SAOの万能者   作:篠白 春夏秋冬

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月夜の黒猫団

 アインクラッド解放軍壊滅からおよそ二ヶ月。

 

 ユーマは前線から五層程下の迷宮区へと潜っていた。

 

 時間はすでに夜。

 

 目的は装備更新に必要となった素材の回収である。

 

 装備もレベルもソロで徘徊するには十分すぎるほどであるため安全性は問題ない。

 

 時間が夜なのは上層からのプレイヤーは招かねざる客として扱われており、場合によっては晒し上げられることもあるためである。

 

 そうしてモンスターを狩り続けていると、少し離れたところにパーティーを見つけた。

 

 彼らは周囲を見回しながら進んでおり、一見すると失せ物探しのように見える。だが、その割には視線が高く、細部への警戒はおざなりだった。

 

 注意を促すためにユーマが声を掛けるべきか悩む間に彼らはモンスターと接触した。

 

 無警戒の状態から隊列も何もなく、慌ててそれぞれの武器を構える。

 

 しかし、前衛と思しき盾持ちのメイス使いが最後尾に、長槍を持ったプレイヤーが最前列となってしまい、スイッチもうまくいっていなかった。

 

 とはいえ―強化具合ははっきりとわからないが―装備を見る限り十分にマージンをとって進むタイプであることは見て取れる。この層でも戦えるレベルであるため、簡単にはゲームオーバーにはなりそうになかった。

 

 前述の通り、前線のプレイヤーが下層を動き回るのは推奨されておらず、横取りなどもっての外である。そのためユーマには彼らを放置する選択肢もあったが、ユーマは突撃した。

 

 理由は二つ。

 

 まず、彼らの戦うモンスターが目当てのものであり、現状ならば横取りになっても救援扱いとなって問題行為として受け取られないこと。

 

 何より、彼らのパーティ編成に覚えがあったからだ。

 

 一人足りないが、ここ最近姿を見ない男が関わりを持っているプレイヤー達によく似ていた。そのため行方を知らないか聞きたいと思ったからである。

 

「危なそうなので入りますね」

 

 一応マナーとして一声かけ、モンスターの背後から攻撃を加える。完全な不意打ちで上位のソードスキルを浴びせかけられたモンスターはなすすべなく一掃され、周囲に敵影のないことを確認してユーマは剣をしまう。

 

 改めてドロップアイテムを確認するが、運が悪いのか集まりは悪く、必要数には少々足りていない。もうしばらく狩りの必要があるとユーマが口を尖らせていると、棍使いが近寄ってきた。

 

「すみません、ありがとうございました。すごく強いんですね」

 

「お気になさらず。不意打ちができたからすぐに倒せただけですよ」

 

 礼を言った棍使いはケイタと名乗る。

 

 彼らは月夜の黒猫団というギルドのメンバーであり、居場所のわからなくなった仲間を探しているのだという。ギルドメンバーリストから居場所が特定できないため、位置追跡が無効となる迷宮区にいるのではと考えて探しにきたらしい。

 

 そして、他のメンバーが迷宮区以外の追跡不能地域を探しているとのことだった。

 

「助けて頂いてありがとうございます。ただ、仲間が心配なので、お礼は後日にさせてください」

 

「いえ、お礼はいいです。それよりも同行させてもらえませんか? 今日は武器の強化素材が足りなくなって下りてきたんです。人数は多い方がモンスターと遭遇しやすい。戦闘を任せていただければ十分ですよ」

 

 ユーマの言葉にケイタはわずかに迷った後に頷いた。

 

 ここまでにも突発的な戦闘は何度かあり、焦っている状況で心配してくれる(ように見える)上位プレイヤー(ユーマ)の助太刀はちょうどよかったのだ。

 

 そうして行方不明のプレイヤー─サチの捜索が再開された。

 

 普段前衛をしているメイス使いのテツオの出番はなく、現れるモンスターを鏖殺していくユーマを先頭に迷宮区を進んでいった。

 

 その最中にユーマは黒猫団のメンバーから話を聞いていた。

 

 彼らは()では同じパソコン研究会のメンバーで、その縁でギルドを組んでいるということ。

 

 元々テツオ一人で前衛をしていたが、最近仮加入してくれたメンバーのおかげで余裕ができ、順調にレベル上げができていること。

 

 レベルの上昇に伴い狩り場とする階層を上げられたことで、ギルドホームを購入するための貯金も順調に貯まっていること。

 

 そして、今回行方不明となったサチは長槍使いから前衛の盾持ち片手剣使いへの転向の最中であり、恐らく習熟が遅れていることを悩んで一人で飛び出したのではとのことだった。

 

