SAOの万能者   作:篠白 春夏秋冬

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Artificial Intelligence

 しばらく進むとアンデッド系統のモンスターが出現し始め、アスナが心胆を寒くしたのを察してユーマが殲滅に参加していく。

 

 時間があれば今後軍をまとめるために力が必要なユリエールのレベルアップに協力するところだが、シンカー救出を最優先に突き進む。

 

 現在は攻略開始から二時間程が経過したころ。シンカーとの距離もあとわずかとなり、そろそろかと考えながらユーマが骸骨を吹き飛ばしながら角を曲がると、光の漏れる通路が目に入った。

 

「あ、あれじゃない?」

 

 ユーマの声を聞いて一行は角を曲がる。キリトが索敵スキルで確認し頷いた。

 

「奥にプレイヤーが一人いる。グリーンだ」

 

「シンカー!」

 

 辛抱たまらなくなったユリエールが叫びながら走り出す。苦笑したユーマ、ユイを抱えたアスナとキリトも続き、やや湾曲した通路を進んで行く。

 

 しばらく走ると十字路の先に光に満ちた小部屋が見え、その入り口には一人の男が立っていた。逆光で顔こそ見えないが、両腕を振り何か伝えようとしている。

 

「ユリエ──ル!!」

 

 ユリエールを見て男が大声で叫ぶ。それを聞いてユリエールは左手を振りながら走る速度を速める。

 

「シンカ──!!」

 

 涙ながらの声に被せるように男が叫ぶ。それは再会を喜ぶ声

 

 ではなく

 

「来ちゃだめだ──っ!! その通路は……っ!!」

 

 警戒を促す声。それを聞き、アスナは走る速度を緩める。しかしユリエールの視野はすでに狭まっており、耳に入っていないのかそのまま走っていく。

 

 その時。

 

 部屋の手前数メートル、四人のいる通路と直角に交わる道の右側にある死角部分に黄色いカーソルが出現した。攻略に慣れた3人が素早く目を走らせる。

 

 表示されたのはモンスターの名前《The Fatal-scythe》それを飾る定冠詞はボスモンスターである証だ。

 

「だめ──っ!! ユリエールさん、戻って!!」

 

 前後からの絶叫にユリエールがわずかに止まる。だが、そこは十字路の中心。

 

「キリト!」

 

 ユーマとともにキリトが加速する。二人は一気にユリエールへと駆け寄り、そのまま押し飛ばす。加速をそのままに転がるように十字路を通り過ぎ、その後ろを巨大な影が通り過ぎていった。黄色いカーソルは逆の通路を進み、十メートルほどを進んで停止する。その先からは再び突進をしてきそうな気配があった。

 

 アスナは追いつくとユリエールを助け起こし、ユイを預けて短く叫ぶ。

 

「この子と一緒に安全地帯に退避してください!」

 

 ユリエールは頷いてユイを抱きかかえて駆けていく。それを見送ってモンスターへと視線を戻すと二人は素早く体制を立て直したていた。

 

 通路の先にいるのは二メートル半はありそうなボロボロの黒いローブ。フードの奥と袖口から覗く腕には、密度のある闇が纏わりつき、蠢いている。暗く沈む顔の奥には、そこだけ生々しい血管の浮いた眼球がはまり、侵入者をねめつけていた。その右手には長大な黒い鎌を持っており、そこから赤い雫が滴っている。

 

 まさに死神。その眼光に射抜かれ硬直したのもつかの間、ここまでの難易度から切り抜けられると信じてアスナは剣を取った。

 

「キリト、姉さんを連れて今すぐ逃げろ」

 

「え?」

 

「桁が違う。八十、いや、九十層クラスはある。だから早く!」

 

 焦りを孕んだユーマの声をアスナは理解しきれない。キリトはゆっくりと近づいてくる死神から視線を逸らさずに訊く。

 

「それで、どうなる?」

 

「回避タンクは一人のほうがやりやすいって言ってんだよ」

 

 転移結晶による離脱は即座に行われる訳では無い。事前にクリスタルを手にしていても、転移先の指定からテレポートの完了まで数秒かかり、その間に攻撃を受けると転移はキャンセルされる。

 

 五人の転移の時間を一人で稼ごうと言うユーマにキリトは声を張り上げた。

 

「お前は!?」

 

「死なないよ。死んでたまるか。やらなきゃいけないことがあるんだ。果たすべき責任が。生きて、この世界から帰還するんだよ!」

 

