Fate/SamuraiRemnant異聞 伊×槍決闘譚 作:葛轍偲刳
寛永寺
寛永2(1625)年、江戸城の鬼門にあたる上野の台地に建立された徳川家の氏寺。開祖たる慈眼大師(じげんだいし)天海(てんかい)大僧正は神君家康公の信頼も厚く、二代将軍秀忠、三代将軍家光公にも帰依を受けて公私にわたり様々な助言をし、江戸の町並みを整えたとも言われる。
「…これで手駒は揃った」
土御門泰広は傍らに侍るキャスターに、悠然と言い放ってみせた。
神田から同行させてきた逸れのアサシン、アーチャー、ライダーに加え、再び吉原から呼び出して駆け付けさせた巨人、バーサーカー。そしてドロテア・コイエットから離反させたアサシン。
土御門と契約を結んだ正規のサーヴァントであるキャスターも加えれば、合計六騎。各々が一騎当千、万夫不当の英霊達が一堂に会し、かつ一人のマスターの前に傅いている光景は確かに壮観ではあった。
「しかし、聖杯戦争。斯様に容易なるものか」
七騎の英霊。七人の魔術師が鎬を削る魔術儀式。最後の一組になるまで殺し合う生存競争。それが本来の聖杯戦争である。この時点で言えば、まだ確定していない遥か未来の事象ではあるが。
もし、これが通常の聖杯戦争であるならば、六騎のサーヴァントを従えた時点で事実上の勝利は確定したようなものではある。一体いかなる英霊が、6対1の状況で勝ち目を見出せようか。一体どのような手段で、その必敗必死の戦局を引っ繰り返せようか。この世に存在するありとあらゆる英霊に有効な攻撃手段でも持ち合わせているというのならばともかく――。
「サーヴァント六騎が、盈月の軛(くびき)を逃れたは慮外であったが――フン、趨勢(すうせい)は決したとも」
宮本伊織のランサー、由井正雪のライダー、高尾太夫のバーサーカー。
そして増上寺の逸れのランサー、等々力不動尊の逸れのセイバー、小石川伝通院の逸れのキャスター。
数だけで言えば土御門と互角ではある。
「後は、抗う者どもを一掃するまで」
「…まだ七騎が残っている。集ってこちらに襲い来れば、勝敗は覆るぞ」
まだ勝ちの目が確定したわけではないと、冷静にキャスターが指摘する。確かに、地右衛門のセイバーも含めれば計七騎のサーヴァントが土御門と今なお敵対する可能性があることになる。
「で、あろうな。おまえの記録を頼らずとも、解り切ったこと」
今は協力しているとはいえ、地右衛門が本気で土御門の勝利に貢献しようと思っているわけではないのは最初から承知している。
「しかし、案ずる必要はない。先々の策も無しに、手駒を集めるものか」
元より高尾太夫は儀の始まりから土御門と通じている。勝ち目が五分以下であるならば、この期に及んで裏切りはすまい。
そして逸れのサーヴァントは強制と支配の術式で操りでもしなければ、紐付けられた霊地から長くは離れられないのは言うまでもない。まして、地右衛門が宮本伊織を敵視しているのは傍目から見ていても明らかである。つまり、残りの六騎が対土御門で結集し統一した戦線を張るのは事実上不可能に近いのだ。
「…まあ、勝手にするといい。僕は僕の好きにさせてもらう」
キャスターは冷ややかに言い捨てて姿を消した。残された土御門は顎に手を当てて僅かに思案する。契約したキャスターとて全幅の信頼を置けるほどの味方とは呼べないが、敵対することもなく傍観に徹しているならばそれで十分だ。そもそもキャスターは正面切っての戦いには向いていない。だからこそ、戦力としての手駒を別に用意するために逸れのサーヴァントを操っているのだから。
「――さて。此度の儀、マスターに傅く七つの魂のみでは足りぬ。最後に訪れし尊き魂を以てこそ、盈月は完成する…」
そう低く呟く土御門の声を、霊体化したキャスターは抜かりなく聞き取っていた。