ダンジョンに強すぎる冒険者がいるのは間違っているだろうか 作:マイペースライター
本日も深夜投稿になりました。
「ベル、少し待ってて」
エルはそう言って、ベルの肩にそっと手を置いた。
そうしてロキ・ファミリアの元へと歩を進める。
店の中心で、獣人の男とエルフの女性がまだ口論を続けており、その周囲にいるロキ・ファミリアの団員たちもどこか半ば呆れながらも、彼らのやり取りを見守っている。
その中で、小人族の男性とドワーフの男性が口を開いた。
「ベート、君かなり酔っているね」
「主ら、少しは黙らんか! 酒が不味くなる!」
賑やかなやり取りが繰り広げられる店内、その中心へと歩み寄るには、確かに勇気が必要だった。
だがエルは気持ちを整え、揺るぎない足取りで進む。
視線は真っ直ぐロキ・ファミリアの元へ。
ついに彼らの目の前にたどり着いたその瞬間、主神だと思われる女性がエルに気づいた。
その、糸目で、頭の後ろに1つ縛った長い赤髪を持つ女性は、興味を引かれたようにエルへと顔を向ける。彼女の口元が微かに緩んだ。
「お? なんや? ウチらに何か用か、少年?」
その言葉を合図にしたかのように、ロキ・ファミリアの面々が一斉にエルへ視線を向けた。
にわかに静まり返る店内。
だが、アイズとティオナはすぐにエルの姿に気づき、それぞれ反応を示した。
「エル……?」
「あれ! エル君じゃん! こんなところで会えるなんて奇遇だね!」
「アイズさん、ティオナさん、こんばんは」
エルは穏やかだが、はっきりとした声で応じる。
だがその言葉の後に続いた言葉には、鋭い覇気が宿っていた。
「すみません、少しそこの獣人の方に話があります」
その一言に、視線を向けられた獣人の男、ベートは眉をひそめた。
「ああ? なんだテメェは」
「エル・フィリウスです」
「名前なんざどうでもいい!…で? 俺に何か用かよ?」
エルは一歩前に出ると、静かな口調で続けた。
「僕の友人が侮辱されてたので。それをやめていただきたい」
ベートは少し驚いたように目を細め、そしてふっと笑いを漏らした。
エルの後ろで硬直しているベルに視線を向ける。
「あぁ?おいおい!もしかしてそいつ、トマト野郎かよ! ははっ! ミノタウロスの血は綺麗に落としたみてぇだが、弱ぇ奴の匂いは全然落ちてねぇな!」
その嘲笑が再びベルを突き刺す。エルの後ろで唇を噛み締めるベルは、肩を震わせ、今にも潰れてしまいそうだ。
「ベート! 止せ!」
小人族の男が鋭い声を上げて制止しようとしたが、ベートは笑い続けた。
「フィン、テメェは黙ってろ!」
そして、ベートは再びベルへ視線を戻すと、さらに嘲笑を浴びせる。
「それで? トマト野郎。仲間を連れて何しに来たんだ? 今度はそいつにアイズと同じように守ってもらうってか? 情けねぇなあ」
そのベートの言葉を耳にして、突然ベルは駆け出し店を出ていった。
「ベル!」
エルの叫びは、店の外へ駆け出していくベルには届かなかった。
「…!」
そしてそれに続いてアイズが反応し、席を立ってベルを追いかける。
そして店の入口から外へ駆けていくが、突然立ち止まり、周りを見渡すが、どうやらベルを見失ったようで、落ち込んだ様子を見せる。
そして、店内には静寂が訪れ、大きく開かれたままの扉とその先に立つアイズだけが視線の先に残っていた。
そして、店内に残された静寂を破ったのは、ベートの嘲笑だった。
「ははっ! また逃げるのかよ、トマト野郎!」
その言葉に、エルは、悲しみに染まっていた表情を変える。
その双眸には激しい怒りが燃え盛っていた。
そして、静かに、だが確実に変化が起こる。
エルの身体から突然溢れ出す虹色のオーラ、それは無意識のうちに解放されたものであり、店の中に異様な圧迫感を生む。
ロキ・ファミリアの団員たちは思わず息を呑み、身じろぎもできないままその場に立ち尽くした。
「……やめて頂きたい、僕は確かにそう言ったはずですよ」
エルは静かに歩み寄ると、ベートの胸ぐらを掴み上げた。
「おい、何しやが――!」
最後まで言葉を吐き出すことなく、ベートの身体はエルの手によって勢いよく持ち上げられ、そのまま外へと放り投げられた。
ドンッ…!
