ダンジョンに強すぎる冒険者がいるのは間違っているだろうか 作:マイペースライター
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予想外
ロキファミリアのホームを出てしばらく、エルとアフロディーテはようやく自らのファミリアの本拠地に辿り着いた。
「やっと帰ってきたわよ、私たちの神殿に!」
アフロディーテが片手を腰に当てて堂々と言い放つ。夕暮れの光を受けて彼女の金髪がきらりと輝き、
「…はい!」
エルも素直に応じたが、その脳裏にはふと、さきほど訪れたロキ・ファミリアの荘厳なホームが過った。あちらの方が「神殿」と呼ぶには相応しいのでは……と一瞬思ったが、すぐに頭を振り、その思考を追い払う。
広間へと入ると、アフロディーテが振り返り、にやりと微笑む。
「さて、エル。私がいない間に貴方がどれほど強くなったのか見せてもらおうかしら」
「……え?」
エルが瞬きを繰り返す間に、アフロディーテは一歩、彼に詰め寄った。
「ステイタスを更新するわよ」
「ほ、本当ですかっ!?」
声が自然と弾んだ。アフロディーテが出かける前、願い出たものの断られ、今日までお預けとなっていたステイタス更新。その瞬間が、とうとう訪れたのだ。
「ええ。だから早く部屋に行くわよ」
軽やかな足取りで寝室へ向かうアフロディーテに続き、エルも駆け足で後を追う。
扉を開け、部屋に入ると、アフロディーテは当然のように命じた。
「服を脱いで、そこにうつ伏せになってちょうだい」
「はいっ!」
いつもの儀式。エルはためらうことなく上半身の服を脱ぎ、ベッドにうつ伏せになった。柔らかなベッドの感触が背中に伝わり、やや緊張の混じる鼓動が速まる。
アフロディーテは彼のすぐ横に腰掛け、優美な所作で髪を払いながら、ふと問いを受ける。
「アフロディーテ様。どうして今日は急にステイタスを更新してくれる気になったんですか?」
アフロディーテは微かに目を細めた。
「そうね……さっき言った通り、貴方がどれほど強くなったかを見たかったというのも、本当よ」
そこで一拍。続く言葉には、どこか優しさと決意が込められていた。
「でも……今日の戦いで分かったの。貴方は、これからも何度でも無茶をするわ。だから私は決めたの。貴方には──何者にも傷付けられないほど強くなってもらうって」
「アフロディーテ様……」
ベッドに伏せたままのエルの目に、微かに光が宿る。
「べ、別に貴方が傷付くのが嫌ってわけじゃないのよ!? 貴方は私の唯一の眷属なんだから、勝手に死なれると困るだけ!」
「…はい!僕、もっともっと強くなります!アフロディーテ様が心配しなくても大丈夫なくらいに!」
「だ、だから心配なんてしてないって言ってるでしょ!」
そう言いながら、ぺしぺしと平手でエルの背中を叩くアフロディーテ。
「い、痛い!痛いです!アフロディーテ様!」
「まったく……次に変なこと言ったら、ステイタスの更新してあげないんだから」
「ご、ごめんなさい……!」
「はぁ…じゃあ、やるわよ」
アフロディーテはポーチから小さな儀礼用のナイフを取り出し、自らの指先に軽く切れ目を入れた。赤く輝く一滴の血がゆっくりと垂れ──
ぽたり、とエルの背中に落ちた。
すると即座に、淡い青色の光が広がり、エルの背中に浮かび上がる主神アフロディーテの眷属であるという紋章。それと共にステイタスの文字が煌めくようにして現れた。
「さて、どうなっているかしら」
目を細め、神の力でステイタスの数値を読み取っていくアフロディーテ。だが次第にその眉がぴくりと上がっていく。
「……あなた、本当に規格外ね」
「え、ええと……また僕のステイタスに、おかしいところが?」
「“おかしい部分”ではなくて、“全部おかしい”のよ」
「は、はあ……」
「ステイタスの能力値が上限に到達しているのは、あなたの成長速度を考えれば納得できるわ。でもね……」
言葉を切るアフロディーテ。その表情には驚きすら浮かんでいた。
「まさか──また一週間も経たないうちにランクアップ可能になるなんて、誰が予想できるのよ!」
ベチンッ!
