な路地裏に投げ捨てて持ち場に戻る。
「…普段なら別に君達が大槻ちゃんにナンパをかけようが文句は言わないよ。でも今日は駄目。運が悪かったね!」
さてと大槻ちゃんは…。良かった。ちと騒いじゃったけど気付かれてないっぽい。約束の時間まではあと僅か。…任務完了かな。と思いかけた時。見覚えのある4人のシルエットを見つける。
「あちゃ〜。…考える事は、一緒か」
♪♪
「虹夏〜ほんとにやんの〜?」
「事ここに至って今更何を言ってんのさリョウ。気になんないの?逆に」
いや気にはなるけど尾けるほどではないな。とわたしは思う。何故か虹夏がノリノリで、わたしたち結束バンドの面々を巻き込んでいるのだ。ちなみに遥に聞いても日時や集合場所なんかは教えてもらえなかったが(面白がりそうなわたしや郁代を警戒してのことだろう。心外である)虹夏が後ろからヤツのロインを盗み見るという盤外の手を披露し、この場所を掴んだ次第だ。全く普段はいい子ちゃんなくせにここ一番の行動力は凄い。
「な、中々現れませんね…ほ、星は…」
「ひとりちゃん。待つのよ…焦りや迷いはわたしたちに違和感を持たせるわ。違和感なく、息を殺し、獲物が引っ掛かるのをじっと待つ…ベテランのデカのようにね…」
なんかうちの後輩ズノリノリじゃない?あと郁代。違和感バリバリだから。変装のつもりかも知れないけど3人そろってサングラスかけてコソコソ駅前を覗き込んでる連中なんて違和感しかないのよ。内Pのロケかよ。
「ちょっとリョウ。も少し姿勢を低く…いくら距離あってもそれじゃ…」
「ハロー、結束バンドのみんな。おそろいだねぇ?」
「ひゅっ」
虹夏が息を呑む。わたしもかなりビビった。まるで気配なくその女はわたしたちの後ろから声を掛けてきた。後輩ズも何事かと動揺している。…てか、誰だ!?なんでわたしたちのことなんか知ってるんだ。キャップにグラサンをかけて目元を読ませない。黒単色のコーデに小豆色のポニーテールが映える目の前の女を注視する。
「あ。そっか」
警戒の空気を察した、その女はキャップとグラサンを取り、髪をガシガシ搔いて元の形に戻す。
「な、なんだ。廣井さんか。ビックリさせないで下さいよ〜」
「そう、妹ちゃん。廣井さん、ステルスバージョンだよ!分からなかったでしょ〜」
虹夏が安心したような声を漏らす。なんだ廣井さんか。確かにいつもと格好違うから分からなかった。…なんで廣井さんがここに?そんな疑問を抱きつつ視線を送ると、廣井さんと目が合う。その際なにか、アイコンタクトを送られた気がした。
「…結束バンドちゃんたち。気持ちは分かる。めっちゃ分かるけど。あとは若い2人に任せない?」
なるほど、そういう事かと腑に落ちる。あまり乗り気ではない私の心を見抜いて、わたし側に立ってくれないか?というアイコンタクトだったか。虹夏はと言うと、鳩が豆鉄砲くらったみたいな顔して廣井さんを見てる。訝しんだ廣井さんが問い掛ける。
「…どしたの?妹ちゃん」
「い、意外!」
「なにがさ!?」
「廣井さんの事だから面白がって焚き付けに回るのかと!?」
「し、失礼な!?わたしだってわきまえる時はわきまえるよ!?分別のある酔っ払いだよ!?」
分別ある酔っ払いはライブでファンの顔を踏まない。
「あっ、みなさん…ほ、ほし…。じゃなかった青木くんが…」
ずばあっ!!!!ぼっちの言葉に反応し一糸乱れぬ団体行動。全員で身を低くする。それ以上は何も喋らずにただ目の前の状況を注視した。
♪♪
ふふふ。取り敢えず待ち合わせ場所に先に来ておくミッションは達成ね。わたしは何でも1番が好き。当然!待ち合わせ場所にたどり着くのも1番がベネ!…さて。そろそろ時間ね。ヤツの性格的に考えて遅刻はしないでしょうけど…。もししたら罰ゲームね。笑えるやつを考えておきましょう。などと考えていると駅の方面から待ち合わせの人物が近付いてくるのを感じ、考えが無駄になって少し残念な気持ちになる。だが、それも一瞬のこと。…さて、今日はどうやって楽しませてくれるのかしら!?青木遥!!
