ダンジョンに強すぎる冒険者がいるのは間違っているだろうか   作:マイペースライター

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読者の皆様こんばんは〜
最近スローペース気味ですが、今後もマイペースに書いていくのでよろしくお願いします〜


違和感

 

「椿さん!良かった…間に合った…」

 

慌てて駆け込むようにバベル前の広場にたどり着いたエルは、息を切らしながら、そこに立っていた自分の探していた対象である女性へ声をかけた。

鮮やかな黒髪を結い、片目に眼帯を付けたその人物、椿・コルブランドは、いつもの笑みを浮かべながら軽く手を振った。

 

「おお、エル。遅かったな」

 

「すみません!色々とありまして、椿さんとの約束の日になっていたことに気づかなくて…」

 

「そうか。まあ良かろう!」

 

その言葉にエルは拍子抜けした表情を見せる。謝罪が足りないのではないかと一瞬考えたが、彼女の態度には怒りの気配が全くない。

 

「お、怒ってないんですか?」

 

「ん?そんなことしていても時間の無駄であろう。お主は謝った。だから手前にさもうお主を咎める理由はない」

 

椿の言葉に込められた単純明快な論理が、エルの胸にすっと落ちる。

 

「そ、そうですか…」

 

「さあ!早速試し斬りに行こう!」

 

「は、はい!」

 

---

 

二人は意気揚々とバベルからダンジョンへと向かった。

上層1階層から徐々に階層を下り、3階層にたどり着く頃には、エルは少しずつ身体が温まっているのを感じていた。

 

「そういえばお主、何か雰囲気が変わったな。ランクアップでもしたのか?」

 

「え…!なんでわかるんですか!?」

 

驚きに目を見開くエルに、椿は軽く肩をすくめた。

 

「手前は沢山の冒険者を見てきたからな、多少は雰囲気の違いがわかる」

 

「なるほど…」

 

エルは妙に納得しつつ、自分の変化が外から見て分かるほど顕著なのかと少し恥ずかしくなる。

 

「そうなると、お主はもっと下に潜れるというわけだな?」

 

「え、えっと、一応中層でも戦えるステイタスではあると思うんですけど、ランクアップしたばかりなので…。まずは上層で慣らしていきたいと思ってます」

 

「そうか。なら、とりあえず12階層まで進むぞ。」

 

「はい!」

 

そうして、エルと椿は出現した怪物を倒しながら、次々と階層を下っていく。

前回の椿さんとの探索とは異なり、今回はエルも戦闘に積極的に参加していた。

 

---

 

「よし、到着だ。エル、休憩は必要か?」

 

「いえ!まだ体力の余裕はあります!」

 

一気に12階層まで下ったにしてはエルの元気そうな返答に満足したように頷いた椿は、背中に背負った袋から一本の片手剣を取り出し、エルに差し出した。

 

「では早速試し斬りといこう!」

 

エルがその剣を手に取ると、わずかに冷たい感触が伝わってきた。

目を凝らすと刃には美しい波紋が走り、丁寧な仕上げが施されている。

 

「これは…凄いですね」

 

「うむ!手前の作品の中では中々の仕上がりになったと思うが、試してみろ」

 

エルは椿の真剣な眼差しを受け、深呼吸すると剣を握り直した。

 

---

 

一匹のシルバーバックが咆哮をあげながら飛び出してきた。

毛むくじゃらの巨体が揺れ、地面が僅かに震える。

 

エルは剣を構え、一気に間合いを詰めた。

振り下ろした剣は重厚な刃音を響かせ、次の瞬間にはシルバーバックの巨体を真っ二つにしていた。

 

「なるほど。やはりランクアップしただけあって先日とは桁違いだな。」

 

椿が軽く感心したように口元を緩めたが、すぐに真剣な眼差しを向ける。

 

「だが…」

 

その一言がエルの耳に届くと、全身に緊張が走る。

 

「お主、本気を出しておらんな」

「…え?」

 

エルは自分が本気で剣を振ったつもりであることに動揺を隠せなかった。

 

「何か攻撃を繰り出す時に力を抑えている感じがする。ランクアップ後は、通常は前のレベルとの力の差から、攻撃が過剰になることはある。だがお主は逆に押さえ込んでいるようだ」

 

「そうかもしれません…。今までスキルを使用しながら攻撃したら武器が砕けてしまったことが何度かあって…」

 

エルは記憶を遡りながら、過去の戦闘での失敗を思い出した。

モンスターに対して振り抜いた武器が砕けた瞬間の衝撃と、それを引き起こした自分への嫌悪感が脳裏をよぎる。

 

「壊れることなど気にするな、存分に壊せ。使い手の力を存分に発揮できない武器などを渡しては鍛冶師の恥だからな。」

 

