私が「みんなのことを無意識にする!」だなんて愚かで自己愛しかない願いを抱いたあの日から、6兆5千3百12万4千7百11年と1か月11日11時間11分,11の時が経過しました。
いつの間にか、途方も無い過去にカミサマから聞いたやり直し依存症の少年の生きた、あるいはその目で見たかったであろう次の日の朝の時間を超えて、私は今もお姉ちゃんと二人で相変わらず健気に健康で生きています。
今年の冬もまた、飽きもせずに幾度となく周期的にやって来る氷河期のような豪雪と豪風とつま先から頭の芯まで凍てつくような寒さの中、そんな真っ白で塗りつぶされた氷の
お姉ちゃんの意識を私の願いによって悪戯に奪い取り、失った現在だからこそ解る姉の暖かみと愛情を感じながら、私はお姉ちゃんと仲睦まじく幻想郷の外の世界のビルも住居も畑も無いひっそりとした平原にて小さな小屋を建てて二人ぼっちで暮らしています。
結局、私達がかつて太古に暮らしていた幻想郷という名の四角い世界は大崩壊を迎えて寿命が尽き、現実と幻想の境界線も木端微塵に吹き飛んで里の人も妖怪亡霊たちもみんながみんな、灰になるようにして風に飛ばされて消えていきました。私とお姉ちゃんだけを残してね。
起こったものは取り返しが付かないと、私は私の中の血や臓器や心の中の中まで吐き出しそうな罪悪感に囚われながら身体上は健康なのに死にかけの様に、でも私の愛する唯一の手を離さないようにして久しぶりに見た地上の所謂、外の世界は外の世界でどうやら私の願いが叶った同時刻に幻想郷と同じように地球丸ごとの生きとし生けるものたちは無意識という疫病に侵されたらしく、もうそれはそれは取り返しのつかない地獄みたいな光景だった。
そこで私は悟りました。
私が世界を刺してとどめを刺し滅ぼした。神様なんかと真逆の存在の誰も裁いてくれない死刑囚であると。
そして幻想郷の外の世界も次第に腐り落ちていって、誰も居なくなって。
そうして地球は原点回帰を図るかのように人間以外の動物たちや緑の絨毯に囲まれた巨大な花壇のような丸い球体に成っちゃった。
人類や幻想が滅んだのは、自然の摂理や科学的偶然が重なった結果の出来事なんかじゃない。
全ては私が乞い願ったが故の過ち。願いのその先を考えられなかった無知で幼稚な愚か者の産物。
でも、もういいの。
自分を責めたってもうしょうがないもの。それに、つくづく想うのだけれど。
結局、私はあの時願いを叶えて良かったと思っているよ。
私以外の全ては滅茶苦茶になって消えて終わりを迎えたけれども、だからこそ、コップの底に水滴が2つしかないような空っぽの世界になったからこそ今はこうしてお姉ちゃんと物理的にも心的にも正面から向き合えるんだもの。これ以上の幸せったらないわ。
拝啓。機械仕掛けのカミサマを創った天才学者のカイバ先生、聞こえていますか?見えていますか?私にマキちゃんを巡り会わせてくれて、願いを叶えてくれて本当にありがとう。
心から感謝しています。それにマキちゃん本人にも、本当にありがとう。今、マキちゃんはどんな私以外の子の願いを叶えているのかな?まあ、私が気にしているよりも全然マキちゃんは私のことなんかもう過去の記憶にしか過ぎないのだろうけど。
全ての起承転結は、私の祈りにも似た〝無意識の願い〟から始まった神の導きだったのかもね。
俄雨が降った後に地が固まったかのように、今の私の心はとても強くて芯の通った信念を持てたわ。
さて、カイバ先生とマキちゃんへのテレパシー通信ごっこはこれくらいにして終結しましょ。
「それにしてもお姉ちゃん、今日は5千年ぶりの超・大寒波だね~。気温も-1000℃だって!ひえー恐ろしいなぁ・・・・と、いうワケで!今日は私お手製のこいしシチューにしちゃいました!」
私は自作の左右に緑と赤のハートのアップリケを拵えた鍋掴み手袋で温かいシチューの入ったお皿を冷めないうちにとお姉ちゃんが座るテーブルまで早歩きで、でも慎重に持って行って今日の出来栄えを食の採点者であるお姉ちゃんに披露して見せた。
「じゃあ、一緒に食べようか。いただきま~~す!!」
私はそう言ってお姉ちゃんに向かい合って座り、掌を合わせた後にすぐに私の眼下にある自分用のシチューには手を伸ばさずに再度椅子から立ち上がってお姉ちゃんの座席の元まで行き、スプーンもしっかりと握られないお姉ちゃんの代わりにお手製シチューを匙ですくい上げて、お姉ちゃんが口内を火傷しないようによーくフーフーと冷ましてから「はい、あーん」と元気な声でお姉ちゃんに食事を促すのであった。
