デンライナーから見える空は、さっきまでとは違って虹色に輝いていた。
何も無い荒野を走るデンライナー。行き先は不定。どんな時間の、どんな場所にだって行ける、らしい。それを餌に私を釣ろうとするのだから、それは真実かそれとも余程のペテンなのだろう。
けれども今私がここにいるのは、その餌によって自分が『生きて』いると言う側面が少なからずあるからで、だからこそ私は奇天烈で突拍子も無い話を信じてここにいるしかない。
とは言えど。
「有り得ないよねー……」
ついさっきまで普通の生活を送っていたのだ。それが怪物に空飛ぶ電車、止めに電王と来たものだから、心は当然ながら追いついていない。
『だよなー。いきなり戦えだとか、意味分かんないよなー』
「ほんとそれ、こっちはただの一般人だっての」
『まあでもいつの世も人手不足って言われてるからな。仕方ないんだろう』
「そう言うもんかなー……てかさ」
『うん?』
「いや……誰?」
色々あり過ぎてとうとう幻聴が聞こえ始めてしまった。先が思い遣られると言うものだ。
『いやいやいや、さっき一緒に戦ったじゃん』
「それにしたって誰!?てか幻聴じゃないの!?」
『幻聴って……ああ良いよ、出るからさ』
頭の中で聞こえていた声が消えると同時に、私の体からどこからか大量に砂が噴き出る。それは私の隣に寄り集まって盛り上がり、人型のシルエットをとってから徐々にディティールを鮮明にさせていく。
そして私の横に現れたのは銀色の体毛が輝く、まるでキツネが人型になったかの様な怪物だった。つまりは。
「イ、イマジン!?」
「ちょいちょいちょい、騒ぐな騒ぐな」
「いやでも……」
「君が此未君に取り憑いたイマジンですか……まあ珍しい事ではありませんが」
「取り憑いた……?」
オーナーは一人納得した様な顔をするが、私は更なる混乱に見舞われていた。取り憑いたとは、一体どう言う事なのだ。
「イマジンは人間に憑依し、その人の中にあるイメージから身体を作るのですよ。ですのでその姿は、此未君がイメージしたものと言う——」
「ちょっと、ちょっと待った」
すらすらと語るオーナーの言葉をイマジンが遮る。
「そもそもさ……イマジンって何?」
「成程な……」
一通りの説明を受けたイマジンは唸る。それを横で聞いていた私も情報を咀嚼する。
イマジンは未来人が肉体を捨て、精神体となって過去の様々な時代の人間に憑依しそのイメージから肉体を得た物である。
その際にイマジンは憑依した人間に契約を迫る。憑依した人間の望みを一つ叶える代わりに、契約者にとって最も影響が強い過去に自身を飛ばす権利を得るのだ。そして飛んだ先で破壊行為をする等して、過去を自分の都合の良い様に改竄し未来を変えるのを目的としている、と言う事らしい。
願いを叶えると言うが別にイマジンは万能の神ではない。だから契約者の願いはイマジンに勝手な解釈をされて歪な形で叶えられるのがほとんどらしい。
兎も角イマジンは時間を破壊する者。正しい時の運行を妨げる犯罪者であると、オーナーは結論付けた。
「で、俺もそのイマジン、ってやつなんだよな?」
「そうなります、我々のあずかり知らぬ未知の生物でないのなら……しかし妙ですねぇ」
「何がですか?」
「イマジンであるならその知識はあるはずですが……いや、成程、そう言う事ですか」
「いやいや、一人で納得すんなよ」
そこはイマジンに完全同意だ。情報を飲み込むのに精いっぱいでそれ以上に考える余裕が無い。
レイさんがオーナーに問いかける。
「オーナー、一体どう言う事ですか?」
「おそらくそこのイマジン君は侵略者ではなく、寧ろされた側、時間の改変によって体を失った人々の一人なのでしょう」
「人がイマジンに?そんな事が?」
「先程も言った通り、イマジンも元は人間です。元居た時間自体が消えてしまったのですから、そう言う事もあるでしょう」
「成程……?」
いまいち理論が分からないが、ぺーぺーの私が幾ら考えようが理解できないものなのだろう。
つまりはその言葉が正しいと考える他無くて、それ即ちこのイマジンは私達には害が無いと言う事になる……はずだ。
