M9000番系ほどではないですが、女性的な雰囲気だと思ってください。本人は確信犯的にやっています。
時は流れ、三月。
SAOに囚われたプレイヤー達もこの世界に慣れ、順調に攻略が進むようになり始めていた。
現在の最前線は第二十三層。
誰もが初見となる階層に到達して久しく、ユーマは今日もアルゴの掴んだ情報の裏付けをして情報を送り、アスナとともに圏内へと帰還した時、それは来た。
「君達がユーマ君とアスナ君だね?」
攻略組であり目を引く容姿の二人―とりわけ情報屋の窓口になることもあるユーマに声を掛ける者は多い。圏内ということもあり、不意打ちを警戒する必要がないため緩慢に振り返ったユーマだったが、声をかけてきた人物を見て目を細めると抜剣する。
「何の用? 情報を求めてるようには視えないけど?」
明らかに敵意を剥き出しにするユーマに、声をかけてきた人物は害意がないことをアピールするかのように両手を挙げる。
「なるほど、手厳しいな。何、別に仕掛けに来た訳では無い。私の名はヒースクリフ。今回は君達を勧誘しに来たのだ」
「勧誘?」
「そう、私の結成するギルド「血盟騎士団」への勧誘だ」
ヒースクリフと名乗った男は真鍮色の瞳に二十代半ばに見える学者然とした、削いだように尖った顔立ちをしていた。秀でた額の上に、鉄灰色の前髪が流れており、長身だが痩せ気味の身体をゆったりとした真紅のローブで包んでいる。
その上から最低限の鎧を身にまとい、左手に盾を持っている。腰に剣を佩いていないが盾の上部から柄が見えており、盾が鞘を兼ねているのが伺える。
圏内にも関わらず剣を抜き構えたままのユーマを見て、プレイヤー達が遠巻きにしていく。
とはいえ、ユーマが圏内で剣を抜いて構えるのは今に始まったことではなく、アスナへ言い寄ろうとする男が多いため割とよくある光景である。
そのため事情を知るものから順番に興味をなくしていき、日常へと戻っていく。去っていく者達にユーマの表情が普段以上に鬼気迫るものであることに気づく者はいなかった。
「ひとまず、話ぐらいは聞いてもらえないだろうか。この近くに穴場の食堂があってね。なかなかいい値段がするが、私が出そうじゃないか」
ヒースクリフの言葉にユーマは周囲を見回すと剣を収める。
システムウィンドウを呼び出してメッセージを送ると、一度瞑目してからアスナに向き直った。
「姉さん、アルゴは中心近くの店にいるみたいだから先に行ってて。僕はヒースクリフの話を聞いてから行くよ」
「ユーマ」
「わかってる。夕飯までには戻るよ」
アスナはユーマの返事を聞くとため息を一つ残してユーマに背を向けた。その後姿が雑踏にまぎれていくのを見届けると、ユーマはヒースクリフに鋭い視線を向ける。
「案内してもらいましょうか」
「取って食うつもりはないんだが……まあ良いか。ついてきたまえ」
苦笑したヒースクリフはユーマに背を向けて歩き始める。
その背を見て再びユーマは剣に手をかけ、そのままついて行った。
たどり着いたのはプレイヤーのいないNPCが営む店だった。
「さて、改めてユーマ君。君と君の姉であるアスナ君に私の設立するギルド「血盟騎士団」に入って頂きたい」
ヒースクリフは席につくと慣れた様子で注文をし、本題を口にする。それに対するユーマの視線は相変わらず鋭いままだった。
「理由を伺っても?」
「君達の実力を買っているだけだ。君の交友関係に口出しするつもりはないし、「旗」にも興味はない。ただ
「……それを信じろと?」
ヒースクリフの言葉にユーマは冷ややかな視線を崩さず圏外であれば斬りかからんばかりの表情だった。
「こちらとしてはそう言うしかない。何か引っかかる事があるというのなら行ってくれたまえ」
ユーマは瞑目し思考を巡らせる。
注文していたメニューが届いてもそれは終わらず、本来であれば食事を済ませるに十分な時間を使ってから目を開いた。
「茅場晶彦の目的は何なのでしょう」
