パーティの為に必死で働いてたらあっけなく捨てられた話。それと復讐の後日談   作:こまの ととと

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第2話 バカンスの始まり

 わたくし達が天からの恵みたる宝物を授かって早数ヶ月。

 各地で暴虐を尽くす悪鬼達を払い、人々を救済しては感謝を得る日々。

 

 それ自体はパーティを組んだ当初からでしたが……、やはりあのお宝。

 クアンさんが扱うあの籠手の力のおかげで、一層の名声を手にしました。

 

 格闘術に優れた人物と武具。この組み合わせに加え、どのような攻勢すらも払いのける力。

 さすが、尊い犠牲の上に手にしただけはございましたわ。

 神の国にきっと……。

 

 さて? あのお方の名前はなんでしたか?

 ……まあ、そのような事はどうでもいいでしょう。

 

 そのお方もきっと、天にまで届くわたくし達の栄光に鼻が高い思いを味わっておられる事でしょうね。

 

「さあ、見えてきましたよ。みんな」

 

 クアンさんがそう言って指を示すのは、この国でも有数のリゾート地。

 激戦続きのわたくし達の心を荒ませない為には、時折こういった世俗の風流を楽しむ必要がございます。

 

「じゃあ、あそこに入ったら一旦解散ってことで。みんなで一人ひとりの時間を楽しもうじゃん」

 

 ルロリアさんが声を弾ませ、同意するわたくし達。

 普段一緒に過ごしている分、見知った方々の目を気にせずに楽しむ時間は貴重ですので。

 

「分かってると思うが、何か問題が起きても自分で解決しろ。休暇にわざわざ面倒を見るのはごめんだ」

 

「分かっていますよ、ラキナ。ただ……少しばかりの”手合わせ”などはむしろよろしいでしょう? 折角こういう場所に来られたのだから、違った味わいもある。そうは思いませんか?」

 

「……好きにしろ」

 

 ぶっきらぼうなラキナさん、ですがクアンさんの誘いを断ることなく、了承していました。

 ……いやはや、名前も覚えていないあの方がここに居たらと思うと、ゾッとしないでも……無いかもしれませんわね。

 

 まったくいつの頃からだったのか……。興味などはございませんが。

 

 

 

 いざ街に入れば、リゾート地特有の陽気な雰囲気に高揚してしまいますが、だからこそ楽しめるというもの。

 

 今はもう一人で行動して、各々が好きに過ごし始めていました。

 最終日の集合時間まで完全な自由。

 

 聖職者たるもの、どのような土地であれ質素を嗜むものとはいいますが……。

 

「お客様、お飲みものをお持ち致しました」

 

「あら、ご苦労様です」

 

「では、ごゆっくりお楽しみ下さいませ」

 

 ボーイの男性からお酒を受け取り、喉に流れていく甘さに一口で酔いしれる。

 ここは街の中央にあるカジノ。

 

 皆々様がお金で欲を掛け、そして一瞬の煌めきを追い求める場所。

 ドレスをレンタルし、着飾った今のわたくしを、一体誰がプリーストなどと思うのでしょうね。

 

 人々の強欲が渦巻くこの場所には、実に多くの感情の起伏があります。

 ドロドロと勝利と敗北に喘ぐ様は、まさしく人間という生き物の性がこれでもかと発現され消費されて……跡形もなく散って行く。

 

「ははっ! やった! 俺は天才だ!!」

 

「いやあっ!? そ、そんな! 私のお金、私のお金がっ!?」

 

 

「ふふ、実に……ぶ・ざ・ま」

 

 幼い頃に過ごした修道院よりも醜く人間がらしさを現す場所があるなどと、旅をするまで知りませんでした。

 わたくしが聖職者になった理由を思い出してなりません。

 

 人というものの頭蓋の奥には、愚かさで満たされた脳があるのだと。

 救い難きものを救うふりをする。ただそれだけで尊敬を集め、地位を高める事が出来るなんて。

 

 これぞわたくしの天職……!

 

「しかし……ふふっ。あの時のあの方の絶望に満ちた顔、あれほどの逸材は流石に見れませんか。まあよいでしょう」

 

 かつてのわたくしの仲間。

 出来損ないのサポーターでいらした方。

 

 ちょっと褒めさえすれば馬車馬もかくやという働きを見せた方。

 あの方からは本当に、人の一生の儚さを教えていただきましたわ。

 

「こんな事を思い出すなんて、酔った証拠でしょうか? まだ一杯しか飲み干してはいないのですが……。この空気に当てられたのでしょうかね」

 

 ああ。今は大変に気分が良い。

 それからもまた一杯、そしてまた一杯と。

 

 普段のわたくしからは想像も出来ない程にはしたなくお酒を嗜んでしまいました。

 

 

 

 ――そうか、そういう女だったんだな……――

 

 

 

 お店から出て夜風に当たり、ホテルへと戻ろうとする帰り道。

 

「あら?」

 

 気付けば周りに人陰が無く、さて何処ぞへと迷いこんでしまったのでしょうか。

 ですが、酔ったとはいえ頭の働きを急速に衰えさせる程ではありません。

 暴漢の類が現れようと、むしと返り討ちにして神の道を説いて差し上げるくらいは……。

 

「おかしい、と思わないか? いくら夜でも、こんな賑やかな街に人が一人もいない通りがあるなんてな」

 

「……え?」

 

 不意に聞こえてきたのは、どこかで聞いた男性の声。どこで……?