「まあ俺の出自は兎も角、悪いようにはされないって事か?」
「君に敵意が無いのでしたらね……もっとも、先程の戦いは勿論見ていましたから」
「……じゃあそう言う事で、よろしく」
「う、うん、よろしく……」
イマジンの手が差し伸べられ、その手を握る。手はぷにぷにして柔らかくて、所々に当たる毛がふわふわで気持ち良い。
見かけは完全に怪物だけど、この人(?)がさっき私の体を操作して助けてくれたんだ。
「垂崎此未です……助けてくれてありがとう」
「おう……」
応えたっきりイマジンは黙りこくってしまう。
「どうしたの?」
「いや……俺の名前ってなんだっけって」
「名前、覚えてないの?」
「そうだな……名前だけじゃない、自分がどんなやつだったとか、どんな人生だったかとか」
「そっか……」
記憶喪失みたいなものか。いや別に対処法を知ってる訳じゃないし、寧ろ見るのは初めてだし、可哀想だと言う感想しか出てこないんだけど。でも何か助けになる事がしたい気持ちになった。
「名前、付けない?」
「俺の?」
「イマジンって呼ぶのもややこしいし……ですよね?」
レイさんとオーナーに同意を求めると二人とも頷いた。
「て訳で……どうしよっか」
「考えてなかったのか?」
「一応希望は聞いとこうかなって。かっこいい系と可愛い系、どっちが良い?」
「そりゃあ、かっこいい系だろ」
「ふむふむ」
イマジンの格好を観察する。白、と言うより銀の毛並み。その上に時代劇で見た事ある様な、侍が着ている様な袴を羽織っている。刀でも下げたら似合いそうだ。
むむむ。
「じゃあサブローで」
「は?サブロー?かっこいい系じゃないのか?」
「だって格好が侍みたいじゃん。侍の語源って、傍にいるって意味の『さぶらふ』らしいよ」
「だからってサブローは安直過ぎないか!?もうちょっと捻った名前をさ……」
「えー?良いじゃん可愛くて……」
「結局可愛い系じゃねーか!」
でもサブローでなんだかしっくり来てしまったし、ここから変えろと言われてもこれ以上に良いのが出そうにない。
「兎に角よろしくね、サブロー」
「……はぁ、分かったよろしく……」
サブローはとても不服そうにどかっと座り込んだ。
表情の分かりにくい顔で、本当に元人間なのか疑わしい所ではある。
そう言えば。
「そう言えば何で私はイマジンになってないんですか?」
「それは貴方が特異点だから」
即座にレイさんが答える。
「特異点?」
「時間の改変の影響を受けない人の事。そう言う人は今回みたいな大規模な改変が起きても消えずに残ってしまうの」
「それって、私の他にもいるんですか?」
「いるよ、私だってそうだし……でも今回残ったのは貴方だけだった」
「そうですか……」
知り合いが私の様に生き残っている可能性を考えたけど今の言葉で0になった。いや、そもそも死んだ訳ではないのだが。
「だからこそ君がイマジンに狙われて、君が電王になるしかなかったとも言える。電王になれる要素の一つは特異点である事だから、新たな電王が生まれる前にイマジンが潰しに来たのがさっきだね」
「要素……特異点である事以外って何ですか?」
「ええと確か、記憶が……どうこう……」
「その人の記憶と時間の繋がりが強い事、ですね」
オーナーが言葉を引き継ぐ。
「過去で君の存在に関わる……例えばイマジンに過去の君が消される等したとしましょう」
「うわぁ……」
「しかしその時間に君がいた事を君が覚えていれば、自然と君の存在は修復されます。要は常にバックアップがある様なものですね」
「成程……?」
理屈は分からないがそう言う事らしい。つまりは簡単には消えない人物が選ばれているって訳だ。
と、ここまで考えて一つの結論に辿り着く。
「レイさんはそれがない……?」
「そう……私はね、過去の記憶がほとんど無いの」
「記憶喪失、ってやつ……」
「まあ平たく言えばそう。覚えているのはここ一年程だけ。だから私には自己修復ができない」
「ですので、存在の強度が高い此未君が電王になる資格を持っているのです」
