SAOの万能者   作:篠白 春夏秋冬

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今回は原作には出てこないキャラが出ます。

オリキャラではありませんが、性格は正しいものとも言えない気がしました。


襲撃と支払い

 時は流れ、十一月。

 

 同ギルドからの評価は変化したものの、ユーマは相変わらずアルゴの小間使だった。

 

 スキルの検証を行い、《吟唱》がヘイトを集めるデメリットがあることを確認し、ノーチラスのNFCを合わせてアイテム補充に関する交渉役に仕立てたり、抜けた戦力の補填に商業系のプレイヤー達を通じて中層圏のプレイヤーへの援助をしたりと忙しく働いていた。

 

 実は複数人いるのではと疑われる程に働いているユーマの休日は大抵の場合、アスナかアルゴと過ごすことになる。

 

 最初の頃は根を詰めまくるアルゴの処理能力を維持するためにユーマが時折休暇を取らせていた。それがいつの間にか逆転し、今ではアルゴが引きずるようにユーマを休暇へと連れ出している。

 

 大抵は圏外へと出ることはなく街中でのグルメスポット巡りなどの余裕のあるプレイヤー向けの情報収集を行うことになる。

 

 ユーマとしてもアルゴの心証を上げておくに越したことはないのでちゃんと楽しませるようにしていたのだが、先日の事故以降は直接的な接触が多くなっている気がしてきていた。

 

 端から見ればデートに違いなく、ユーマも否定しないのをいいことにアルゴは割と楽しんでいたりする。

 

 それはともかく、この日のユーマは久しぶりにクリームが欲しくなって第一層まで下りてきていた。

 

 幾度となくこなしたクエストを終え、久しぶりの最低値の黒パンをかじりながら圏外の木陰で寝転がる。

 

 最後の一口を放り込もうとしていたところで、黒い影が襲いかかった。

 

 ユーマは咄嗟に転がり、襲撃を避ける。

 

 突然の激しい動きに黒パンは手を離れ、転がる最中にポリゴン片へと変わって散っていく。

 

 ユーマはそれを認識して思い切り舌打ちしながら、回転する視界で正確にウィンドウを操作すると、立ち上がると同時に鞘に包まれたままの刀を振るう。

 

 振るう前に調整したのもあって鞘は正確に襲撃者の顔面に飛んでいく。

 

「あたあ!?」

 

 このような反撃は予測していなかったのか追撃しようとしていた襲撃者はまともにくらい、たたらを踏んだ。

 

 そこでようやくユーマも襲撃者の容姿を確認することができた。

 

 少女―そう呼ぶに相応しい体躯だった。

 

 一五〇センチに達するかという身長で長い髪を後ろで結び、両頬に煉瓦色のメイクを施している。

 

 微笑みでも湛えていれば魅力的に映るであろうに、その表情は狂気的な笑みに染まっていた。

 

 彼女のプレイヤー所属を示すカーソルはオレンジ色に染まっており、デュエル以外でプレイヤーにダメージを与えたことを示していた。

 

「駄目じゃない。嫉妬も買う攻略組ギルドの幹部ともあろうものが護衛もなく圏外をうろつくなんて」

 

「有象無象に集られるよりはマシさ。既にカーソルがオレンジなのはいいね。完璧に避けちゃったからこの後どうしようか迷ってたけど、遠慮なくいける」

 

 仕切り直しといった様子の少女だったが、ユーマのトラッシュトーク(挑発)に凄惨な笑みを深め、両手のナイフを構えて突撃した。

 

 少女の攻略組にも迫る速度にユーマは目を細めると刀を構え、足に力を込める。

 

 始まったのはドッグファイトと言って差し支えなかった。

 

 速度はほぼ互角。手数は少女が勝るが、対人戦の経験と武器の差による間合いと威力はユーマに分があった。

 

 そのため、一方的に攻撃できるよう間合いを取りたいユーマと至近距離で手数を活かすためにまとわりつきたい少女の追いかけっこの様相を呈しつつ、火花のようなライトエフェクトを草原に散りばめていく。

 

 今の第一層にはふさわしくない鋭い金属音が響くこと数分―均衡が破られた。

 

 不意にユーマの背に衝撃が走り、後方への動きが止まる。

 

 視線を向ければ襲撃前に寝転んでいた木があり、少女の表情から偶然ではなく誘導された結果のように見える。

 

 回避の方向が限定されたユーマの右脇腹にナイフが刺さり、同時に少女の右腕が肘から切り落とされた。

 