 瞳に決意を漲らせながら両手に長短二本の剣を構えるユーマを横目にキリトも構える。死神が鎌を構え始めたことで文句は飲み込み、対応すべき場所へと叫ぶ。

 

「ユリエール! ユイを連れて離脱しろ!」

 

「そんな」

 

「足手まといだ!」

 

 荒い言葉での指示の答えを聞くことは出来なかった。

 

 構えを取った二人に死神が突進する。

 

 キリトが両手の剣を十字に構え、アスナがその後ろから抱きつきながら自身の剣を右の剣に添わせる。ユーマはそれに合わせて左の剣と鎌の直線上に合わせてソードスキルを発動させ、少しでも負担を減らそうとする。

 

 しかし、全ては一撃のもとに叩き伏せられた。

 

 叩きつけるような振り下ろしはユーマの剣を破壊し、三人全員を吹き飛ばす。

 

 床に叩きつけられた反動で天井まで達し、重力に従って床へと落ちる。衝撃で一瞬飛んだ意識を立て直し、HPを確認する。直撃を食らったキリトとアスナはHPバーを黄色に変えており、直撃はせず切先に引っ掛けられた形のユーマもなんとか半分には達しないという程度である。

 

 立ち上がったユーマだったが、いまだ伏せたままの二人を逃がす隙はない。絶望が口から漏れないように歯噛みしていると、小さく足音が聞こえてきた。

 

 視線をむけると、ユイが歩いてくる。恐怖も緊張もなくまっすぐと死神を見据える少女を見て、ユーマは剣を下げた。

 

「ばかっ!! はやく、逃げろ!!」

 

 必死に上体を起こしながらキリトが叫ぶ。アスナも恐怖に身を引きつらせながら言葉を紡ごうとしたとき、ユイが口を開いた。

 

「だいじょうぶだよ、パパ、ママ」

 

 言葉と同時にユイの身体が宙に浮く。

 

 飛び上がるでもなく、背にある見えない羽根を羽ばたかせたかのようにふわりと浮かび二メートル程の高さに留まると、死神の鎌に相対するように小さな右手を掲げる。

 

「だめっ……! 逃げて!! 逃げてユイちゃん!!」

 

 アスナの絶叫をかき消すかのように、死神の大鎌が赤黒い光の帯を引いて容赦なく振り下ろされる。

 

 この場の誰が受けても致命的な切先がユイへと迫り、その身を両断する―寸前で紫色の障壁に阻まれた。同時に障壁と同じ色のタグが一つ顔を出す。

 

 【Immortal Object】そう記されたシステムタグはプレイヤーでは持ち得ない属性だった。

 

 黒い死神は戸惑うように眼球を不規則に動かす。

 

 硬直した死神を前に浮かぶユイの掲げたままの右手を中心に爆炎が生じた。それは周囲を揺らめく光で満たしながら細長い形にまとまっていく。手元に柄が出来上がるとそこから刀身が床へと伸びる。

 

 少女の身の長を優に超える長大な剣から太陽フレアのように巻き上がる炎がユイの纏う服を焼き尽くし、その下から最初に纏っていたワンピースが現れた。

 

 強烈な熱量を感じさせつつも担い手には影響をもたらさない大剣を、ユイは反転させて頭上に構え、宙を蹴って死神へと振り下ろす。

 

 轟音とともに振り下ろされる火焔剣に死神は僅かに身を竦ませつつも大鎌の柄を掲げて防御した。

 

 一瞬の拮抗の後、ゆっくりと溶断するように火焔剣が食い込んでいき、遂に死神を両断する。

 

 獲物を捕らえた火焔が断末魔さえも焼き尽くし、一瞬大きく爆発した。

 

 一瞬の閃光の後、立ち尽くしたユイの手元から火焔剣が溶け崩れるように落ちていき消滅する。壁や床に燃え移った火の爆ぜる音だけが残され、そこに死神の姿はなかった。

 

 ユーマの結晶アイテムがHPを回復させたものの、危機に瀕したキリトとアスナの身体には未だ力が入らず、剣を支えにしながら立ち上がる。そのままよろめきながら、少女へと歩み寄った。

 

「ユイ……ちゃん……」

 

 アスナの掠れた声での呼びかけに少女は音もなく振り向いた。小さな唇は微笑んでいたが、大きな漆黒の瞳には溢れ出しそうなほどに涙が溜まっていた。

 

「パパ……ママ……。ぜんぶ、思い出したよ……」

 

 

 

 シンカーのいた安全地帯には磨かれた黒い立方体の石机だけが設置されていた。

 