「は、早いなヨヨ先輩。ごめんな、待ったか?」
「定番なら今来たとこ。なんて返すとこでしょうけど。御生憎様、30分前から来ていたわ!待ち合わせ勝負はわたしの勝ちね青木遥!30分だから30ポイントもらうわよ!」
「…ふっ。クックック…。やっぱ面白いなヨヨ先輩は。待ち合わせ勝負ってなんだよ、いつ始まったんだよ…」
「人生何時でも、是勝負よ!気を抜いたら負けるのよ!さて!今日は期待してるわよ青木遥!1番のわたしに相応しい!1番の場所にエスコートしなさい!!」
「了解!先ずはサテンで軽く喉潤してから俺が知ってる1番のカレー屋に連れて行ってあげます!行きましょうヨヨ先輩!」
「良きに計らえ!」
2人が行動を開始する。どうやら取り敢えずサテンらしいな。なんか場所選びが古風だな。…にしても。やっぱあの2人は波長が合うらしい。会ってからの2人のやり取り。どっちも終始笑顔だったな。…完璧じゃん。完璧にいい雰囲気じゃん。うし。任務完了。酒買って家帰って飲も。などと廣井きくりは思考する。
「よし、みんな行くよ。姿勢は低く。アイコンタクトで」
「やめよ〜よ妹ちゃ〜ん!いい雰囲気だったじゃんもう心配ないって!あとは若い2人に任せて帰ろ〜!?」
なおも尾行を続けようとする虹夏に廣井さんが縋り付くようにして止める。
「後生です廣井さん!これ見逃したらわたし気になって夜しか眠れない!」
「しっかり寝てるんだよそれ〜!」
虹夏がここまで執着するのは珍しいな。余程気になるのか。だが、基本的にはわたしは廣井さんと同意見だ。顛末は後で遥に聞きゃいい。やはりドラムスはパワーがあるのか、虹夏の肩を掴んで背中にしなだれかかる廣井さんをなお引き摺るように進んでいく。虹夏つっよ。すると、廣井さんがまたもわたしにアイコンタクト。…了解。
「ほら虹夏。どうせ店に入られたら追跡できない。ここまでにして帰ろう!」
「い〜や〜だ〜!気になるの〜!」
廣井さんに協力して虹夏の腰に手を回して足を踏ん張ってみるも止まらない。さすがに勢いは落ちたが、2人がかりでも少しずつ引き摺られる。160センチにも満たない身体して人2人引き摺るなよどんなパワーだ。ブルドーザーかコイツは!だがわたしたちの任務は完了だ。わちゃわちゃしてる間に遥たちは視界から消えている。もはや追跡は不可能だ。
「あっしまった!!見失った!!」
「ふっふっふ…妹ちゃん。わたしの策にハマったね。大人しく諦めなさい…ぜー、ぜー…」
肩で息をしながら虹夏に告げる廣井さん。かろうじて虚勢をはってるな。
「むむむ~!き、気になる〜!」
「分かった分かった!今日はわたしが特別にみんなにコーヒーでも奢ったげるから!それで勘弁して!ねっ!?」
「即時帰投します!」
「早えんだよリョウ!ホント飲食の類に弱いな!」
はっしまった。奢りの響きについ脳を通さず発言してしまった。それにしてもあの廣井さんが奢りとは。宵越しの金なんざ持たなそうなのに。余程あの2人の邪魔をさせたくないんだな。案の定いくらあったかな〜と。財布の中身を確認している廣井さんを見ながら思う。
「むう〜。…しょうがないか…。分かりました、廣井さんの顔を立てて諦めます…。喫茶店。行きましょっか?」
「ありがとね〜!妹ちゃ〜ん!お金なら任せて!財布の隅っこから虎の子の渋沢さん見つけたから!偶には先輩らしいとこ見せつけて行くよ!」
「やったぜ」
「ぜ、全部出してもらうのは悪いですよ!わたしたちも出しますって!」
「ええい虹夏!余計なことを言うな!先輩に言われたら大人しく奢られるの!これバンドマン界の掟!」
「今作っただろリョウコラ!」
どうやら次の目的地が決定したみたいだ。わちゃわちゃする3人を少し疲れた顔で眺めているひとりちゃんに話し掛ける。
