しかし、先の投稿はしたいので一旦投稿します。
その内書き直すかもしれません。
季節は流れ、八月。
聖竜連合本部にて、情報屋が一堂に会していた。
「では、口上も紹介もしている場合ではないので、早速始めたいと思います」
音頭を取ったのはユーマ。
血盟騎士団所属のユーマが音頭を取るのはおかしいのだが、それ以上に情報屋が集まっているのが問題ではある。
というのも基本的に情報屋は一箇所に固まらない。
彼らは自分たちの重要性を理解している。
情報を手早くまとめ、それをいち早く共有できる状態にする事により攻略組のみならず中層域などの狩りに出るプレイヤーの生存率を底上げしている。
一部の例外を除き前線で戦い続けることができるほどの力はもたないが、攻略を支えているという自負があるのだ。
故に襲撃を受けて総崩れになることを防ぐため情報交換で直接会う場合も短時間で済ませるなど一箇所に固まることを避けていた。
しかし、今回はそんな事を言っている場合ではなかったのだ。
きっかけは数日前。
情報屋を生業としているプレイヤーに一斉にメッセージが送られた。メッセージの送り主に心当たりのあるものは少なかった。
肝心の内容は救援依頼。レッドプレイヤーに脅され協力させられているというグリーンプレイヤーからアジトをの位置情報が送られてきたのだった。
そのレッドこそ《
圏内殺人事件にて遭遇したPoH率いる殺人ギルドである。
殺害もその他の犯罪もSAOの仕様の範囲内―であればそれを楽しまないのはおかしいという理念のもと様々な犯罪に手を染める集団となっている。
その実力は攻略組にも匹敵する者も存在し、名実ともに恐怖の象徴となっている。
安全と攻略のためラフコフを排除したいと考えているプレイヤーは多く、しかしそのねぐらを把握することはできないでいた。
そんな中もたらされた情報に真偽の判定も含めて危険を承知で情報屋が集合したのである。
危険であるが故に攻略組として最も信用と実力があるユーマが進行をしていくが、その表情が普段より険しいものであることにはアルゴ以外気づくことはなかった。
会議も終わり、ユーマは血盟騎士団本部へと帰還した。
以前と違い幹部として認められたことで廊下を歩く間にも挨拶をしてくる団員に適当に返しながら会議室へと入室する。
そこにはヒースクリフを筆頭に幹部が全員揃っていた。
「それで、どうだったかね」
ユーマが扉を閉めるなりヒースクリフが質問する。
内容が内容であるためか、さしものヒースクリフも動揺があるのかと幹部が驚愕を表情に表す中、ユーマは表情を変えないまま口を開いた。
「情報の真偽に関してですが、ほぼ間違いないかと。攻略時の情報ですが、該当の座標は圏外村近くの安全圏です。近くに狩り場はありますが、オレンジプレイヤーの頻出地帯ということでグリーンはほぼ近づきませんし、現在は空白地帯となっています」
ユーマの言葉にヒースクリフは考え込む。
その間もユーマは立ったままであり、アスナが座るように促そうとしたところでヒースクリフは結論を出した。
「聖竜連合は動くのかね」
「はい。早急に討伐隊の結成をするつもりのようです。これ以上階層が上がれば攻略以外に目を向ける余裕がなくなり、そこを突かれるのを避けたい。そのためにも連中の引っ越し前に決着を、と」
ヒースクリフは手を組み、僅かに思案した。
「なるほど。では、我々も動かねばなるまい」
「参陣なされますか?」
「いや、止めておこう。万が一が起きると困る。聖竜連合にも通達はしておいてくれ」
「承知しました」
ユーマは一礼すると退室し、二人の会話についていけなかった、幹部陣が困惑する。
しばらくしてヒースクリフの指す「万が一」をギルドトップが討たれることによる混迷だと認識し、同時に最強の聖騎士の参戦不可に動揺を示した。
会議の内容は討伐隊の編成に移り続いていくのだった。
情報屋の会合の翌々日。
