SAOの万能者   作:篠白 春夏秋冬

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成長の兆し

 小部屋に移るとサーシャがお茶を出し、話を切り出した。

 

「ユーマくんからは、攻略中の預け先にとのことでしたけど、こちらとしては問題ないと思っています。それで、ユイちゃんについて聞いておきたいんですが……」

 

 サーシャの前向きな言葉にキリトとアスナは顔を見合わせた後、アスナが代表して話し始めた。

 

「それなんですけど、実はこの子の保護者を探したいと思ってまして」

 

「保護者、ですか?」

 

「二十二層の森の中で迷子になってたんです。記憶をなくしているみたいで……装備も服以外は何もなかったので、はじまりの街にこの子のことを知っている人がいるんじゃないかと思って探しに来たんです。預け先って話は保護者が見つからなければとは考えてますけど」

 

「なるほど」

 

 サーシャはアスナの説明を受けて一つ頷くと、話を始める。

 

 サーシャは初期はレベル上げをしていたが、ある日、子供達の一人が街で呆然としていたのを見つけたという。甘えたい盛りに親から引き離された子供達を思うと放っておけず、宿屋に連れていき共に生活を始めたという。

 

 子供を探し声を掛けて連れ帰りを繰り返す内に今の大所帯となり、二年程かけて全エリアを捜索し終えたという。その中でユイのような少女は見覚えがなく、おそらくはじまりの街で暮らしていた子供ではないのではということだった。

 

「そうですか……」

 

 手がかりがなしということでアスナの表情が沈む。ユイを一度抱きしめると、気を取り直すように、サーシャへと顔を向けた。

 

「あの、それで、ユーマは何を? ずいぶん懐かれていたようですけど」

 

「ユーマくんは、実はお金を工面するのに一役買ってくれてまして……装備とかいろいろと力を貸してくれているんです」

 

「へ? ユーマが?」

 

 キリトは思わず口を挟む。普段を知っているだけに見ず知らずのあいてを助けているのは意外だった。

 

「はい。元々はある程度レベルを上げていた私と年長の子が何人かで頑張ってレベリングしていたのですが、その結果、この街での平均的な稼ぎを超えてしまっていたのです。それで目を付けられて」

 

「目を? 誰に?」

 

「……それが」

 

 サーシャが口を開こうとしたとき、ドアがノックされた。

 

 返事をする前にユーマが顔を出した。

 

「姉さん、サーシャ、あとキリト。話しているところ悪いけど、ちょっと外すから子供達よろしく」

 

「何かあったのか?」

 

 ついでのように扱われたことに苦笑いしながらキリトが問う。対するユーマは首を鳴らして答えた。

 

「生活費を稼ぎに出てた子共達が軍の連中に囲まれてるみたいでさ。ちょっと助けてくるよ」

 

 どうにも軽い調子のユーマにキリトが立ち上がる。その表情には若干の焦りがあったが、ユーマは落ち着いたままだ。

 

「まぁ、不安ならみててもいいけど、すぐ済むよ?」

 

 何を言ってもキリトは引かないとみてユーマは肩をすくめると後ろに振り返ってマップを広げる。

 

「コッタ。ここで間違いないね?」

 

「う、うん……」

 

「よし、よく戻った。大丈夫、任せなさい」

 

 おそらく状況を伝えに来たのであろう少年を慰め、ユーマは外へと向かう。キリトに続いてアスナも立ち上がったが、ユーマがそれを諌めた。

 

「姉さんにはここを守ってほしい。軍の連中がこっちに来ないとも限らないし」

 

「ユーマ?」

 

「無理するかもってわけじゃないよ。ほんとにこっちに来るかもしれないだけだから」

 

 疑うような目に怯みつつ答えるユーマに嘘はないと判断してアスナは頷いた。

 

 今度こそ外に出ると、ユーマはチラリと振り返った。

 

「さて、走るよ。迷子になっても知らないから」

 

「はいはい、わかったよ」

 

 ユーマは僅かに溜めを作ると一気に駆け出す。一歩目からとてつもない加速をするユーマにキリトは慌ててついていくのだった。

 

 

 

