Fate/SamuraiRemnant異聞 伊×槍決闘譚   作:葛轍偲刳

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原作ゲームでも伊織がセイバーの過去を知り、一対一で向き合うこの場面は中盤のターニングポイントであり、ここから一気に後半の怒涛の展開に繋がっていくわけですが。
本作においても、この場面だけは投稿するよりも前からイメージしていた大事な場面です。
投稿開始から約二か月、ようやくここまで来れた、という気分です。


断章:呪いの魔槍
壱:友殺し


 それは、血を吐くような悲痛な声だった。

 悲嘆と慟哭と、自責と悔恨に満ちた声だった。

 それは、今まさに彼の腕の中で死に瀕している者よりも、更に激しい痛みを感じているようにさえ思えるほどに。

 

「何故だ…!?」

 

 川の浅瀬に、血の赤が広がっていく。腕の中で、かけがえのない命が失われていく。大切な、友の命が。

 

「何故だ…何故だ、兄弟…!」

 

 少年時代からの、無二の親友だった。

 兄弟のいないオレにとって、良い兄貴分だった。

 神の血を引く自分ですら何度も死にかけるほどに厳しい師の下で共に学んだ。長く苦楽を共にした。

 泣きたいほどに苦しい時は肩を叩いて励ましてくれた。夜を徹して共に酒を酌み交わした。酔い潰れた翌日には師に見つかって折檻を喰らった。死ぬかと思うほどに辛かったが、自分一人ではなかったから耐えられた。

 

 何より、幼い頃から負け知らずで、敵う者など誰もいないとさえ思っていたオレの前に、初めて現れてくれた対等の相手だった。

 

「何故、出てきた…!」

 

 だから、友の剣が敵に奪われたと聞けば自分が代わりに奪い返した。友に無礼を働いたヤツが許せなかったから、自分が代わりにそいつを殺した。

 大切な友だった。大切な兄だった。死んで欲しくなどなかった。戦いたくなどなかった。ましてや、殺したくなど――無かった。

 

「…へっ、決まってるだろうが。てめえが、妬ましかったんだよ」

「な…」

「俺様よりも年下のくせに、俺様より強い。俺様よりも年下の分際で、俺様よりも何でも出来た。剣も、槍も、石投げも、戦車の扱いも、ルーンも、何もかもだ。ずっと、…ずっと前から、気に食わなかった」

 

 血を吐いて真っ赤に染まった口が、ゆっくりと動いて言の葉を紡ぐ。

 

「挙げ句、…その挙げ句、てめえだけが、この槍を師から授けられた。必ず敵を殺す、呪いの魔槍…ああ、それで、なんで俺様が羨まずにいられると思ったんだ」

 

 違う。

 違う、違う、違う!

 こうなったのは、全てあの女のせいだ。あの女が謀を巡らして、こうなるように仕向けた。

 互いの面子にかけて、どうあっても引っ込みがつかなくなるように、どうあっても殺し合わずにはいられないように、互いの誇りと名誉にかけて、戦わずにはいられなくなるように――!

 

「…馬鹿野郎」

 

 傷だらけの大きな手が、無骨に頬を撫でる。それで初めて、自分の頬が涙で滂沱と濡れていることに気付く。

 どう言い訳をしようが、結局のところ罠に嵌められた自分の間抜けさ加減を思い知らされるだけだった。

 だから、その代わりに目の前の友が今の状況に至った責任を全部背負い込んだ。オレたちは奸計に嵌められて戦ったわけではなく。ただ年下の英雄に嫉妬した俺様が、昔の友誼を忘れて決闘に及んだだけなのだ、と。

 

「戦士が泣くな。全く、ガキの時分から手のかかるヤツだったな、てめえは」

「どの口で…言いやがる。いつも、いつもいつも、なんだかんだと用を言いつけてきやがったくせに…」

 

 二人で酔い潰れるまで酒を飲んだ翌日に、師匠に見つかって折檻された時もそうだった。年上の俺様がオレに無理やり飲ませただけだと言い張った。

 昔っから、初めて会った時からコイツはずっとそうだった。

 普段は年上ぶって、ああしろこうしろと小間使いみてえにオレのことを好き勝手に使い立てするくせに、肝心な時になると年下のオレを庇って、何もかも全部が全部、俺様のせいだと勝手に言い張って。オレの気持ちなんか考えもしねえで。自分勝手に――

 

「いいか、てめえは俺様に勝ったんだ。だから。俺様以外のヤツに倒されるなんて許さねえぞ」

「…やめろよ。まだ逝くな…オレに断りもなく勝手に死ぬな、兄弟…!」

「てめえは、いつまでも最強のままで、…死ぬまで、不敗のままでいろ。それが、俺様に勝った、てめえの義務だ。いいな?」

 

 そう言って。

 昔のように、まだ小さかった頃のオレの頭を撫でてくれた時のように、優しかった兄貴分は満面の笑みを浮かべて。

 頬に触れていた大きな手が、ゆっくりと水面に落ちて、そして跳ねる。

 

 浅瀬に波紋が一つ広がって、そして消える。

 力を失った大きな体を抱き締めて。

 他ならぬ自分自身の手で、その命を奪ってしまった無二の親友の亡骸を抱き締めて。

 

 声すらも出せずに嘆き悲しむ英雄の背中を、――…伊織は見ていた。ただ、見ていた。見ていることしか、出来なかった。

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