ふたたび背中を叩かれるエル。
「いたぁっ!?」
「まったく……強くなってもらうとは言ったけれど、これはこれで予想外すぎるわ……」
口元を押さえながら、ブツブツと文句を漏らすアフロディーテ。
「はぁ……もう、仕方ないわ。ランクアップさせるしかないじゃない」
「え、えっと……ありがとうございます……」
「次の神会が憂鬱ね……他の神達に何を言われるか……」
「ご、ごめんなさい……」
──
アフロディーテの小言はしばらく続き、ステイタスの更新が終わったのはそれからしばらくあとの事だった。
「ステイタスの更新、終わったわよ」
少し肩の力を抜いた彼女は、そこで微笑を浮かべる。
「まあ、予想外とはいえランクアップは素晴らしいことよ。おめでとう、エル」
その一言に、エルの顔がぱっと明るくなった。
「…ありがとうございます!」
背中を起こし、嬉しそうに胸に手を当てて礼を言うエル。アフロディーテも、それに満足げにうなずく。
「ああ、それと……貴方に新しい魔法が発現していたわ」
「え!!どんなものですか!?」
目を見開き、興奮を抑えきれない様子で身を乗り出すエル。だが、アフロディーテは涼しげに肩をすくめた。
「それは自分で確かめなさい」
と、含みのある笑みを浮かべながら、彼女は脇に置いてあった羊皮紙を手に取り、エルの目の前に差し出す。それは彼の最新のステイタスが記されたもの。アフロディーテが丁寧に書き写した、それこそが“エルの今”を映す鏡だった。
エルは受け取った羊皮紙を震える指で開く。そこに記された一文に、目を見開いた。
「こ、これって…!」
彼の瞳が驚きと歓喜で輝く。その新たな魔法の名、その効果を。
そしてそれは、彼のこれからの冒険を大きく手助けする“力”であることを直感で理解したのだった。
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エル・フィリウス
Lv.2 → 3
«基本アビリティ»
力:M3000 → M2000
耐久:M3000 → M2000
器用:M3000 → M2000
敏捷:M3000 → M2000
魔力:M3000 → M2000
«発展アビリティ»
剣術:M
格闘:M
魔導:M
魔防:M
精癒:M
治癒:M
耐異常:M
【魔法】
«
・無詠唱魔法。
・集中攻撃魔法。
・広範囲攻撃魔法。
«
・無詠唱魔法
・魔力による不可視の鎧を自分または対象とする者に纏わせる。
・鎧の強度は魔法使用者の魔力ステイタスに依存する。
・複数同時発動可能。
・発動後、魔法使用者が解除、または鎧が破壊されない限り効果は持続する。
【スキル】
«
・早熟する。
・昇華緩和。
・限界突破。
・神の恩恵獲得、昇華時、初期能力値に超高補正。
«
・発展アビリティ『剣術』、『格闘』、『魔導』、『魔防』、『精癒』、『治癒』、『耐異常』獲得。各補正値は本人の能力に依存する。
«
・発動時、全能力値を倍にする。
・発動中は常に少量の精神力を消費し続け、精神力が尽きるまで効果は持続する。
・瀕死時、発動、未発動に関わらず強制的に効果を発動し、体力と精神力を僅かに回復させる。
精神力の消費力が増える代わりに能力値の増幅効果を通常発動時のさらに倍にする。
«
・生物以外のあらゆる物を収納可能な異空間を出現させる。収納可能量は本人の魔力ステイタスに依存する。
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「僕、またとんでもない物を手に入れてしまいましたね…」
羊皮紙を見つめたまま、エルがぽつりと呟く。まるで自分が手にしたものの意味を噛みしめるように、目を細めながら。
「全くだわ」
アフロディーテは苦笑を浮かべるが、その声には確かな安堵が滲んでいた。
「でも、間違いなく貴方を護ってくれる魔法ね」
「…そうですね」
エルはアフロディーテの言葉に静かに頷いた。
「それにしても、無詠唱の上、自分にも他人にも使えて、一度発動すれば実質ずっと残るなんて……破格にも程があるわよ」
アフロディーテの口調は呆れにも近いものだったが、その目にはどこか誇らしげな光が宿っていた。
「はい…」
エルはまだ半信半疑のように小さく頷いたが、同時にその力の重みも自覚しはじめていた。
「…あの、アフロディーテ様。これから早速この魔法を試してみようかなぁって……」
言い終わるより早く、彼の額にピシャリとチョップが飛んできた。
「ダメに決まってるでしょう!」
「いったっ!!」
「貴方、今日死にかけたのよ?少しは自覚を持ちなさい!今は、休息を摂ることが最優先よ」
「は、はい…」
さすがに怒られて素直に従うエル。アフロディーテの怒りの奥に、心からの心配があることを理解していた。
「じゃあ、さっさと服を着て。食事にするわよ」
「わ、わかりました!」
エルは慌てて身支度を整え、夕食の準備へと向かう。並べられた料理は質素ながらも、心がほっとする家庭の味。ふたりで食卓を囲むその時間は、神と眷属というより、まるで普通の親子、あるいは姉弟のようで、どこか心地よい温もりに満ちていた。
──
そして、その夜。
エルは眠りの支度を終え、アフロディーテとともに寝室へと戻った。いつものように、一つのベッドに並んで眠る。
それがいつの間にかエルとアフロディーテの自然な習慣になっていた。
そしてエルは久しぶりに己の主神が隣にいることにどこか安心感を抱く。
「おやすみなさい、アフロディーテ様」
布団に入りながら、エルは微笑んで言う。
「ええ、おやすみ。エル」
アフロディーテも静かに応える。そして数分もしないうちに、エルの呼吸は穏やかな眠りのリズムを刻み始めた。
その寝顔を見届けてから、アフロディーテはふうと小さく息を吐き、そっと呟く。
「……
エルが新たに得た魔法。
その名を、彼女は静かに呼んだ。
「これで──大切な貴方が、あまり怪我をしなくて済むわ」
アフロディーテは、寝息を立てるエルの頭に優しく手を乗せた。淡い金色の髪を、そっと撫でる。
「どうか……貴方は、居なくならないでね。エル」
その温もりを確かめるように、彼女はもう一度、エルの髪を撫で、そして静かに目を閉じる。
隣で眠る彼の鼓動に耳を澄ませながら、アフロディーテはそっと眠りにつくのだった。
恐ろしく早いランクアップ…俺でなきゃ…ゲフンゲフン。
いやぁ流石は規格外。早いものですね〜