SAOの万能者   作:篠白 春夏秋冬

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ソードアート・オンラインのサービス開始に合わせて投稿しようと思っていたものです

せっかくなので、クリアと同時に投稿しようと思いました


メリーバッドエンドプロローグ

《Sword Art Online》

 

 フルダイブVR機器【ナーヴギア】用のソフトとして発売されたMMORPGのタイトルで、SAOの略称で知られている。

 

 アーガスにより開発運営されるそのゲームは、販売数が一万本に限定されており、抽選販売となったことで、入手できたものはかなりの幸運の持ち主とされていた。

 

 そんなレアタイトルを入手できた少年の家に一人の少年が訪れていた。

 

 訪問者はやや細身で黒髪の短髪。ともすれば女性にも見えそうな容貌は機嫌が良さそうに見えた。

 

「じゃぁ、ありがたく借りていくよ」

 

「ああ、しかし、口惜しいな。リリース初日に強化合宿が入るとは思わなかった。くれぐれもネタバレしないでくれよ?」

 

「もちろん。ちゃんとパーソナルデータも消去して返すさ。姉さんがログインするのは最初の数日だけだもの」

 

 二人の少年の間にはナーヴギアが置かれており、この家の住人である少年から訪ねてきていた少年へと手渡されたところだった。

 

「相変わらずのシスコンだな」

 

「姉さんに変な虫がついたら困るからな」

 

 ナーヴギアを貸した少年が苦笑交じりのセリフに当然といったふうに返すと時計に目をやると立ち上がった。

 

「っと、そろそろ出発に間に合わなくなるんじゃない?」

 

「そうだな。じゃぁまた来週に」

 

 そんな会話を最後にナーヴギアを受け取った少年が帰宅する。

 

 これが悲劇の始まりになるとは誰も気がついていなかった。

 

 

 

 少年が帰宅すると部屋に戻り、ナーヴギアをコンセントに繋ぎ、LANケーブルを突き刺す。その後用を足すと部屋に戻る際に母と遭遇した。

 

「随分とラフな格好ね? 今日はもう休むの?」

 

「今日は新しいゲームのリリース日でさ、兄さんのナーヴギアで姉さんがログインするみたいだから、偶然ログインできなくなったともだちのを借りてきたんだ」

 

「あまり遅くならないようにね」

 

「もちろん。姉さんもそんなに深入りはしないだろうしね」

 

「ならいいわ。好きにしなさい」

 

 母の言葉に頷き、部屋へと戻るとナーヴギアを被り、視界の角に表示された時刻を確認する。

 

 時刻が13:00を指した瞬間、全国の約一万人が異口同音に唱えたのだった。

 

「リンク・スタート!」

 

 

 

 初期設定を終え、ログインを完了すると、フィールドへと降り立っていた。周囲では次々にプレイヤーがログインをしており、青い光とともに増えていった。

 

 少年の視界の隅で背の高い青年が笑顔で駆け出していき、それを見た青年が慌てて追いかけていく。そんな光景を尻目に、集合場所に決めた街の正門へと向かっていくのだった。

 

 目的の場所につくとすでに目的の少女が立っていた。周囲にも何人か待ち合わせらしきプレイヤーがいるが、少年は迷うことなくその少女に歩いていく。

 

「姉さん、おまたせ」

 

「えっ?」

 

「あぁ、そっか。アバターだとわかんないよね。僕だよ、恭真。こっちでは「ユーマ」って呼んでね」

 

「なんだ。誰かと思った。名前って変えるものなの?」

 

「まぁ、慣習みたいなものだよ。そんなに気にしなくてもいいんじゃない? ログインも数日だけだし」

 

 ユーマの言葉にそれもそうかと納得し、少女はそれ以上考えるのをやめ、連れ立って移動していく。

 

 道中で何組かのパーティーに誘われたが、ナーヴギアが借り物であることを理由に申し出を断り、フィールドへとたどり着いた。

 

 周囲では同じようにフィールドにでてきた者たちが青いイノシシ型のエネミーに武器を振っており、探り探りゲームを楽しんでいた。

 

 そんなプレイヤーの中に紛れ、ゆったりと楽しみ、時刻が17:00を指した頃、突如としてすべてのプレイヤーが最初に出現した広場へと移された。

 

