【完結】 ギター爪弾きのバラッド   作:はま0821

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主人公が憧れてる顎髭ギターヒーローは斉藤◯義さんです。


7 ギターヒーローだぞ!後藤ひとり!

 

 

 

 

 

ここはお馴染みSTARRY。バイトがおわったら結束バンドのみんなと、くだらんダベリで親睦を深めるのが定番になっていた。

 

 

 

 

 

 

「え~ん!伊地知先輩〜助けてください〜」

 

 

 

「この絹を裂くような女子の声は!結束バンドに復帰したギターボーカル喜多ちゃん!どうしたの何があったの!?」

 

 

「説明ありがとうございます〜。青木くんが…青木くんがぁ〜」

 

 

「青木くんがどうしたの!ついに自慢の顎髭が名前の通りに青髭になっちゃったりした!?」

 

 

「オーチューブのアカウントの作り方教えてとかおじいちゃんみたいなこと言ってくるんです〜!」

 

 

「おじいちゃんが過ぎるよ青木くん!」

 

 

「仲が良いですねぇ伊地知先輩。喜多さん。なんで流れるように俺の顎髭disったの?傷ついちゃおっかな。傷ついちゃおっかなー!!」

 

 

マジ剃っちゃおうかなこの顎髭。怖がられるしこだわりの割には全く褒められないし。いやいや駄目だ。こだわり続けたことを捨てるなど、個性を捨てちまうのと同義だ。ギタリストでロックマンっつったら顎髭なんだよやっぱり。まあ、それはさておき。

 

 

「いやいや。今までオーチューブってなんか昔のバラェティとかを保存してるただのサイトだと思ってたんすよ。したら今は世界中の皆が発信者になってギタリストも自由に発信できるようになったんですってね。なんでギター弾いてる人の動画を見てみたいな、と思いまして」

 

 

「待って遥。遥っていつの時代の人?」

 

 

「…俺ってやっぱガラパゴスなんすかねぇ…」

 

 

山田パイセンからの辛辣な言葉に胸を痛めていると。

 

 

「しっしょうがないですねぇ〜!あ、青木くんのためにぃ、オーチューブ強者のこのわたしが一肌脱いであげますよぉ〜!」

 

 

うわうぜぇ!なんだゴッチこいつ自分の得意分野だけイキりやがって!

 

 

「伊地知先輩!初めてあの形態を見ました!なんですかあの形態は!」

 

 

「うむ!喜多助手!あれはめったに見られない自分より下の相手に対して見せるぼっちちゃん!名付けてマウントぼっち!」

 

 

や〜ぁ〜ろぉ〜舐めやがってゴッチぃぃ!でも手伝ってくれるのはありがとう!

 

 

「ここをこうしてっと…はい!できましたよ!まっまったくこっ、こんなこともできないなんてまだまだですねぇ!」

 

 

クソが。絶対どっかで復讐してやる。だがそれはさておきこれで念願の動画が見れるわけで。ありがとなゴッチ。さてどのギタリストを見ようか…そう考えていると俺の前に立っていたゴッチの双肩に手がかかる!

 

 

「青木くん!ギタリストの動画見るならオススメがあるよ!」

 

 

「うわでた虹夏のごりおし」

 

 

「みんなも見てみてって!ギターヒーローさん!もうほんっとに上手くてカッコいいんだから!」

 

 

伊地知先輩がそう言うと、ゴッチの体がどぐんっと、まるで自分以外のもののチカラでも働いたかのように跳ねる。大丈夫かね特級呪物でも飲み込んだか?

 

 

皆が囲うテーブルの真ん中に俺のスマホを置いて…その?ギターヒーローさんの動画を再生しようとする。素晴らしい手際の良さ。伊地知先輩。流石今時の女子。

 

 

「じゃあ行くよ!」

 

 

伊地知先輩の声と共に動画が再生される。…ちなみに伊地知先輩に囚われてるゴッチはなにか青ざめた表情をしている。うん?このギターヒーローって人嫌いなのかな?なんて考えていると。

 

 

雷鳴のような、ギターの音が脳に突き刺さった!!

