ダンジョンに強すぎる冒険者がいるのは間違っているだろうか 作:マイペースライター
ダンまちのアプリ、ダンクロが先日とうとうサービス終了しちゃいましたね…主もプレイしてた人なのでちょっと寂しいです。オフライン版が配信されましたがiOS版が何故かログインすらできなくてずっとプレイできずここ数日絶望してます…
っと、それは置いとくとして今回はついにエルの新たな戦場がやってきますよ!
それと後書きの方にはまた面白いものあるのでそちらもぜひ見てもらえると嬉しいです!
それでは続きをどうぞ〜
翌朝。
まだほんのり冷たい空気の中、食卓に並んだ朝食をエルはアフロディーテと二人で囲んでいた。焼き立てのパンの香りと、温かいスープの湯気が部屋に漂う。エルは頬をほころばせながら口に運び、向かいに座るアフロディーテは優雅に食事を進めていた。
そんな和やかな時間を破るように――神殿の外からコンコン、と扉が叩かれる音が響いた。
「……あら、誰かしら?」
アフロディーテが首を傾げる。
「誰でしょう?ちょっと僕が見てきますね」
エルが椅子から立ち上がって扉まで歩いていき開く。そこには見覚えのない人が立っていた。
「エル・フィリウスさんですね。突然で申し訳ありません。ギルドの者ですが…」
「ギルドの…職員さん?」
「はい、実はあなたの件でギルド長がお話を聞きたいらしく……。私と一緒にギルドまで、ご同行いただけませんか?」
「ギルド……今からですか?」
エルは思わず言葉を詰まらせる。胸の奥に小さな不安が広がっていく。
しかし、それ以上に困ったことがあった。今日は椿とダンジョン中層まで探索する約束をしている。刀の性能やエル自身がどこまで戦えるのか確かめるために、朝からバベル前で落ち合うことになっていたのだ。
「ど、どうしよう……椿さんとの約束が……」
小声でつぶやくエルの様子を見て、アフロディーテはすぐに状況を察した。
女神は柔らかく微笑むと、椅子から立ち上がり、職員の方へ視線を向ける。
「私が行ってくるからいいわよ。エルは予定があるんでしょう? それに、あなたのランクアップの申請書もさっき書き終わったところだし、ついでに出してくるわ」
「で、でも…ギルド長は僕に話を聞きたいってことなんじゃ…」
エルは戸惑う。
「エルの能力については主神である私も知っているし説明出来るわ。必ず本人じゃないといけないわけではないのでしょう?」
そう言ってアフロディーテが職員に確認を取ると、職員は頷いた。
「はい、特にご本人でなくても構いません。ご説明いただける方がいれば十分です」
エルの胸から重しが取り除かれたように、安堵の息が漏れる。
「アフロディーテ様、ありがとうございます!」
感謝を込めて頭を下げるエルに、女神は誇らしげに微笑み返した。
「気にしないで。……あなたはあなたのやるべきことをしなさい」
そう言って優雅に身を翻したアフロディーテをエルは見送った。
⸻
朝の街並みを駆け抜け、エルはバベルの塔の前に辿り着いた。巨大な白壁の塔は朝日を反射して眩しく、冒険者たちの行き交う声で一帯は既に活気に満ちている。
塔の麓に立つ大柄な影を見つけ、エルは思わず声を張り上げた。
「椿さん! お待たせしてすみません!」
こちらに気づいた椿は片手を軽く振って応える。
「おお! エル。問題ない、ちょうど今来たところだ」
「そ、そうなんですね!良かった…」
「では、早速行くとするか!」
「は、はい!」
息を整えながら駆け寄ったエルだったが、すぐに椿の背中に目を奪われる。
「そういえば椿さん……今日はいつにも増してすごい荷物ですね」
彼女の背負子に括りつけられた荷物は山のように積まれ、革袋や金属の響きがカチャリと揺れている。
「まぁな。中層へ行くのだからこれくらいの準備は必要だ。薬品や保存食、予備の武具に鍛冶道具まで……二人分だからまだ少ない方だが、大人数での遠征となれば、これの数倍は背負っていくことになる」
「そ、そうなんですね……。それ、結構重くないですか?」
「まあ多少はな」
椿は豪快に笑うと、軽く肩を回して見せた。
「だがまあ大丈夫だ! これくらいの重さ、慣れたものだ」
その言葉にエルは苦笑しつつも、ふとあることを思い出す。
「え、えっと……椿さん。もし良ければ、僕が荷物を持ちましょうか」
「む? そうか? だが、ずっと持たせるのも悪いしな。なら交代で持つことにするか」
「あ、いえ……そうじゃなくて。実は僕、こういう時に使えそうなスキルがあって……」
少し恥ずかしそうに言いながらも、エルは意を決した。
「一度、荷物をもらってもいいですか?」
「ほう……何をするつもりだ?」
興味深そうに目を細め、椿は大荷物を下ろして差し出す。
「ありがとうございます!ではちょっと失礼して…」
エルはその重みを両腕でしっかり受け止める。そして深呼吸を一つし、スキルの名を口にした。
『──
瞬間、空中に淡い光が走り、何もない空間から四角い“箱”のような歪みが現れた。それはまるで水面に石を投げ込んだ時のように揺らぎ、手にしていた荷物を吸い込むように取り込んでいく。数秒後、重荷は影も形もなく消え、ただ透明な空気だけが残った。
