ダンジョンに強すぎる冒険者がいるのは間違っているだろうか 作:マイペースライター
ダンまちのアニメが好きで、今回5期が放送されて、勢いで筆を動かしました。
原作の方の知識は過去に少し読んだ程度なのでほぼないのと同じです。
自己満足の執筆で名前の通りマイペースなので、いつまで書くのか、どれくらいのペースで書くのか分かりません。文章力も皆無です。
妄想を膨らませて出来たチート主人公がどこまで物語を動かすのか…
読者様もマイペースに読んでくれたら嬉しいです。
別れと決意
神、
無数の存在が入り混じり、ときに争い、ときに手を取り合う世界。
その広大な世界の片隅に、ひとりの少年が暮らしていた。
名を――エル・フィリウス。
森と畑に囲まれた小さな村。
朝には鳥のさえずりが響き、夕暮れには黄金色の稲穂が風に揺れる。
そこで、祖母とふたり、慎ましくも穏やかな日々を送っていた。
物心着く前に冒険者であるという両親は居なくなっており、祖母が彼の親代わり、唯一の家族だった。
祖母は村でも評判の優しく温かな人物で、エルにとっても心の支えだった。
祖母は随分昔に引退したが両親と同じく元冒険者で、エルが幼い頃から遊びだと称して怪物との戦い方を教えてくれていた。
──
「エル、腰をもっと落とすんだよ」
「う、うんっ……こう?」
「そうそう。剣は振り下ろすんじゃなく、斬り抜けるつもりで――」
裏庭に乾いた音が響く。
エルは元冒険者である祖母に剣を教わっていた。
木剣と木剣がぶつかり合い、ぎこちない構えの少年に、祖母が優しい目を向けた。
「いい感じだよ、エル。その調子だ」
「そ、そうかな…僕、ちゃんとできてる?」
「心配しなくてもエルはちゃんとできてるよ。お前の両親も、小さい頃剣を教えていたときはそれはもうぎこちなかったもんさ。最初は誰だってそんなもんだよ」
「ほんとに? じゃあ僕も、強くなれるかな」
「なれるさ。焦らなくてもいい。剣は友達みたいに、長く付き合うほど応えてくれるもんさ」
汗をかいたエルの頭を撫でる祖母の手は、日差しよりも温かかった。
⸻
稽古のあと、縁側で2人です過ごすのが日課だった。
そして夕陽に染まる畑を眺めながら、祖母は決まって英雄譚を語ってくれた。
「大昔、今はオラリオって都市がある場所にとんでもない怪物が現れたことがあるんだよ」
「え!怪物!?」
「そう。その体は夜の闇よりも黒くて、牙は人ひとり分くらいあったと言われているね」
「こ、怖いな…」
「ふふ、そうだろう。その怪物を見た人間のほとんどはエルと同じだったはずさ。でも、その怪物に勇敢に立ち向かった奴がいたんだ。アルバートという男さ」
祖母の声が少し低くなり、語りに抑揚がつく。
少年の目がきらきらと輝く。
「アルバートは、仲間を守りながら絶望の中で一歩ずつ前に進んだ。深い階層の罠や怪物をかいくぐり、退治することこそ出来なかったけど、最後には見事怪物を追い払って勝利を掴んだんだ」
エルは息をのむ。
目の前にその姿はないのに、祖母の言葉で鮮やかに浮かぶ――勇敢な戦士の姿、仲間を守る背中、圧倒的な力と静かな優しさ。
「すごい……おばあちゃん!僕も、そんな風になりたい!」
「ふふ、そうさね。エル、アルバートのように、強く、心優しい人間になるんだよ」
その言葉には、幼いエルにはまだ理解できない神秘的な響きがあった。
ただ憧れとして胸に刻み、目を輝かせるだけだった。
⸻
それから五年の時を経て。
穏やかだった祖母との日々は、彼女の死と共に静かに終わりを迎えた。死因は老衰によるものだった。
そして村の小さな教会でエルや村の知り合いに見守られながら祖母の葬儀が行われた。
棺の中で眠る祖母に祈りを捧げ、しばらく葬儀は続きやがて人々は静かに散っていった。
それで全ては終わった。
縁側に残る湯呑み、裏庭に立て掛けられた木剣。
夕陽に染まる畑の風景――すべては、もう記憶の中だけに残るものになっていた。
「おばあちゃん……」
自然と零れたその声は、誰にも届かず、空虚な部屋に溶けて消えた。
エルは、誰もいない祖母の部屋に足を踏み入れた。
木の香りと埃の匂いが混ざる、静まり返った空間。
机の上には古びた道具や本が整然と並び、そこだけ時間が止まったかのようだった。
そして、胸の奥にぽっかり穴が空いたような感覚が広がる。
「僕、これから、どうすれば…」
途方に暮れ、震える手でエルは室内を見渡す。
かつて温もりに包まれていたこの場所が、今は冷たく、遠い世界のように思えた。
そのとき、机の上に一冊の革表紙のノートが目に入った。
「これって…おばあちゃんの」
表紙は擦り切れ、ページは黄ばんでいる。
めくると、祖母の若き日の筆跡がびっしりと詰まっていた。
迷宮都市オラリオでの冒険、仲間との笑顔や別れ。
そしてどういう訳か、祖母が英雄譚を聞かせてくれていた時に幾度も聞かされてきた名前、大英雄アルバート。その人の名前が記されていた。
「……オラリオ……」
言葉にした瞬間、胸の奥で何かが熱を帯びた。
悲しみでも恐怖でもなく、ただまっすぐな衝動。
「うん…そうだよね、おばあちゃん。僕も行くよ……オラリオに。そして――アルバートのように強くなる」
灰髪に黄金の瞳を宿す少年は、静かに決意を胸に刻んだ。
ここから始まる自らの物語をまだ知らぬまま――。