 

 

 

なっなにぃ!?まじかよ疾い!なんてスピードだ今一体いくつコードチェンジ入れた?いや、それよりヤバいのはあんなに疾いのに、鳴らす音の1つ1つが生きている。なんて綺麗な音。どれだけギターに向き合えばこの音を鳴らせる?分からない。動画を見る限り若く見える。同年代に見えるのにその動画は、敗北感を俺に植え付けるには充分だった。まじかよ…上には上がいるんだな…まだまだだ。俺なんざまだまだ

だ…。

 

…………ってのがな。感想。そうだすごくうまい。ヤバいくらいうまいんだけど。そんなんどうでもいい。そんなこと頭の端に吹き飛ばしてしまってもう拾えなくなってしまうほどに気付いてしまった圧倒的な現実が俺の頭を支配していた。ってゆーか…これ。ゴッチじゃね?

 

 

最初の違和感は見慣れたレスポール。高級品のため、普段使いしてる人なんかなかなか見ない。でも俺は1人知ってる。ひとりだけにな。気付いちまうとあとは芋づる式。コードの押さえ方。運指のクセ、アップストロークの間の取り方。俺が積み上げてきたギタリストとしての勘が完璧なる答えを出す。これゴッチやん!!

 

 

「どう!?すごいうまいでしょ!青木くんもすっごくギターうまいけどギターヒーローさんには敵わないよね!」

 

 

当たり前だが伊地知先輩は気付いてないな。伊地知先輩の性格ならギターヒーローがゴッチなら何らかのアクションをおこすはず。違和感がある。伊地知先輩ではなく、ゴッチにだ。短い付き合いだが、ヤツの特大承認欲求を抱えた性格からするとだ。

 

 

イマジナリー後藤(虹夏ちゃ〜〜ん!これぇ!この動画わたしなんですよぅ!褒めて!褒めて〜〜!!)

 

 

こんな感じで自慢するはず。(少し低く見積もりすぎたか?)なのにゴッチは今片眉を上げながら俺のスマホとゴッチを代わる代わる見る山田パイセンを見てあわあわしている。あの様子じゃ山田パイセンも気付いたかな。

 

 

「す!すごいです!同年代くらいに見えるのにすごくうまい!きゃー感動だわー!こんな人に教えてもらいたーい!」

 

 

教えてもらってるよ?君の隣で青くなりながらゲル化してる物体エックスがそれだよ。知らなくていいコトもこの世にはあるよね。しかしどういうことだ?ギターヒーローはゴッチだ。もはやそれは間違いない。だがゴッチは何らかの事情でそれを虹夏さんに、いや結束バンドの面々に知られたくないらしい。なぜ?分からない…。だが、1つだけはっきりしている。ゴッチが言いたくないなら俺も言わない。ちょっと前にうざムーブかまされて少しグツっていたがそんなんでバラすほどガキではないのだ俺は。

 

 

 

あわあわしすぎて腕が千手観音みたいになってる芋ピンクジャージの背中に回ると肩を叩く。

 

 

「ぴぇっ!?」

 

 

振り返りながら怯えた表情を向けてくるゴッチにできるだけ柔和な表情を向けながら唇に立てた人差し指を持っていく。言うつもりはないよ。理由ぐらいは聞きたいがね。

 

 

少しの間があったあとゴッチは俺に対して手を合わせて拝んでくる。神仏の類になったつもりはねぇんだが。ふと視線を上げると山田パイセンと目が合う。分かりにくいが少しだけ表情を崩すと、ふいっと目を逸らされた。よかったなゴッチ。向こうも黙っててくれるみたいよ?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

結束バンドの面々はいつも通り伊地知先輩の音頭で、今日はアーティスト写真を撮りに行くらしい。俺も誘われたが丁重にお断りした。カメラマンをお願いされたのだが、俺は思春期。花も恥じらうキラキラ女子高生相手にカメラを構える顎髭男…事案じゃん。国家権力がすっ飛んでくるわ。…でも、断ってばかりじゃ悪いし次誘われたら行ってみよかな。結構みんなと仲良くなれてる気もするし。

 

 

さて、降って湧いた完全オフ。今日はバイトも休みだ。さっさと買い出しして家帰って雑事をこなして、趣味のバラエティハシゴと洒落込もう。カレールーが家にあったな。玉ねぎ人参じゃがいもコマ肉。今夜は完璧なカレーを仕上げてやる。