「チュートリアルの際に言っていたように、『この世界を創り出し、鑑賞すること』それが茅場晶彦の求めるすべてなのだろう。その証拠にプレイヤーに干渉することなくただただこの世界を感じている。自分の作ったこの世界を現実として楽しんでいるのではないかな」
ヒースクリフの答えを聞き、ユーマは再び思案を始める。
互いに視線を逸らすことなくしばらく時間を置き、何処かから聞こえてきた何かがポリゴン片となって消えていく音を合図にするかのようにユーマが口を開いた。
「勧誘、でしたね。そろそろギルドには入ろうと思っていました。ですので、最後に一ついいですか?」
「なんだろうか」
「僕と戦って頂きたい。僕よりも弱い相手に姉を任せるわけには行きませんので」
「なるほど、良かろう。この近くに広場がある。そこで戦おうではないか」
ヒースクリフの返答を聞き、ユーマは立ち上がる。
一方でヒースクリフは座ったままだった。
訝しむユーマだったが、ヒースクリフは悠然と料理を指した。
「まずは食事としよう。気に入ったのなら今度友人とともに来るといい」
食事を済ませたヒースクリフの案内で再び移動する。
たどり着いた広場は剣を交えるには十分な広さだったが、相変わらず人気はない。
誰が利用するかもわからないNPCショップが一つだけ存在する広場の中央で二人は向かい合っていた。
ヒースクリフがユーマから視線を逸らすことなくウィンドウを操作し、ユーマの前にデュエル申請のメッセージが表示された。
ユーマはそれを受諾し、オプションの初撃決着モードを選択する。
これは先に強攻撃をヒットさせるかHPが半分を下回った場合に勝敗が決するルールである。
デュエルのルールが設定され、六〇秒のカウントが始まった。
ヒースクリフが盾から剣を引き抜き、半身になって盾へと身を隠す。
それを油断なく見ながら、ユーマは左手で腰に佩いていた剣を抜き、開いた右手に短剣を実体化させてウィンドウを操作する。
それを見て、ヒースクリフは感心したかのような顔をした。
「ほう。二刀流か」
「外での経験故ですよ。これでも結構鳴らしたものです。公式戦ではまだ使えませんけど」
そう言うとユーマは構えるが、片手剣を頭上に上げることはなく、全身をやや脱力してからわずかに力を込め直した。
ユーマは視線をカウントダウンを続けるウィンドウに移すと、残り一〇秒まで眺めてから正面へと視線を戻す。
余裕綽々といった様子のヒースクリフに目線を鋭くしながら脳内のカウントに従って飛び出した。
デュエル開始から僅かに遅れてユーマが飛び出し、ヒースクリフへ片手剣を叩きつける。
その攻撃が剣で受け止められると同時に流れるように短剣が繰り出され、今度はそれが盾によって受け止められた。
火花のようなライトエフェクトの中、ソードスキルによる白い光に包まれた長剣が迫り、ユーマは間に合わせた防御ごと吹き飛ばされHPが減少する。
ユーマはすぐに体制を立て直して再度突撃する。
防御主体でその場から動かないヒースクリフに対し、ユーマは積極的に仕掛けていく。
ヒースクリフの防御は固く、ユーマがかすり傷をいくつかつける間にソードスキルを防御する羽目になりそれ以上にHPが減る。
みるみるうちにユーマのHPが減っていき、決着が間近となるが、ユーマの攻めの手は緩まず、むしろ更に加速していく。
ユーマによる片手剣の振り下ろしの一撃がヒースクリフの盾で防御され、勢いの殺されたユーマが押し返される。ユーマのHPは黄色に染まる寸前であり、これで決着と思われたが、ユーマの右手からこれまで起きることのなかったライトエフェクトが輝いた。
発動したのは短剣突進系ソードスキル《ラピッドバイト》。
それまで落ち着きを払っていたヒースクリフが僅かに瞠目するが、盾での防御が間に合い、逆転勝利には至らなかった。
技後硬直に囚われたユーマに軽く切っ先が触れ、HPのゲージが黄色に染まる。