椿の堂々とした言葉に、エルの胸の中にわだかまっていた不安が少しずつ解けていった。

 

---

 

エルは椿の言葉に背中を押され、ついにスキルを発動させた。

全身に虹色のオーラが広がり、見る者を圧倒する威圧感が放たれる。

 

「良いぞ、エル。その状態で戦ってみろ」

 

新たに現れた二匹のシルバーバックが揃って吠えた。

しかし、エルの集中力は咆哮に乱されることはなく、一瞬で2匹に迫り、その巨体を切り伏せた。

 

圧倒的な力を披露したエル。

だが、彼は何か違和感を感じていた。

 

「エル、どうかしたのか?」

 

「あ、椿さん…。剣が…」

 

エルの手の中で剣の刃がぼろぼろに欠けていた。

 

「問題ない!使い手の能力に合った武器を打てなかった手前の責任だ!」

 

椿の朗らかな言葉に、エルは思わず苦笑しつつ深く頭を下げた。

 

---

 

「しかし、今日持ってきた物は全てダメみたいだな。作り直してこよう」

 

椿がひとつ溜息をつきながらエルから渡された剣の残骸を手に取り、目を細めて眺める。

剣身には無数の欠けが見られ、刃先は既に鋭さを失い、見るも無残な状態だ。

 

「え!?そんな!これ以上椿さんに迷惑は…!」

 

エルは慌てて声を上げるが、椿はそれを軽く手で制し、微笑みながら首を振る。

 

「そういう約束だ。それに、鍛冶師として、自分の打った武器を壊されたままでは終われないのでな。次は壊れない武器を持ってくる。それに、これは面白い挑戦になりそうだしな」

 

そう言って、椿は欠けた刃を大切そうに鞘に収める。

 

「わ、わかりました…」

 

エルは恐縮しつつも、椿の覚悟と自信に押され、無理に反論しないことにした。

 

そして二人は準備を整えた後、ダンジョンを上に登っていき、地上へと戻る。

明るい光が目に差し込むと、エルの身体が少し軽くなったような気がした。

 

「さてと、次はそうだな。6日後の朝、バベルの前で待つぞ。それまでに新しい武器を用意しておくからな、次は時間通りこい」

 

椿が豪快に笑いながら告げる。

 

「は、はい!次は絶対に遅れません!」

 

エルは力強く頷く。

 

「うむ、。ではまたな!」

 

軽く手を振る椿の背中を見送り、エルも自分のファミリアのホームに向けて足を進める。

 

---

 

 

「アフロディーテ様、ただいま帰りました」

 

神殿に辿り着いたエルは、ホームの扉を開けると、彼の声が室内に響く。

 

「おかえりなさい、エル。疲れているでしょう?早く着替えて寝なさい」

 

寝室から出てきた主神、アフロディーテがエルに声をかける。

その表情には疲労したエルを気遣う優しさが垣間見える。

 

確かにエルの体は限界に近かった。

数日の睡眠不足に加え、ダンジョンでの試し斬りは精神的にも肉体的にも消耗を強いるものであった。

しかし、エルはどうしても彼女に聞きたいことがあった。

 

「あの、アフロディーテ様。実は聞きたいことがあるんです」

 

エルは一歩前に進み、真剣な眼差しで彼女を見上げる。

 

「どうしたの?」

 

彼女は問いかけながら、そっと近くの椅子に腰掛け、エルに続きを促す。

 

---

 

エルは今日のダンジョンで抱いた違和感について話し始めた。

 

「今日のダンジョン探索でモンスターと戦ったんですが、少し違和感があって。スキルを使っても、ランクアップ前より強さを感じなくなったというか…」

 

アフロディーテは少し眉を寄せ、真剣な面持ちで耳を傾ける。

 

「それは、まだランクアップ直後で身体が慣れていないから、ということではないの?」

 

「いえ、確かにランクアップして能力が強化された感覚はあったんです。でも、スキルを使った時、どうしてか全能感が薄れたというか…以前のような爆発的に能力が強化された感覚が無くなったんです」

 

エルは頭を掻きながら、自分でも上手く言語化できない感覚を絞り出すように話す。

 

その言葉を受け、アフロディーテは部屋の奥から朝に記したエルの最新ステイタスが書かれた羊皮紙を持ち出してきた。

しばらく目を通した後、口を開く。

 

「恐らくだけど、神器解放の効果にある『全能力値を倍にする』というのは、見えているアビリティに限る、ということじゃないかしら」

 

「見えているアビリティ…ですか?」

エルは首を傾げながら問い返す。

 

「ええ。エル、例えば2人の冒険者がいたとして、レベルが1違うだけで圧倒的な差が生まれるというのは知ってる?」

 

「はい。ランクアップ後はアビリティが初期値に戻るけど、ランクアップ前の能力は潜在能力として引き継がれるから、ということですよね」

 

