ダンジョンに強すぎる冒険者がいるのは間違っているだろうか 作:マイペースライター
また珍しい時間に投稿です!
血濡れの少年
「これは…流石に不味いわね」
インファントドラゴンと戦い、無事怪我もすることなくファミリアのホームである神殿に帰還したエルは、アフロディーテの指示に従いステイタスを更新するために寝室のベッドにうつ伏せになっていた。
彼女がエルの背に触れてステイタスを確認し始めると、少し苦笑を浮かべながら呟く。
エルはその表情に不安を覚え、顔だけを彼女に向けて尋ねた。
「アフロディーテ様?」
そんなエルに向かってアフロディーテは問いかける。
「エル、今日あなた一体何と戦ってきたのよ?」
そして彼女の問いかけに、今日も色々なモンスターと戦ったなと思い返すエルだったが、アフロディーテ必要としているであろう答えを口にする。
「何って…。あっ、そういえば11階層でインファントドラゴンが現れて…」
「インファントドラゴンですって!?」
アフロディーテの顔色が一瞬にして険しくなり、彼女は小さく息を呑む。
インファントドラゴンは11階層以降で稀にしか出現しないモンスターであり、その戦闘力はLv1の冒険者にとって脅威となる存在だ。
「はい…それで、あの…スキルを試したくて、戦いました」
エルが気まずそうに説明すると、アフロディーテは大きく溜め息をついた。
「はぁ…全く。昨日あんな大怪我を負ったっていうのに、またそんな無茶をして…」
「ご、ごめんなさい…」
エルは思わず反省の色を浮かべ、うつむく。
だが、アフロディーテはそれをただ責めるだけではなく、少し感慨深げに言葉を続けた。
「聞きなさいエル。あなたは…ランクアップが可能になったわ」
「え!?ラ、ランクアップですか!?」
エルは目を見開き、驚愕の表情を浮かべる。
通常、神の恩恵を授かった冒険者は、様々な経験を通してステイタスが成長していく。その中でも、ステイタスの中で任意の項目の等級がD以上になること、そして神々から認められるほどの偉業、またはそれ相応の上位の経験値を得ることでレベルが上がる。
そのことをランクアップと呼んでいるのだ。
偉業とは、その言葉通り不可能だと思われることを成し遂げること、例を挙げるとすれば格上の存在を倒すことなどが含まれる。
ランクアップは冒険者にとって大きな意味を持つ成長の一歩であり、エルもアドバイザーのエイナからその話を聞いていた。
しかし、その機会がこんなに早くも自分に訪れるとは思ってもみなかった。
「ええ。これもあなたのスキルの影響でしょうね…。『昇華緩和』、これ以上にないくらい馬鹿げたスキルだわ」
アフロディーテは少し呆れた様子で言いながらも、目には微かな誇らしげな色が浮かんでいる。
通常、冒険者がランクアップするためには、ステイタスの成長に加えて偉業と呼ばれる大きな功績を成し遂げることが求められる。それは、強大な敵を倒す、あるいは特殊な試練を乗り越えるなど、通常の経験では成し得ないレベルのものだ。インファントドラゴンの討伐も、その条件を満たすに足る偉業だった。
「エイナさんからもランクアップについては聞いていましたが、ちょっと早すぎますよね…やっぱり」
「ええ。現在のレコードホルダーが、ロキの所のアイズ・ヴァレンシュタインよ。彼女ですらランクアップまでに1年かかっているわ。それに対して、あなたはオラリオに来て冒険者になってから今日でやっと1週間よ?規格外にも程があるわ」
「なるほど…そう考えると、やっぱり僕、変ですね…」
エルは自嘲気味に笑いながら、自分の異質さを実感していた。
彼が持つスキルの効果の一つである『昇華緩和』は、通常の冒険者とは偉業の必要達成数や偉業と認められる物が異なり、それがエルを異常な速度でランクアップが可能な状態にしたのだろう。
「ええ。だから今はまだランクアップさせるわけにはいかないわ」
「そうですね…。わかりました…」
「それと、ランクアップをするまでは迷宮探索は上層だけにしなさい」
「え!?下の階層へ降りるのもダメなんですか!?」
「あなたの場合、放っておいたらスキルがあるからって何処までも潜っていって危なそうだし、それにステイタスも全て限界まで成長してしまった状態でランクアップも保留してるし、冒険する意味もないでしょう?」
「うっ…確かに…」
エルは悔しそうに口を引き結ぶが、アフロディーテの言葉には一理あることを感じ取っていた。
エルの持つスキルは確かに強力だが、彼自身がそれを過信すれば、迷宮で簡単に命を落としかねない。
「ここ数日のあなたの稼ぎで、しばらくは生活できるくらいにはなったから、お金も大丈夫だし、少しくらい休んでも問題ないわ」
「わ、わかりました…」
エルは気を落としながらも、アフロディーテと共に夕食を済ませ、その夜は早々に眠りにつくのだった。
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翌朝、エルは目を覚ますと、食料の買い出しに行く準備を整え、アフロディーテに声をかける。
「おはようございますアフロディーテ様。食料の買い出しに行ってきます」
「おはよう、エル。行ってらっしゃい」
アフロディーテに送り出され、エルはファミリアのホームを後にして、オラリオの街へと向かう。街を散策していると、彼の鼻にかぐわしい香りが漂ってくる。
「…これは!ジャガ丸くんの香り!」
エルは匂いに誘われるように辺りを見回し、屋台を見つけると目を輝かせて走り出した。