 周囲のプレイヤーがざわつく中、ユーマたちはリリース日のセレモニーか何かとだと受け止め、のんきにしていたが、それが地獄の始まりだとは考えていなかったのである。

 

 

 

 最初はのほほんとしていたユーマだったが、ざわめきの一部が怒りを伴うものだったことに気づき、言葉の意味を拾うために耳をそばだてる。

 

 突然の転移に戸惑う声の中に、「これでログアウトできるのか?」という言葉が混じっていることを知り、目を見開くと、震える手でメインウィンドウを開く。

 

 事前に調べた情報では、ウィンドウの左側に現れるメニュータブの一番下にログアウト用のボタンがあるはずなのだが、その場所は空白であり、まるでその部分が切り取られたかのように消失していた。

 

「どうかしたの? 大丈夫?」

 

 目の前が暗くなるように感じていたユーマだったが、隣に立つ姉の声に現実ヘ引き戻される。普段なら、心配かけまいと平常通りを演じるユーマだが、ログアウトが出来ないという事実はその余裕を奪い去っていた。

 

「あ、えっと」

 

「あっ……上を見ろ!」

 

 現在起きている事態をどのように説明しようかと迷うユーマだったが、誰かの声で反射的に上を見る。

 

 そこには空ではなく、第二層の底が広がっているのだが、それが赤いフォントの「Warning」と「System Announcement」によって覆われていく。

 

 異様な雰囲気であったものの、何かしらの説明が行われるのだと、へばりつくような不安感から目をそらしつつ息をつくと、空に広がる文字たちに変化がおきた。

 

 中心部から文字と同色の粘度の高そうな雫がドロリと垂れ、しかしてそれは地まで落ちることはなく空中で姿を変えていく。

 

 赤い雫が姿を変え、巨大なローブへと姿を変える。

 

 ローブの中に身体はなく、手を示す白手袋が袖口に浮かぶのみ。

 

 友好さを全く感じさせない不気味な姿にユーマがない唾を飲み込むと、ローブが喋り始めた。

 

『プレイヤーの諸君、私の世界ヘようこそ。私の名は茅場晶彦。今やこの世界をコントロールできる唯一の人物だ』

 

 茅場晶彦。それは数年前まで弱小ゲーム会社の一つでしかなかったアーガスを、最大手へと押し上げた天才ゲームデザイナーにして、量子物理学者。

 

 SAOにおける中核人物の名を語るローブの言葉の真意を図ろうとするプレイヤーに、茅場は続けて語りかける。

 

『プレイヤー諸君は既に、メインメニューからログアウトボタンが消失していることに気づいていると思う。しかしこれは不具合ではない。繰り返す、これは不具合ではなく、《ソードアート・オンライン》本来の仕様である』

 

 その声にユーマの不安感から目を背けられなくなる。この後に続く言葉をなんとなく察することが出来たからだ。

 

『諸君は今後、この城の頂を極めるまで、ゲームから自発的にログアウトすることは出来ない』

 

『……また、外部の人間の手による、ナーヴギアの停止、あるいは解除もありえない。もしそれが試みられた場合……ナーヴギアの信号素子が発する高出力マイクロウェーブが諸君らの脳を破壊し、生命活動を停止させる』

 

 誰もが、茅場の言葉を受け止められず、思考を停止する。

 

 本当にそんな事が実行可能なのか訝しむ者もいたが、別のプレイヤーから原理的には実行可能であること、そしてナーヴギアにはその環境が整っていることが告げられ、それを聞いた周囲のプレイヤーがざわめき始める。

 

 そして、それを諌めるように茅場から補足が入った。

 

『より具体的には、十分間の外部電源切断、二時間のネットワーク回線の切断、ナーヴギア本体のロック解除または分解または破壊の試み、以上の条件によって脳破壊シークエンスが実行される。この条件は、既に外部世界では当局及びマスコミを通して告知されている。ちなみに現時点で、プレイヤーの家族友人等が警告を無視してナーヴギアの強制除装を試みた例が少なからずあり、その結果、残念ながら既に二百十三名のプレイヤーが、アインクラッド及び現実世界から永久退場している』

 

 どこかで小さく悲鳴があがる。大多数のプレイヤーがあっけにとられたような表情をする中、ユーマは空中のローブを睨んでいた。

 