「…結局、わたしたちの苦労はなんだったのかしらねぇ、ひとりちゃん」
「あ、あはは…。そ、そうですね、郁代ちゃん…」
「…まあ、わたしの勝手な勘なのだけど、あの2人は虹夏先輩が気にしてるような関係にはならないと思うのよ」
「え…?郁代ちゃん。虹夏ちゃんが気にしてる関係って…?」
「え?恋人関係?」
んぐっと。盛大に咽るひとりちゃんを見て若干可笑しくなったが続ける。
「あの2人は多分、何処までいっても友人関係よ。大槻さんにボーカル教えてもらった時の2人のやりとり見て、なんとなくそう思ったわ。よく息が合っててツーカーだけど、なんか湿り気が足りないのよね〜」
「は、はあ…。湿り気、ですか…」
ひとりちゃんには難しいかしらね?しかし、分かってた。わたしは最初から分かっていたのだ。ああ!!2人のデートを見に行こう!なんて血迷ったことを言い出した虹夏先輩を無理にでも止めていればこんな無駄な時間は…!!…まあいいか。そのおかげでひょっとしたら珍しい人にコーヒー奢ってもらえるかもしれないのだ。人生なんでもポジティブシンキング。無駄な事なんか1つもないのよ!!わたしは多少強引に思考を切り替える!
「ひとりちゃん!こうなったら廣井さんに豪華なもの奢ってもらってこの時間の溜飲を下げましょう!三段重ねのパフェとかいっちゃう!?」
「あはは…、お、お姉さんに悪いですよう…郁代ちゃん…」
「あ、ひとり500円までね〜」
「…………」
「「「ケチくさっ!!!!!」」」
「あ、あはは…」
♪♪
「…美味しい。やるわね青木遥…!」
「お?良かったですよ、ココはかなりオススメのカレー屋さんでして。ほら、サラダもコーヒーもあります。好きなの頼んで下さい!」
ココは少し老朽化が進んだビルの2階にあるこぢんまりしたカレー屋さん。カレー屋と一言に言ってもそのメニューは幅広い。西はサラダにコーヒー。東はメロンフロートやらホットケーキまである。机は定番の移動する宇宙人を撃つゲームが出来る仕様で、カレー屋と言うよりはレトロな喫茶店。といった雰囲気でもある。落ち着いて話をするには絶好の場所だ。
ヨヨ先輩は普段は表情の変化が小さく、難しい顔をしているためよく怒っているのかと勘違いされる。だが、美味しいもの、好きなものを発見したときなどは、分かりやすいくらいに目を輝かせる。ちょうど今のように。…気に入ってもらえたようで何よりだ。
「あ、青木遥!こ、このゲーム、さっきから気になってて…!や、やってみてもいい!?」
「勿論すよヨヨ先輩。100円玉なら一杯あります。頑張ってください!撃たれたら負けですからね!」
「そ、それぐらいは分かるわよ!よ、よし!やるわよ!ていっ!おりゃ!」
意外とヨヨ先輩もゲーム好きだよな。あくび女史の影響か?楽しそうにゲームに興じるヨヨ先輩を見ながら、シリアスな話は出来るだけ早めに片付けておこうか。と心中を決して、ちょうどワンクレジットプレイし終わったヨヨ先輩に話し掛ける。
「ヨヨ先輩。何も話さずアメリカに行ったこと。連絡取れずに心配かけちまったこと。…ホントに、すんませんでした」
少し目を見開いたあと、ヨヨ先輩は傍らにあるコーヒーを啜り、ゆっくりと俺に目を合わせて口を開いた。
「…ふふ。改まったわね。まあ、真剣なのは伝わったわ。…わたしの答えは変わらない。あなたにも事情があったのでしょう?なら、そのことに対して責任なんか問わないわよ」
…強い。気高い人だ。本当に。目の前の瞳には動揺も、微塵も見えなかった。本心から、俺に罪など、問うていないのだろう。…この目で言われたら、俺は受け入れるしかない。
「…ありがとう、ございます」
「苦しゅうないわ。さて、この話はおしまいね!」
…え?
