【完結】 ギター爪弾きのバラッド   作:はま0821

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さあ来たぞ!ぼざろで1番ロックな女の登場だ!うまく再現出来るだろうか?


9 嵐を呼ぶ!瘋癲の廣井きくり!

 

 

 

がたんがたんと電車に揺られる。車窓を眺めるというのは嫌いではない。どうもこの小説の主人公青木遥です。ただいまゴッチこと後藤ひとりの路上ワンマンライブをサポートするため笹塚からおおよそ片道1時間ほどかかる金沢八景という駅に向かっています。…とおい…。

 

 

なぜ金沢八景かというと、いいライブ場所をゴッチに尋ねたら提案してきたのだ。なんか近々花火大会があり集客が見込める日があるらしい。あのぼっちめ、地元から動きたくないからじゃなかろうな…などと考えてると、ようやくだ。ようやく目的地に着く。

 

 

「金沢八景〜金沢八景〜」

 

 

この特徴的な駅名の由来は、なんかはるか昔アジアのどっかで景色が綺麗な場所の特に綺麗なところを8つ選んで◯◯八景って呼ぶのが流行ったんだって。そいつが巡り巡って日本にも来て、古くは鎌倉ぐらいから景色が綺麗だといわれていたここも、金沢八景なんて呼ばれるようになったんだと。干潟が特に綺麗だと言われてたらしいが今は埋め立てられたり干上がっちまったりで大変なんだそうだ。世知辛いねぇ…。

 

 

 

駅前で視線を回すとすぐにピンクを見つける。ほんとうに目立つから待ち合わせの時助かるな。…今まで少しだけ思ってて、言い出せなかった事だが。全身真っピンク。そんな目立つ服装で、ゴリゴリの陰キャは無理がないかね?ゴッチよ。

 

 

「うっす!お疲れ!ゴッチ」

 

 

「あ、お疲れさまです…あ、青木くん」

 

特に何の面白みもなく合流する。いや、しかし。こいつほど宝の持ち腐れ、って言葉が似合うやつもいないな。芋臭いピンクジャージ以外も着てみたらいいのに。スタイル良いんだからなんでも似合うだろう。などと、今日の用事とはまるで関係ない事を思う。

 

 

「どっどこでやるんですか?」

 

 

「いや〜、俺こっちの土地勘ないからさ。今日はゴッチ頼りだぜ。なんか良い場所知ってる?」

 

 

 

歩きながら今日の段取りについてゴッチと話していると、遠くから微かに音楽が聞こえてくる。いや。なんだ?なぜだ?

 

 

「ふぁいっ!ふぁいっ!ふぁいっ!ふぁいっ!」

 

 

どこからともなく聞き慣れたプロレスラーのテーマが聞こえてくるぞ。女性の声で、そう思いおもわず視線をむけると。

 

 

 

「…やべぇ。ゴッチ。視線下げろ。目ぇ合わすな」

 

 

「えっえ?どうしたんですか青木くん」

 

 

歩いてくる。前方から。日本酒の一升瓶をエアギターがわりにし大声でアントニ◯猪木のテーマを歌い散らす女が!なんで猪◯やねん!

 

 

どう見ても極上の酔っ払いですほんとにありがとうございます。あれで酔ってなかったら別の意味で怖いわ。違うもんキメてんだろ間違いなく。

 

 

ああいう輩は厄介だ。経験でようく知ってる。何が厄介か?行動が読めないのだ。急に泣いたり笑ったり、おんなじ話何回もしたり、周りにくだを巻いたり絡んだり。あげく急になんの前触れもなく寝る。そして起きると昨日のことをさぱっと覚えていない。本人はそれでいいのだろうが、周りは振り回される。ホント勘弁してほしい。

 

 

何が言いたいのか、奴に絡まれたりしたら時間がいくらあったって足りない。成功するかはわからないが路上ライブやる時間がなくなっちまう。酔っ払いに構ってる暇などないのだ。

 

 

「ゴッチ。こっち」

 

 

「あっえっはい」

 

 

ゴッチを促し目立たないように道の端に移動する。嵐は過ぎ去るのを待つが吉。移動した先の道の端には低い手すりの先に海が広がっていた。さすが八景。綺麗だなーと現実逃避していると。あれ!?声の方向が変わったぞ!?こっち来てないかこれ!?