『諸君が、向こう側に置いてきた肉体の心配をする必要はない。現在、あらゆるテレビ、ラジオ、ネットメディアはこの状況を、多数の死者がでたことも含め、繰り返し報道している。諸君のナーヴギアが強引に除装される危険は既に低くなっていると言ってよかろう。今後、諸君らの肉体はナーヴギアを装着したまま、二時間の回線切断猶予時間の間に、病院その他の施設へと搬送され、厳重な介護体制のもとへ置かれるはずだ。諸君には、安心して……ゲーム攻略に励んで欲しい』

 

 これを聞いてユーマは「この城の頂を極めるまで、ゲームから自発的にログアウトすることは出来ない」という言葉の意味を理解する。

 

 近くで若い男の声で何事か喚く声が聞こえたが、無視して方針を組み始める。

 

『しかし、充分に留意してもらいたい。諸君にとって《ソードアート・オンライン》は既にただのゲームではない。もう一つの現実というべき存在だ。……今後、ゲームにおいてあらゆる蘇生手段は機能しない。ヒットポイントがゼロになった瞬間、諸君のアバターは永久に消滅し、同時に、諸君らの脳は、ナーヴギアによって破壊される』

 

 茅場の言葉はユーマを思考の海から引きずり出すには十分過ぎた。RPGにおける定石の一つであるゲームオーバー込みのトライアンドエラーが出来ないということだからだ。

 

 ユーマが眉を顰め、どう修正したものかと考えていると、さらなる託宣が降りかかる。

 

『諸君がこのゲームから開放される条件はたった一つ。先に述べた通り、アインクラッド最上部、第百層まで辿り着き、そこに待つ最終ボスを倒してゲームをクリアすればいい。その瞬間、生き残ったプレイヤー全員の安全なログアウトを約束しよう』

 

 それを聞き、プレイヤーの何人かが声を上げる。

 

 彼らの話を総合すると、βテスト時代ではコンティニュー可能な状態で二ヶ月程の時間を開けて第六層が最前線だったらしい。

 

 現実感のない言葉にプレイヤーの大多数が、茅場の言葉が事実なのか、単なる過剰な演出なのか図りかねている中、茅場が右手をひらりと動かし、続ける。

 

『それでは、最後に、この世界が諸君にとって唯一の現実であるという証拠を見せよう。諸君のアイテムストレージに、私からのプレゼントを用意してある。確認してくれ給え』

 

 その言葉を聞き、ほぼ全員が右手の指二本を揃え、下に振る。

 

 電子的な鈴の音が鳴り響き、相変わらずログアウトボタンの欠けたメインメニューが現れる。

 

 アイテム欄のタブを叩くと、これまでの短いプレイで入手したアイテムを押しのけ、一番上に新たなアイテムが表示されていた。

 

《手鏡》という名前がつけられたアイテムをオブジェクト化させ、皆一様にそれを覗き込む。それぞれが作り込んだ自慢のアバターの顔を改めて写しているだけの、何の変哲もない鏡に、何の意味がと首をひねる中、プレイヤーたちのアバターが光に包まれた。

 

 発光自体はほんの二、三秒で収まり、思わず閉じた目を開くと、目を閉じる前と同じ光景が―広がっていなかった。

 

 建物や石畳、空に浮かぶ赤いローブは変わらない。

 

 それ以外、プレイヤーのアバターだけが様変わりしていた。

 

 ファンタジー世界特有の整った容貌の者が多かった広場だったが、さながらゲームショウの客を適当にかき集め、そのまま鎧兜をかぶせたような状態へと変わる。

 

 あまつさえ男女比すらも変わっており、一部のプレイヤーはチグハグな格好になっている。

 

 ユーマの容姿もログイン前に洗面台で確認した黒髪に短髪の中性的なものに戻っていた。

 

 元々数日のプレイの予定であり、容貌などにもこだわり無く身長にもさほどの変化のなかったユーマとその姉はアバターの変化という状況ではなく、それを可能とした理由へ考えを移していた。

 

「どうやっているのかしら」

 

「容姿に関してはヘッドギアだからこそのスキャン。体型は、初期設定のキャリブレーションかな。ログイン後に使用するアバターの作成前に行うのに違和感はあったけど、今、この状況のためだったんだろうね」

 

 声音こそ冷静だが、両者とも冷静とは程遠い精神状況である。思考に意識を咲いているのは一種の現実逃避であり、表情は困惑一色である。

 

