ダンジョンに強すぎる冒険者がいるのは間違っているだろうか 作:マイペースライター
お待ち頂いていた方は大変お待たせしました。
今晩も良い子は寝ながら読んでくださいませ〜
「うっ…ぐっ…!」
エルは倒れたまま、何度も立ち上がろうとしたが、その体はまるで鉛のように重く、思うように動かなかった。
限界を超えた体は痛みで満たされ、呼吸すら苦痛に変わっていた。
立ちはだかるオッタルが、冷静な目で彼を見下ろしていることが、なおさら彼を絶望に追い込んでいく。
「ここまでか…」
低く響くオッタルの言葉が、彼の耳に重く響く。
その冷静な表情には、まるでエルの必死の抵抗など無意味であるかのような冷徹さが宿っていた。
エルの心には、自分の限界が見えた瞬間、かつて祖母が語ってくれた英雄の話が蘇っていた。
「エル、英雄と言っても所詮は人間なんだ。すべてを1人で守れるわけじゃないんだよ。でもね、その限られた中で、目の前にいる人、自分にとって大切だと思った人間だけは何が何でも守りきる。それができる者こそ英雄と呼ばれる人間なんだ」
祖母の優しい表情と共に、その言葉が彼の心に灯火をともす。エルは、自分がどれほど追い詰められても、守るべきものが目の前にいる限り倒れるわけにはいかないと、再び決意を固めた。
「おばあ…ちゃん…」
言葉がかすれ、胸に宿る思いを噛み締めながら、彼は弱々しい声で叫んだ。
「…かないんだ」
ゆっくりとエルは自身の拳を大地に押し付け、身体を上へと押し上げようとする。
だがエルの思いに反して、身体は限界を迎えており、重力が何倍にもなったように身体はびくともしない。
「まだ…倒れる訳、には…!いかないんだ!!」
地面に伏しながらも、エルは闘志を燃やし、さらに自分を奮い立たせるため、言葉を繋ぐ。
「僕は…!英雄になるんだ…!」
その叫びは彼自身を奮い立たせる呪文のようだった。
己の背後には未だ意識を取り戻せていない少女。
手を伸ばせば届く距離、そのたった一人の少女を救えずして、どうして英雄と呼べるだろうか?
その一心で、再び立ち上がろうと、両腕に力を込めて身体を押し上げようとする。
「動け…動けよ…!僕の…身体ぁあ!!」
その瞬間、エルの奥底に眠っていた力が呼び覚まされ、解放された。
虹色のオーラのような輝きが身体全体に広がり、力の奔流が彼の全身を駆け巡る。
まるで内から突き上げるようなエネルギーに、彼の体が再び生気を取り戻したようだった。
そして、先程まで何度起き上がろうとしても言うことを聞かなかった身体が、軽々と持ち上がる。
「ほう…まだやる気か」
オッタルは、無言のまま立ち上がるエルを見つめ、どこか楽しむような表情を浮かべた。
エルはその視線に構わず、虹色のオーラをまとったまま、オッタルとの間合いを詰め、一瞬で彼に肉薄した。
その動きはまるで閃光のように速く、オッタルでさえも一瞬反応が遅れるほどだった。
エルはその勢いのまま剣を振り下ろした。
剣が空を切り裂き、突如として自身に対して繰り出された攻撃に、何とか防御を間に合わせ、エルの剣はオッタルの剣と激しくぶつかる。
思わずオッタルの体が後方にぐらつき、彼の足が地面を滑るように後退した。
僅かながらに体勢を崩したオッタルは、地面に倒れ込むように転がりながらも、即座に立ち上がってその土埃を払い落とす。
「これが本来の力か…」
オッタルは呟きながら、まるで新たな興味を抱くように、エルの姿を見つめた。
その言葉と共に、オッタルは静かに剣を構え、エルをじっと見据えた。
「いいだろう。存分に相手をしてやる」
エルはそれに応えるかのように剣を構え、再びオッタルに向かって突進した。
彼の動きは先程とは比べ物にならないほど鋭く、重みのある攻撃を繰り出していた。
エルの剣がオッタルの防御を叩き、鋭い金属音が辺りに響き渡る。
その一撃一撃には、今まで以上の重さと威圧感があり、オッタルも僅かに押されるような形で後退を余儀なくされる。
エルは息を荒げながらも、己の全力を振り絞り、剣を繰り出し続けた。
その剣の動きは疾風のようであり、まるで自分の意思ではなく、本能に突き動かされるように攻撃を続けていた。
しかし、オッタルもまた冷静さを失わず、エルの動きに合わせて隙を見極めながら防御を重ねていた。
「面白い。少し本気で相手をしてやろう」
オッタルは再び冷静な声で言い放つと、片手で放った斬撃がエルの剣にぶつかり、強烈な衝撃が彼の体を後方へ弾き飛ばした。
エルは地面に転がりながらも必死に立ち上がろうとしたが、その一撃の威力は体に深い痛みを刻み、思わず苦悶の声が漏れた。
「ぐっ…」
それでも、エルはその痛みに屈することなく再び剣を構え、オッタルに向かって立ち向かおうとした。
限界を超えたその姿に、オッタルも僅かに目を細め、その勇敢さに興味を抱いたかのようだった。
両者の剣が再び交錯するたびに、鋭い風圧がダンジョン内の空気を揺らし、地面がえぐれ、破片が飛び散る。
エルの一撃一撃には命を削るような必死さが宿り、オッタルもそれに応じるように全力で応戦していた。
しかし、エルの体は限界を迎えつつあり、視界が霞み始める。
だが、彼はそれでも倒れるわけにはいかないという思いだけで立ち続けていた。
「まだ…だ…」
その一言を最後に、彼の体は完全に限界を超え、オッタルの一撃を受けて大きく吹き飛ばされた。
壁に叩きつけられたエルは、そのまま地面に倒れ込み、意識が遠のいていった。
視界が薄れ、最後にリリルカの顔が脳裏に浮かんだが、彼は彼女を守りきれなかった無力感と共に意識を失った。
オッタルは、気を失ったエルを冷淡に見下ろし、しばらく沈黙した後、リリルカの方へと視線を向けた。
彼女の安否を確認しつつ、エルとリリルカを抱え、静かにダンジョンの入口へと向かった。
ダンジョンの入口に着くと、オッタルはエリクサーを二人にかけ、エルの顔を見下ろしながら一言、静かに語りかけた。
「エル・フィリウス。久々にいい戦いだった。だが、お前はこんなところで留まっていい存在ではない。俺を超えるくらい強くなって見せろ。フレイヤ様を失望させるな」
そう言うと、オッタルは背を向け、無言で去っていった。
彼の背中は威風堂々としており、二人を残して去りゆく姿には、都市最強の男としての威厳が漂っていた。
ようやく決着が着きましたね。
やはり都市最強の冒険者は伊達じゃなかった!