「資格、かぁ……」
全くもってありがたくない話だ。戦う資格なんてあったとして、私は……。
「戦いたくないなぁ……」
さっきの戦い、いや、戦いとすら呼べないものがリフレインする。話通りなら戦っていればその内時間は元に戻るらしいけど、それまでに何度戦えばいいのか。
「大丈夫だって、俺もいるんだからさ」
「そう言う話じゃない、サブローは黙ってて」
「なっ……むぅ……」
世界の一大事に巻き込まれてしまったが、私は普通の女子高生だったのだ。特異点だか何だか知らないけど言ってしまえば『そっちの都合』であって、私を良い様に使おうとしないでほしい。
「まあ、電王になるかどうかは、此未君次第ですから、無理強いするつもりはありません。あくまで資格がある、と言うだけですからね」
こつん、と何か硬い物が当たる音がした。振り返るといつの間にやらオーナーは炒飯を食べていた。デンライナーが描かれた旗付きの。
オーナーは私の視線も気にせず器用なスプーン捌きで真ん中以外の米を掬って口に運んでいく。山はちょっとずつ、しかし確実に削れていき、そして旗の周り半径1センチ程を残すのみに。そしてオーナーは慎重に、慎重に旗を支える米にスプーンを伸ばし——。
もう少しで触れる瞬間、デンライナーが大きく揺れ、旗は呆気なくぱたりと倒れた。
オーナーは顔に手を当て、口を大きく開ける、何とも言えない変顔になった。そしてすぐにすんっと無表情に戻ると、エプロンを取ってステッキを突きながら悠々と隣の車両に歩いていった。
「何か注文しますか?」
銀と黒のぴちぴちスーツを着たお姉さん……さっき名前を聞いたがプラムさんがメニューを手に尋ねてくる。
「いえ、結構です……」
当然、何か食べたい気分じゃなかった。
がくんと体が大きく揺れて目が覚める。
デンライナーの寝台は見た事ないくらい豪華で、ベッドも普段私が使っているのと同じくらいにふかふかだった。横になった瞬間疲れも相まっていつの間にか眠りについてしまうくらいには。
どれくらい眠れたのかは分からない。デンライナーの中には時計は設置されていないし、着けていた腕時計もここに来てから止まってしまっている。
多分眠れただろうからと体を起こし、部屋に備え付けられた洗面台で顔を洗って歯を磨く。鏡に映る私の顔は、なんだかいつもと違う様に見えた。
車両を移動し、オーナーとレイさん、プラムさんに挨拶をする。テーブルについてメニューを開き、トーストセットを注文。時間を置かずに焼き立てのトーストとサラダ、ベーコンと目玉焼きが乗った皿が運ばれてくる。
昨日の朝と同じだった。
頼んでからその事にやっと気付く。なんだか少し、こぼれそうになるけどこらえて、いただきますをしてからサラダにフォークを突き立てる。
少し苦くて、しょっぱくて、少し甘くて、しゃきしゃきして、かりかりで、ふわふわで、全部がごちゃ混ぜになったみたいだった。
それから少し経った後。
「過去に行く……?」
レイさんとオーナーに提案される。
「そう、時間の歪みが大きい場所を特定して、その時点でのイマジンの行動を阻止するの」
「それで時間が元通りになるんですか?」
「戻る可能性が高い、としか言えませんが。君の願いに近づくには最善の手だと思います」
レイさんとオーナーの意思は固まっている様だが、それでも選択は私に委ねられている。私はその提案に。
「行き……ます?」
乗ったと言うか、乗るとしか言えなかったと言うか。
兎に角、デンライナーは過去に向けて走り出した。
良く晴れた日の朝の事。
誰もいない道でジョギングする彼。彼は何故走るのだろう。単に体力増強のためかもしれないし、競技か何かで目指す目標があるのかもしれない。いずれにせよ、私達には知り得ない事だ。
ああだがしかし、空を浮遊する光の球、あれは悪しきものの一つであると私達には分かるだろう。
真昼に迷い込んだ蛍の様に漂うそれは彼に狙いを定め、一直線に彼の背中に飛び込む。彼は急に背中を押された様につんのめり、そして彼の体から大量の砂がこぼれ落ちた。その砂は一点に集まり、彼の目の前で異形の姿を取る。
