私が円環の理からまどかを引き裂いてから、世界が改編されてから、数日。宇宙の始まりから数えるなら約138億年と数日かしら。そんなことはどうでもいいのだけれど。
この数日、まどかへ目を配り、美樹さやかや巴マミ、佐倉杏子、百江なぎさには注意を払いながらこの先の事を考えていた。
今はつつがなく日々が続いているけれど、この平穏がずっと続くなんて思っていない。
不安定なこの世界、インキュベーター、魔獣、言うこと聞かない私の手下たち。対処しなければいけないことは沢山あるのに、不確定要素まで湧いてくる。
「あの子の干渉かしらね。あなたはどう思う?」
「知らないわよ」
目の前で堂々と私を監視している美樹さやかに問いかけると、そう返事が帰ってきた。
「私はただ教室で今日の授業の復習と明日の予習をしていただけなのだけど」
「ならせめてノートの一冊くらい広げなさいよ」
「ふふふ」
私の机の上には何も置かれていない。授業が終わって教科書を片付けてから、そのまま思索にふけっていたのだから当然ね。
美樹さやかは下校後で誰もいない教室にずっと残っている私を不審に思って監視しているという感じかしら。
「別にやましい事を考えている訳じゃないわ。そんなに睨まないでくれるかしら」
「……別に、そんなんじゃないけどさ」
美樹さやかが私の顔へと手を伸ばしてきた。一度はその手を払ったけれど、もう一度向けてきたので好きにさせることにした。美樹さやかの手は私の頬に添えられ、親指が私の目元をなぞっている。
「クマ、酷いよ。あんた、最近ちゃんと寝てんの? てか、寝れてんの?」
……は?
何故、あなたが私にそんな事を聞くのかしら。
確かに最近、睡眠時間は削りがちだったけれど、あなたには関係無いでしょう。
まどかの監視、最近現れた不確定要素の調査、言うことをほとんど聞かない手下、すぐどこかに行く耳飾りのトカゲ、etc。寝る時間を削るしかないのだから仕方ないじゃない。
「あたしには関係ないかもだけどさ、今のあんたを見てると少し心配になるんだよね」
「……関係ないでしょう」
「だーかーら、そう前置きしたでしょうが」
添えられていた手が離れ、代わりに頬をつねられたわ。不愉快よ。
「なにをしているのかしら?」
「いーや? 目覚ましになるかなーって」
「離しなさい」
「離させてみなさーい」
美樹さやか、あなたはどこまで愚かなの。
「なーんてね。あんたの言う不確定要素だとか、あんたの手下のことだとか、その辺のことは私は知らないし関係もないかもしれない。けど、一人で溜め込むくらいならさ、少しは周りに相談しなよ。あたしは嫌でも、杏子辺りならあんたも話しやすいんじゃない?」
美樹さやかが私の頬から指を離し、カバンを持って教室の出入口へと向かって行く。
「なんであなたに心配されなきゃいけないのかしら」
「あたし自身、今のあんたを見てられないってのもあるけどさ、何よりまどかが心配するでしょ」
まどかを引き合いに出されてしまうと、私は何も言えなくなってしまう。
「言いたい事は言ったし、あたしはもう帰るわ。じゃあね、悪魔ー」
ヒラヒラと後ろ手を振って教室から出ていく美樹さやかを、私は目だけで見送る。影すら見えなくなった後、一際大きなため息が自然と漏れた。
「はぁ……美樹さやか、あなたはどこまで愚かなの」
サブタイはワルプルギスの廻天特報第2弾SIDEほむらの歯茎ネタです。