 

 

悪い予感は的中しておりエネミーはもはや真後ろまで来ている。いつの間にかやかましいあのテーマもやんでいる。えっなにこれホラー?とっとにかくあれだ。反応しちゃだめだ。ボールを投げて打ち返してしまったら9回の長ーいゲームが始まっちまう。そう思い最後の足掻きで黙っていると、後ろからすう〜っ。と、息を吸い込む音が聞こえた。

 

 

「いーーーーーーーーーーーーーーーーーーち!!!!!!!」

 

 

 

あっまさか!やめろおいズルいぞ!

 

 

 

「にーーーーーーーーーーーーーーーーーいぃ!!!!!!!!!」

 

 

 

それは全ての男の子の魂に共鳴するやつ!

 

 

「さーーーーーーーーーーーーーーーーーん!!!!!!!!!」

 

 

 

だめだ!乗るな青木遥!!

 

 

 

「「だぁーーーーーーーーーーーーーーー!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

気づけば叫び声とともに、右腕を突き上げていた!ムリでした☆ムリだよずるいよ。今のフリされて返さない日本男子なんかいるのかよ…分かっていたのに避けられなかった自分に軽く落ち込んでいると後ろから。

 

 

「おぉ~ノリいいねぇ〜しょうね〜ん。なんか昨日ファンの人におしえてもらったんだこのうた〜。なんかみなぎってくるかんじでぇかっこいいよね!」

 

 

しかも元ネタを知らんとは。その男の偉大さを小3時間魂に刻みつけてやろうかと思っていると。

 

 

「てかてかぁ〜なんで避けるのさ〜しょうねんしょうじょは〜2人はさぁ〜あれでしょ?バンドやるでしょ!?あたり?あたりかなぁ〜?すごい?すごいでしょ!?わたしの勘は当たるのだ!」

 

 

そりゃギグバッグ背負ってるからね。10人に聞いたら9人はバンドマンだって分かるわな。あとの1人はコスプレ?とか言うんじゃね?

 

 

「わたしもさぁ〜バンドやるんだよぉ〜ベースはわたしの命より大事なものなんだ〜」

 

 

へぇ。この酒飲みお姉さんバンドマンか。よく見りゃ中々の佇まい。小豆色の片側おさげにまとめた髪にグリーンのワンピース。上着にスカジャン。下駄。只者じゃねぇな。間違いなく。うん?今の話で気になった点があったので素直にお姉さんに投げ返す。

 

 

 

「その命よりも大事なベースは…?」

 

 

「…………ない!どっかの居酒屋に置いてきちった!てへっ」

 

 

「命が…軽い…!」

 

 

いたのかゴッチ。もっと喋れよ。だがしかしこの女バンドマンか。成る程。ぎゅるるんと頭を回す。

 

 

「ゴッチちょっと耳かせ。この女キープしとこう」

 

 

「えっな、なんでですか」

 

 

「酒飲みはノリが良いから、かわいそうな身の上話の1つでもすりゃチケット1枚売れるかも」

 

 

「はっ!そうだった…青木くん…天才…!」

 

 

「なんだなんだ2人で内緒話〜?お姉さんもまぜて〜?」

 

 

 

「いえいえしつれい。それより大変ではないですか。そのベース。探すの手伝いますよ?」

 

 

「ほんと〜?いや〜たすかるなおろろろろろろろろ!!!!!!」

 

 

うわああああ大変だ!!!この女のベースなんざよりよっぽど大変だ!!この女やりやがった!だから嫌なんだよ酔っ払いってのは前触れがねぇから!