店の外でベートが地面に叩きつけられた音が響き、店内は再び静寂に包まれる。
エルは一瞬だけ深呼吸をして気を落ち着けると、カウンターへと向かい、手持ちの金を全て置いた。
「女将さん、僕の分とベルの分、それと迷惑料も……足りなかったら申し訳ないですが、入っています。料理、美味しかったです。ご馳走様でした」
その言葉に、ミアは眉間にしわを寄せながらも、かすかに微笑んだ。
「死ぬんじゃないよ。足りない分は次払いに来な」
「はい」
短く返事をしたエルの耳に、店の外から荒れ狂うベートの雄叫びが聞こえた。
エルは視線を外へ向けると、静かに扉を開けて店を後にする。
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外ではベートが立ち上がり、獣のような低い唸り声を上げていた。
その瞳は激昂に燃え、エルを睨み据えている。
「クソがァ!!よくもやりやがったな……三下ぁ!!この俺様を誰だと思ってる?」
「知らないですね。でも、それを威張る暇があるなら、ベルを追いかけて謝ったらどうですか?」
「…謝るだぁ? この俺が? 冗談言ってんじゃねぇぞ、ガキ!」
ベートの猛然とした突進に、エルは身を低くしてその爪をかわす。
地面が深くえぐれ、飛び散った石片が辺りに散らばる。
「…ベルは、必死にアイズさんみたいになりたいって、追いつきたいって頑張ってるんだ!」
エルはかわしながら叫んだ。その声には確固たる信念が込められていた。
「あの弱ぇトマト野郎がアイズに追いつく? 笑わせんな!」
ベートの口元が歪む。再び爪を振り上げながら、彼は嘲笑を浴びせる。
「あんなトマト野郎じゃ隣に立つことさえ許されねぇ!あいつじゃあアイズには釣り合わねぇ!何よりもアイズ・ヴァレンシュタイン自身が、それを認めねぇ!」
エルはその言葉に眉を寄せるが、動きを止めることなく間合いを詰める。
拳に力を込め、一瞬の隙を狙ってベートの懐へと入り込む。
「そんなこと、誰が決めたって言うんだ!」
エルの拳がベートの腹部に深々とめり込む。
衝撃で一瞬体を仰け反らせたベートだが、すぐに立て直し、怒りを込めてエルを睨みつける。
「ぐっ…テメェ……!」
ベートは再び攻撃態勢に入るが、その目には僅かな警戒が浮かんでいた。
エルの力を、少しずつ認めざるを得なくなっているのだ。
だが、彼のプライドがそれを口にすることを許さない。
名も知らぬ冒険者相手に本気を出すなど、彼自身にとって屈辱以外の何物でもない。
「調子に乗るんじゃねぇぞ、クソが!」
ベートは再び突進するが、エルの冷静な動きに翻弄される。
そして再びエルの拳が、ベートの顔面を捉えた。
「ぐっ……!」
拳の威力に体勢を崩し、よろめくベート。
その隙を逃さず、エルは鋭い視線で彼を見据えた。
「種族的にもファミリアも、全て最初から恵まれているようなあなたに、ベルがどんなに努力しているかなんてわかるはずない!だからこそ、侮辱する権利なんてないんだ!」
「ハァァァッ!」
エルの拳が風を切り裂き、ベートの頬をかすめる。さらに間髪入れず放たれる左の肘打ち。
鋭い攻撃の連鎖に、獣人の俊敏な動きも徐々に押し込まれていく。
「クソッ…!こんな奴相手に……!」
ベートは舌打ちをしながら後方へ飛び退くが、エルの追撃は止まらない。
彼の動きには規則性がなく、拳と蹴りを絶妙に織り交ぜた戦い方が獣人の戦闘本能を翻弄する。
そんな中、2人の戦闘を見ていたロキファミリアの団員たちからざわめきが起こっていた。
「エルくんがベートを追い詰めてる…あんなに強かったの…?」
ティオナが驚きの表情を浮かべる中、アイズはエルの動きを見つめながらもどこか不安そうに口を閉ざしている。
「クソッ…がァ!!!」
ベートは荒い息をつきながら立ち上がり、目を剥いてエルを睨む。
その視線には、これまでにない苛立ちと憤りが宿っていた。
「調子に乗りやがって…!三下ァ!!」
エルが再び間合いを詰めるが、その瞬間、ベートのオーラが一変した。
「遊びは終わりだっ!くたばれぇ!!」
獣人特有の力強い咆哮が響き渡る。
ベートの足元が一瞬にして地を蹴り砕き、猛烈な勢いでエルに突進してきた。
「ぐっ…速いっ!」
