ダンジョンに強すぎる冒険者がいるのは間違っているだろうか   作:マイペースライター

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読者の皆様こんばんは〜
大変お待たせしました。



それぞれの道

エルは一刻も早くベルを見つけ出すため、

神器解放を使い、再び虹色のオーラをその身に纏う。そのオーラは彼の体に膨大な力をもたらし、彼を風のように速く駆けさせる。

 

街を疾走するエルは、目を凝らして周囲を見渡しながらベルの姿を探し続けた。

人々のざわめきや行き交う冒険者たちの間を縫うように走り抜けるが、ベルの特徴である白髪の少年は見つけられない。

 

「いない…。本当にダンジョンに…」

 

胸が締め付けられるような焦りを抱えながら、エルはバベルを目指してさらに速度を上げた。

 

---

 

しばらく走り、ついにバベルの前に到着する。

 

そしてエルは休むことも無くダンジョンの入口を通り、ベルを見つけるために1階層から探索を始めた。

モンスターが襲いかかってきても、迷うことなく一撃で仕留め、その魔石には目もくれず、ただベルの姿を探し続ける。

 

「ベル…どこだ…」

 

次々とモンスターを倒しながらも、ベルを見つけられない不安がエルの心に重くのしかかる。

 

2層へ、3層へ、くまなく探しながら降り続け、今朝ぶりの4階層に到着する。

だが、そこにもベルの姿はなかった。

 

「ベル…まさか、もっと深く潜ったのか?」

 

エルはベルが昨日初めて5層に進んだという話を聞いていた。

そして、今朝の迷宮探索はベルに階層を決めさせて、ミノタウロスに対するベルのトラウマから、4層までしか探索はしていない。

だからこそ、4層に彼がいなかったことがエルの不安を更に高める。

5層以降、もしくはもっと下の階層に潜っていたとしたら。

そう考えるとエルはいてもたってもいられなくなった。

そして、エルは意を決してさらに進み、5階層へと進むことを決めた。

 

---

 

エルは険しい表情で辺りを見渡しながら、足を進めていく。

だが、そこにもベルの姿は見当たらない。

 

「ここにもいない……!」

 

そのとき、足元に視線を落としたエルの目に飛び込んできたのは、無数に散らばるモンスターの魔石だった。

それらは最近倒されたばかりのように見え、その光景にエルは僅かな手がかりを感じ取る。

 

「ベルが……ここを通ったってこと?」

 

魔石が続く方向をたどり、エルは迷うことなく駆け出した。

そして、視界の先に現れたのは6階層へと続く階段だった。

 

「ここで倒した痕跡があるってことは……まだ無事だったんだな」

 

だが、その安心は一瞬でかき消される。

6階層は危険度が飛躍的に上がる領域であり、ベルの実力で、それもたった一人でという状況では到底耐えられるとは思えなかった。

 

「まずい……早く見つけないと!」

 

エルは焦りを押さえきれず、階段を駆け下りていく。

その瞳には、ただベルを助け出したいという一心だけが宿っていた。

 

---

 

エルは散らばった魔石を頼りに6階層へと足を踏み入れる。

辺りの空気は重く、かすかにモンスターの気配が漂っている。

 

しばらく進むと、金属がぶつかり合う音と、激しい戦いを物語る声が耳に飛び込んできた。

 

「もしかして…!」

 

声のする方向へ迷わず駆け出す。

そしてしばらく進むと視界の先に、複数のウォーシャドウに囲まれたエルが必死に探していた白髪の少年、ベルがいた。

 

ベルは一体のウォーシャドウと激しく渡り合いながら、その背後から襲いかかろうとするもう一体のモンスターに気を配っている。

その動きはギリギリだが、彼の赤い瞳には決意が宿っていた。

 

「ベル!」

 

エルが叫ぶが、ベルは声に気づく様子もなく戦闘を続けている。それほどまでに集中しているのだろう。しかし、エルはその姿を目にして驚きの表情を浮かべた。

 

「一体何が起きてるんだ……」

 

ウォーシャドウは、普通のLv1の冒険者にとって『新米殺し』とも言われるほど厄介な存在だ。

先日パーティを組んだベテランと称していたカヌゥ達でさえ、一体のウォーシャドウに手傷を負わされてい他ほどだった。

それが単体ではなく複数。

冒険者として半月にも満たない、エルのような特異な能力を持ってもいないであろうベルが、そんなモンスターたちに囲まれながらも一人で渡り合っていた。

 

ベルの動きは危うい。

それでも、ギリギリで攻撃を避けながら、タイミングを見計らって反撃を繰り出し、有効打を与えている。

その今朝からの成長ぶりにエルは思わず足を止めた。

 

「まるで…英雄みたいだ…」

 

