ダンジョンに強すぎる冒険者がいるのは間違っているだろうか 作:マイペースライター
深夜に投稿失礼します〜
「神器解放」
その瞬間エルの身体を、淡く、そして鮮やかな光が包み込んだ。
赤、青、緑、黄、紫――幾重にも重なる光が混ざり合い、エルの全身を纏う虹色のオーラとなる。まるで神々の加護そのもののように、幻想的な輝きを放っていた。
「行くぞっ!」
その声と同時に、地面を蹴る音が空気を裂く。エルの身体が、一陣の風となって駆け抜けた。
虹色の尾を引きながら、獲物を見据えるようにまっすぐ突進。狙いは、目前で鎌首をもたげる蛇型モンスター。
「……はっ!」
渾身の拳が放たれた。
虹色のオーラがその動きに呼応するように一瞬強く輝き、拳はまるで鉄槌のような重みとともに、モンスターの顔面を正面から叩きつけた。
「ギシャアアアア!!」
轟くような悲鳴とともに、その巨体がたたらを踏む。その感触からエルの拳は通った“はず”だった。
「……っ、硬いっ!!」
だが、モンスターの鱗は想像以上に硬く衝撃は与えられても確かなダメージは与えられていない。そしてモンスターは怯みながらも再び牙を剥く。
「エルくん!そいつめちゃくちゃ硬い!」
ティオナが1匹を抑えながらエルに呼びかける。
「武器があればっ…!」
ティオネが言う。
「ギシャアアッ!!」
モンスターの攻撃がエルに向かって攻撃を仕掛ける。だがエルはすぐさま反転し、攻撃を避けた後に蹴りを側面から叩き込んだ。
だがやはり打撃による攻撃はあまり意味をなさない。
「くっ…!」
「エル!ロキは大丈夫なの?」
「はい!僕も手伝って来て欲しいと、アイズさんが戻るまでの時間稼ぎを、と神ロキから頼まれて来ました!」
「正直助かるわ!その数は流石に私とティオナじゃ抑えきれないし、1人1体相手ならっ!」
そう言いながらティオネはエルに感謝の意を示す。
「うん!エルくんがいればいける!レフィーヤ!私達がこのモンスターを全力では抑えるから!詠唱をお願い!」
ティオナがレフィーヤに呼びかける。
「はい!」
「解き放つ一条の光、聖木の弓幹。汝、弓の名手なり。狙撃せよ、妖精の射手。穿て、必中の矢─ ─」
詠唱が終わり、後は魔法名を唱えるのみ、そう思った矢先。
「…かはっ」
レフィーヤの身体が宙を浮き、近くの屋台の屋根へと叩きつけられる。
「「レフィーヤっ!!」」
「レフィーヤさんっ!」
それはエル達が押さえ込んでいたはずのモンスター達から放たれた攻撃だった。
当初蛇かと思われたモンスターだったが、なんとそのモンスターは突然口を開き、その買おと思われる部分は”開花“した。
そしてそのモンスターは身体からツタのようなものを伸ばし、レフィーヤに攻撃したのだ。
「こいつっ!!花だったの!?」
「くっ…!このままじゃレフィーヤが!」
「どうすればっ!」
声を上げる姉妹そしてエル。
そんな中モンスター達がツタを伸ばし全員を拘束した。
そしてモンスターの内の一体がレフィーヤの元に首を伸ばす。
「レフィーヤ!逃げて!」
ティオナが叫ぶも吹き飛ばされた衝撃で満身創痍なレフィーヤは体を動かすことが出来ない。
「ギシャアアアアッ!!」
そして今にもモンスターガレフィーヤを食い殺そうといていた。
だが次の瞬間 ─ ─
突如放たれた一太刀によってモンスターは崩れ消えた。
「「アイズ!」」
驚く姉妹。
「アイズさん!」
そして、自分が全力を出してもビクともしなかったモンスターをいとも容易く屠ったアイズに胸を熱くするエル。
「遅くなってごめん。皆大丈夫?」
「まあ、何とかね…」
「エルくんが途中で来てくれたから私たちは大丈夫だけど、レフィーヤが!」
「うん。私がやる。だから皆はレフィーヤを」
「了解!」
「アイズさん気をつけてください!」
そうアイズに声をかけるエル。
「エアリエル」
そう唱えた彼女は緑色のオーラを纏い風を想像させるような速さでモンスターに向かってかけていく。
そして剣を振るう。
だが今度は先程のようにすんなりとは切れなかった。
「硬い…!」
そしてもう一度剣を振るい金属音が響いた。
カンッ!!