 ひとまず事態は落ち着いたのでユリエールとシンカーは脱出させ、ユーマが昨日の片付けの後出し忘れて、持ち運んだままになっていた椅子に座ったユイの言葉を待つこと数分、悲しそうな表情のユイを前にアスナが意を決して尋ねる。

 

「ユイちゃん……。思い出したの……? 今までの、こと……」

 

 ユイはしばらく俯いたままだったが、しばらくして頷いた。泣き笑いのような表情で顔を上げると、小さく唇を開く。

 

「はい……。全部、説明します。キリトさん、アスナさん」

 

 丁寧な言葉に因る壁にアスナの心に虚無感が飛来する。

 

 そんな心情の変化を置き去りにユイの説明は始まった。

 

 《ソードアート・オンライン》は《カーディナル》という一つの巨大なシステムにより制御されている。カーディナルは人間のメンテナンスを必要としない存在として設計されており、二つのコアプログラムによる相互のエラー訂正と無数の下位プログラム群によって世界を調整している。

 

 モンスターやNPCのAI、アイテムや通貨の出現バランスなど、全てがカーディナル指揮下のプログラム群により操作されているのだ。

 

 しかし、プログラムだけでは決して解決出来ない問題がある。それがプレイヤーの精神性に由来するトラブルだ。ときに合理性を欠く人間の感情に依る問題はプログラムでは対処出来ないため、数十人規模のスタッフが用意される予定だった。

 

 だが、カーディナルの開発者達はプレイヤーのケアすらもシステムにより行おうとして、あるプログラムを試作した。

 

 ナーヴギアの特性を利用してプレイヤーの感情を詳細にモニタリングし、問題を抱えたプレイヤーの元を訪れて会話によるカウンセリングを行う存在、《メンタルヘルス・カウンセリングプログラム》略してMHCP。その試作一号、コードネーム《Yui》。それがユイの正体だった。

 

「プログラム……AIってこと? 見えないな……」

 

 キリトとアスナの後ろで立っていたユーマはユイを見ながら首を傾げる。ユイはその様子に悲しそうな笑顔をしたまま答える。

 

「プレイヤーに違和感を与えないように、わたしには感情模倣機能が与えられていますから」

 

「でも、AIが記憶を失うなんて、一体何が?」

 

 ユーマは質問を続ける。ユイは瞳を伏せながら話を再開した。

 

 正式サービス開始時、活動を始めるはずであったユイにカーディナルから予定にない命令が下った。それは、プレイヤーに対する一切の干渉禁止。接触の断たれた状況でもいつか来る役目を果たすときのため、ユイはプレイヤーのメンタル状態のモニタリングだけを行っていた。

 

 状況は最悪。ほとんど全てのプレイヤーは恐怖、絶望、怒りといった負の感情に常時支配され、狂気に陥る者もいた。そういったプレイヤーのもとに赴き、話を聞き、問題の解決をするためのプログラムであるにも拘らず行動に移すことが出来ない状況に、ユイは徐々にエラーを蓄積させ、崩壊していった。

 

 そんな折、モニタリングの最中に他のプレイヤーとは大きく異なるメンタルパラメータを持つ二人のプレイヤーに気がついた。喜びや安らぎに加えユイには理解できない感情を持つ二人に直接会いたいと考えたユイはその二人の家から最も近いシステムコンソールから実体化し、周辺をさまよっていたのだ。

 

「それで、怪談なんて生まれたわけか」

 

 ユーマが噂話の真相に納得を示す。ユイは苦笑するとキリトとアスナに向き直った。

 

「キリトさん、アスナさん……わたし、ずっと、お二人に……会いたかった……。森の中で、お二人の姿を見た時……すごく。嬉しかった……。おかしいですよね、そんなこと、思えるはずないのに……。わたし、ただの、プログラムなのに……」

 

 大粒の涙を零しつつ、ユイは口をつぐんだ。ユーマは目を伏せると、ユイの視界からアスナで隠れる位置で座り込み石机へと寄りかかった。

 

「ユイちゃん……あなたは、ほんとうのAIなのね。本物の知性を持っているんだね……」

 

 アスナの囁くような声にユイは僅かに首を傾げた。

 

「わたしには……解りません……。わたしが、どうなってしまったのか……」

 

「ユイはもう、システムに操られるだけのプログラムじゃない。だから、自分の望みを言葉にできるはずだよ」

 

 声をかけたのはキリト。柔らかい口調でゆっくりと言葉を続ける。

 