その熱く激しい心躍る戦いに目を奪われると同時に、エルは心の中でどこか悔しさが芽生えた。

そしてベルを助けるべきだということは分かっているのに、エルはその場で見守ることしか出来なかった。

 

---

 

エルが見守る中、ベルは最後のウォーシャドウに飛びかかり、渾身の一撃を叩き込む。

そのモンスターが崩れ落ち、灰へと還るのを見届けると、ベルはその場に膝をついた。

 

「……ベル!」

 

エルは急いで駆け寄り、倒れ込んだベルの様子を確認する。

その顔には疲労の色が濃く、体力を使い果たしているのが明らかだった。

 

そしてエルは急いでベルをダンジョンの外へ連れ出そうとするが、その時、ダンジョンの壁が鈍い音を立ててひび割れた。

 

「こんな時に…!」

 

ひびの中から現れたのは、先程ベルが対峙していたウォーシャドウ達を上回る数のモンスターの軍勢だった。

そしてエルは咄嗟にベルを守るように立ち上がり、腰に差した短剣を引き抜く。

 

 

「英雄の凱旋を……。邪魔するな」

 

エルは先程まで解除していたスキルを再度解放し、その身は虹色のオーラを纏い、圧倒的な力で満ちていく。

そして、手に持つ短剣をたった一度、円を描くように振り抜いた。

 

その瞬間、衝撃波がエルを中心にして発生し、周囲を埋め尽くしていたモンスターたちは瞬く間にその身を灰と化し消え去る。

そしてその場には、消えた怪物たちの魔石だけが転がっていた。

 

エルは短剣を見下ろし、小さなひび割れが入っているのを確認すると、苦笑いを浮かべた。

 

「力加減、間違えちゃったな……アフロディーテ様、ごめんなさい」

 

そう呟いて、エルは疲弊した表情を一瞬浮かべるが、すぐに気を取り直してベルを抱え上げた。

 

---

 

エルは全速力でダンジョンを駆け上がり、ようやく入口までたどり着いた。

ベルは意識を取り戻さないままだったが、その胸が上下しているのを確認して、エルは安堵の息を漏らした。

 

「…これでひとまずは安心かな。でも…」

 

エルの頭をよぎるのはベルの主神である

ヘスティアの顔だった。彼女がこの出来事を知れば、どれほど怒るかは容易に想像できる。

 

「どう説明しよう……」

 

苦笑しながらも、ベルをしっかりと抱え直し、エルはヘスティアファミリアのホームである廃教会へと向かった。

 

 

---

 

長い夜が明け、わずかに朝焼けの光が差し始めたころ、エルはヘスティア・ファミリアのホームの近くまでたどり着いた。

背中には意識を失ったベルを背負い、スキルの長時間使用による精神力の減少に伴う疲労に覆われながらも、その足は最後の力を振り絞っていた。

 

そして廃教会の入口前では、神ヘスティアが立ち尽くしていた。

心配そうな顔で辺りを見回し、落ち着かない様子で足を揺らしている。

その小柄な身体にまとった薄手の服は冷たい朝の空気に震えており、眠れていないのが一目でわかる。

 

そしてヘスティアは近ずいてくるエルに気づいた。

 

「エルくん!」

 

彼女の声が廃教会の静寂を切り裂く。

 

「ベルくんはどこに……!」

 

言葉を続けたヘスティアだったが、その瞳がエルの背後に背負われた白髪の少年、ベルの姿を捉えた瞬間、彼女の顔は青ざめ、言葉が途切れた。

 

「ベルくん……!」

 

ヘスティアは息を飲み、そのままエルの元へ駆け寄った。

 

---

 

エルは肩にかかるベルの重みを感じながら、そっと膝をついて彼を下ろした。

ベルの顔は泥と血で汚れ、所々に擦り傷や裂傷が残っている。

それでも彼の呼吸は浅く弱いながらも整っており、命の危険はないと判断できた。

 

「エルくん、一体何があったんだ!」

 

ヘスティアは震える声で問いかけると同時に、ベルの顔に手を触れ、彼の様子を確認した。

 

エルは荒い息を整えながら、ゆっくりとヘスティアを見上げた。

 

「……ベルは、1人で6階層まで潜って…。それで、最後のモンスターを倒した時に限界がきて…もし、僕が間に合わなければ…危なかったと思います。」

 

言葉にするたび、エルの声が重くなっていく。自分がもっと早く気づいていれば、彼がこんなに傷つくことはなかったのではないか、そんな後悔が心を支配していた。

 

「6階層に……?どうしてベルくんがそんな無茶を……!」

 

ヘスティアの目に涙が浮かぶ。

彼女にとって、ベルはかけがえのない眷属であり、家族だった。

その彼が命を賭けてまで何かを求めようとしていたのだ。

その理由が何であれ、彼の力になれなかった自分への無力感がヘスティアの心を苛む。

 

「ベルくん……!」

 