 

 

 

ウキウキで買い物を済ませ笹塚の自宅マンションに舞い戻るとまずは自身が着ていた制服含めて汚れもんかき集めて洗濯機にぶち込む。最近バンドだバイトだと忙しかったので溜まっていた。その後じゃがいも人参玉ねぎを一口大に切り分け、フライパンを火にかける。まず豚こまを炒め油を吸い出したあと野菜共をぶち込み全体に豚から出るいい匂いの油を野菜にも回していく。充分炒めつけたら水を張り、適宜アクを取りつつ野菜が柔らかくなったらカレールーを溶かし込んでとろみが出るまで弱火。たったこれだけでーーーー!!空腹のとき出されたらONE ◯IECEのギンみたくなっちゃいそうなーーーーーー!!カレー完成です!…素晴らしいな。イギリスの人たちにゃ感謝せにゃならん。こんなうまい食べ物作ってくれて。さらっと作った割に中々の完成度になったカレーちゃんを写真に収めようとしているとロインがなった。山田パイセンだ。見てみると位置情報と一緒にここに来て。と簡素なメッセージが添えられていた。ふむ…このタイミングか…ゴッチ関連かな。これは無視できん行くしかなかろう。大丈夫だディアマイラブリーカレーよ。君との逢瀬が明日になるだけって話さ。カレーは1日置いたほうがうまいって識者も言ってたからな。手早く準備を済ませカレーに忘れずに蓋をし自宅マンションを出る。まったく忙しい1日だ!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

笹塚から下北までワープをかけ、もらった位置情報を元に山田パイセンの居場所を探すと、視界に新装開店らしいカッフェが見えてくる。さすが山田パイセンセンスの良さそうな場所にいるな。中に入ると愛想がいい店員さんが対応してくれた。待ち合わせであることを伝え、店の中に視線を回すと見慣れた背中があった。

 

 

「お疲れさまです」

 

 

「ん。お疲れ。座って」

 

 

失礼してパイセンの左隣に座る。水を出してくれた店員さんにアイスコーヒーを注文すると、パイセンの言葉を待った。パイセンは優雅にホットコーヒーを嗜みながら。

 

 

「………遥」

 

 

「うい」

 

 

「やっぱちょっと堅いよ。呼び方。改めて言うけど。リョウでいい」

 

 

そっちー!?いやまあでもたしかに。結構みんなと仲良くなれてるという自負がある。

 

 

「…わかりました。リョウ先輩」

 

 

「んむ。苦しゅうない。虹夏もできれば下で呼んであげて。こないだ青木くんが堅いって愚痴ってた」

 

 

「あ、あはは。すんません。目上の人には敬語を使えと口酸っぱく言われてきたもんで」

 

 

「もちろん用はそれだけじゃない。…昼間見た動画。覚えてる?」

 

 

やっぱその話か。

 

 

「確証が持てなくて。なんか似てるなって思ったんだけど、あんなに上手いなんて信じられなくて。遥の意見が聞きたい。…あれは、ぼっち?」

 

 

「9割方間違いないかと。クセで他人のギターの状態とか見るんですけど、ゴッチとレスポールの機種もおんなじですし、よく見りゃ傷の位置までおんなじでした」

 

 

「怖ぁ…遥まるで探偵じゃん」

 

 

「俺にギターのことで偽証は不可能です。わからないのは、なぜ言わないのか?これは逆にリョウ先輩の意見が聞きたい」

 

 

「それは本人に聞いたらいい。もうすぐぼっちも来る」

 

 

「うわぁエグい。いきなり本人に尋問ですか?」

 

 

「違う。それとは別口。ぼっち、歌詞できたみたい。見てほしいってロインがあった」

 

 

へぇ!ゴッチの歌詞か。動画のことも気になるけどこっちも気になるな。などと考えているとリョウ先輩の前に美味そうなカレーが置かれる。

 

 

「ぐああ美味そう!今めっちゃカレーの口なんすよ!」

 

 

「遥も頼むといい。いただきます」

 

 

いやだめだ。明日マイカレーちゃんとランデブーするんだから2日連続でカレーのわけにはいかない。しかし腹は減った。カレー以外でなんかねぇかな。おっ美味そうなサンドイッチ。これでいいや。

 

 

注文するために後ろを振り返ると入り口に芋ピンクジャージを発見。

 

 

「へっへーい大将。やっやってるぅ?」

 

 

居酒屋か。馴染みの居酒屋か。知り合いだと思われたくねぇ〜!