 

 

 

「うおっぷやっべ…♡さすがに飲み過ぎた…水…水を…」

 

 

前言撤回して手放してぇ〜この酔いどれ女。いやいや諦めるな俺。チケット捌くためだろ。我慢だ我慢。

 

 

コンビニで買ってきた2リットルペットの水でろーげーを掃除する。なるべく道の端に寄せておく。この美しい景勝地でなんてことを。歌川◯重にドロップキックされんぞ。女はしじみの味噌汁やら頭痛薬やらさらに宣ってきたのでそれも買い与える。荒れに荒れてるであろう胃の中を少しでも鎮めるためにたくさん水も飲んでもらう。

 

 

「ほら。姉さん。ありましたよベース」

 

 

「うぐぅ…えっありがと〜探してきてくれたのぉ?」

 

 

「近くの居酒屋を、姉さんの特徴話して回ったんすよ。ちゃんと保管してくれてましたよほらっ」

 

 

ここまでの働きで1500円分はあるだろ。この女には絶対チケット買わせたる。とココロの中で息巻きながらギグバッグを渡す。先程しじみの味噌汁やら、頭痛薬やら買い与えた際についでに買ってきたおにぎりを頬張りながら、これからどう展開しようか、思案を巡らす。

 

 

「ほれゴッチ。食うか?」

 

 

「あっありがとうございます」

 

もちろんゴッチの分も買っといたので、おにぎりを手渡す。ちなみに味は、俺イチオシの、明太子だ。間違いないだろ?

少し早めの昼休み。みたいな感じに、お姉さんは水と薬を。そして俺達はおにぎりをそれぞれ食べ進める。ゴッチはお姉さんの話し相手をしながら。…人見知りであるはずのゴッチが、あんなに普通に喋れるとは。ちょっと吃る時もあるけど。…もしかしてあのお姉さん。コミュ力ヤバい?

 

「ううぅ~!そうか〜ひとりちゃんは苦労のバンドマンなんだね〜わたしも最初は苦労したよ〜大変だよねチケット捌くのぉ〜」

 

ほおう。ゴッチ、事情話したのか。サメザメと泣いて、コチラの境遇に同情してくれているではないか。策士よのお。チケットは1枚は売れたも同然だな。ケッケッケ!

 

 

「あっ。男の子の方の、君は青木くんって言うんだね!わたしは廣井きくり!ごめんね自己紹介おそくなってぇ」

 

 

「ご丁寧に。自分は青木遥といいます。こちらこそ遅れまして申し訳ありません」

 

 

「それにしても…きみたちふたりはチケット捌くのにがんばってるんだねぇ〜…よ〜し!このあたしが!この天才ベーシスト廣井きくりが!君たちのために一肌脱いであげよう!」

 

 

「何いってんだこのへべれけ。無理しねぇで寝とけ」

 

 

ホントですかありがとうございます!

 

 

「あ、青木くん!逆です!たぶん本音と建前が逆になっちゃってます!」

 

 

「あはは〜いうねぇ〜でもわたし、けっこうな腕前だよぉ〜新宿でワンマンいけるくらいには売れてんだからぁ〜」

 

 

マジかよすげえな。その与太話がホントなら少しはこのへべれけも使えるかも。

 

 

「お姉さん。作戦タイム」

 

 

「…認める」

 

 

「耳かせゴッチ。作戦にこの人巻き込もう」

 

 

「あっえっ?」

 

 

「ベーシストがいたほうが曲のクオリティあがるし。マジで凄い人ならギャラリーも少しは集まるんじゃねぇ?」

 

 

確かになんか只者ではない雰囲気を感じるし、別に失敗したところでリスクなんざない。チケット1枚確実に捌くためにもこの女は逃せん。

 

 

「いや~ちからかしてくれるんですか〜うれしいな〜」

 

ヤバい、少し棒読みになっちまったか?お姉さんの力を、俺はあまり信じられていないので、少し白々しい感じになってしまったかも!しかし、お姉さんはそんな俺の心を知ってか知らずか。

 

 

「作戦タイムはもういいのかい?なら…ここにいるみんなでライブをやろーう!」

 

 

こちらが提案しようとしたことを向こうから!?心でも読めるのかこのへべれけ。だが問題ない。渡りに船。

 

 

「ふっふん!そっちのしょうねんのほうはイマイチわたしのすごさを信じてないみたいだから、いいとこ見せたげる!機材とかないでしょ!ちょろっと待ってて!」

 

 

そう言ってお姉さんはどこかに電話をかけ始める。あれ…ホントに凄い人…なのか?