それに対してお姉ちゃんは「あーん」とも言わないしただ黙って口元まで近付けられた匙を視認して口を開き、私はその中にゆっくりとスプーンを入れて抜き、お姉ちゃんはその後にもぐもぐと口を動かしながら咀嚼をしてくれる。
「どうかな?美味しい?」
「こいし・・・・。」
「うん!そっかぁ、それなら良かった!お姉ちゃん最近カレーよりもシチュー派だもんねー。じゃあまた今度作ってあげるね!約束。」
私はお姉ちゃんの口元から少し零れてしまったシチューの汁を白いハンカチで拭き取り、そのまま私の人差し指とお姉ちゃん指を絡めて指切りげんまんの唄を歌う。
お姉ちゃんは数兆年以上経った今も変わらず、私が直接お姉ちゃんの身体に触れたり行動を促して聞かせたりしなければ全く動かない様子であり、また、話す言葉も無機質で機械的なトーンの「こいし・・・・。」だけしか話さない。
そして同じく、お姉ちゃんの瞳は今日も変わらず虚ろで真っ黒な瞳だ。それでも、お姉ちゃんのサードアイだけは世界が変わったあの日から健在で虚ろな目では一切無い目に光を持った姿を保っている。そのサードアイにお姉ちゃんの意識があるのか、はたまた無いのかそれはもうサードアイを閉ざしてしまった私には知ることの出来ないことであった。
私はそれでもお姉ちゃんをこれからも永遠に、かつてお姉ちゃんが私にくれた愛情のようにサポートし続けるし、「こいし。」という私の名を呼ぶ中に込められている計り知れない程のお姉ちゃんの愛情や豊かな感情もちゃんと認識しているつもりだ。
そうして私はお姉ちゃんを最優先にしてシチューを食べさせた後、私もお姉ちゃんと面向かってシチューを食べて、食後は私の一方通行かもだけれどお姉ちゃんと楽しい会話をして、それから二人きりでゆっくりと眠りに就く準備をするのだ。
でも今日は会話が弾みすぎてすっかりとシチューの無くなった二つのお皿さえも洗わないで、私はテーブル越しにお姉ちゃんとお話をしていた。そしたらいつの間にか壁掛け時計に目をやると午後11時11分の時刻を指しており、もうこんな夜更けなのね、やっぱり愛している人と過ごす時間はあっという間だわとしみじみと時間経過の不思議さを実感した。
「こいし・・・・。」
「ごめんねお姉ちゃん、もう眠いよね。じゃあ今日もまた二人きりで一緒に寝ようね!」
私はそう言ってバッ、と勢いよく椅子から立ち上がって足取り軽やかにお姉ちゃんの座る椅子まで歩いて行って、お姉ちゃんを二人の自室兼寝室まで誘導するために手をしっかりと握り締めた。
そして、ふっ、と誰かの視線を感じた。
その視線を感じた私の真横方面を覗いて見ると、極寒の猛吹雪の中で寒い場所と今現在の私が居る温かい場所を隔てるための窓があり、視線の正体とはいつも一点の曇りも埃さえも残さずに綺麗に掃除し磨き続けているが故にどうしようもなくクリアーに窓に映り出す私の姿であった。
「・・・・・・・・。」
私はただ固まったかのように窓に映る自分の姿を見続ける。
そうして、お姉ちゃんとの甘くて幸せしかない生活の中で定期的に、いえ、常々想っていることがまた私の中でまるで四角い立方体が綺麗に展開していくように想起される。
決してそれは目に視えない、抽象的だが確かに其処に在り続ける私の罪の重り。
私は一生消えない、くすみきった灰のように色鮮やかな緑色の十字架を背負って生きていく運命なのだ。
私は私から視線を下に逸らし、「ふっ」と軽く開き直ったように笑ってからまたすぐに顔を上げてお姉ちゃんと繋ぎ止めていた手を離してお姉ちゃんに言うでも誰に言うでもなく部屋の壁を見てこう言った。
「હું ખૂબ ખુશ છું કે તે ક્રૂર છે.」
白い白い、静の空気と時間が流れる。
「こいし・・・・。」
そんな虚無だった私を暖かい色で塗り替えてくれるように、私の愛しい姉の声が耳に聴こえた。
うん。
大丈夫だよ。ちゃんと、聴こえてる。
お姉ちゃんの愛が、そして想いだけが、永遠にずっと・・・・・。
「こいし・・・・。」
「うん。あのねお姉ちゃん、私も大好きだよ。愛してる。だからずっと一緒に二人で生きようね。」
私は私の中の余白を埋めるように、お姉ちゃんをそのまま私の胸の中に強く優しく抱きしめた。
【了】