 最短距離で駆けるためNPCショップを通り抜け、塀を足場に民家の屋根を超えていく。その機動にキリトは少しづつ離されながらも、なんとか逸れることなく目的の路地へとたどり着いた。

 

 ハイディング効果のある装備に着替えてこっそりと軍の制服へと近づくユーマにキリトは路地をうかがえる場所で足を止める。後ろを向けている軍のプレイヤーは未だ子供に恫喝をしているらしかった。

 

「こんなもんか? お前等、ずいぶんと税金を滞納してるからなぁ……これっぽっちじゃたりねえな」

 

「金が足りないってんなら、他のもんで払ってもらわんとなぁ?」

 

「なにいって……」

 

「装備だよ、装備! いや、それでも足りねぇ。全部置いていってもらおうか」

 

 困惑する子供に軍のプレイヤーの男達は下卑た声で答える。

 

 まるで追い剥ぎのような軍の連中にキリトは足を踏み出しかけるが、ユーマが振り返ったため足を収めた。

 

 ユーマは最後尾の男の後ろにつくと、まるで何も知らない子供のような声音で声をかける。

 

「ねぇ、何してるの?」

 

「こいつらに社会常識ってのを教えてやるんだよ」

 

「社会常識?」

 

「市民には納税の義務ってのがあるからな。それを無視する連中に無視したらどうなるか教えてやるのも俺達の大事な任務なんだよ」

 

 後ろを向かないまま男達は得意げに答える。しかし、流石に違和感が出てきたのか振り返ると、膝蹴りが出迎えた。

 

「ぬがっ!」

 

 圏内であるため男にダメージはない。しかし顔面に膝が跳んできて平静にはいられず、思わずのけぞった男を足場にユーマは飛び上がり、子供達と男達の間に降り立った。

 

「さて、無知な僕にも教えてもらおうか? その大事な任務ってのがどういうものなのか」

 

「な、ば、万能者(バランサー)!? なんでここに!? 攻略組はメンバーが欠けて忙しいはずじゃ!?」

 

 静かに告げるユーマに男達が後ずさる。その様子を見て、ユーマはため息を吐いた。

 

「やっぱりか。僕が情報屋であることを忘れたか? 前にあれだけしばいたのに反省なし。もっと厳しい躾が必要みたいだな?」

 

「ひっ」

 

「ただまぁ、今は忙しい。見逃してやるよ。巻き上げた金を置いて失せろ」

 

 冷淡に告げるユーマを前に男達は慌てて金の入った袋を放り出し、三々五々に散っていった。その恐慌模様に一体何をしたのやらとキリトが考えていると、ユーマは子供達に振り返っていた。

 

「よく頑張った。もう大丈夫だ」

 

「ユーマ!」「怖かった〜!」

 

 泣いてしまう子もいる中、ユーマは冷静に対処していく。自分の知らないユーマの姿にキリトは驚きながらも子供達を刺激しないようゆっくりと近づくのだった。

 

 

 

 子供達が落ち着くのを待ち、一行は教会へと戻る。

 

 ユイを教会に慣れさせるために一泊し、子供達が騒がしく朝食を取っていると、教会に客が訪れた。

 

 ユーマが立ち上がり、客を出迎える。保護者であるサーシャが任せているのにキリトは軽く動揺していたが、連れられてきた客を見て一気に緊張し身体を固くする。

 

 客は女性だった。長身にポニーテールに結わえた銀髪、空色の瞳。怜悧という言葉がよく似合う美人がその身に纏うのは軍のユニフォームである鎧であり、それを見た子供達も動きを止めた。

 

 しかし、ユーマが招いたということで警戒から外れたのかすぐに喧騒を取り戻していく。垣間見える信頼はやはりキリトにとって未知との遭遇だった。

 

 ユーマは女性を伴ったままキリト達の座るテーブルへと向かう。ユーマに合わせて女性が席につくと、ユーマが紹介を始める。

 

「彼女はユリエール。服装でわかったと思うけど、ALF―アインクラッド解放軍所属。こっちはアスナとキリトにユイ。二人は僕と同ギルドなんだ」

 

 紹介である以上自然なことなのだが、ユーマがアスナを呼び捨てにしたことでキリトは瞠目する。リアクションには疲れてきていたが、感情の動きがややオーバーに表現されるSAOでは抑えようがない。諦めて流れるに任せることにした。