 

 

なんとものの数10分で機材が揃えられてしまった。うおおすげぇ。どの機材もレベルが高い。俺も一応持ち運べるアンプとか持ってきたけどこれなら出す必要ない。マジで凄い人かもこの姉さん!

 

 

「ふふーん!どう、見直した!?ほめてくれてもいーよー!」

 

 

「や、悔しいながら確かに。凄いですね姉さん」

 

 

「ほ、ほんとに凄いです!こ、これなら!うわぁライブができちゃうヤバいドヘタな腕前皆様にさらしてしまう花火を楽しみに来たのにわたしなんざの腐れ音楽で耳汚しちゃったら金沢八景市役所の苦情の電話が鳴り止まなくなっちゃうそんな事態になったら切腹するしか腹切るしか…………」

 

 

で、でた!ゴッチ名物呪言吐き!怖いからやめてくれよ!

 

 

「あはは〜君中々にロックだね〜そういうの、嫌いじゃないよ〜」

 

 

手際よく機材の準備を進める姉さんを見ながら、物凄い勢いで独り言を呟きつつガタガタ震えるゴッチの様子を伺っていると、お姉さんがゴッチに声を掛ける。

 

 

「ひとりちゃん。怖い?」

 

 

「ぶつぶつぶつ………は、あ、はぇ?」

 

 

先程までと少し雰囲気が違うお姉さんから尋ねられるゴッチ。

 

 

「ひとりちゃんはさ?路上ライブしたことはある?」

 

 

「あっいぇ。その…は、初めてです」

 

 

「だよね。なんでだろね。今まで経験したことないんだから先のことなんざ分かるわきゃないのに…怖いんだよね。わかるよ。なぜか失敗する未来しか見えないんだ」

 

 

「ひとりちゃんと、青木くん。音楽をやる以上、敵は居る。でも方向を間違えてる人も多くいる。2人は、敵を見誤るなよ?」

 

 

音楽をやる以上、敵は居る。敵を見誤るなよ。か…。深いな。これは家に持って帰って寝る前に反復してみよう。

 

 

「あ、青木くん。い、今のって」

 

 

「悪いが俺はまだ意味を分かってない。でも家に帰ってからゆっくり咀嚼してみな。たぶん音楽の先輩からの重大な格言だと思うぜ?」

 

 

「あ、うん」

 

 

「さあって準備完了!お2人も、い〜い?みなさ〜ん!金沢八景のみなさ〜ん!これから軽いライブをしまーす!曲はこのピンクの子のバンドの曲です!この子が今度行うライブのチケットも販売しますのでよかったらかってくださ〜い!」

 

 

お姉さんの声掛けになんだなんだとギャラリーが出来上がる。

 

 

 

「よっし!やろう!!」

 

 

 

「譜面はだいじょぶすか?」

 

 

「当然。誰だと思ってんのさ?」

 

 

あんまりまだ誰だか知らないんだよなぁ。ゴッチを見るとまだ小刻みに震えている。よし、発破かけたろう。

 

 

「大丈夫だゴッチ!俺もいるしこのお姉さんもいる!失敗したって3人の責任さ!全員でだだすべりしよーぜ!」

 

 

「そーだそーだ!って言いたいけどわたしがいる以上失敗はありえないんだなぁ〜。2人とも!リラックスして弾きたまえ!いい感じに着地させたげるから!」

 

すげ〜自信。…割りとマジでワンマンライブやってるのかもな。雰囲気あるもん。なんか。

 

 

「………!っはい!よ、よろしくお願いします!」

 

 

「いい返事だ!この天才ベーシスト廣井きくりが胸貸してあげる!」

 

おし。取り敢えず、ゴッチの覚悟も決まった所で!音頭は俺が取らせてもらうか!