 困惑に彩られるプレイヤー達の疑問に答えるかのように、再び茅場が話し出す。

 

『諸君は今、なぜ、と思っているだろう。なぜ私は―SAO及びナーヴギア制作者の茅場晶彦はこんなことをしたのか? これは大規模テロなのか? あるいは身代金目的の集団誘拐事件なのか? と。私の目的は、そのどちらでもない。それどころか、今の私は、すでに一切の目的も、理由も持たない。なぜなら……この状況こそが、私にとっての最終的な目的だからだ。この世界を創り出し、鑑賞するためにのみ私はナーヴギアを、SAOを造った。そして今、全ては達成せしめられた……以上で、《ソードアート・オンライン》正式サービスのチュートリアルを終了する。諸君の健闘を祈る』

 

 話を終えると、フードは頭から空中に浮かび続けていたシステムメッセージへと沈んでいく。

 

 すべてが空中へ溶け込むと、一つの波紋を残してメッセージと共に消え、僅かな静寂の後、BGMがなり始めた。

 

 その音を契機として、プレイヤーの叫びが広場を満たした。

 

 現実だと認められない者、茅場の消えた空へ怒りを向ける者、悲鳴とともに懇願する者、様々に負の感情を吐き出す者たちから離れるように姉弟は路地へと入る。

 

 いくつかの建物を挟んで叫びが聞こえづらくなると、立ち止まり、相談を始めた。

 

「統一模試って何日後だっけ?」

 

「十三日後だね。それまでに救助が来るって希望を持つのは無駄だろうね」

 

「お母さん、怒るかなぁ……」

 

「流石に心配が勝つでしょ。サボってるわけでもないんだし、真剣に取り組んでいた事を知れば、怒ることもないと思うけど」

 

「そうね、後のことは出てから考えましょ。それで、どうすればいいと思う?」

 

「数日は待機かな。理由は二つ。事故の回避と情報収集。まず事故の回避。これから始まるであろう病院その他の施設への搬送の間、無防備になったアバターが破壊される可能性があるってこと。回線が切断された瞬間にアバターが保護される可能性もあるけど、危険は回避しておきたい」

 

 ユーマの言葉に姉も頷き、続きを促す。

 

 その表情に冷静さが戻ってきているのをみて、ユーマも安堵しながら口を開いた。

 

「次に情報収集。多分、すでにいくらかのプレイヤーは動き出してると思う。大半はベータテスターで、生き残るために自己強化に腐心する連中だと思う。でも、この異常事態で動けなくなってるベータテスターもいるはず。そういった人たちに情報を教えてもらって安全を確保する。パーティが組めれば一番いいけど、少なくとも協力体勢を作りたいかな」

 

 ユーマの言葉に姉も頷くと、ひとまずの宿を求めて移動を開始する。節約のため二人で一部屋取り、昼間は情報を求めて動き、夜に部屋へ戻る生活を続ける。

 

 そうして数日。

 

 すでに一時の切断と再接続を終え、戦闘になれるために街の外での活動を終えて、宿に戻ろうとした時、後ろから声がかけられた。

 

「やぁやぁ、君たちダロ? 情報を欲しがってるカップルってのは?」

 

「カップルじゃないけど、情報を欲しがってるっていうのは合ってるよ。情報屋さん」

 

「ニャハハ、これは失敬。とりあえず、どこかでまったりと話そうじゃないカ」

 

 ユーマたちに声をかけてきたのはヒゲのペイントを施した小柄な女性だった。

 

 彼女の案内に従い、プレイヤーの見当たらない喫茶店に入ると、まずユーマが口を開いた。

 

「そうだね。まずは自己紹介といこうか。僕はユーマ。で、この人は僕の姉」

 

「オレっちはアルゴだ。よろしくナ。それデ? 情報屋を探してたってことは何か情報が欲しいんダロ? オネーサンが教えてあげようじゃないカ」

 

 ウインクとともに笑うアルゴに頷くと、ユーマが居住まいを正す。

 

「端的に言うと、僕が欲しいのはベータテストの情報。アルゴさんが持ってるもの全てだ」

 

 ユーマの要求にアルゴが絶句する。しばらく時間を開けて再起動すると、口を開いた。

 

「全部だって? ずいぶんな要求だナ。情報屋にとって情報は生命に等しい。それを全部、ついさっきあったばかりの相手に差し出せだなんて、そんなものが通ると思っているのカ?」