「そう。そのランクアップ前の能力が所謂『見えないアビリティ』なのよ。だから神器解放は、今のレベルで見えるアビリティにのみ適用されている。ランクアップ前は全てが表に見えていた分、能力の伸びを実感しやすかったのかもしれないわね」

 

エルはアフロディーテの言葉を反芻する。

確かにそれなら辻褄が合う。

ランクアップ前は全ての力が視覚化された数値として確認できたため、倍になればその分強さをそのまま感じられた。

しかし、ランクアップした今は、以前の能力が潜在能力として存在しているため、スキルによりアビリティが強化された実感が薄れてしまうということだろう。

 

「なるほど…」

 

エルは納得したように呟いたものの、胸の内にはまだ小さな引っ掛かりが残っていた。

だが、それをそのまま表に出すことはせず、アフロディーテに感謝の眼差しを向けた。

 

「それでも、アビリティを倍加なんて破格すぎるけどね」

 

アフロディーテが軽く笑いながら冗談めかして言う。

その言葉には彼女なりの励ましが含まれているようだった。

 

「確かに、そうですね」

 

エルは苦笑いを浮かべながら、どこか残念な気持ちを抱える。

神器解放の能力は確かに破格だ。だが、破格であるがゆえに、その力を制御する難しさも身に染みていた。

 

そしてエルは思い出す。

今日のダンジョンで、試し斬りのたびに椿の剣が次々と破壊されていったことを。

力を込めすぎれば武器が耐えられない。

力を抑えようとすれば、狙った一撃が届かない。

どちらにしても、自分の意志ではなく、力そのものに振り回されている感覚が拭えなかった。

 

アフロディーテの言葉が頭をよぎる。

『力に振り回されるのではなく、自分が力を制御するのよ。』

その教えが今も胸に響く。

 

「もっと力を上手く扱えるようにならなきゃ…」

エルはそう思い直し、気持ちを切り替えた。

自分が力を恐れるのではなく、力を理解し、使いこなすことが必要なのだと。

 

---

 

「さあ、話もまとまったことだし、さっさと寝なさい!」

アフロディーテはそう言って、エルを手で促す。

その言葉には、彼の疲労を気遣う優しさと、どこか少しの厳しさが滲んでいた。

 

「あ、でもダンジョン探索に行きましたし、ステイタスの更新もしたいと思ったんですが…」

 

エルは未練がましく頼み込むように言った。

ランクアップの余韻が残る中で、どこか焦燥感を覚え、今の自分を確認したいという気持ちが抑えられなかったのだ。

 

「今日はもうステイタス更新はしないわ」

 

「ええ、そんなぁ!」

 

エルが肩を落として抗議するように声を上げる。

 

「私たち神だって一瞬ではあるけれど、指を切る痛みくらい感じるのよ?」

 

アフロディーテが軽く指先を掲げて続ける。

「それでもって言うなら、私の痛みを少し味わってからになるけど?」

 

「い、いえ!やっぱり大丈夫です!すぐに寝ます!」

 

エルは慌てて頭を下げ、まるで逃げるように寝室へと向かった。

 

---

 

ベッドに腰を下ろした瞬間、エルは深い安堵を感じた。

硬い床やダンジョンの不安定な環境とは違い、ふかふかの布団が全身を包み込む。

疲労した身体を引き取るような優しい感覚だった。

 

「疲れた…」

 

エルは独り言のように呟き、ベッドに倒れ込む。

昨日から寝ていなかったこと、そして今日のダンジョンでの試し斬り。

どれも彼の身体に負担を強いていた。

それでも、アフロディーテの言葉や椿の激励を思い出し、少しだけ心が軽くなったような気がする。

 

「もっと強くならないと…」

ぼんやりとそんな考えを巡らせるが、疲労がそれすらも遮り、やがて意識は薄れていく。

瞼が重く閉じられ、深い眠りの中へと誘われていった。

 

---

 

エルが静かな寝息を立てる中、いつの間にか寝室に入っていたアフロディーテは、彼の寝顔を見つめていた。

 

「全く、無理ばっかりするんだから」

 

彼女は呟き、優しく微笑む。

その笑顔には母親のような温かさがあった。

 

「おやすみなさい。ゆっくり疲れを取るのよ、エル」

 

そう言いながら、彼の髪をそっと撫でる。

その仕草には彼への信頼と愛情が込められていた。

 

エルのこれからを思い、彼女の心には不安と期待が入り混じる。

それでも、彼が一歩ずつ成長し進んでいくことを信じている。

その思いを胸に、アフロディーテは静かに部屋を後にした。

 




そういえば私事ですが、日付が変わったらまた歳をひとつ重ねます。
エルきゅんの誕生日はいつなんでしょうね〜
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