 

 

「さてでは皆様。ギターきっかけで。はいわん、つー、すりー!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

うおおっ!!すげぇなんだこれ!?ベースってこんな存在感ある音出るのか。弾き方に癖があるが完璧にリズム拾ってる!あわせやす〜い!上手えなこの人。いや、上手いなんて表現じゃ陳腐だ。こんな個性的で独創的なベースなかなか聴けない。ホントにワンマンやってるわこれ。助っ人くじ大当たりだわ!ありゃっ!?ヤバいゴッチのやつ走ってる。しかも大分だハンテンくらい疾いな。どうするか…えい。

 

 

ぎゃりぃ!意図的にチョットだけミスる。はっと2人の顔がこっち向く。顔を上げたゴッチに向けて口パクでちと疾い。と伝える。その後分かりやすいように少し大げさにリズムを刻む。お姉さんもだいぶ分かりやすく弾いてくれる。ありがたい!なんとかゴッチのテンポも戻ったし、このまま突っ切るぜ!

 

 

 

嘘だろ?凄いな。今のあのミス。多分意図的にやったんだ。わたしたちの気を引くために。その後のフォローも完璧。どんなリズムで、どんなリフで弾けば自然に元のリズムに戻れるのか。あの一瞬で全部想像して、しかも実行したんだ。高校生って言ってたよな?いやいや悪い夢でも見てるみたいだ。…しかも、まだまだ余裕がありそう。ふふん。生意気だぞ、わたしもプロの技。チョットだけ見せてあげるか!

 

 

や、ヤバい。おもわず最初ちょっと走っちゃった!修正できる…?うぅ!難しい!やっぱわたしなんかに路上ライブなんかできるわけ…!

 

 

「が、がんばれー!」

 

 

ぱっと下がっていた視線があがる。声を送ってくれた、目の前の2人の顔が目にはいる。勝手に顔を想像していた。つまらなそうな。失望したような。…でもその2人がしていた顔は、泣きそうになるぐらい優しい顔で。わたしに、こんなわたしなんかに声を掛けてくれた!お姉さんが言ってた、敵を見誤るな、なんとなくその意味がわかった気がした。

 

 

ぎゃりぃ!はっと音に顔を向ける!そんな青木くんがミス!?なんて思うが青木くんと目が合うとニヒルに笑い口パク。ち・と・疾・い。そして結束バンドの初めての音合わせでもやってくれた縦揺れと分かりやすい大袈裟演奏にシフトしてくれる。助けられてばかりだな…!情けないぞ。後藤ひとり!わたしはなんだ!そうだわたしはギターヒーロー!登録者数3万人!いずれは武道館でワンマン!グ◯ミー賞を取る女!虹夏ちゃんにふさわしいギタリストになるんだ!こんなところで止まってられるかうぉぉぉぉ!!!!!!燃えろわたしのコスモ!

 

 

 

 

素晴らしい!最初ちょっと走ってたけど1曲のうちに修正しちゃったよ!プロでも難しいのに!きっかけは青木くんのあれだろうけどそれからのパフォーマンスは圧巻だな!すごいポテンシャル!なになに金沢八景ってギタリスト王国!?こんなレベルがごろごろいるの!?ヤバいテンションあがってきた!っふ。大人げないかもだけど6割くらいを見せたげるか!さあ!ついてきてみろ有精卵ども!!

 

 

 

もうあげなくていーよーきくりちゃーん!これ以上あげられたらついていけなくなっちゃう!なんてレベルださすがプロ!曲もあと少し!こうなったら最後まで喰らいついてやるぜ!ギターバラッドのチカラを舐めんなぁ!!

 

 

 

最後はゴッチのダウンストロークでフィニッシュ!バチッとラスト合わせる!いーんじゃなーい!!

 

 

ぱち…ぱち…ぱち…まばらな拍手が、

 

 

パチパチパチパチ!!うおぉー!!!スゲー!と歓声に変わる!いつの間に20人くらいか?集まってくれていた!