 

 

「ぼっち、こっちこっち!」

 

 

ナイスリョウ先輩。まったく危なっかしい女だ。選択肢用意されたら全部間違うんじゃないか?見てると飽きないけど。

 

 

「あっああああああああ青木くん!?ななななななんで」

 

 

「ゴッチよりちっと前にリョウ先輩に呼び出された。内容は…まぁ…秘密だ」

 

 

「とりあえずかけたまえぼっち。お腹すいてたら何か頼みな。遥が払うから」

 

 

「おいこらふざけんな。…んでも、まぁいいか。いいぜ、ゴッチ奢ってやるよ。ただし!書いていた歌詞を俺にも見せてくれたらな」

 

 

「うぇぇっ…い、いえ。お腹すいてないんでお、お構いなく…青木くんも普通に…見て、いいよ?」

 

 

ほうありがてぇ。ちと興味あるからな。ゴッチがおずおずとリョウ先輩にノートを手渡す。リョウ先輩がノートを開くので、それを後ろからコーヒーをすすりつつ覗き見る。おぉ。

 

 

「「おぉぉぉぉ〜〜〜〜〜〜!!」」

 

 

 

 

「うぇっ!すすみませんなななにかへんですか…?」

 

 

「変ではない。でもこれでいいの?」

 

 

リョウ先輩が言いながらノートいっぱいに書かれたゴッチのサインらしきものを指しながら言う。

 

 

「そのページじゃないですぅ!」

 

 

まあ定番ですな。本番行く前の前座?ワンクッション?さすがリョウ先輩わかってるぅ~!リョウ先輩が改めてページをめくる。さて本丸だ。

 

 

「「…………………」」

 

 

リョウ先輩は時折コーヒーをすすりながら。俺はサンドイッチを食らいながら。ゴッチの歌詞に目を落とす。おっ美味い。定番のハムとチーズとレタスだが奥の方にマヨネーズと辛子もいるな。一気に食らうことによって風味がケミストリーを起こす。歌詞の方は…薄味だなはっきり言って。

 

 

「………ぼっちはこの歌詞がいいって感じ?」

 

 

「えとその…は、はい。今売れてるバンドとかを参考に明るく書きました。わたしが自分の感情をそのまま出しちゃうと暗くなっちゃうので…」

 

 

「ふむ…少し、わたしの話をしていい?」

 

 

「えっ…リョウさんの?」

 

 

「うん。わたし結束バンドの前にもバンドやってたんだ。そこの歌詞の青臭さが好きで。でもソイツが売れることにこだわってどんどん歌詞が売れ線になっていって…それが嫌になってやめた。やめるときちょっと揉めたりもしちゃって」

 

 

「「………………」」

 

 

「バンド活動自体嫌になってた時期に虹夏にわたしのベースが好きだって言ってもらえて…それでまたバンドをやってる。けど、前のバンドをやめたのは後悔してない」

 

 

「ぼっち。個性を捨てたら死んでるのと一緒だよ。ぼっちの個性はまだ出てない。もちろん参考にするぐらいならいいけど、わたしはぼっちにはぼっちの歌詞を書いてほしい」

 

 

個性を捨てたら死んだも同じか…。まったくおんなじ意見だ。リョウ先輩。気が合うじゃないすか

 

 

「で、でもそれじゃ歌詞が暗く…」

 

 

「確かにそれはそう。でもそれを郁代が歌うんだよ?超陽キャっ娘の。面白くない?」

 

 

「皆が皆、同じじゃなくていい。バラバラの個性が一つになってバンドになるんだよ。だからわたしはぼっちには好きに書いてほしい。結果暗くなったとしてもそれはぼっちの個性だから」

 