ヒースクリフの勝利を祝うメッセージウィンドウが表示され、しばしの間をおいて消えた。
その間右手の短剣を見つめていたユーマはウィンドウを操作して短剣をしまい込み、鞘へと片手剣を戻す。
「私の勝ちだな。ユーマ君。さて、そろそろ勧誘の返答を聞いてもいいかな?」
「了承いたします、ヒースクリフ。我が姉を元いた世界に返すため、ひいてはこのゲームの最高効率でのクリアのため、新たに設立されるギルド―血盟騎士団へ入団しましょう」
ユーマは油断なくヒースクリフを視界に納めつつ恭順を口にする。
言葉通りにはとても見えないが、ヒースクリフは満足そうに頷いた。
「君の剣が頂点に届くことを期待しよう。先にも言ったように、君の交友関係に口出しはしない。それと、君にはある程度の裁量権を与えることになるだろう。その方が君が君らしくいられるからだ。まあ、それは十分に組織として育ってからになるとは思うがね」
「今後はどうすれば?」
「しばらくは他のメンバーの勧誘に当たる予定だ。なので準備ができたらこちらからメッセージを送ろう。フロアボス戦は戦力次第では不参加となってもらう。少なくともレイドの一パーティーとして参加できるようになれば、晴れて新興ギルド血盟騎士団のお目見えというわけだ」
そう言いながらヒースクリフはウィンドウを操作し、ギルドへの加入申請を送り、ユーマがウィンドウをじっくりと観察した後に受諾のボタンを押す。
ユーマのプレイヤーネームの横にギルドへの所属を示すアイコンが表示されたのを確認してヒースクリフは身を翻した。
「今日はこれで失礼するよ。アスナ君の勧誘についてはまた日を改めて行うとしよう」
ヒースクリフは角を曲がることなくまっすぐに離れていく。ユーマは最後までその後姿を視界から外すことはなかった。
ユーマのギルド加入から数十分後。
ユーマはアスナ、アルゴの二人と合流し、事の顛末を話していた。
「じゃあ、ギルドには所属するのね?」
「うん。そろそろ二十五層だからね。十層二十層と難易度変化がさほどではなかったから、なにかあるとすればそこだと思う」
「ホントにそんなに難易度が急上昇するのカ?」
「あるとすればだよ。等間隔に試練といえる階層を用意するなら二十五層が最後の機会だと思う。だから、そこさえ過ぎれば大丈夫じゃないかな」
日も暮れたということもあり、食事をしながら話を続けていく。ユーマは一度ヒースクリフの案内した店で料理を出されていたが、あまり信用できない相手から提供されたものを口にする気にはなれず、合流してから改めて料理を注文していた。
「ユーマが入るなら、私もそこにしようかな」
「お、アーちゃんもギルドに入るのカ。いいネタになりそうダナ」
「止めてよ、アルゴ。ヒースクリフはしばらく伏せておきたいみたいだから。それに、姉さん目当てに変な連中が群がってきても困るし」
「ユー君だし、後半が本音カナ。……二、イヤ、三ダナ」
アルゴの言葉にユーマは口を尖らせると、金を実体化させて机を滑らせる。アルゴはそれを確認することなくしまい込むとケラケラと笑った。
「マ、ギルド所属になってもオレっちの下働きは止めなくていいみたいダシ、これからもよろしくナ」
「うん、今後ともよろしく」
アルゴが笑顔で差し出した手をユーマは迷いなく取る。
アスナは複雑そうな顔をしていたが、特に口を挟むことなく食事に戻った。
数日後。
再び現れたヒースクリフの勧誘に応じ、アスナも血盟騎士団へと入団する。
その後、後にクォーターポイントと呼ばれる二十五層において多くのプレイヤーが死亡する中、攻略の主導権を握るため単独勢力での攻略を目指し抜け駆けしたキバオウ率いるアインクラッド解放軍が壊滅。
二大勢力の一つが潰走することで士気の低下を恐れた攻略組はアインクラッド解放軍と入れ替わるように強行攻略を行う事となり、犠牲を払いながらもそれを達成した。
その穴を埋める様に血盟騎士団は台頭する事となり、少数精鋭の攻略ギルドとして前線を支えるようになる。