「そうじゃない?あなたが罪滅ぼしをして、わたしは受け入れた。つまりよ。罪滅ぼしの時間はおしまい。…なら、この後の時間は、さて、なんていうのでしょうね?」
いつの間にかヨヨ先輩の瞳の色が変わっている。前の真剣な瞳の色から、今はなんか俺を試すみたいな色に変わってるぞ!?な、なんだ!?ヨヨ先輩の発言を振り返る。罪滅ぼしの時間はおしまい。ならばこれからは…!?
「友人と遊びに行く…?」
ズルっと。ヨヨ先輩がずっこける。だがすぐに体勢を直し、俺に若干の呆れを含みつつ、今一度問い掛ける。
「男女2人。お出掛け。も少し言い方ってものがあるんじゃな〜い?ほらあ、青木遥〜?勇気を出しなさ〜い?」
うわあ!試されてる!実は俺、ヨヨ先輩が言わせたい答えが分かってた!恥ずかしいから回避したのに、それすら見透かされてる!うおおどうしよう!…青木遥。思い出せ。今日の俺の役割は、ヨヨ先輩を楽しませ、エスコートすること。少し俺が恥をかくことで、ヨヨ先輩を楽しませられるのなら…!!
ガタリと席を立ち、ヨヨ先輩の目を見据える。少し驚いた顔をしているヨヨ先輩に、俺は言い放つ。
「ヨヨ先輩。行きましょうか。デートの、続きだ!!」
少しの沈黙。流石のヨヨ先輩も少し面食らったようで、瞳を丸くして固まっている。…頼む。なんか喋ってくれ居た堪れない!!
「ふ、…ふっぷぷっ…!あっはははは!!!ま、全く!あなたは!わたしを飽きさせないわね!!あはははは!!!」
コロしてくれ。
「…はーああ。…ええ行きましょうか。青木遥!デートの続きよ!まだ始まったばかり!わたしを満足させてみなさい!!」
…2人分の会計を払って外に出る時、カレー屋さんのマスターに「…青春だね。デート頑張りなよ。格好良かったぜ!少年!」なんて言われた。すれ違った男性のお客さんにも何故かサムズアップされるし。コロせ。コロせよ。……!!っええい!!こうなったら恥かいた分だけヨヨ先輩を完璧にエスコートしてやる!!行くぞヨヨ先輩!こっから俺もマジだぜ!!
その後も色々と巡った。小田急縛りを課してんのかってくらいに小田急沿線ばかりだけれど。最後に海を見たいなんてヨヨ先輩がおっしゃるから、ラストは江の島だ。ヨヨ先輩が履いているピンヒールは江の島とすこぶる相性が悪いので、コンビニで買ったサンダルに履き替えてもらう。…そろそろ俺の財布が悲鳴を上げているが大丈夫だろうか。
「わあっ…!凄いわね青木遥!夕陽よ!!夕陽に照らされたオレンジ色の海よ!!ロマンチックじゃない!!」
「ええ!!凄いっすねヨヨ先輩!!中々見応えがある!!」
海にこそ近付かないが、堤防の上に登り、夕陽とオーシャンビューの大パノラマだ。俺の隣で手を広げて目の前の景色を受け止めようとしていたヨヨ先輩は、実に楽しそうだ。…罪滅ぼし。提案して良かったな。
「流石に疲れたわね!あなたは大丈夫!?青木遥!!」
浜風や波音と格闘するように大きな声でヨヨ先輩が問いかけてくる。
「問題ないです!!ヨヨ先輩!!もし良ければこちらにどうぞ!!」
手早く自分のアウターを脱ぎ、折り畳んで堤防の上に置く。即席の座布団だ。
「…やるじゃないの青木遥!!中々紳士ね!!」
「お褒めに預かり恐悦至極!!」
「…ふふっ!!」
ちょこんと。ヨヨ先輩が俺のアウターの上に体育座りで腰を下ろす。僭越ながら、俺も隣に腰を下ろさせて頂く。…そして、暫くの間、2人共喋らずに、夕陽を眺めていた。
「…楽しかったわ。ありがとう。青木遥」