 

 

「ありがとうございました!曲はこのピンクの子がやってるバンド、結束バンドの曲です!下北沢のSTARRYって場所を根城にしてますんで興味あったら来てみてください!あとチケットも売ってますんでよかったら買ってください!」

 

 

言いおえたところで。

 

 

「あーすみませーん。ここでのライブは禁止でーす。やめてくださーい」

 

 

「やべぇ手入れだ!者共ずらかれ!みんなも逃げて!」

 

 

「うぉっやべ!!ゴッチそっちの機材もて!」

 

 

「あ、あぁぁぁぁ!!!!!!ヤバい前科者になっちゃうぅ〜」

 

 

三者三様に逃げ出す。ギャラリーたちも散り散りだ。兵たちも夢の跡。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…ふっ、あんな急いで逃げることね〜のに。しょっぴかれることなんかないんだから。あーあつまんね。こんな制服着てなかったらもう少し聴いてたかったのによ」

 

 

先程まで賑わっていた、今は誰もいなくなってしまった広場を見ながら、誰に聞かせるでもなく、警察官はひとりごちた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「へ〜っはへ〜っはへ〜っこ、ここまでくれば大丈夫でしょ」

 

 

「はぁ、はぁ、はぁ。や、ヤバかったすか?やっぱ路上ライブってしょっぴかれるんすかね?」

 

 

「はぁっ…はぁ…はぁ…」

 

 

ただ膝に手をついて肩で息をするゴッチを尻目に問いかける。

 

 

「いや?注意ぐらいですむと思うよ〜久しぶりに青春ぽくみんなで走ってみたかっただけ!」

 

 

投げ捨てちゃおうかなこの酔っ払い。そこの花壇に。いやいや、待て待て。落ち着け俺。心を何とか切り替えて、先程のライブのお礼を述べる。

 

 

「いやーなんか凄かったっす!実はあんまり信じてなかったんすけどホントに凄い人だったんすね!感動しました!姉御と!呼ばせてください!」

 

 

「わたしは君の腕にこそびっくりしたけどね!ソートー練習してるよねぇ!えらいぞぉ〜!」

 

バシバシと、背中を叩かれる。練習していることを褒めてもらえるのは、なかなかどうして、悪い気がしない。

 

 

「ひとりちゃんも!すごい演奏だったよ!君達は上に行けるよ!わたしの勘は、当たるから!」

 

たしかに、ゴッチの演奏も凄かったな。やはり、俺の意図的にミスって、リズム合わせる作戦が上手くいったのかな!?

 

 

「はっはい!ありがとうございます!…お姉さん。お姉さんが言ってた言葉の意味。なんとなくわかったかもしれません」

 

な、なに。凄いなゴッチ。俺まだ全くピンときてないのに。もう分かっちまったのか。

 

「聞いてもいい?」

 

姉御が、目を開いてゴッチの方を見やる。ゴッチは少し気圧されたかのように後退るが、やがてしっかりと姉御に視線を合わせ、話し始める。

 

 

「…えっと。実は最初の方わたし。手元ばかり見て演奏して。リズムも合わなくてヤバいどうしようって。な、なって。失望されちゃうかな。つまんないとか思われちゃうかなって、お、思ってたら…」

 

 

「うん」

 

 

「お、オーディエンスのお姉さんたちが、い、言ってくれたんです。がんばれって。こ、こんなわ、わたしに」

 

 

「うんうん!」

 

 

「勝手にその時想像でじ、自分を縛り付けていたのかなって。オーディエンスの人たちは、敵じゃないのかなって。そ、そう。思えました」

 

 

「…うん。ひとりちゃん。こういうのに答えはない。たぶんそん時そん時に自分で戦わなきゃならないもんだと思うけど、正体が分からない敵に、打ち勝った!って思いがあればまた戦い方も変わってくるってもんさ。一助になれたならなによりだよ」

 

 

「はっはい!!」

 

 

なんだよまともな人じゃん。酒飲みロッカーにもまともな人がいるんだな〜ろくでなししか見たことねぇからさ。ロックでなししか。などと下らないことを考えていると、不意に声が掛かった。

 

 

「「すみませーん!」」

 

 

あれは…さっきのライブの二人組みのお客さん。ゴッチに声援をかけてくれたお姉様方だ。

 

 

「あ!あの!先ほど広場でライブされてた方々ですよね!さっき言ってたチケットってまだありますか!?」

 

 

「ああはい。警察から逃げるのに必死で。まだ1枚も売れてません」

 

 

「よかった…!2枚!2枚ください!」

 

 

「えっ!?」

 

 

「わ、わたし!感動しちゃって!そのピンクの人の演奏に!女の子でもこんなに弾けるんだ!って!ライブに行ったら、もっとあなたの演奏聴けますよね!」

 

 

おお………!!ゴッチのファンだ。ギターヒーロー以外のファンは初めてじゃねぇか?