「あり?」

 

 ほぼ密着した状態でどう刀を振ったのか見れば、刃の部分を持って無理やり短く持ち直されていた。

 

 自身の腕と共に落ちたユーマの指と刀に呆気にとられた少女の短い胴へ回し蹴りが刺さり、吹き飛ばされる。

 

 かろうじてナイフを手放さずに済んだものの、片腕が欠けているため立ち上がるのに若干の時間がかかった。

 

 その隙に少女に追いついたユーマが左腕を切り飛ばし、仰向けにして肘を踏みつけにする。後は急所へと切っ先を埋めればHPの全損が出来るというところでユーマは思い出したように口を開いた。

 

「そういえば、名前を聞いてなかったね」

 

「殺す相手の名前なんか知って何かあるの?」

 

「別に? 今後「アイツの仇!」とか向かってきたときにちょっと煽りづらいってぐらいかな」

 

 自分が死に目に瀕しているというのに、少女の目は輝いているように見えた。それを冷たく見下ろしながらまるで初対面の相手と自己紹介でもするかのような態度のユーマに少女は笑みを深める。

 

「ピトフーイよ。ま、アタシはソロだし、見ての通り仕掛ける側だから仇討ちなんて考えるヤツはいないと思うけど」

 

「ふーん、そっか」

 

 自分から聞いたにもかかわらず興味の欠片もなさそうに答えると、ユーマは切っ先をピトフーイの薄い胸へと沈めていく。

 

 ピトフーイの視界の隅にあるHPバーが急速に減っていき、あっという間に黄色に染まる。

 

「こんなところかな。確かあの時はこんな感じで」

 

 そう言ってユーマは刃を引き抜くが、HPの減少は止まらない。徐々に死が迫っていくというのに、ピトフーイがどこかうっとりとしているかのような表情を浮かべているが、構わずユーマは検証を進めることにした。

 

 もはやピトフーイの視線はユーマを捉えておらず、何をしようとしているか興味もなかった。

 

 急所判定がある胸部に刃を受け入れ、既にHPが全損するだけのダメージは受けた。後は確定した(望んでいた)結果が訪れるまでのロスタイムであり、実に満足していた。

 

 だが、しかし、完全にHPが消失する寸前で急速に増えていく。

 

「は?」

 

「うーん、やっぱり仕様なのかな? でもバグの可能性もあるし、これを前提に戦術を組むのは止めたほうがいいのか」

 

 呆然とするピトフーイにユーマの呑気な声が届く。

 

 HPが完全に回復したことに伴い、切断された両腕も治り、五体満足となったピトフーイがわめき始める。

 

「ふっざけんな! 何してくれてんだよ!」

 

「だって、ピトフーイって死にたがりでしょ? 望んだ結果をくれてやる程、慈悲深くはないよ」

 

 暴れるピトフーイだったが、完全に抑え込まれており脱出はできない。

 

 対するユーマは最初からそのつもりであったかのような台詞回しだったが、実際には事故の際に起きた現象の検証である。

 

 事故で起きた現象とはHPが減少しきっていた状況からクリスタルで全快したことである。

 

 これまでも何度かオレンジプレイヤーで実験はしていたのだが、成功例は存在しなかった。

 

 今回も失敗したらしたで構わないという心境での実験だったが、成功したことで条件の検証の必要ができてしまい情報屋としては頭の痛い問題であった。

 

 思考を回す中も罵詈雑言を吐き続けるピトフーイに集中の削がれたユーマは威圧しながら首に手を添える。

 

「うるさい」

 

「ア゙、がぁ゙……」

 

 自分以上のステータスで腕を踏みつけにされ、腹に座られて抵抗も許されず、吠え癖のある犬に苛ついてよろしくない()()()をするかのような態度への反抗心と酸欠のような酩酊感、満たされる(死が近づく)感覚が混ざっていく。

 

「負け犬は犬らしく、大人しくアルファ()に従ってろ」

 

 実に傲慢に高圧的に告げられた宣告に反論も反抗も許されず、未だに続く首絞めに思考が単純化されていく。

 

 酸欠のような症状が身体の動きを緩慢にし、ついには動きが止まる。完全に抵抗ができなくなったことで反抗心が削がれていく。

 

 完全に生殺与奪を握られたことで()で他者を従えていたことで培われた自尊心が折られ、絶対値をそのままに数値を反転させたように目の前の上位者に対する屈服へ変わる。

 

