ダンジョンに強すぎる冒険者がいるのは間違っているだろうか 作:マイペースライター
珍しくこの時間に投稿です。
昼寝をしながら読みましょう〜
アフロディーテファミリアの主神、アフロディーテは、静まり返った神殿の寝室に一人残されていた。
エルが昼を過ぎても戻らないことに、彼の身を案じる気持ちが次第に募ってくる。
「少し…怒りすぎたかしら…」
誰もいない空間に独り言が響くが、答える者は当然いない。
自分がエルに厳しいことを言ってしまったことを後悔している。
いつも健気で素直なエルだからこそ、あの一言が心に刺さり、どこかで塞ぎ込んでいるのではないかと心配になっていた。
(もし、このまま帰ってこなかったら…)
そう思うと、胸が締め付けられるように痛む。アフロディーテは小さく首を横に振り、何とか気持ちを落ち着けようとしたが、もはやじっとしていることはできなかった。
立ち上がり、思案する。
エルがどこにいるかは見当もつかないが、ふとギルドにいるのではないかと思い立った。
すぐに支度を整え、足早にホームを後にする。
オラリオの賑わう街を歩きながら、目的地はギルドではあるものの、もしかしたらとアフロディーテは時折周囲を見渡し、エルの姿を探していた。
石畳の道を歩く人々の顔を一人一人確認するが、どこにもエルの姿は見当たらない。
彼が街の喧騒の中に混ざっていることを願い、道行く冒険者や商人に目を凝らすものの、気配すら感じられなかった。
(エル、どこにいるの…)
心の中で彼の無事を何度も祈りながら、彼女はついにギルドの建物に到着する。
木製の扉を押し開け、中に足を踏み入れると、受付で彼のアドバイザーであると名前を聞いたことがある「エイナ」という女性を探した。
エルがいつも頼りにしているという彼女なら、何か手がかりを知っているかもしれない。
その時、奥の方から茶色の髪を揺らしながら、真剣な表情を浮かべた女性がアフロディーテを見つけて駆け寄ってきた。
緊張した様子で短く頭を下げた後、彼女はアフロディーテに声をかける。
「神アフロディーテ様ですね?私、エルくん探索アドバイザーを努めさせていただいております、エイナ・チュールと申します。こちらに」
自己紹介も程々に、エイナに促され、アフロディーテは不安な気持ちを胸に秘めたまま部屋の中に足を踏み入れた。
日が落ち始め、少し薄暗くなっている室内には、椅子に座る少女と、ベッドに横たわるエルの姿が見える。
「エル!!」
その瞬間、アフロディーテは一瞬息を呑み、ほとんど反射的に彼の元へと駆け寄った。
ベッドの上で目を閉じたまま動かないエルの顔を覗き込み、微かにでも呼吸をしていることがわかり、ほっと安堵の息をつく。
しかし、彼が何も語らないことに、胸の奥に不安が渦巻く。
隣にいた少女が、アフロディーテに気づいておずおずと頭を下げると、ぽつりぽつりと口を開き始めた。
「冒険者様は…私を守るために…ごめんなさい…」
彼女の話によると、エルはパーティを組んでダンジョンを探索していたが、一瞬の隙を突かれてモンスターの攻撃によって負傷してしまった彼女を守るためにモンスターと戦っていた最中にフレイヤ・ファミリアの団長、オッタルと相対して、何故か戦闘になってしまったという。
「オッタル?あのフレイヤの眷族の、都市最強の冒険者の彼と、どうして…」
アフロディーテは衝撃を受け、信じられない気持ちで少女の話に耳を傾けた。
オッタルとの戦いで、エルがどれほど危険な状況に晒されていたかを想像するだけで、胸が締め付けられる。
だが、彼女がさらに驚いたのは、エイナから聞かされた、オッタルが二人をダンジョンの入口まで運び、さらにエリクサーで治療までしてくれたという話だった。
「戦ったのに…後から助けた…?」
自分でも信じ難い話だったが、目の前にいるエルが無傷でここにいる事実を前にしては、その言葉を信じるしかなかった。
アフロディーテはエルの顔をじっと見つめ、震える手でその頬にそっと触れる。彼が無事に戻ってきてくれたことに感謝し、同時に安堵の涙が滲みそうになる。
その時、エルの眉が微かに動き、唇が震えるように開いた。
「うぅ…」
「…エル!!」
アフロディーテは思わず喜びに声を上げ、彼の手を強く握りしめた。エルはまどろみの中で目を薄く開け、まだぼんやりとした意識の中で彼女を見つめる。
「アフロディーテ…様…?どうして…」
ようやく彼女の姿を認識したエルは、彼女の姿に安堵の表情を浮かべた。
「大丈夫よ、エル。あなたの帰りが遅いから、心配で探しに来たの」
そう言いながらも、彼の身に何が起こったのかを思うと、彼女の心の中は恐怖と安堵が入り混じる。
そして、エルは何かを思い出したように突如口を開く。
「…アフロディーテ様!リリルカさん、僕と一緒にいたはずの少女はどこに…!」
「冒険者様、リリはここにいます」
そうして声のした方に顔を向けると、探していた彼女が隣に座っているのが分かり、彼女の無事を確認すると小さく微笑んだ。
「リリルカさん…良かった…無事で…」
隣にいたリリルカもまた、か細い声で感謝を述べ、エルに安心した様子を見せている。
エルは少しずつ意識をはっきりさせ、アフロディーテに向かって再び口を開いた。
「アフロディーテ様…僕は、負けてしまったんですね…」
その言葉には、彼の心の奥底にある悔しさと無力さがにじんでいた。
自分が弱いせいで、守りたい人を守りきれない無力さに苛まれていることが、言葉の端々に現れている。
「ええ。そのようね…」
「僕は…もっと強くなりたい。守りたい人を守るために、それを可能にする力が…欲しいです」
アフロディーテはエルの手をしっかりと握りしめ、彼の気持ちが痛いほどに伝わってくる。
彼がただの力を求めるのではなく、誰かのために、その力を欲していることが感じられる。
その強く、純粋な思いに、胸の奥が温かくなった。
「きっと、あなたは強くなるわ。誰よりも強く」
アフロディーテは静かに微笑み、彼の頭を優しく撫でた。
彼の夢と決意を信じ、その未来が実現することを心から願うように、力強く彼を見つめる。
「帰ったら、ステイタスの更新をしましょう。そして、あなたがどんな冒険をしてきたのか、私に話してちょうだい」
エルはそんなアフロディーテの言葉に力強く頷いた。
そしてその眼には、自身の強さに対する渇望と新たな覚悟が宿っていた。
しかし、続いてエルは何故か悲しげな顔をし、何かを言いたげに口を開く。
「アフロディーテ様、あの…この間はごめんなさい」
そのエルからの謝罪を聞いてアフロディーテは優しく微笑む。
「ふふっ。いいのよ、そんなの。私も少し怒りすぎてしまったと思うし…エル、私の方こそごめんなさいね」
アフロディーテの言葉を聞いたエルは、安堵の表情を浮かべると共に少し頬を赤らめ、恥ずかしそうにしていた。
神様と仲直り出来て良かったねエルきゅん。