件の階層の主街区に討伐隊に参加を表明した面々が集っていた。
情報漏洩対策に情報屋が手分けして攻略組プレイヤーに声をかけ、集ったのはおよそ五十人。ユーマやアスナといった血盟騎士団団員を始め、クラインやキリトなど通常のボス戦とも遜色ない錚々たるメンバーである。
緊張した面持ちで離すプレイヤー達の注目を集めるようにユーマは手を叩いて声を張り上げた。
「注目! まずは今回の掃討戦への参加の表明に感謝を! その上で、改めて確認する。この戦いはボス戦と変わらない。戦いとなれば相手は問答無用で殺しに来る。捕縛を標榜してはいるが、あくまで目標。最優先は攻略組たる諸君の生存である! 覚悟無き者はここに残ることを勧める!」
ユーマの声にプレイヤー達の顔色が変わる。大半は集中した顔になる中一部は青ざめるような表情になったが、誰一人として引くことなくユーマを見ていた。
「意思は確認した。ここで攻略の障害となるレッドギルド―ラフィン・コフィンを駆逐する!」
いつかの騎士のように剣を掲げて宣言するユーマに応じて各々が武器を抜き、討伐戦へと向かっていった。
目的地までは距離があるが、それまでに出現するエネミーは攻略組のプレイヤーからすればなんてことはない相手である。そのため指揮がなくとも落ち着いて行軍出来ている。アスナが離れている隙を見てキリトはユーマへと話しかけた。
「アスナも来たんだな。てっきり置いてくると思ってた」
その言葉にアスナへ視線を向け、そのまま話し始める。
「そうしたかったけどね。団長が参加しない以上、副団長としては参加しないとってさ。まぁ、その話は後で」
簡潔な答えではあるが色々あったのか肩を竦める。
今回の戦いにヒースクリフは参加していない。同様に聖竜連合も団長は参加していない。それどころかシュミットのようなリーダー格も何人か不参加であり、そんな中アスナの参加はギルド幹部としては最上の参加者と言ってよかった。
そのためいつも以上に注目されており、ユーマの意図なしに厳重に警護されていた。
だからこそユーマもキリトと会話をする余裕があるのだが、目標地点が近づいてきたことでキリトを置いてアスナへと向かっていく。
相変わらずの様子にキリトが苦笑していると風切音とともにプレイヤーが一人倒れた。
「敵襲! 全方位を警戒しろ!」
瞠目したユーマの声に反応した者達が倒れたプレイヤーを囲んで守るように剣を構える。
皆が周囲へと視線を走らせるわずかな隙―投擲により遠距離へと意識が向いて至近への注意がおざなりになった瞬間に、木陰から飛び出した男がアスナへと迫る。
「アスナ!」
距離が離れていたため気付いたキリトが声をあげきる前にユーマの剣が閃き、男の両手首を切断した。
《バーチカル・アーク》もかくやという速度で二度振るわれた剣により武器を取り落とした男はそれを理解する前に回し蹴りを受けて転がる。
「まだ来るぞ! 集中を切らすな!」
ユーマは声を上げながら《
それに舌打ちしながらオレンジカーソルのプレイヤーが現れ、戦いが始まった。
戦闘開始からしばらく、優勢なのはラフコフ側だった。
奇襲を受けた形だが、これまでの経験から隊列を組み直し相対する。
レベルで言えば討伐隊に分がある。しかし、対人戦の経験はラフコフ側に一日の長があり、さらに勢い余って殺してしまう可能性が討伐隊から勢いを奪っていた。
互いに死者を出すことなくジリジリと討伐隊が後退していく。
危うい均衡を破ったのはやはりラフコフだった。
「ああっ!」
HPが減ったためスイッチを試みたプレイヤーが大きく体勢を崩す。
その足元にはスネアトラップのように輪っか状に置かれた縄があり、スイッチのため僅かに後方へと気をそらした瞬間、不幸にもそれに躓いたのだ。
無防備な様を晒した獲物を殺戮者は逃さない。
「うわあああああ!!」
すぐに足が掴まれ、オレンジカーソルの海にグリーンのカーソルが飲み込まれていく。
あっという間の出来事に寸の間硬直した討伐隊のプレイヤーへと悲鳴が届いた。