 

 紹介も終えてユーマが切り出した。

 

「で、話って?」

 

「最初から話します。実は」

 

 ユリエールの話では、最初からアインクラッド解放軍という名前で活動していたわけではなく、最初はMTD―《MMOトゥデイ》というネットゲーム総合情報サイトの管理者であるシンカーが興したギルドだった。

 

 目標は多数のプレイヤーに因る共生であり、危険をできる限り排した狩りによる利益を分配するというものだ。しかし、徐々に巨大化した結果、獲得アイテムの秘匿が横行し、粛清、反発が相次いでリーダーは指導力を失っていった。

 

 そこに台頭してきたのがキバオウだった。二十五層での敗走後MTDに加入したキバオウは徐々に力を付け、指導力の喪失で放任主義となっていたシンカーを出し抜いて幹部プレイヤーを抱き込み、ギルドの名前をアインクラッド解放軍に変更。犯罪者狩りと稼ぎの効率のいいフィールドの独占によるギルドの強化を推進した。

 

 数の力によりそれらは比較的うまくいき、キバオウ派の権力は増強されていき、キバオウはサブリーダーに、一部は《徴税》を始めるに至っていた。それらは発生時期にユーマにより鎮圧されたが、ここ最近は前線が多忙という情報を得て再開しかかっていたらしい。昨日の連中はその一部というわけだ。

 

 一方、キバオウ派にも弱みはあった。自軍の強化に腐心した結果、ゲーム攻略は蔑ろにされていたことだ。

 

 それらは末端プレイヤーの反発を生んでいて、これを抑えるために派遣されたのが、コーバッツ率いる攻略班だったのだ。

 

 結果は知っての通り、隊長含む三名の死亡の上で敗走。これによりキバオウは激しく糾弾され、一時は追放寸前まで追い詰められた。

 

 そして、追い詰められたキバオウは強硬策に出た。ギルドリーダーであるシンカーを罠に嵌めて葬り、実権を握ろうというものだった。

 

 使われたのは回廊結晶。出口をダンジョン深くに設定したそれでプレイヤーを死地に送り出し、MPKを行うという《ポータルPK》と呼ばれる手段である。

 

 その際、「丸腰で話そう」というキバオウの言を鵜呑みにしたシンカーはダンジョンからの自力での脱出が出来ず、転移結晶も持っていなかったのか戻らないままだという。

 

 ユリエールは救援を試みたが、軍はサブリーダーの権限で再びキバオウが掌握しているため助力はなく、単身でのダンジョン攻略は難しい。

 

 悩んでいたところでユーマが再び出没したことを知り、徴税を行う軍のメンバーを伸すようなプレイヤーであれば軍の専横を阻止するために動いてくれるのではと助力を求めてきたということだった。

 

「無理なお願いだってことは、私にも解ってます……でも、黒鉄宮《生命の碑》のシンカーの名前に、いつ横線が刻まれるかと思うともうおかしくなりそうで……」

 

 話を聞き、キリトは難しい顔になる。ユリエールがシンカーを大事に思っていることは解ったし、気持ちは解るので助けたい気持ちはある。

 

 しかし、軍が攻略組への競争心からキリトやアスナに危害を加えるために演技をしている可能性も捨てきれず、真贋を見極めるための情報を握っているのはユーマだ。

 

 子供達への対応を見る限り改善傾向にはあるようだが、姉以外への興味が薄く、周囲に厳しい男がいい感情を持っていないであろう軍のプレイヤーを助けるとは思えなかった。

 

 そのためどうユーマを説得するか考えていたが、驚くべきことにユーマは頷いた。

 

「わかった。シンカー救出には協力する。ただし、今後は軍の連中の締め上げはしっかりしてもらう。甘えは許さない」

 

「わかっています……ありがとうございます……」

 

 キリトは思考のために僅かにうつむけていた顔を勢いよく上げる。もはや別の誰かがユーマのアカウントを乗っ取っているのではという考えさえ頭をよぎった。

 

「じゃ、キリトも手伝ってよね。それで検証一回分はチャラにしてあげる」

 

「え?」

 