ゴッチは自分が思っていることをそのまま書いたら駄目だと思っている節があるな。…だが。創作ってやつはそんなに甘くはない。

 

 

「…俺からも1ついい?」

 

 

「あっ青木くん…はい。どうぞ」

 

 

「俺は、ゴッチみたいに歌詞は書けない。なので生意気かもだけど、歌詞でもなんでもなんだけど実は表現者が思ってるほどオーディエンスには伝わんねぇもんなんだよ」

 

 

 

「その心は?」

 

 

すぐさまリョウ先輩に問われ思わず口を閉じたくなるが、ゴッチが先を促す目をしてるので、あまり気が進まないが続きを口にする。

 

 

「…いやさ。ゴッチって、…言いにくいんだけどぼっちじゃん。俺もそうだから気持ちわかるんだけどさ。これまで生きてきた中で自分が言いたかったことがちゃんと相手に伝わったことが何度あった?」

 

 

「………!」

 

 

「人が人に想いを伝えるのって全然上手くいかないじゃん。こんな事が言いたかったわけじゃないのに!とか、全然分かってくれない!とかあるでしょ。たぶん歌詞もいっしょ。まったく思ってない小手先ばかりの歌詞で人の心動かしたりできんのは1部の大天才だけ。でもゴッチは駆け出しでそんな技術はないわけじゃん。ならばオーディエンスの心を動かすには…たぶん、心しかないんだよ」

 

 

「………………!!!!」

 

 

「ヌルいこと考えてる場合じゃねぇ。おためごかしの言葉なんざ捨てて、胸ん中カッぴらいてそこにボールペン突き刺してインクにして書き殴るくらいしないと、オーディエンスには響かねぇ」

 

 

「万人に受けるなんて不可能だ。ならばほんの少しのやつにぶっ刺さって抜けなくなるような歌詞を書けばいい。…燃やしてみろよ後藤ひとり。恨みつらみ悔しい気持ち分かってもらえないエトセトラ。心の焼却炉にくべて黒い炎を燃えさからせろ。なあに心配すんなよ。燃えちまって灰になっちまえば炎の色が赤かろうが黒かろうがどうでもいいだろ?」

 

 

 

「…何が言いてぇかっていうとだ。烏滸がましいぞ。後藤ひとり。小手先で立ち回ろうとしてんだろ?そんなんまだできる腕じゃねんだから、リョウ先輩が言うように自分の感情を込めろ!やり過ぎかってくらい思いっきり。それでようやくだぜ?オーディエンスに伝わるかはさ!」

 

 

言いたいことを言いおえ、俺はコーヒーを口にする。俺もぼっちだ。言いたいこと伝えたかったことが上手くいかなかったことなどヤマほどある。少しはゴッチの参考になったかな?などと思っていると。

 

 

「遥!ズルいぞ遥!わたしも結構かっこよく決めたのに、これじゃ印象がブレる!」

 

 

「別にかっこつけてませんしー!ゴッチに道間違ってほしくないだけですぅー!」

 

 

 

リョウ先輩と口論になる。別にいいでしょ印象なんざ!

 

 

「…ほんとにそうだ。わたしは一体何を。素人が心にも無い言葉で他人の心を動かせるわけがない…!」

 

 

 

「そうそう。意外と言葉って伝わらないもんなのよ。手加減することなんかない。ここ来る前カレー作ってたから料理の例えで申し訳ないけど、俺の好きな芸人さんが言ってたのは。(味決める際の粉モンは思うとる3倍いけぇ!!)ってのもある。ぶちまけちまえよ。ノートをぶち破るくらいの筆圧で」

 

 

「遥。遥。台無し。なんで今◯鳥の話?」

 

 

「知ってましたか。好きなんすよ◯吾さん。あの人酒飲みで普段フニャッとしてるのに、最短で確信をつくでしょ?そういう人は性癖です」

 

 

どうでもいい話をリョウ先輩と交わしているとゴッチが。

 

 

「お二人共ありがとうございます…!!な、なんか今ならいい歌詞が浮かんできそうです。うぉぉぉぉ!燃え上がれわたしのリビドー!恨みつらみ妬み嫉み上手く出来ない自分への不甲斐なさクラス替えで隣に来た人のうわこいつかよ。みたいな視線!全部燃やし尽くして黒き太陽になれ!全世界よわたしの筆先に震えろ!わたしこそ冥きカリスマ後藤ひとりだぁー!」