「ユイの望みはなんだい?」

 

「わたし……わたしは……」

 

 ユイは、細い腕をいっぱいに二人に向けて伸ばした。

 

「ずっと、一緒にいたいです……パパ……ママ……!」

 

 アスナは溢れる涙を拭いもせずにユイへと駆け寄ると、小さな身体を抱きしめる。

 

「ずっと、一緒だよ、ユイちゃん」

 

 少し遅れ、キリトも歩み寄り、ユイとアスナを包むように抱きしめる。

 

「ああ……。ユイは俺達の子供だ。家に帰ろう。皆で暮らそう……いつまでも……」

 

 その言葉にユイは涙を流す。しかし、その首は横に振られた。

 

「もう……遅いんです……」

 

「なんでだよ……遅いって……」

 

 戸惑うキリト達の腕の中でユイは黒い石机を指さした。

 

「わたしが記憶を取り戻したのは……あの石に接触したせいなんです。さっきアスナさんがわたしをこの安全地帯に退避させてくれた時、わたしは偶然あの石に触れ、そして知りました。あれは、ただの装飾的オブジェクトじゃないんです……。GMがシステムに緊急アクセスするために設置されたコンソールなんです」

 

 ユイがそう示すと同時に石机の表面に光の筋が走り、小さな音とともに表面に青白いホロキーボードが浮かび上がった。

 

 説明を聞く中で立ち上がったユーマはホロキーボードを見て起動状態であることを知り、逡巡の後に飛びついた。猛然と指が動き、ウィンドウがいくつも浮かび上がる。

 

 その後ろで会話は続いていた。

 

「さっきのボスモンスターは、ここにプレイヤーを近づけないようにカーディナルの手によって配置されたものだと思います。わたしはこのコンソールからシステムにアクセスし、《オブジェクトイレイサー》を呼び出してモンスターを消去しました。その時にカーディナルのエラー訂正能力によって、破損した言語機能を復元できたのですが……それは同時に、いままで放置されていたわたしにカーディナルが注目してしまったということでもあります。今、コアシステムがわたしのプログラムを走査しています。すぐに異物という結論が出され、わたしは消去されてしまうでしょう。もう……あまり時間がありません……」

 

 ユーマの手が一瞬止まる。すぐに再始動すると起動していたウィンドウが横に移動し、別のウィンドウが開き文字が流れていく。

 

「そんな……そんなの……」

 

「なんとかならないのかよ! この場所から離れれば……」

 

 二人の悲痛な声が響く。その間もユーマの指は動き続け、打鍵の音が追随する。

 

「パパ、ママ、ありがとう。これでお別れです」

 

「嫌! そんなのいやよ!!」

 

 アスナが必死に叫ぶ。音の速度が心なしか速くなった。

 

「これからじゃない!! これから、みんなで楽しく……仲良く暮らそうって……」

 

「暗闇の中……いつ果てるとも知れない長い苦しみの中で、パパとママの存在だけがわたしを繋ぎ止めてくれた……」

 

 心情を語るユイの身体が光へと包まれ始めた。

 

「ユイ、行くな!」

 

 キリトがユイの手を握る。ユイは僅かに目を伏せて、その手を握り返す。

 

「パパとママのそばにいると、みんなが笑顔になれた……。わたし、それがとっても嬉しかった。お願いです、これからも……わたしのかわりに……みんなを助けて……喜びを分けてください……」

 

 末端から消えゆくユイは顔を上げる。涙を零しつつも笑顔を浮かべた少女がゆっくりと透き通っていく。

 

「やだ! やだよ!! ユイちゃんがいないと、私笑えないよ!!」

 

 重さをなくしていく少女は笑顔のままアスナの頬へと手を添える。

 

 音もなく言葉が紡がれ、それを最後にユイは消失した。

 

 喪失感にアスナは崩れ落ち、うずくまって声を抑えることも出来ずに泣き始める。キリトもとめどなく涙を零しながら、天井を見据えると声を張り上げた。

 

「カーディナル!! そういつもいつも……思い通りになると思うなよ!!」

 

 歯を食いしばりながらコンソールへと目を向ける。そこではユーマが未だに何かしらのコードを一心不乱に打ち込んでいた。

 

 キリトはコンソールの操作のためにユーマを退けようと肩に手をかける。力を込めてもユーマは動かず、焦りにまかせてキリトは声を荒げた。

 

「おい」

 

「うるさい」

 

 怒鳴るような声は静かな一言に一蹴される。気圧さたキリトが思わず手を離すと、平坦な声が続く。

 