 

「勿論、信頼もない状況でそれほどの情報を買えるとは思っていない。だから、等価交換だ。報酬はこの僕()通貨(コル)もアイテムもライフの一ドットでもそちらが求める全てを支払おう。情報を集める以上、手札は多い方が良い。ベータテストとの差異を確かめるための試金石にするもよし、信用できそうなら動かずとも情報を入手できるようになる……どうかな?」

 

「目的は?」

 

「一刻も早いゲームクリア。そのためには最初が肝心だ。この第一層でどれだけこのゲームについての情報を理解しているプレイヤーを増やせるか。今後前線へと上がっていく人を増やしたいなら、種は蒔いておかないといけない。だから、今、何もわからないままに動く者たちを減らすために、より多くの情報と、それを発信するノウハウを持っている人との繋がりが欲しいのさ」

 

 訝しむアルゴに対し、ユーマは飄々とした様子で告げる。

 

「救助が来るとは考えないの?」

 

「あり得ないとは言わないけど、可能性は低いと考えているよ。茅場晶彦は「目的も、理由も持たない」と言った。なら、開放される手段が完全制覇のみというのが真実なんだと思う。そもそも、HP全損=ログアウトなら、新しくログインしてそれを広めればいい。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 ユーマの言葉にアルゴは僅かに目を見開くと息をはいて顔を伏せると、黙り込む。

 

 しばらく時間を置いて、再び口を開いた。

 

「つまり、こういうことカ? 「オレっちの指示で動いて情報を入手してくる代わりに自分が死ににくいようにサポートしろ」」

 

「まぁ、その考えで構わないよ。そろそろスタートダッシュを決めようとしたベータテスターたちも、ある程度自分たちの強化が済んで、それ以外のプレイヤーが同じルートをたどる事ができるようになると思う。その第一陣として、情報提供を拒んだベータテスターの隠している情報をすくい上げて、一般プレイヤーに流す。どうかな?」

 

「そもそも、なんで私をベータテスターだと思っているの? そんな確証を持てる要素なんて、一つもないでしょ?」

 

「まだ正式サービスが始まって1週間と経っていないのに情報屋なんてことを始めるなんて、経験者しかいないでしょ?」

 

「単純に他のMMORPG経験者で情報の価値を重視しているだけかもよ?」

 

「だとすれば、この段階で情報を売ろうとする訳が無い。品質の保証(確証)のない商品(情報)を売れば、先がなくなるのは目に見えている。だからこそ売れるのはすでに確認の取れた始まりの街周辺の情報だけ。僕達に声をかけたのも、ビギナーならその程度の情報があれば死ににくくなるからってところかな」

 

「君たちを騙そうとしているだけかもよ?」

 

「詐害行為を働こうとしている人がわざわざそんなこと聞かないでしょ? 後は、「勘」かな」

 

「は?」

 

「僕自身が人の悪意に敏感だという自負はあるけど、()()と話してみて、信じてみたいと思っただけ。僕から言えるのはこれくらいかな。それで、返答は?」

 

「ハァ……マッいっか。人手がほしいのは確かだしナ」

 

「なら」

 

「最初は小間使いからダ。情報がほしかったら信用を勝ち取って見せるんだナ」

 

「わかった。宜しく、アルゴ」

 

 アルゴから差し出された手をユーマは迷いなく取り、契約は成立した。

 

「シカシ、数少ない女性プレイヤーが三人も集まるのはなかなか大変そうダナ」

 

「僕は男だけど?」

 

「へ?」

 

 油断を誘うため女性らしい雰囲気を作っていたユーマの性別を誤解しており、てっきり二人を百合カップルと考えていたアルゴは間の抜けた声をあげて姉に視線を送る。

 

 姉が頷いたことでアルゴが叫ぶが、さほど多くのプレイヤーには届かなかった。

 

 契約の成立から数日後、始まりの街の様々な店をはじめ、各地の宿屋に「攻略本」が置かれることになる。

 

 アルゴの二つ名である「鼠」の名を冠した「攻略本」を元に、ビギナー達は街の外へと意識を移していく。

 

 

 

 そうして、あっという間に一ヶ月が過ぎていった。

 

 

 

 犠牲者は凡そ二千人。

 

 

 

 第一層のクリアは未だされていない。

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