 

 

「えっ…!わ、わたしのですか!?」

 

 

「うん!もうサイッコーにかっこよかった!だから!チケット買う!ライブも絶対行くね!」

 

 

「さ!サイッコーに……!!!!えへへえへえへへえへえへへえへえ…………!!!!」

 

 

 

やべっ、ゴッチのイキりクソ陰キャな正体がバレる。先にチケット売っちまおう!そうしよう!

 

 

「ありがとうございます!2枚!3000円です!」

 

 

「はい!あっお兄さん!お兄さんもかっこよかった!この子のバンドの人なの?」

 

 

「いえ、俺とこのベースの人は今日限りのサポートです」

 

 

「なーんだ残念。君の演奏ももう一度聴いてみたいのに」

 

 

「下北沢STARRYで俺は働いてますので来ていただければ接客なら致しますよ?ライブの予定はありませんがね」

 

 

「ふ〜ん。上手いのにね。いつかライブ、できるとイイね!ありがとっ!またライブでね!カッコいいの、期待してるね!」

 

 

最後の方はゴッチに向けた言葉かな。よかったなゴッチ。まごうことなきファンができたな。ギターヒーローではなく後藤ひとりのファンが。

 

 

「やっやったやった!これであと1枚!」

 

 

「そーだね、あと1枚だね?最後の1枚はわたしが買うよ!」

 

やったぜ。きくりの姉御。実はそう言ってくれると確信しておりました!

 

 

「えっ!?えっ、いいんですか!?」

 

 

「もちろ〜ん。あんなクオリティの演奏聴かされたらライブも行きたくなるのがバンドマンって生き物さ。1500円ね、はい!これでチケットノルマクリアだね!おめでとう!」

 

「やっやった…!!やったあああ!!」

 

ガッツポーズをしながら、嬉し涙を流すゴッチの邪魔をしないように、少し小声できくりの姉御に礼を言う。

 

「なにからなにまですいません。さすが天才ベーシスト廣井きくりさんですわ」

 

「へっへ〜見事な手腕だったでしょ?チケットはやっぱライブして聴いてもらってから売るのが1番!」

 

「あっありがとうございます!お姉さん!」

 

「い〜ってことよひとりちゃん。15本分のおにころ分のライブ、期待してるよ!」

 

 

台無しだよなんで単位が酒だよ。

 

 

「ひとりちゃん。青木くん。若いうちにいっぱい悩んでおきなよ。いっぱい悩んでぶつかって、言い合って仲直りして。大人になると求められるのは結果。過程は誰も評価してくれなくなる。立ち止まってあれこれ悩めるのは時間のある若者だけの特権だよ!」

 

 

「ありがとうございます!敵を見誤るなって言葉も含めて、大事にしまっておきます!」

 

 

「はっはっは〜!…んじゃわたし、そろそろ行くわぁ~。少年少女!あんま夜更かしすんなよぉ〜!」

 

 

右に左にメトロノームのように揺れながら酔っ払いが歩きつつ金沢八景駅に消えていく。…嵐のような人だったが。

 

 

「…カッコよかったな。大人のバンドマンって感じだ」

 

 

「ほ、ほんと…!自信たっぷりで、や、優しくて!そ、尊敬しちゃう…!」

 

 

あれはやめとけ…。プラスもあるけど、到底ケアできないマイナスもあるやん。ろーげー掃除させられたの忘れたのか。などと思っているとメトロノームお姉さんが戻ってくる。忘れもんかな?

 

 

「威勢よく出しちゃったけど今のお金、帰りの電車代だった!スカンピンで帰れん!ごめぇ〜ん電車代貸してぇ〜」

 

 

 

 

「「………………………………………………………」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

しまんねぇ女だなホントによぉ!!!!!!!!

 

 

 

 

 

 




ロックで破天荒で、でもなぜか要所要所で優しくて。廣井きくりさんの魅力は尽きませんな!廣井きくりのスピンオフも応援しとります。
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