ダンジョンに強すぎる冒険者がいるのは間違っているだろうか   作:マイペースライター

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書けてしまったものは仕方ありません。
投稿するべし。
すぐに勢いが落ちていくこと待ったナシ。


迷宮都市オラリオ

祖母や両親が生きてきた道を、自らも歩みたい。

そして祖母が幾度も口にしたように、憧れの英雄のような男になるために。

 

エルは迷宮都市オラリオへの旅立ちを決意した。

 

その夜、祖母の部屋を一つひとつ整理していく。手に触れるたびに彼女との思い出が蘇り、胸が締め付けられる。それでも最後に残したのは、祖母が語ってくれた英雄譚の本だけだった。

翌朝、古びた外套を羽織り、最低限の食料と道具を詰め込んだ鞄を背負う。玄関先で一度だけ振り返り、誰もいない家に深く頭を下げた。

 

「ありがとう、おばあちゃん。僕、行ってくるよ。必ず強くなっていつか絶対帰ってくるよ」

 

生まれて初めて踏み出す村の外。風景はどこまでも広がり、足取りは頼りなくも確かだった。

灰髪に黄金の瞳を宿す十五歳の少年――エル・フィリウス。

その一歩は、これから始まる冒険の序章だった。

 

──

 

長い旅路を越え、ついに彼はオラリオの城壁の前に立った。

 

遥かにそびえ立つ灰色の壁。城門を抜ければ、道を埋め尽くす人の波。焼き立てのパンの香りと、獣の毛皮の匂いが入り混じり、耳には商人の掛け声や冒険者たちの笑い声が響いてくる。

そして、街の中心部。空を切り裂くように聳える白亜の塔――バベル。地下にダンジョンを抱くその存在感は、まさに異世界の象徴だった。

 

「これが……迷宮都市、オラリオ」

 

言葉を失ったまま、新たなる生活に希望を持ちながらエルは街の中へと足を踏み入れた。

 

──

 

だが、現実は厳しかった。

 

意気揚々と街へ繰り出したエルは、幾つものファミリアの門を叩いた。

しかし返ってくるのは、冷たい視線と同じ言葉ばかりだった。

 

「あんたみたいな子供なんてウチに入れる余裕はない」

 

「経験のない者は足手まといだ」

 

「悪いな、他をあたれ」

 

どのファミリアも、彼を門前払いにする。

祖母と過ごした日々で身につけた戦闘の腕も、実際に見てもらわないことには実力を証明できない。

十五歳という若さから、弱く見られるのは当然のことなのだ。

 

夕暮れ。街の喧騒が遠のく中、エルは石畳に腰を下ろし、深いため息をついた。

幼いころ祖母に抱いた憧れは、現実の壁にあっさりと弾き返されてしまったのだ。

 

「……僕、どうすればいいんだろう」

 

その声は誰に届くこともなく、風に溶けていった。

 

──だが、そのとき。

 

ふと背後から、柔らかくも澄んだ声が響いた。

 

「困っているの?」

 

振り返った瞬間、エルの胸が一瞬止まる。

そこに立っていたのは、1人の女性。だが、どこか今までエルが出会ったどんな女性とも違うように感じた。

 

陽光を集めたように輝く金髪。

紅玉のように艶めく瞳。

通りを行き交う人々が思わず足を止め、振り返るほどの存在感。

 

少女のように若々しい姿でありながら、どこか抗いがたい威厳が漂っている。

あまりにも人間離れした美しさに、エルは思わず息を呑んだ。

 

「あ、あの……あなたは?」

 

女性は軽やかに微笑み、すっと胸に手を当てる。

 

「私はアフロディーテ。愛と美を司る女神よ」

 

「……えっ!?女神様!?」

 

あまりにも自然に告げられた言葉に、エルは思わず後ろへ倒れ込んだ。

慌てて駆け寄る女性を見上げ、彼はようやく理解する。

 

――目の前にいるのは、ただの美しい人間ではない。

祖母の英雄譚にも出てきた存在、本物の“神”なのだと。

 

 

「あ、貴方大丈夫?」

 

「だ、だいじょうぶ…です!すみません、驚いてしまって」

 

必死に体を起こしながら、エルは顔を赤らめる。

 

女神は小さく笑みを零し、まるで子どもをあやすように優しく言った。

 

「ふふ、気にしなくていいのよ。それで? 困っているみたいだったけれど」

 

「……えっと、実は僕、冒険者になりたくてオラリオに来たんです。でも……どのファミリアにも入れてもらえなくて」

 

しぼり出すように語るエルの声は、どこか弱々しかった。

 

アフロディーテは驚くこともせず、ただ彼を見つめ、頷いた。

 

「そう、名前を聞いてもいいかしら?」

 

「あ、はい!エル・フィリウスです!」

 

「そう。エルね」

 

ただそう言って女神アフロディーテは何やら考えるように、そしてエルをじっくりと見た。

そしてようやく、言葉の続きを発する。

 

「エル、私のファミリアに来ない?」

 

「……え?」

 

あまりに予想外の言葉に、エルは目を瞬かせた。

 

「もちろん強制じゃないわ。でも、あなたにはなにか特別なものを感じるの。確信は無いけれどきっと、貴方は強くなるわ」

 

そう言って差し伸べられた白い手は、迷いを断ち切るように真っ直ぐだった。

 

エルは一瞬ためらったものの、やがてその手を強く握り返す。

 

「……ありがとうございます!僕、必ず強くなってみせます!」

 

アフロディーテは満足そうに微笑み、少年を立ち上がらせた。

「ふふ。1人目の眷属にしては良い子ね。期待しているわ、エル」

 

こうして――。

エル・フィリウスは女神アフロディーテに導かれ、ファミリアへと迎え入れられる。

迷宮都市での長い冒険譚は、ここから始まろうとしていた。

 

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