浜風と波音に掻き消されそうな声量で、ヨヨ先輩が呟く。
「…何点ぐらいでした?今日のデートは?」
少し反撃のつもりで慣れない言葉を使い、ヨヨ先輩に問いかける。
「120点。大満足よ」
しかし、目を見て返され、逆に俺が照れることになる。…敵わないなあ。くそう。
「そいつはよかったですよ。…20点分のお釣りはどうしましょうね?」
考えていなかったのか、ハッとした表情になった後、顎に手を当ててヨヨ先輩が考え出す。んな真剣に考えなくていいのに。真面目だなあ。
「…なら、もう一度来るってのはどうかしら?…今度は普通に。わたしとあなたで」
「…それは遊びでですか?それともデート?」
「…思うに、それはどちらでもいいんじゃない?呼び名なんかより、誰と来るかが重要なのだから」
確かにそうだな。名前なんざどうでもいいか。
「分かりました。…いずれ、必ず」
「楽しみにしてるわよ。青木遥」
コツンと。軽く握った拳をぶつけ合う。ヨヨ先輩は笑顔だ。…合格点貰ったし、今日はよくやったんじゃねえか?俺。…などと、考えていると。
「あ、ヨヨコ先輩」
後ろから、聞き覚えのある声が聞こえて、俺たちの時間が止まった。…。ヤベェ。振り返れねえ。俺の予想が当たっていれば。後ろにいるのは最悪の相手だ。ヨヨ先輩もそう思っているのだろう。血の気の引いた顔をして俺と目を合わせる。
「隣にいるのは…!!!…あ〜〜〜〜っ!!!」
アカン!本格的にアカン!!どうしようかと迷っていると、俺より早くヨヨ先輩が動いた!
「あ、あくび!!誤解よ誤解!!大誤解よ!!」
俺もしばし遅れて振り返る!!後ろにいたのは予想通り、シデロスが誇るゲーマードラマー長谷川あくびさんと!本城楓子さんに内田幽々さん!シデロスの面々だ!!ていうかあくびさんはマスクの上からでもハッキリ分かるくらいに口角が上がっている!!イジりがいがある玩具が目の前に現れたときの赤ん坊の顔だぞありゃあ!!そしてヨヨ先輩の言葉を受けてあくびさんが!
「何が誤解っすか!?用事があるから今日は練習休みなんて言われて!!仕方ないから3人で江の島に遊びに来てみればコレ!!自分は隠れて殿方とデート!!しかも青木氏じゃん相手!!リアル!!すっげーリアル!!」
「ちちちちちちちが!!!!た、確かにデートなんだけどそんなんじゃなくて!!!」
デート。否定しないでくれるんだ。優しいなあ。…ならどうやってこの危機を回避するんだ?策はあるのかヨヨ先輩!?
「ほらやっぱりデートじゃん!!こっそり青木氏とデートじゃん!!不純だヨヨコ先輩!!い〜っちゃっお!!いっちゃっお!!♪みんな〜にいっちゃっお!!♪」
「あくびぃぃぃぃぃぃぃぃぃ!!!!!!!!」
妙な替え歌でヨヨ先輩を煽るあくび女史。満点大笑いで楽しんでるな。堪忍袋の尾がブチ切れたヨヨ先輩があくび女史を追い掛けるがどうやらその動きは読んでいたようで。上手く砂浜に逃げおおせたあくび女史とヨヨ先輩のチェイスが始まる。
「あ、あはは〜。ごめんなさいね、お邪魔だったかしら〜?」
少し申し訳なさそうに楓子さんが話し掛けてくる。
「い、いえ。そろそろ帰る算段でしたし…」
「あら〜♪…と、ころ、で?ヨヨコ先輩とは何処までいったんですか〜?」
親父だ。可憐な女子の皮を被った出歯亀親父がここにおる。
「ち、違います!!けしてお2人が想像しているような関係では!!」
相手がどんな想像してるか分からないのに、口をついて出たのはそんな言葉だ。俺も大分焦っているな!?