 そこまで聞いてユーマは眉を顰める。

 

 他人のことに首を突っ込む必要はないのだが、珍しく口を出そうとしたタイミングで黒猫団へとメッセージが届いた。

 

「あの……」

 

「すみません、メッセージだ。……サチ見つかったって! 今から宿屋まで戻るって書いてる!」

 

 ケイタの言葉を聞き、黒猫団のメンバーが喜び声を上げる。

 

 その声にモンスターが寄ってきたが、黒猫団が認識する前にユーマが即殺し、水を差すことを避ける。

 

 ひとしきり喜んだ後、ケイタがユーマに向き直った。

 

「ユーマさん、ありがとうございました。さっきはいいって言われましたけど、やっぱりお礼もしたいですし、町まで一緒にどうですか? サチは先に休むみたいですけど、彼女を探していたメンバーにも紹介しますよ」

 

「そうですね、ここまで来て誰かゲームオーバーになったら台無しだし、一緒にいきましょうか」

 

 黒猫団はユーマの言葉に苦笑しつつ、踵を返して迷宮区を戻っていく。

 

 その最中、ケイタは思い出した様に問いかけた。

 

「そういえば、さっきなにか言いかけてませんでした?」

 

「……ちょっと聞きたい事があって」

 

「なんですか?」

 

「サチって人の転向ですけど、誰が言い出したんですか?」

 

 ユーマの質問に黒猫団は顔を見合わせる。

 

 どうだったかとしばらく考えていたようだったが、ケイタが口を開く。

 

「誰ってことはなかったと思います。長槍持ちが二人でサチのほうがスキル値が低いんで、転向なら早い方がいいかなって……でも、片手剣使いはいなかったからあんまりうまくいってなかったんですけど」

 

「要するに元が長物武器なのに皆で声をかけて前衛に転向させようとしていた、と。相手のこと全然考えてないんですね」

 

 ユーマの言葉を聞き、黒猫団の面々が固まる。

 

 一番に持ち直したのはケイタだった。

 

「考えてないってどういうことですか? パーティの安全を考えたら後衛よりも前衛を増やしたほうがいいし、それならスキル値が低い方が転向した方がこれまでの時間が無駄にならないでしょ?」

 

 ムッとした様子で聞くケイタに対するユーマの返答は呆れた様子のため息だった。

 

 それを聞いて黒猫団の面々は怒りをあらわにするが、ユーマは遮るように指を立てた。

 

「僕はサチさんを知らないですけど、長槍をメインにしていたなら、モンスターとの接触を怖がっていたんじゃないですか?」

 

「確かにそうでしたけど、盾を持って防御するんだからそんなに怖がる必要はないじゃないですか」

 

「本気で言っているなら実に呆れた話ですね。マージンとってゆっくり進んできたから危機らしい危機もなくて恐怖が麻痺してるのか……この世界はゲームですが、遊びではないんですよ? 痛みはないとはいえ、傷つけばそれだけ死は近づき、しかもそれは可視化されている。皆が皆そんな環境に耐え続けられる人間ではありませんよ」

 

 慇懃無礼にそれだけ告げて、ユーマは先に歩いていく。

 

 黒猫団の面々は何かいいたげにしていたが、最終的に口を噤み、ユーマに続いて行った。

 

 それから二時間程後―ユーマは未だ迷宮区にいた。

 

 黒猫団とは迷宮区の入口で別れ、そのまま戻ってきていたのだ。

 

 近づいてくるモンスターを斬り伏せ、定期的にアイテムウィンドウを確認していると、ユーマに黒い影が近づいてきた。

 

「遅かったね、キリト」

 

「……」

 

 ウィンドウを閉じて向き直ったユーマにキリトは応えない。

 

「こんなところにいるとは思わなかったけど、ここにいる意味ってある?」

 

 ユーマの声音は責めるようなものではなく、純粋に疑問をぶつけるかのようなものだった。

 

「この階層じゃ、キリトのレベルを上げるには前線よりも時間がかかる。攻略を諦めたのならともかく、まだ最前線に未練があるならさっさと抜けて戻る方が良いと思うよ。彼らに攻略はできない」

 

「何でそんなことが言える?」

 

 キリトは苛立ったように眦を釣り上げた。

 

 対するユーマは当然のことのように話す。

 

「理解が足りないんだよ。システムに対するものじゃない。この世界が現実だという認識の話だ。転向の件がいい例だね。正しく認識ができているのはサチだけ。それ以外はまだこの世界を甘く考えてる。キリト、君の所為だ。君が突出して強いから、先を知っているから、彼らは労せずレベルを上げ、情報を得ている。水と肥料を与え続けても野菜はうまく育たない。ある程度のストレスが、厳しさが必要なんだよ。彼らと一緒に腐っていきたいならともかく、彼らを向こう側に帰したいなら、離れるべきだと思うよ」