 

 

 

「焚き付けすぎたんじゃない?」

 

 

「多分これぐらいでちょうどいいですよ。これなら少なくとも退屈な歌詞は持ってこないでしょ。そろそろお開きにしますか?」

 

 

黒いオーラをまとって今にもスーパーサイヤぼっちになりそうなゴッチを見つめながらそう提案する。だが。

 

 

「まだぼっちに聞きたいことがある」

 

 

うーん忘れてなかったか。ゴッチは言いたくないっぽいからこのまんま勢いで流してしまいたかったが、そう甘い相手じゃなかったらしい。

 

 

「ぼっち。どうどう。やる気が出たのはいいこと。…ところでぼっち。聞きたいことがある」

 

 

「…ふぇっ?」

 

 

頓狂な声を出してゴッチが着席する。リョウ先輩はそんなゴッチと目を合わせる。

 

 

「…単刀直入にいくかな。ぼっち。ぼっちの正体は、ギターヒーロー?」

 

 

全身の毛が逆立つ音がした。主にゴッチのほうから。同時になんで!?と言いたそうな抗議の視線を受ける。違うよ〜誤解だよ〜。という意味を込めて、首を竦めてみせる。

 

 

「昼間の動画見て気付いた。演奏の癖がよくにてる。…そのリアクション見る限り当たり、かな?」

 

 

ゴッチはリョウ先輩と俺を何度も交互に見回して諦めたように視線を落としたあと両手で顔を覆い天を仰ぐ。そしてポツリと。

 

 

「…隠し通せないかぁ…」

 

 

はい確定。だが分からない。なぜここまで隠そうとする?別に悪いことじゃないだろ。

 

 

「ごめんぼっち。隠そうとしてたのも察してた。でもなんで?」

 

 

ゴッチは顔を覆っていた手をゆっくりと外すと、そのまま腕を緩慢に下ろす。そしてその空色の瞳をまっすぐにこちらに向けて話す。

 

 

「…しつぼうされたく、なかったんです。虹夏ちゃんに。わたしの初めてのファンに。ほ、ほら。わたし、こんなじゃないですか。あんなに好きだって、言って、くれたのに、ギターヒーローのわたしが、こんなんじゃ。申し訳、なくて。虹夏ちゃんにし、失望されちゃったら。あんなに、優しかった虹夏ちゃんの態度も、変わっちゃうかと思ったら…こ、怖くて。喉が悴んで。…言えなかった…すみません…。」

 

 

そういうことか。得心がいった。伊地知先輩は、たぶんそんな人じゃないとは思うけど。…怖いよな。

 

 

「…なるほど。ぼっちの気持ちは、わかった。その上で、言わせてもらう。虹夏を、舐めるな」

 

 

「!」

 

 

「そんな奴じゃないよ。例えどんな正体であっても。知った前と後で態度変えるような奴じゃない。2人ともよく知ってるでしょ。心配することないよ」

 

 

「そうだよゴッチ。確かに分かるけど。あの底なしのお人好しさんはそんなことしねぇよきっと。大丈夫だ」

 

 

「……………」

 

 

ゴッチが沈黙する。

 

 

「ぼっち。まだ怖い?」

 

 

「いえ…言わなかった理由。もう1つあって。わ、わたし。虹夏ちゃんに相応しい存在になりたいんです」

 

そう言ったゴッチの目には、僅かではあるが、確かに決意の灯が燃えているように見えた。

 

 

「わたし、まだ全然ギター駄目で、ギターヒーローの動画のわたしには、まるで届かなくて。だっだから。もっともっと練習して。い、いつか。虹夏ちゃんが憧れてくれた本物のギターヒーローになれたら、言いたいと思ってます。だっだから、お2人にはまだ言わないでいただけると…助かります…」

 

あんなに上手いのにか。まだ足りないのか。…やっぱりお前は凄いな。気に入った。

 

 