 握られていた拳が開かれ、身体から力が抜けた。

 

「思ったより早かったかな」

 

 ユーマは視線が下がったことで抵抗の全てがなくなったことを察し、ピトフーイの首にかけていた手を外す。開いたままになっていたウィンドウを操作してクリスタルを取り出し、フレンド申請を送る。

 

 取り出したクリスタルを弄びながら表示された申請画面を眺めるピトフーイの右手を解放した。

 

「選ばせてあげる。監獄へ行くか、隷属するか」

 

 クリスタルは回廊結晶と呼ばれるものであり、指定した座標までのショートカットを作り出す事ができる。普段はボス部屋までのショートカットや犯罪を犯したプレイヤーを牢獄となっている黒鉄宮まで移送するのに使われている。

 

「私を使って何するつもり?」

 

「何も。でも使える道具は多いに越したことはないから」

 

 ユーマの視線にはなにかを期待するような色はない。

 

 これは提案自体に意味はなく、単に上下関係を明確にするための通過儀礼なのだ。

 

「あは♡」

 

 徹底して見下され、人間扱いすらされていないにもかかわらず、ピトフーイは嗤っていた。

 

 ゆっくりと右手が持ち上がるが、それは無意識の抵抗故ではない。眼の前の上位者に全てを売り渡す悦楽を噛みしめるためである。

 

 最終的に焦れたユーマの再びの首絞めで時短をさせられるのだった。

 

 その後、ピトフーイのオレンジ解除をしてアルゴやアスナに紹介して困惑されたり、嫌そうな顔をされたりしながら日々を過ごし、十二月二十四日。

 

 後二時間程で日付も変わろうかという頃にユーマはピトフーイを伴って三十五階層を訪れていた。

 

 現在の最前線は四十九階層のため、下りるにはやや下層すぎるのだが、ここを訪れる理由があった。

 

 既に中層プレイヤーの主戦場から外れ、この階層の雰囲気を気に入ってホームにしているプレイヤーぐらいしかいない中、ユーマがあくびをしながら待っていると、転移門が反応を示し、キリトが現れた。

 

「遅いよ、キリト」

 

「何で俺まで巻き込まれるんだ……」

 

「恨むなら一層での自分を恨むんだね」

 

 ため息でも吐きそうなキリトがここにいる理由はおよそ一年前に取り決めた代価ゆえ。

 

 フロアボスのラストアタックボーナスをかっさらった時の約束を履行するためだった。

 

 あまり時間はないためさっさと街から出ると、三人で周囲を確認し尾行がいないことを確認し、一気に走り出す。

 

 目的地に移動する間に情報を交換し合う。

 

「それで、向かう先と目的のクエストはいいんだけどさ。そっちのちっこいの誰だ? アルゴじゃないよな?」

 

「ああ、これ? 戦力は欲しいけど不完全な情報で誰かを付き合わせる訳にはいかないから、使える人材を連れてきたんだよ。キリトはぼっちで誰かと来ることはないだろうし」

 

「……本当は?」

 

「姉さんのための蘇生アイテムをドロップ争奪したくないから都合のいい人材を揃えたかった」

 

 キリトがぼっち呼ばわりに苛つきながら問うと、相変わらずの答えが返ってくる。頬をひくつかせつつもユーマが信頼する実力と理解し、前線では見ない背格好を不審に思いつつも自己紹介から入ることにした。

 

「はじめまして、俺はキリト。今回は宜しく」

 

「久しぶりね、キリト。って言ってもこのナリじゃわかんないか。ピトフーイよ。頑張りましょ?」

 

 その名を聞き、キリトが急停止する。

 

 無駄にできる時間などないのに動きを止めたキリトにユーマは面倒そうな顔で振り返る。

 

「キリトが遅かったせいで時間ないんだからさっさと行くよ」

 

「だけど、こいつは」

 

「いいんだよ、ちゃんと躾はしてるから」

 

「しつけって……」

 

「まあまあ、昔の話はいいじゃない。今はちゃんと協力するつもりなのよ?」

 

 キリトが足を止めたのはベータテスト時代にピトフーイが裏切り上等のキリングマシーンをしていたためだったが、ユーマの真偽不明の説明と本人の言葉、何よりカーソルがグリーンであるため加害性は低いと判断して再び走り出す。

 

 そうしてたどり着いたのは「迷いの森」というフィールドダンジョン。

 