「集中しているの、わかる? いや、わからなくていい。邪魔しないで」

 

 それだけ言ってユーマは作業に戻る。僅かな遅れを取り戻すようにコンソールへと向き合い、最後に力強くキーを叩くとコンソールの上で光が結集する。

 

 淡い光へ迷うことなく手を伸ばし、掴んだ瞬間にユーマはコンソールから拒絶されて吹き飛ばされ、床へと転がった。

 

「ユーマ!」

 

 仰向けに寝転がったまま動かないユーマを心配し、アスナが駆け寄る。キリトは反応を示さなくなったコンソールとユーマの間で視線を彷徨わせていたが、ユーマが挙げた手に握り込まれていたものを見て瞠目した。

 

 それは大きな涙の形をしたクリスタル。中心部で白い光の瞬く結晶の正体に思い当たるところのないアスナにユーマは笑いかけた。

 

「ユイの起動した管理者権限を使ってユイのプログラムそのものを切り離したんだ。例えるなら「心」アイテムってとこかな。細工の時間が足りなくならないかヒヤヒヤしたよ」

 

 ユーマは上体を起こすとアスナの手を取り、結晶を握らせる。そのまま力を抜いて再び仰向けになると、ウィンドウを表示して短くメッセージを送り、大きく息を吐いた。

 

 

 

 その後、ユーマの回復を待ってから三人は帰還した。

 

 シンカーから改めて礼を言われ、今後の方針を聞く。

 

 《軍》は一度解体し、新たな互助組織を作る予定らしい。今度は投げ出すことはなく、しっかりと責任を持って手綱を握る予定だという。

 

 ギルドホームで溜め込んだアイテム等は迷惑料も兼ねて「はじまりの街」全体に均等に分配するそうだ。

 

 いなくなったユイのことは誤魔化し、二十二層へと帰る。

 

 その夜、キリトは湖の畔でユーマと座り込んでいた。

 

「ユイはどうなったんだ?」

 

「僕の使っているナーヴギアって借り物でね。元の持ち主はSAOに合わせて購入したものだからSAO以外のデータってほとんどないんだ。だから、バックアップファイルの一部としてローカルメモリにロードされるようにしてある。仮にSAOがゲームクリアと同時に自動的に消滅するようになっていてもユイは残るよ。もちろんストレアも」

 

「そうか」

 

 ホッとした様子のキリトをみて、ユーマはおどけるように頭を指さした。

 

「もし僕が死んでも、ナーヴギアさえあればユイは取り戻せる。そのときは初期化される前に探し当ててね」

 

「おい!」

 

 目を怒らせるキリトにユーマは肩を竦める。厳しい視線をむけるキリトに向き直るとユーマは真剣な表情になった。

 

「あの時も言ったけど、僕は死なないよ。やらなきゃいけない事があるからね」

 

 キリトは無言のまま先を促す。

 

「悪いことしたからね。償いはしないと」

 

「償い?」

 

「アルゴと、あとはPKの分かな」

 

 ユーマが遠くを見ながら告げるのに、キリトも神妙な顔になる。

 

「アルゴはほら、あんな感じだし……そうなるように誘導もした。事件後のカウンセリングが終わったら謝って、何かあっても証言できるように死なないようにするのが目標かな」

 

 そう言ってユーマは苦笑する。少し間を開けて顔を伏せると言葉を続ける。

 

「PKは正直、罪に問われるかどうかは微妙なところだね。全部が茅場晶彦に集約される可能性もある。そこら辺は抱えて生きていくしかない。やらなきゃ殺されるところだったから、仮に今その場面に戻っても結果は変わらないだろうけど」

 

 顔を挙げたユーマはスッキリした顔をしていた。

 

「ま、僕も成長しているんだよ。姉さんの脱出が一番大事でそのために何でもするのは変わらない。けど、行いに対する責任を放り投げたままにしない程度には」

 

 ユーマは立ち上がると身体を伸ばして大きく息を吸い込む。身体から力を抜きながら息を吐き、キリトへと背を向ける。

 

「もうしばらく、休暇を楽しむといいよ。どうしようもなくなったら呼ぶから、それまでね」

 

 草地を踏み鳴らし、ユーマは去っていく。小さくなっていくその背が木立に隠れるまでキリトは見送るのだった。

 

 

 

 それから四日後―攻略組全体が震撼する事態が起きる。

 

 あまりにも早く訪れた機会にユーマは目を覆うのだった。




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