「ふふ〜♪嘘や隠し立てをしても無駄ですよ〜♪…幽々ちゃあん?」
「全く…本来わたしのありがたい霊視はこんな物を見破るためにあるわけではないのに…」
穏やかに楓子さんが幽々さんにそう振ると、幽々さんが俺に目を合わせ、自身の右掌を、俺の顔に合わせるように上げて片目を閉じる。すると、幽々さんの瞳から何かを吸い出されるようなそんな感じを受けた!…霊能力者だったなそういえば!?少しの間そのまま止まって、やがて霊視が終わったのか、右手を下げて片方の目を開き、ふうと溜息を付く。
「2人の言ってることはホントですう〜。ベルちゃんもルシちゃんも、この2人の間には、恋愛感情はないみたい。って言ってますぅ〜」
「なんだつまらないの。は〜ちゃ〜ん!!そうなんですって〜!」
なんかこの2人はあくびさんと違って冷静だな。…後はあくびさんか。
「ええー!!そうなのー!!?」
「待ちなさいあくびコラ!?痛くしないから止まりなさい!」
「なんか怖いから嫌です〜!!」
器用にチョロチョロとヨヨ先輩の追撃をかわすあくびさん。なんとかあくびさんを説得せねば。まあ誤解させるような動きをした我々も悪いが。などと考えていたが、2人のチェイスはそう長くは続かなかった。体力の限界である。
「ぜーっ、ぜーっ、ぜーっ、……」
「は、はあっ、はあっ、はっ、はっ…」
勢いをどんどんなくし、やがて我々の前で止まる。そこを見計らって、あくびさんに話し掛ける。
「あくびさん。俺たちは内田さんの霊視によると無実だぜ!?あらぬ誤解をやめてくれ!!」
そう懇願にも似た気持ちで話し掛ける。
「はあ…はあ…、た、確かにそのようですね…まあ、なんとなくそうだろうとは思っていましたが…」
「あくび。やっぱりあなた面白がっていただけでしょう!?」
「ぎくう!?いやヨヨコ先輩、これはそのう〜!?」
「問答無用よあくび!!今日こそ軽くて薄いその口縫い付けたげるわ!!」
「ひえ〜!!今日はこのマスク外せませんねぇ〜!?」
体力を回復したのか砂浜の上をまた縦横無尽に駆け回り、2人のチェイスが始まる。いや〜コレは長くかかるな。最初と今であくびさんが追われてる理由が変わっているけど。…腹が減ったな。…そろそろお開きにしよう。そうしたい。そう思い、俺は隣の2人に話し掛ける。
「…あの2人を諌めて、飯でも行きません?腹が減っちまって…」
すると内田さんはにやりと笑い。
「いい落とし所ですね〜。賛成です、実はわたしたちも何か食べて帰ろうとしてたとこなんですよ〜」
「わたしも賛成です!お腹空いちゃった!」
なんとか内田さんと本城さんの了解は得られた。よし。コレで3対2。あとは民主主義の力で押し切るかと。心の中でほくそ笑む。
「ならば。おうい!!ヨヨ先輩!!あくびさん!!飯行きましょう!!積もる話はそこで!!」
俺がそう声を張り上げると、2人共余程疲れていたのだろう。ふらふら歩きになり、やがて止まる。
「はあはあはあ…さ、賛成っす。これ以上お腹空いたら背中とお腹がくっついちゃうかも…」
「わ、分かったわ…なんとか誤解も解けたみたいだしね…」
は〜あ。長い一日もようやく終わりそうだ。何食おうか。やはり、江の島といえばシラス丼か。などと考えながら、俺はシデロスのみんなと一緒に、視界全てが夕焼けのオレンジ色に染まりそうな江の島の道すがらを行くのだった。
なんとかヨヨ先輩に罪滅ぼしという任務をこなした後、STARRYにバイトしにいった日には、虹夏先輩を始めとした結束バンドの面々に、事の顛末を色々と激詰めされたのはまた別の話だ。
中々にラブコメっぽいな!?まあ良いか!!エクストラステージだし!!皆さんのおかげで一瞬だけど日間のランキングのったよ!ありがとね!!
strawberrycake様!!高評価ありがとうございます!!