 

 言うだけ言ってユーマは返答も聞かずに去っていく。

 

 キリトは引き止めることもできず立ち尽くすだけだった。

 

 

 

 ユーマと黒猫団の邂逅からおよそ一ヶ月。

 

 ユーマは血盟騎士団の団員とともに最前線から三層下の階層の迷宮区に来ていた。

 

 今回の目的は気の抜けた行動で他の団員を危険に晒した事による懲罰を兼ねた訓練。

 

 トラップ多発地帯であるこの階層では迂闊な行動を取れば攻略組でも死ぬ恐れがある。

 

 ユーマは一応引率として来ているが、姉以外に対する容赦の無さは有名なので、やらかせば助けることを諦めて撤収する可能性が多分にあると考えている団員達に油断はなく、真剣に攻略に臨んでいた。

 

「あれ、アイツ、キリトじゃないか?」

 

「マジだ。何でこんなとこに……というか、ソロじゃないな」

 

 団員の視線を追っていくと、確かにそこにキリトはいた。

 

 相変わらず黒猫団のメンバーと組んでおり、そこにはケイタがおらず、代わりにサチと思しき女性がいた。

 

 彼らはユーマ達のすぐ横の通路から繋がる小部屋へと別の入口から入ってきたところであり、その視線の先には宝箱がある。それを解錠しようとしているというのは容易に想像がつくのだが、ユーマ以外には特に疑問はない。

 

 彼らはキリトに対する人物評はともかく実力は信用しており、わざわざキリトがパーティを組む相手が実力不足とは考えていなかった。

 

 一方ユーマは黒猫団の狩り場が現在の階層よりもいくつか下であることを知っているため、巻き込み事故を防ぐためにも撤退を指示しようとした。

 

 直後、けたたましいアラームが鳴り響く。

 

 すぐに周囲にモンスターが集まり始め、鳴り響く宝箱に吸い寄せられるように向かっていく。

 

 しかし、その誘引力はプレイヤーへと攻撃する行動ルーチンを優先する程ではないのか、モンスターの多くがユーマ達へと向かってきた。

 

「チッ、こいつらを突破して罠を破壊する! 前方を薙ぎ払うソードスキルを順番に発動して道をこじ開けろ!」

 

 騎士団員達が指示に従い、モンスターが吹き飛ばされる。

 

 ユーマは開いた隙間に身体をねじ込むように突進系ソードスキルを発動させ、鳴り喚く箱を貫いて破壊した。

 

 箱がポリゴン片へと変わり、誘引効果がなくなっても、既に近寄ってきたモンスターが消えることはない。

 

 騎士団員が突入したことによって余裕ができた方へ逃げ込んだのか黒猫団も合流し、壁を背にしての耐久戦が幕を開ける。

 

 加減をすれば死ぬと感じたのかキリトも黒猫団に合わせたソードスキルの制限を止め、全力で殲滅にあたり始める。

 

 黒猫団は戦力とするには心もとないため後ろに回し、前線で鍛えられた自動回復スキルに任せて剣を振るう。

 

 そうしてひたすらモンスターを倒すこと一時間程。

 

 ユーマのソードスキルが最後の一体をポリゴン片へと変え、戦闘が終結する。

 

 ユーマは視界に表示された経験値やアイテムの獲得を告げるウィンドウをざっと眺めて武器をしまうと、呆然としていたキリトへ向き直った。

 

「言ったはずだよ、キリト。彼らを向こう側に帰したいなら離れるべきだって。実感した? これが君が関わった事による末路だ。今回はなんとかなったけれど、これに懲りたら自分の身の振り方をよく考えるんだね」

 

 それだけ言ってユーマは転移クリスタルを取り出した。

 

 それを見て騎士団員もクリスタルを取り出し帰還の準備をする。

 

 しかし、その部屋はクリスタル無効化エリアだったため、少し移動し、帰還することになるのだった。

 

 

 

 それから数日後。

 

 キリトは日中には最前線へと顔を出すようになり、攻略にも復帰した。

 

 攻略に参加しなかった期間以上にレベリングに精を出すキリトに胡乱な目を向けるものもいたが、脇目も振らずモンスターを倒し続け、夜になると何処かに消えるビーターもあっという間に日常に飲み込まれていった。




ちょっと迷いましたが、月夜の黒猫団は全員生存しました。

キリトが蘇生アイテムを取りに行く理由が薄くなりましたが、シスコンが取りに行くので描写する予定です。
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