エルはとっさに腕を交差させて防御態勢を取るが、ベートの拳がそれを容易く弾き飛ばした。
「グァッ!」
防御ごと吹き飛ばされたエルは、背中から店の柱に激突する。
木材がバキバキと音を立てて崩れ落ちた。
「さっきの威勢はどうしたよぉ!もう終わりかぁ!」
ベートは嘲笑を浮かべながらエルを見下ろす。彼の瞳はまさに獣のそれで、周囲に殺気をまき散らしていた。
エルは朦朧とした意識の中で体を引き起こし、拳を握りしめる。
そして全身に纏う虹色のオーラが揺らめく。
「まだだ……僕は……負けるわけにはいかない!」
虹色の拳が再び放たれるが、ベートの動きは先ほどまでとは別次元の速さだった。
拳が放たれるたびに、ベートは軽々とそれを回避し、逆に反撃の蹴りを繰り出してくる。
「これが……本気……!」
エルの防御が徐々に追いつかなくなり、ベートの拳と蹴りが的確にエルの身体を捉える。
「オラオラァ!どうした、もう限界か!」
ベートの回し蹴りがエルの脇腹を直撃し、彼の体が宙に浮いて床に転がった。
「くっ……!」
エルは苦痛に耐えながら立ち上がる。だが、その動きは明らかに鈍くなっている。
「本気出してやってんだ。もうちょい楽しませてくれよ!」
ベートは地を蹴り、獣のような勢いでエルに飛びかかる。
エルはとっさにその攻撃をかわそうとするが、その速度に追いつけない。
そのベートの攻撃にエルの体勢が完全に崩れ、それを好機とベートがとどめを刺そうと拳を振り上げたその瞬間、
「そこまでだ、ベート」
ある人物の声が場を静める鐘のように響き渡る。
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声の主、フィンは一瞬にして2人の間に到達すると、その鋭い眼差しをエルとベートの両者に向ける。
彼の視線は戦場を支配するような圧力を放つ。
「これ以上の戦いは認められない」
フィンの言葉にベートは歯を食いしばりながら、エルを見つめる。
彼の鼻息は荒く、体はまだ戦いを求めているようだが、フィンの鋭い視線に少しずつ冷静さを取り戻す。
「フィン…チッ」
ベートはふて腐れるように腕を組むが、次第にその態度に変化が現れる。
自分がエルに本気を出すほどに追い詰められていたことを、自覚し始めたのだ。
そしてフィンは静かに一息つき、エルに対してゆっくりと語りかける。
「すまなかった。君の友人を傷つけてしまったこと、ベートをすぐに止められなかったことを謝罪しよう」
頭を下げるフィンに対して、エルは歯を食いしばり、その目にはまだ怒りが渦巻いていた。
だが、徐々に冷静さを取り戻し、
「…いえ、こちらこそ、いきなり喧嘩を売ったりして…すみません」
エルは言葉を詰まらせながらも謝罪を口にする。
ベートもそれを聞いて少し黙り込み、自己嫌悪を浮かべたような表情を見せる。
「…俺ァ帰る」
ベートはそう呟き、拳を少しだけ震わせてから、すぐにその場を離れる。
戦闘が終息を迎えた後、エルの怪我の具合からティオナなどから心配されたが、エルはすぐに発たなければ行けない理由があった。
「ベルを、追いかけなきゃ」
エルは周囲を見渡すが、ベルの痕跡はどこにも見当たらない。心の中で焦りが募る。
エルはティオナやフィン、アイズなどに別れを告げ、すぐさま街を駆け出す。
「ベル…どこだ…!」
街の細い路地を抜け、広場を駆け抜けていく。だが、その時ふと、エルは強い不安に襲われる。
背筋に冷たい汗が流れ、胸が締め付けられるような感覚を覚えた。
「嫌な予感がする……」
エルは立ち止まり、無意識に深呼吸をする。
そして、すぐにその予感を確信に変えた。
「もしかして…ダンジョン!」
それは直感だった。
ベルが何かに追い詰められ、ダンジョンの中で無理をしている、そんな気がした。
エルは即座に方向転換し、ダンジョンの入口へ向かって走り出す。
その足音は、早くなる速度とともに街の静けさを打ち破る。
「ベル、無事でいて!」
心の中で祈りを込めて、エルはダンジョンのへの道を全速力で駆け抜けるのだった。
友のために怒れるのは素晴らしいこと!
そして今回はだいぶ原作を改変しましたね…
書きたいものは書いて、でもあのベートのセリフはぶち込みたかったから入れたんですけど、無理やり組み込んだ感じが消えませんね…