「あっ!あそこだ!」
彼は勢いよく屋台へ駆け寄り、店員に注文をする。
「店員さん!ジャガ丸くん小豆クリーム味を2つ!クリーム多め!小豆増し増しで!」
店員が笑顔で迎え入れてくれる中、ふとエルの視線が彼女の顔に向かう。
そこにいたのは、黒髪のツインテールに幼い顔立ち、そして少し誇らしげに胸を張った小柄な女性だった。エルは思い出す。
彼女は以前ジャガ丸くんを買った際に出会った女神の店員だ。
「あっ、女神の店員さんじゃないですか」
「やあ!君は確かアフロディーテの所の!また会えるとは奇遇だね!」
「エル・フィリウスです。どうも」
「あ!僕も名乗ってなかったね!僕はヘスティアだよ!そういえば聞いてくれよ!僕にもついに眷族ができてファミリアを結成できたんだ!」
「おお…!それは良かったですね。眷族はどんな人なんですか?」
「名前はベルくんと言ってね!君と同じくらいの年のヒューマンさ!まだ1人目の眷族だけど頑張ってくれてるんだよ!」
エルはその話に感心しながらも、どこか親近感を抱く。
エルが所属するアフロディーテファミリアの団員も彼一人で構成されているため、同じ立場であるベルという冒険者に少しばかり興味を抱いた。
「なるほど…僕達のファミリアも団員は僕一人なので、お互い頑張りましょう」
「そうだね!」
そうして女神の店員としばし談笑していると、彼女がふと思いついたかのように声を上げた。
「そうだ!エルくん、ジャガ丸くん好きだろ?今夜、僕たちのファミリアのホームでジャガ丸くんパーティをしようと思うんだ!良かったらアフロディーテと来てくれないかい!」
「ジャガ丸くん…パーティですって?」
その響きにエルは心躍るような気持ちを覚え、彼の顔には抑えきれない期待が浮かんでいた。
「ああ!」
「この後用事が済みましたらすぐにアフロディーテ様に許可を貰って、ぜひ行かせて頂きます!ファミリアのホームはどちらに?」
「本当かい!ホームはあそこの辺りにある廃教会だよ!是非来てくれ!」
そう言ってヘスティアは遠くに見える建物を指さす。
「わかりました!では、今夜楽しみにしています!」
エルはジャガ丸くんを手に、満面の笑みを浮かべてジャガ丸くんの屋台を後にした。
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その後、エルは買い物を再開しようと通りを進み始めた。
そのときだった。
「お、おい!なんだあれ?」
「うわっ、あれ血まみれじゃないの!」
周囲の人々が驚愕の声を上げ、通りがざわつき始める。
その異様な様子にエルも気になり、周囲が視線を向けている先に目をやった。
そこには、白い髪の少年が駆け抜けていく。
身にまとったギルド支給品の初心者用装備は至るところに赤い血がべったりと付着し、見るからに悲惨な姿をしていた。
「わぁ…ほんとに血まみれだ…」
エルは思わず息を呑んだ。
おそらく駆け出しの冒険者で、ダンジョンで何か失敗をしたのだろう。
戦闘中に大怪我を負ったり、魔物の返り血を浴びたかのように見えた。
しかし奇妙なことに、少年の顔はまったく苦痛に歪んでいない。
それどころか、どこか高揚したような笑みさえ浮かべ、元気よく走っている。
少年が通りを駆け抜けるたびに、少年から飛び散る血が周囲の人々にかかり、彼らは驚いたり、顔をしかめて怒っている様子だった。
「あれは酷いな…」
エルは心の中で苦笑しつつ、ふとその少年が向かっている先に気づいた。
「ギルド…?」
少年はギルドへと真っ直ぐ駆けていた。
そしてその途中で、突然大声を上げた。
「エイナさーーーん!」
その叫び声は、確かにエルのアドバイザーである「エイナ」の名前を呼んでいる。
エルは思わず目を見開いた。
「エイナさん…?」
ちょうどその時、ギルドの出口から出てきたエイナ・チュールが、少年の声に驚き、急いでその方へ駆け寄っていった。
「きゃーー!!ベルくん!?」
エイナが驚愕の表情で叫び、血まみれの少年の名前を呼んだ瞬間、エルは目を見張った。
「ベル…くん?」
その名前に覚えがあった。
先ほどジャガ丸くんの屋台で話したヘスティアが語っていたファミリア唯一の団員も、「ベルくん」と呼ばれていたはずだ。
だが、エルは一瞬頭を振る。
「いや、まさかね…」
一人でそう呟きながら、何かの勘違いだと自分に言い聞かせた。
しかし、目の前の少年とヘスティアの話が頭の中で重なり、どこか奇妙な縁を感じざるを得ない。
すると、その少年が、さらに大声で叫び始めた。
「アイズ・ヴァレンシュタインさんについて教えてくださーーーい!!」
「アイズさん…?」
エルは再び目を見張った。
今度はロキ・ファミリアの剣姫、アイズ・ヴァレンシュタインの名前まで出てきたのだ。
今日は知っている名前をよく耳にする日だと感じずにはいられなかった。
エイナは、そのベルという少年の質問に戸惑いながらも彼を優しく諭し、なんとかギルドの中へと連れて行った。
エルはその彼ら後ろ姿を見つめ、心の中で呟く。
「あの人…だったら、今夜はちょっと不安だな…」
ついに2章に突入しました!
正直原作に追いつくまで書けるか心配で章分けすら考えてなかったんですが、沢山の人に見てもらえたり、感想頂いたり、お気に入りして貰ってモチベ上がったおかげでなんとか書けました!
文才も無く原作との違いが多く出てくると思いますが、これからもマイペースに書いていくのでよろしくお願いします〜