「や、止め―助け―!」
嘆願は最後まで続くことなく、破砕音とともにポリゴン片がオレンジカーソルの間から立ち上っていく。
それを認識した瞬間、討伐隊から迷いが消えた。
「あああぁぁぁああぁぁ!」
悲鳴とも気合とも取れる叫び声とともに戦線が崩れる。
堅実な戦い方だからこそ劣勢な状況でも死者を出していなかったのだから乱戦ともなればそのまま崩れそうなものだが、そうはならなかった。一人が殺されたことにより出発前のユーマの言葉に討伐隊もようやく実感が湧いたのだ。
覚悟が決まり、まさにモンスターと向かい合うかのような眼差しで敵を見据える。
激化していく戦闘を黒ポンチョが遠くから見守っていた。
剣閃が翻り、ライトエフェクトに続いて破砕音とポリゴン片が散っていく。敵味方合わせて八十人以上いたはずだが、気付けば二十人近い人数が消えていた。
この場から逃げた者はいない。正確には逃げようとした者もいたが、その全てが敵の手にかかり死亡していた。
その結果、血で血を洗うような泥沼の戦闘に発展し、文字通りの死闘となっていた。
「疾っ!」
ユーマの剣が首を刈り、また一人HPが全損する。
遺されるアイテムに足を取られないよう死に体の身体を蹴り飛ばすと周囲を見回すと声を張り上げた。
「最後通告だ! 今すぐ武器を捨てて投降しろ! さもなければ遅れてくる援軍も交えての殲滅戦へと移行する!」
その言葉に全員が手を止める。
ユーマの言葉は無論ブラフだ。討伐隊として集まったのは最初に接敵した五十名程でそれ以上の応援はない。
しかし、ラフコフからすれば未だ姿を見せない各ギルドの団長格が姿を見せてもおかしくない状況だった。
しばらく状況は膠着していたが、やがて一人が武器を取り落とす。それを契機に次々と武器が投げ捨てられていった。
表情こそ恨みがましいものだったが、一先ず抵抗の意思はなくなった様子にユーマは回廊結晶を取り出した。
「行き先はご存知監獄エリアだ。ゲームクリアまで大人しくしているんだな」
ユーマの言葉にラフコフの面々の表情が赫怒に染まる。
しかし抵抗してうまくいくビジョンが見えないからか憎々しげな表情のままゲートの中に消えていく。その最中、以前黄金林檎の件で顔を合わせたエストック使いが僅かに立ち止まるとユーマへと視線を向けた。
「覚えて、いろ。今度は、俺が、お前を追い詰めて、やる」
「あるといいね、次が」
返答に顔をしかめながらエストック使いが消えていく。
三下のような捨て台詞を吐いていた者もいたがそちらは徹底して無視していた。
全員が消えたことを確認し、ユーマも肩から力を抜く。
すぐに詰め寄ったのはキリトだった。
「お前なあ! あんな大嘘ぶちかまして死なばもろともとかになたらどうするつもりだったんだ!」
「ならないよ」
「そんなのわかんないだろ!?」
「ならないさ。アイツラは無責任に楽しみたいだけで、別に死にたいわけじゃない。牢獄なら脱獄して復讐のチャンスがあるのに玉砕なんて選ばない」
断言するユーマにキリトは黙り込む。
周囲も何も言えず沈黙していたがモンスターが集まり始めたため圏内へと戻ることになり、そのまま報告に戻るユーマに声をかけることもできず、一旦解散となったのだった。
ラフコフ討伐戦から二日後。
犠牲者の追悼式が開かれていた。
今回の犠牲者は攻略組で八人と最近のフロアボス戦と比べてもかなり多い。その成果としてラフコフのメンバーを十六人捕縛し、十七人の死者が出た。幹部を捕らえることには成功したものの、首魁であるPoHをへ行方知れずであり、参加者を始めとした攻略組の多くの心にしこりを残すことになる。
「ックク……思ってたより生き残ったな。あいつが一人も殺さずに終わったのは残念だが、また機会はあるだろう。また遊ぼうぜ、同類」
本作にも評価が入りました。
過分な評価に緊張しますが、やはり励みになります。
ありがとうございます。