『お前の望みを言え。どんな望みも叶えてやる』
砂の異形は地を這い、空を歩き、彼ににじり寄る。
『お前の払う代償はたった一つ……』
そしてイマジンは、彼に悪魔の契約を迫る。
時間の扉が開く。その先にあったのは……なんて事は無い普通の光景。
私が失った、日常の景色が広がっていた。
「ここが……過去」
電光掲示板には2018年7月2日と書かれている。私が覚えている最後の日付からざっと6年前だ。
私とレイさんが通ってきたのは従業員専用の出入り口だった。しかしそれを気にする事も無く人々は歩き、話し、生きている。
「ここに……イマジンが?」
「今はいないけどいずれ。そうなる前に止めないと」
止めないと、か。
正直心が決まっている訳でもないのだが、もうレイさんは私が電王になると言う前提で話を進めている。それに引っ張られる様にしてここまで来てしまったけど、果たしていざと言う時に戦えるのか……。
レイさんに連れられて人混みの中を移動する。昨日まで着ていた学校の制服ではなくレイさんが見繕ってくれた服を着ているから目立たなくて良い……まあこの時分昼間から制服を着ていようが目立つ事は無くなったのだが。
それにしても。
「レイさん」
「ん?」
「レイさんは何で戦ってるんですか?記憶を取り戻すためですか?」
「まあ、それもある。けどそうじゃないかも」
「と言うと?」
「私が記憶を失くしたのと、イマジンが時間を壊したのは関係があるかもしれない。もしそうなら私みたいな人がこれ以上出て欲しくない……って感じかな」
そっか。
そんな理由で、動ける人なんだ。
「優しいですね……」
「そうなのかな……」
それきり言葉は続かなかった。
そうして歩く内に、前に人だかりが出来ている事に気付く。空港の前だった。中には手作りのうちわやプラカードを持っている人もいる。少し前に名を馳せていた野球選手の名前が書かれていた。
少し考え、思い出す。確かこの時期にその選手がアメリカから一時帰国するとニュースで報じられていたはず。つまりこの人だかりはそれの出待ちと言う訳だ。
あれ、それだけだっけ?
選手が帰って来て、でもその選手が……怪物に、襲われて……だから名を馳せたって過去形で……?
いや、そんなはずはない。そんなの聞いた事ない。
だとしたら、今のは一体……?
「大丈夫?」
「え……あ、えっと……」
無意識に手が頭を押さえていて、でも何でそうしていたのか分からない。
体と心が乖離した様な感覚の中空を見上げる。
そこにいたのだ。空を飛ぶ何かが。
「あれ……イマジン!」
「っ!皆逃げて!」
叫んだレイさんに注意が集まり、そしてレイさんが指差す先を見た人達が悲鳴を上げて逃げ出す。しかしそこに容赦無く黒いつぶてが降りかかり、倒れた人に躓き倒れる人、血を流す人、叫びを上げ続ける人。
空港は一瞬にして地獄絵図に変わった。
此未とレイは知る由も無い。
このイマジンが交わした契約は、空港に来た選手よりも優れた野球選手になる事。
これをイマジンは曲解し、選手に怪我をさせて引退させる事で契約を成立させようとしていたのだ。
「逃げて!早く!」
レイさんの声が響く中、私はただ立っている事しかできなかった。だからその惨状ははっきりと目に焼き付いた。
「此未も隠れて!」
そう言って私の腕を掴んだレイさんの手を……私は振り払った。
「何してるの!今は一旦離れて対策を——」
「でもその間にも、イマジンは誰かを傷つけてる」
「え?」
空を飛ぶカラスの様なイマジンは、黒く濁った眼を光らせて次の獲物を見定めている様だった。
「イマジンって、願いのためならこんな事も平気でするんですね」
「……そうだね、そう言う奴は多い」
「私想像力足りなくて、こんな風になるなんて思ってなくて……ほんと馬鹿、馬鹿だけど……」
いつの間にか爪が食い込んで痛くなるくらい、拳を握りしめていた。
「見て見ぬふりだけは、したくないから、だから……」
そして開いた手のひらをレイさんに差し出す。
「パス、ください」
「……分かった、お願い」