ヘスティアはベルの手を握りしめると、小さく囁いた。

 

「何もしてあげられないダメな神で、ごめん…」

 

エルはその様子をしばらく静かに見守りつつ、立ち上がり背筋を伸ばした。

 

「ヘスティア様……ベルの気持ち、何となくですが分かります。強くなりたい、何よりも叶えたいものがある。だからこそベルは全力なんです」

 

言葉に重みが宿る。

エル自身もまた、同じような感情に突き動かされた事があるのだ。

 

---

 

そしてエルはヘスティアの指示の元、廃教会の中に、そして寝室へ入り、ベルをベッドへ運び終える。

そして廃教会の簡素な内装を眺めながら深く息をついた。

目の前で眠る少年は、まだあどけない顔をしている。

だが、彼のダンジョンでの戦いぶりは、エルの心に大きな波紋を投げかけていた。

 

ヘスティアがベルの額に濡れた布をそっと置き、優しい笑みを浮かべている。

その光景に安堵しつつも、エルは自分の中にある迷いを断ち切るように、深く頷いた。

 

「ヘスティア様……」

 

エルの呼びかけにヘスティアが顔を上げた。その瞳には、どこか尋ねるような光が宿る。

 

「なんだい、エルくん?」

 

エルは一度目を閉じ、静かに言葉を選ぶ。そして意を決したように、口を開いた。

 

「すみません、ヘスティア様。ベルとパーティを組む件ですが、一度取り消させてください。」

 

「……え?」

 

ヘスティアの表情が一瞬凍りついた。

 

「な、なんでだい!ベルくんと喧嘩でもしたのかい!?」

 

彼女の声には焦りが混じる。

ほんの数時間前まで、エルはベルの成長を支え、共に冒険を進める心強い仲間だった。

それが急に取り消しを申し出るなど、想像もしていなかったのだろう。

 

エルはヘスティアを真っ直ぐに見つめ、小さく首を振った。

 

「いいえ。逆です。」

 

その一言で、ヘスティアは眉をひそめ、疑問の色を深める。

 

「…ダンジョンでのベルの戦いを見て、悔しいなって思ったんです。ベルはあんなにも全力なのにって。」

 

「自分も全力で強くならなきゃって、自分の持ってるもの全てを賭して自分が目指しているものを、全力で追いかけなきゃって…思ったんです。」

 

エルの声は真剣そのもので、嘘や迷いの影は一切なかった。

 

エルの心には三つの姿が浮かんでいた。

 

一つ目は、エルを育て上げてくれた祖母。

『英雄のような男になりなさい』と、厳しくも温かなその言葉は、今でも耳に残り続けている。

 

二つ目は、祖母がいつも話してくれた『英雄』の姿。彼の具体的な顔や体格は、エルの想像の中で形作られたものでしかない。

それでもその存在は、エルの人生における目標の象徴だった。

 

そして三つ目は、エルに対して圧倒的な力の差を見せつけた、フレイヤ・ファミリアの団長にしてオラリオ最強と謳われる冒険者、オッタル。

あの戦いは短いながらも、エルに自分の未熟さを痛感させた。

 

三者の姿が心の中で重なり合い、エルの胸に熱い決意を燃え上がらせる。

 

---

 

ヘスティアはしばらくエルを見つめていたが、やがてその目に理解の色を浮かべ、微笑んだ。

 

「そうか……うん、わかった。エルくんがそう決めたなら、僕はそれを応援するよ。」

 

その言葉に、エルの表情がわずかに和らぐ。

 

「ありがとうございます。ベルには…お互い強くなろう、そう伝えてください。」

 

「わかったよ。でも、寂しくなっちゃうね……せっかくパーティを組んだっていうのに。」

 

「…はい。でも、困ったことがあれば全力で手伝わせて頂きます。手助けできるように強くなります。またベルとお互い強くなって一緒に冒険できるように。」

 

「だからヘスティア様、ベルのことよろしくお願いします」

 

ヘスティアはその言葉に小さく頷き、ふっと優しい笑みを浮かべた。

 

「任せてくれ!僕はこの子の神様だからね!」

 

彼女はベルのほうを振り返りながら、胸を叩いて見せた。

その仕草は明るく、エルに安心感を与える。

 

「……ありがとうございます!では、僕はこれで。」

 

---

 

エルはヘスティアに深く頭を下げると、静かに廃教会を後にした。

 

明るくなりつつある空の下、彼は振り返らなかった。

これから自分が進む道には、もっと過酷な試練が待っているとわかっていたからだ。

その胸には、燃え上がる覚悟とともに、少しの不安と大きな希望が交錯していた。

だが、もう決して立ち止まることはない。

目指すべき場所へ、全身全霊を賭して駆け抜けるのだ。




やっぱりベルくんって人を動かす力があるんですよね…。
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