それは剣が砕ける音だった。
「剣が……!」
まるで時間が止まったかのように、アイズの目が見開かれる。これ以前の戦闘の影響で耐久が限界を迎えたのか、剣はモンスターに触れた瞬間に粉々に砕け散ったのだ。
「アイズっ!」
ティオナが叫ぶその刹那、モンスターの身体がうねり、アイズを捉えようと襲いかかる。それに対してアイズは反射的に回避しようとして後ろへ飛ぶ。
しかし、その途中で何故かアイズは空中で方向を変えモンスターへと向かっていた。
「……くっ……!」
アイズはわざとモンスターの攻撃を受けるように突撃した。
そして次の瞬間、激しい衝撃と共に、アイズの身体が壁に叩きつけられる。
「アイズー!!」
アイズが飛ばされた先の近くにあった屋台から声がする。泣いている声だ。
それは泣きじゃくりながら母親を呼ぶ、あどけない少女。
アイズが咄嗟に気づきモンスター飲ん攻撃の方向をずらして庇った少女だった。
「アイズでもやられるなんて…!」
唇を噛みながらそういうティオネ。
そして意識を失ったレフィーヤを回収し、姉を隣で見守るティオナ。
「くっ…何か…何かないか…」
それを見ていたエルはなにか出来ないかと策を必死に練っていた。
「はっ!」
そしてついに何かが閃いた。
「……2人とも聞いてください!僕に策がああります!」
「えっ?」
「エルくん?」
エルは周囲の様子を一瞬で分析し、モンスターに向かって走りながら2人に声を張り上げた。
「僕から離れてください!!」
「なんか分からないけど、案があるって言うなら…危なくなったら助けに入るからね!ティオナ、下がるわよ!」
「エルくん!無茶しちゃダメだからね!」
ティオネとティオナは後退する。
そして、
「……煉獄炎!」
エルが魔法の詠唱を終えると、掌から紅蓮の炎が解き放たれる。
炎はモンスターたちを包むが――
多少は効いてはいるが大したダメージにはならずさらにモンスター達を怒らせるだけだった。
「…流石に今のままじゃダメか…」
それでもエルは魔法を唱え続ける。
「エル!確かに植物系モンスターには炎が有効だけど、その程度じゃ全然威力が足りない!!」
「そうだよ!やっぱり私達も加勢した方がいいんじゃないの!」
ティオネの言葉に反応しティオナが言うが、
「大丈夫です!!」
エルの声が、ふたりの動きを止める。
「これでいいんです……だから2人とも、今は僕を、信じてください!」
エルのその言葉にティオネが眉をしかめ、ティオナも戸惑いを隠せない。しかし彼の目に宿った決意に、ふたりは息を呑む。
(……魔法で倒す訳じゃなくて、なにか、別に狙いがあるの……?)
エルは続けて煉獄炎を、同じ威力、同じ間隔で撃ち続けた。まるで、自ら囮になるかのように。そしてその炎に惹かれるように、モンスター達の攻撃がエルへと集中していく。
「……ッ!」
その攻撃は凄まじく、エルの身体には次々と傷が増えていく。血が流れ、足元に赤い花が咲く。
そんな中、壁に叩きつけられしばらく動けずにいたアイズが意識を取り戻して、ティオネとティオナの元へたどり着く。
「ごめん、油断した。これはどうなってるの?なんでエル1人で」
「アイズ!無事で良かった」
「実はエルくんが作戦があるって1人で戦ってて…でももうあんなにボロボロに。私達が近ずこうとしてもエルくんは止めるし…もうどうしたらいいかわかんない!!」
「…あのままじゃ、あの子が死んじゃう。」
そしてアイズは続けて「私が行く」と言って飛び出そうとした─ ─だが、その瞬間。
「……!」
彼女は“違和感”に気づいた。
エルの体から放たれるオーラ、その雰囲気が、変わっていた。
七色に光っていたオーラが、さらにその輝きをましてエルの身体を包み込んでいた。
空気が震え、地面が軋む。
「あの子、どうなってるの……!」
ティオネが呟く。
「エルくん、なんか変わってる!?」
そしてエルは満を持してといったふうに、ボロボロの身体を支えながらニヤリと笑う。
「やっと…きた!」
それは、エルに宿るスキルの“真の力”。瀕死の境地に至った者にのみ許される、エルの持つ神器解放というスキルの第2段階。
以前のオッタルとの戦闘で瀕死の時にスキルが強化された状態で発動することをエルは思い出していた。
そしてその状態を再現するためにわざと自分にモンスターの攻撃が集中するように、そして瀕死状態になるまで攻撃を耐えていたのだ。
「…煉獄炎」
エルの掌に、今までとは比べ物にならない規模の炎が宿る。それはまるで、御伽噺で出てくるような本物の煉獄から現れたかのような業火――
「……これで、最後だっ……!」
そして叫びながら、エルは掌に宿ったその炎をモンスター達に向けて解き放った。
巨大な炎の奔流がモンスターたちを飲み込む。ツタは焼き払われ、空気が爆ぜ、地面が抉られ、全てを飲み込んだその魔法の一撃は─ ─
一瞬の内にモンスターを跡形もなく焼き尽くしていた。
残骸は一片さえも残っていない。
「な、なにあれ……まるでリヴェリアの全力の魔法みたい…」
「うっそおおお!? あんな魔法をあんなに短時間で撃てるの!?」
「……あの子、あんなに強かったんだ……」
驚きを隠せないティオネとティオナ。
そしてアイズはエルの本来の力を目の当たりにし、その目には、憧れにも似た光が宿っていた。
─ ─
炎の中心。そこに、膝をついたエルがいた。
その身体は既に限界。傷だらけで、息も絶え絶え。だが、その顔には、微笑みが浮かんでいた。
「ぼ、僕……やったん……だ……」
そう呟いた彼は、そのまま音もなく崩れ落ち、気を失った。
その瞬間、場内に静寂が戻った。その場にいたアイズ達は息を飲み、ただ、エルの姿を見つめていた。
彼の戦いは、確かにその場の全員の心に刻まれたのだった。
やっぱりスキルって偉大ですねぇ
それではまた次回〜