レイさんから黒い定期入れ……パスを受け取り、握りしめる。同時に私の左手の中にベルトが現れ、それを勢い良く振って腰に巻き付ける。
「サブロー、お願い」
『ああ、任せろ』
ベルトの銀のボタンを押し、音楽が鳴り響く中、深呼吸する。目を閉じ、そして開き、覚悟の言葉を呟く。
「変身」
『SWORD FORM』
パスをベルトの前に通過させ、私は光に包まれる。自分以外の誰かに体を預ける感覚。インナースーツの上に銀の鎧が装着され、線路を走るキツネを模したオブジェが展開し銀のバイザーに変わる。
変身を終えた『私』、いや、サブローは跳躍し低空飛行をしていたイマジンに掴みかかる。重みで墜落したイマジンと共に地面を転がり、その勢いでイマジンを投げ飛ばす。
「貴様、電王!」
イマジンが立ち上がる間にサブローは4本の黒い機械……デンガッシャーを連結させて刀に変え、イマジンに切っ先を向ける。
「俺に斬られる、覚悟はできたか?」
「五月蠅い!邪魔をするなっ!」
イマジンは黒いつぶて……その正体である自身の羽根を飛ばす。サブローは刀を振るい、『私』に降りかかる羽根を叩き落しながら近づいていく。そして攻撃が止んだ瞬間に走り、上段から斬りつける。次は斜めに、そして横にイマジンを切り裂き、火花を咲かせ地面を焦がす。イマジンが呻きながら翼で打つのを刀で受け止め、鍔迫り合いの最中がら空きの胴に蹴りを入れ、怯んだ所を更に斬る。
イマジンは大きく後退るが、突如姿勢を低くして翼をはためかせ、地面を蹴って地面すれすれで滑空する。サブローは寸での所でそれを躱し、後ろから再び来る突進を刀で受け止めようとしたがそのまま身体を持ち上げられる。デンガッシャーと嘴の間で火花が散り、しかし落ちない様にバランスを取るサブローが徐々に押され、そしてデンガッシャーが弾かれて胸を嘴で突かれる。
「っ……!」
私の胸に鋭い痛みが走る。それはサブローも同じ様で、胸を押さえている所を更に急降下してきたイマジンの鉤爪で引き裂かれた。
バランスを崩されて自由落下、地面に叩きつけられる。息が上手く吸えないけど、サブローはそれでも立ち上がった。
上空ではイマジンが羽ばたいて滞空している。そしてその眼が光った。
それを感じたサブローは刀を左手に持ち替え、パスをベルトにタッチする。
『FULL CHARGE』
ベルトから刀にエネルギーが走る。サブローは鋭く息を吐きながら腰を落とし、刀の柄に手を伸ばす。
イマジンが翼を広げ、滑る様に急降下する。その瞬間に刀を掴み、そしてより一層姿勢を低くする。片膝立ちになって上を見上げ、そして。
「はあっ!」
イマジンが真上を通過する瞬間、一閃。銀の軌跡が弧を描き、少しの間を置いて断末魔と共に背後で爆発が起こった。
「いっ……」
「動かないで」
デンライナーの中、私はレイさんに治療されていた。戦っているのはサブローだけど、ダメージは私の体にしっかり残るみたいだ。
戦闘の後、街と人々は元通りになった。まるで時間を巻き戻すかの様に人々の傷が無くなり、壊れた町並みが修復されていく。レイさんによると私がこの光景を覚えていた事で自動的に時間が修復されたのだとか。
あの時間は壊れずに済み、時間の穴は一つ塞がった。これを繰り返す事で、時間が元通りになる。実際に目の当たりにすると納得がいった。
痛がる私の横で、サブローは目を閉じ(ているのかな?)、腕を組んでいる。
「サブロー」
「何だ?」
「お疲れ様、ありがとう」
「……おう」
サブローはそれだけ言って……もしかしたら照れたのかもしれないけど、そっぽを向いてしまった。
「そう言えばさ、何でサブローは私を助けてくれたの?」
「そんなの……」
そう言いかけて、そっぽを向いていた顔が更に向こうを向いた。
「……ほっとくと後味悪いと思っただけだ」
「……そっか、ありがとう」
私一人では絶対に無理だった。戦う勇気なんて出なかったと思う。
でも戦いたいと思えたのは、きっとサブローがいてくれるって思っていたから。
だからこれからも一緒にいてね、サブロー。
なんて、恥ずかしいから本人には言えないけどね。