 内部は四角いエリアで区切られ、それぞれを結ぶポイントがランダムに切り替わるという地図アイテムなしでの踏破は不可能な場所である。

 

 ユーマは地図を広げざっと眺めると迷うこと無く進んでいく。キリトとピトフーイもそれに続き、光源のない暗い森に飛び込んでいった。

 

 数度の戦闘をこなして目的のものがある一つ前のエリアで装備を確認する。

 

 今回は三人だけなのでユーマが盾を持ち、キリトがメインのダメージディーラーとなっている。

 

 遊撃として自由の利きやすいピトフーイに即時回復出来るクリスタルを任せるためアイテムを多めに渡し、目的のエリアに突入した。

 

「これがそうなのか?」

 

「他の情報の座標は全部杉の木だったからね。プレゼントを得られるっていうモミの木はここぐらいだよ。まぁ、そもそもここに木があることを知ってる情報屋がいなかったけど」

 

 エリアの中央奥にあったのは捻くれた巨木だった。

 

 キリトが眼の前の葉の形状と記憶にある葉の形状を比べていると、日付が変わり、同時に鈴の音が響き始める。

 

 見上げればそこには二筋の光を引いた奇怪な形のモンスターを前にしたソリが進んでいた。

 

 それがモミの木の真上に達すると同時にソリから黒い影が飛び降りる。

 

 雪を撒き散らしながら着地したそれは巨人だった。

 

 腕は異様に長く、前かがみの姿もあって地面に擦りそうになっている。目の焦点はあっておらず、顔の半分を覆う灰色の捻れたひげは下腹部まで伸びていた。

 

 一応はサンタらしく赤と白の上着に同色の三角帽をかぶり、右手に斧、左手に頭陀袋を下げている。

 

 恐らくプレゼントが入れられているであろう左手の袋を見て、ユーマの顔が狂喜に歪む。

 

 眼の前のイベントボス《背教者ニコラス》がクエストに沿ったセリフを口にしようとした瞬間、ユーマは走り出した。

 

「さあ、蘇生アイテムをよこせ!!」

 

「ヒャッハ──!!」

 

 人参を下げられた馬のように突貫するユーマにピトフーイも世紀末な雄叫びを上げながら追従する。

 

 ネジの外れたパーティメンバーにため息を吐きながらキリトも駆け出したのだった。

 

 

 

 少々時間はかかったが攻略も終わり、ニコラスが頭陀袋を残して爆散する。

 

 アイテムの大半を消耗する戦いとなり、消耗した様子のキリトに対し、ユーマの目は未だ爛々と輝いていた。

 

 少し時間を開けて頭陀袋もポリゴン片となって消滅し、それぞれのウィンドウにアイテムが格納された。

 

 早速ユーマがアイテム欄の確認を始めるのを見て、ピトフーイもウィンドウを開く。

 

 自分のウィンドウに蘇生アイテムがありませんようにと祈りながらキリトも確認を始め、声を上げたのはピトフーイだった。

 

「これじゃない? 蘇生アイテム」

 

 ピトフーイが実体化させたのは七色に光る卵大の宝石。

 

 それをユーマに駆け寄って手渡すと頭を差し出し、呆れ顔で撫でられると満足気に笑った。

 

 犬耳でも幻視できそうな光景にキリトが躾の意味をなんとなく察し、変貌ぶりに驚いているとユーマが使用方法を読み上げ始めた。

 

 アイテム名は「還魂の聖晶石」。

 

 効果は「ポップアップメニューから使用を選ぶか、あるいはアイテムを保持して《蘇生:プレイヤー名》と発声することで、対象プレイヤーが死亡してからその効果光が消滅するまでの間(およそ十秒間)ならば、対象プレイヤーを蘇生することができる」というものだった。

 

 その僅か十秒という時間がゲームオーバーからナーヴギアがプレイヤーの脳を破壊する時間というように読み取れる。

 

 少なくとも過去に死んだ者に使えるアイテムではないという点は注意が必要だと認識しつつ、ユーマは蘇生アイテムをしまった。

 

 アルゴにメッセージを送ると回廊結晶で四十九階層まで戻り、解散する。

 

 ちょうど半分となる五十階層が攻略されたのはその二週間後だった。




最初に描いているときは疑問に思っていなかったのに、改めて見直すとどうしてこうなったのかわからなくなってくるという謎。

何か違う気もしますが、本作は製作時の勢いに任せていきます。
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