「…分かったぜ。俺も男だ。約束は守る。虹夏さんにはゴッチのタイミングで言うといい。…それはそれとしてだ。あの動画のギター弾くやつが、自分の事を全然駄目なんて言ってると、俺の立つ瀬がないんだよ!…覚悟しろよギターヒーロー。当分俺の目標はお前を超えることだからな。精々首を洗って待ってろ!」

 

 

ギラついた目をゴッチにむける。

 

 

 

「ひゃっひゃいい〜…お、お手柔らかに〜」

 

 

 

なんで怯えてんだよ。もっとカッコつけてくれよ毒気抜かれるわ。

 

 

 

「ふふっアハハハハハハッ!」

 

 

うぉう、なんだリョウ先輩珍しい。店内ですよ?もう少し声抑えて?

 

 

「あ~おもしろ。虹夏…ほんとにファインプレイ。2人とも。ありがとう。しばらくは退屈しない音楽ライフがおくれそう。ぼっち。わたしも言わないから安心して。いっぱい練習して、いつかなれるといいね。ぼっちの目指す本物のギターヒーローに」

 

 

「はっはい!な、なんか、わたし、よかったです。知られたのが、お2人で。あ、ありがとうございます」

 

 

「ん」

 

 

「水くせぇぞ」

 

 

さてと、今度こそお開きかな。今日からゴッチは俺のライバルだ。練習時間を増やしてすぐにでも追いついてやるぜ、見てろよ!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

場面変わってSTARRY。かくも我々資本経済の奴隷は何時だってこの言葉に色めき立つ。

 

 

「え〜諸君!お待ちかねの給料だぞ」

 

 

「あざぁーっす!!せす!しゃす!」

 

 

「うぉう遥か。お前めっちゃ頑張ってたから色つけといたぞ」

 

 

「マジすか感激です!これからも骨が砕けるまでSTARRYに尽くしまっす!」

 

 

「いやそれ怪我してるから。粉骨砕身ってことか?」

 

 

いや~給料!テンション上がるなぁ〜結束バンドのみんなはライブ代やらアルバム代やら大変らしいが俺は自分のためにフルに使える。おっなんだ相棒。弦を張り替えてほしいのか?ついでにたまにはボディをワックスがけしろ?はっは欲張りさんめ。よーしギターのエステこと楽器屋に連れてってメンテナンスしてもらおう。ダイジョーブだ金ならあるぜ!

 

 

あれからなんとかゴッチは歌詞を書き上げた。なかなか個性的で内面を叩きつけるようで、少なくともカフェで見た退屈な歌詞ではなかった。暗かったけど。それに合わせてリョウ先輩も曲を作ってきて、これはかなりの出来だった。やはりただのクズではないらしい。ちなみにこないだのカフェ代は冗談かと思えばマジで払わされた。ちくしょうめ。

 

 

「よっし!それじゃあ来月のライブに出れるようにお姉ちゃんに頼んでくるね!」

 

 

「まだ頼んでなかったんですか?」

 

頼む?ライブ出るのに頼む。か。いかんな、虹夏先輩。それだけは、ロックマンとして絶対にやっちゃなんねえ。

 

 

「ダイジョーブ!こないだもすぐ出してくれたし!ね〜お姉ちゃん!」

 

 

「は?出す気ないけど」

 

 

だろうね。こないだのはいわば店長の温情。初回割引?みたいなもんですか。しかしまあ。ロックに挑んだ若者たちの宿命だが少しは落ち着くってことを知らんのか。またもや困難が目の前に現れそうな結束バンドの明日はどっちだ。明日はっ どっちだ!!

 

 




黒い太陽の元ネタの人は今際の際際まで自分の間違いにまるで気づかずあらゆる物を燃やし尽くしてめちゃくちゃにし、世界の敵となりました。厄介なのは自分のことを悪だと。吐き気を催す邪悪だとまるで思っていないことです。やってることは悪魔の所業。人を人とも思わない断罪されるべき悪党なのですが彼の奥深くに流れる理由は、どこまでも人間臭くて。共感できるところが1ミリもないか?と聞かれたらそれはNOになります。共感しちゃいけないんですが。危険な魅力を持つラスボス。もし気になったら検索してみて!長いけどとっても面白い漫画だよ!
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