「前に情報料をクエスト検証一回で手を打ったでしょ? それをここで消費してやろうって言ってんの」

 

「……わかったよ」

 

 キリトが頭を掻きながら答えるのにユーマは笑いながら頷いた。

 

 

 

 朝食を済ませユリエールの案内に従って移動する。

 

 ダンジョンの入口は黒鉄宮の地下だった。解放されたのは最近のことらしく、攻略の進み具合によって解放されるものと予想された。

 

 この入口はキバオウによりシンカーにも秘匿されており、自派閥の強化のための独占を図っていたらしい。しかし通路のモンスターでさえ六十層相当の強さであり、キバオウ自身が率いた先遣隊は歯が立たず、結晶アイテムを多用して命からがら脱出に成功したらしい。

 

 件の回廊結晶は逃げ回る内にたどり着いた最奥部近くの地点を記録していたらしく、ユリエールによる救援を不可能にしていたのだ。

 

 突入するのは五人。

 

 シンカーの位置をフレンド追跡で先導するユリエール。モンスターを突破するユーマとキリト。頑なに同行を宣言したユイとその護衛をするアスナだ。

 

 ユイは置いてくるつもりだったのだが、ダンジョンの難易度から前線は一人でも問題ないこと、本人の意志が固いこと、人命を第一に万が一の場合は転移結晶での脱出後、仕切り直すことをユリエールが認めたことで一旦連れて行くことになった。

 

 内部の攻略は実に順調に進んでいく。六十層相当のマージンレベルを遥かに上回るキリト一人で無双状態になり、このところ動いていない分を消化するように我先にと飛び出していくのだ。

 

「まったく……答えに淀んだ割に楽しそうじゃん」

 

「いや、それはだな……」

 

 呆れた様子のユーマにキリトはどう答えるか逡巡する。その横でユリエールはマップを表示させるとシンカーとの位置を確認した。ダンジョンのマップがないため道はわからないが、その距離は突入時と比べて三割ほどになっていた。

 

「シンカーの位置は、数日間動いていません。多分安全エリアにいるんだと思います。そこまで到達できれば、後は結晶で離脱できますから……。すみません、もう少しだけお願いします」

 

 そう言ってユリエールが頭を下げるのに、キリトは慌てたように手を振った。

 

「い、いや、好きでやってるんだし、アイテムも出るし……」

 

「何が出るの?」

 

 情報屋として気になるのかユーマが問う。キリトは得意げにウィンドウを操作してアイテムを実体化させると赤黒い肉塊が現れた。

 

「肉?」

 

「さっきのカエルのな。食材アイテムらしいぜ。ゲテモノほど旨いって言うし、今度こいつを料理」

 

「しません!」

 

 キリトの言葉を遮り、アスナはウィンドウを開く。そのまま共通となっているアイテム欄から《スカベンジトードの肉》を全て消去した。

 

「あっ! あああぁぁぁ……」

 

「ふっ」

 

 情けない顔で悲痛な声を上げるキリトをユーマが一笑に付す。そんな二人を見て抑えられなくなったユリエールは腹を抑えて笑いを漏らしていた。

 

「お姉ちゃん、はじめて笑った!」

 

 ユリエールの様子にユイが嬉しそうに叫ぶ。ユイの表情は満面の笑みであった。目覚めてから最も柔らかい笑顔にユイの回復を感じて、アスナは抱きしめる。

 

「食材一つでだらしない。食べたかったら料理スキル上げれば?」

 

「……そういうお前はいくつなんだよ」

 

「《完全習得》まで後少しってところかな」

 

 むくれたキリトにユーマは得意げに答える。それを聞き、キリトは驚愕する。《完全習得》間近というのもそうだが、アスナと被せると武器強化に差し障るという理由で、それ以外は何でも使うが、頑なに細剣を装備しないユーマがアスナと同じスキルを習得していないのも理由だった。

 

「じゃあ、ユーマが」

 

「嫌だけど?」

 

 すげなく断られ、キリトは今度こそ肩を落とす。

 

「ほら、行くよ」

 

 キリトの様子を気にすることなくユーマは先に進もうとする。アスナとユリエールも苦笑しつつユーマに続き、気落ちしたキリトを最後尾に攻略は再開された。

 

 

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