「……なっ! これはすごいな!」
椿が目を丸くする。
「お主、異空間収納のスキルを持っているのか!」
「は、はい。容量は限られてるんですけど、これくらいならなんとか」
エルは少し照れ臭そうに笑う。
「空間収納の魔法やスキルを持つ冒険者など滅多にいない。物資を運ぶ負担が減るだけで遠征隊の価値が何倍にも跳ね上がるんだ。持っているだけで重宝されるぞ!」
そう言う椿の声には、素直な感嘆と少しの羨望すら滲んでいた。
「いつか遠征に行く時、一緒に来て欲しいものだな!」
「え、えっと…はい、僕なんかで良ければぜひ」
ここまで褒められる機会もそうないためすごく照れくさくなってしまうエル。だが、表情はどこか誇らしげでもあった。
二人は顔を見合わせ、自然に笑みがこぼれる。
そして軽く頷き合いながら、冒険者たちで賑わう塔の中へと歩みを進めていった。
⸻
それからしばらく、二人は淡々と上層を突破していった。出現するモンスターは、すでにエルにとっては脅威と呼べる存在ではない。新たに得た月虹霧雨を手に、まるで水面を払うかのように斬り伏せ、椿と軽口を交わす余裕すらあるほどだった。
そうして数時間後、二人の足はついに十三階層──中層の入口へと到達する。
「よし、エル。ここからが中層だ」
椿の低い声が響く。
「ここが……」
エルは息を呑み、広がる光景に目を凝らした。
そこは上層までの造りと何も変わっていない。だが、そこは上層までの余裕を忘れさせるように、どこか緊張を誘うように、ダンジョンそのものの空気が変わっていた。
喉が自然と鳴る。初めて踏み込む領域への緊張が、心臓の鼓動を早めた。
「モンスターの強さ自体は上層とそう変わらないが…」
椿は腕を組み、淡々と説明を続ける。
「中層からは“モンスターの生成速度”が一気に跳ね上がる。そして、群れをなすモンスターが多数出てくる」
「群れ……」
エルはごくりと唾を飲む。頭の中で、何体ものモンスターに取り囲まれる自分の姿を想像してしまい、背筋に冷たいものが走った。
「一体一体は恐れるに足らん。だが数が重なれば、話は別だ。あまり気を抜くと怪我をするかもしれぬから注意するのだぞ!」
「は、はい!」
緊張で声が少し上ずった。それでもエルは胸の内で気合を入れ直す。
──今の自分には、月虹霧雨がある。
そして何より、自分を信じてここまで連れてきてくれる椿が隣にいる。
エルは刀の柄に手を置き、まだ見ぬ戦場に足を踏み入れる覚悟を決めた。
⸻
十三階層。
空気が湿り気を帯び、石壁の奥から響く不気味な鳴き声が一行を出迎えた。
「椿さん、あれって…」
「中層で最もよく出会うモンスター、アルミラージだ。奴らは群れで襲ってくることが多いから注意しろ」
椿の声に、エルはごくりと唾を飲み込む。
初めての中層でのモンスターとの遭遇に胸がざわつく中、視界の先のアルミラージが跳ね、こちらに近ずいて来る。
長い耳、赤い瞳、手には不釣り合いなほど大きな斧――。
初めてこのモンスターと遭遇する冒険者は皆恐怖を覚えるはずだ。
だがエルは何故か恐怖よりも疑問を持つ。
「……あれ?」
エルは眉をひそめる。
(初めて見るはずなのに……どこか見覚えがある……なんかベルに、似てる……?)
思考の沼に片足を踏み入れた瞬間――
「エル! 後ろだっ!」
椿の叫び。
反射的に振り返るより早く、斧の一閃が迫る。
鈍い衝撃音。
エルの身体がわずかに揺れる――が、その肌には傷ひとつつかなかった。
「っ……!」
驚くアルミラージを前に、エルの瞳がぎらりと光る。
「せああああっ!!」
月虹霧雨が抜かれ、銀光が奔る。
斧を構える暇もなく、アルミラージの喉元を貫く。
返す刀で背後の一体の角を叩き折り、さらに回転しながら続けて現れたアルミラージの群れの中心へ切り込む。
赤い目が次々とエルを取り囲む。
数、十を超える。だがエルは一歩も退かない。
突進してくる一匹の足を斬り裂き、その体を盾のように押し出す。
別の一匹の斧がその死体に食い込み、動きが止まった隙に頸動脈を斬り飛ばす。
「はっ!」
踏み込み、回避、斬撃。
一歩ごとに血飛沫が散り、アルミラージの群れは次々と霧散していく。
数分後――残骸と魔石だけが転がる静寂の中、周りのアルミラージを殲滅し終えた椿が駆け寄った。
「エル! 無事か! すまん、お主なら大丈夫だろうと油断しておった」
「だ、大丈夫です! こちらこそすみません……。ちょっと考え事してて反応が遅れました」
エルは息を整えながら頭を下げる。
椿は安堵の息を吐くが、すぐに首をかしげた。
「しかし……お主は確かにアルミラージの攻撃を受けていたはずだ。よく無傷で済んだな?」
エルは苦笑し、左手を胸に当てた。
「実は……」
彼の周囲に、淡い光が一瞬きらめく。
«
不可視の鎧――魔力で構成された守護が、身体を包み込んでいた。
「これは僕の魔法なんですけど…発動すれば鎧のように一定の攻撃を防いでくれるんです。もちろん無敵じゃないし、この魔法の耐久力を超える強力な一撃を受けたら破壊されるので、油断は禁物ですけど…」
説明を聞いた椿は一瞬目を丸くし――そして肩をすくめて苦笑した。
「……やはり規格外だな、お主」