 背後から話し掛けたその人物へ向けて振り返った時――。

 

「――っ!!?」

 

「ここまで生臭い尼ってのは普通、破門だよな? 悪趣味な聖職者に下す罰は――あの世で神に裁かれる事だと思わないか?」

 

 振り返った時、わたくしの体を何かが貫いて。

 それが”あの方”の拳だと気づいた時、何故と分からないまま、内側から身を焼かれる思いを一瞬した後に見下ろしてくる瞳を最後に……――。

 

 

「まずは一人。次は――お前だっ」

 

 

 ◇◇◇

 

 

 休暇二日目っ!

 いや~天才たるこのボクが昨日はハメを外して楽しんじゃったな。

 

 宿の窓から差し込む朝日を浴びて大きく背伸び。う~んいい朝だ。

 

「サーライル、ちょっとコーヒーでも入れて……。あっ居ないんだった」

 

 いけないいけない。もう何ヶ月も経つのに、気が緩むとこれだもの。

 丁稚として便利だったあの男は、ボク達が殺しちゃったから居ないんだ。

 

 ちょっと惜しかったかなぁ?

 でも、じゃあレアアイテムと引き換えに出来るかって言えばそんな事ないんだけどね。

 

 仕方ない。居なくなっちゃった人間の事でアレコレ考えるなんてボクって優しいんだ。

 

「ふんふふ~ん。しっかし前にリゾート地に来たのってどのくらいぶりだっけ? ……ま、いっかそんなの。けど、こういうところでナンパをするってのも才能だよね。あは♪」

 

 皆んなが休暇を楽しむ間、その間に男の一人や二人堕とすくらいは出来て当然。

 

 身支度をして、鏡の前で着飾る。

 代わりに髪を結んでくれる人間は居なくなったけど、自分でもすっかり様になったみたい。

 

 さぁて、今日はどんな男の子と出会えるかな~? 少しは”持つ”と嬉しいんだけど。

 

 仕方なく自分で入れた朝一杯のコーヒーを飲みながらそんな事を思うのだった。

 

 

 宿から飛び出して街を歩けば、浮かれた人たちの群れ、群れ、群れ!

 そういう街なんだから当たり前といえばそうなんだけど。

 

 国内有数のリゾートの街は伊達じゃない。

 街全体がアトラクションで出来てる此処ほど、人の出入りが激しい街ってのも少ないもんだね。

 

 思えばボク達が出会った村は此処とは正反対だったかな? 静かさが売りとでも言いたげな、退屈な場所。

 

 あそこで二人と出会って、その内アモネとラキナが加わって……。

 そして今は一人死んじゃった。

 

 サーライルもアホだなぁ。ラキナなんかにデレデレしてなきゃ、まだパーティに居れたかもしれないのにね。

 知らぬは本人だけか。雑用しか出来ない男だったけど、好きにコキ使えるって点じゃまだまだ利用価値があったのにね~。

 

 計算高いのばっかり残っちゃって、今日みたいな息抜きがないと詰まっちゃうよ。

 

 それはさておき。

 こういう街は輝かしい反面、影も濃いってね。

 

 だって、今もほら……。

 

「はぁ……。これ片づけないと、また怒鳴られる」

 

 格好だけまともなのは不審に思われない為かな?

 疲れ切った顔の少年が、ゴミを持って路地裏に消える。

 

 どこかの店で奴隷同然にコキ使われているってところだろうね。

 こういう街だもの、浮かれた人間にみすぼらしい人間。メリハリが効いてるもんだよね。

 

「じゃあ、ナンパ! しちゃおっかなぁ~?」

 

 ボクはその男の子が消えた路地裏へと入っていった。

 

 ……どうせ生きる喜びも無いんだもの、花を咲かせてやるのも人情ってやつ?

 ボクって優しいんだ。

 

 

 

「……う~ん、もう昼前っ。時間って経つのが早いんだ」

 

 路地裏から出て来た時には太陽が真上を刺していた。

 悩める少年を一人助けて、こういう時間の使い方は一人の魔導研究者として有意義であるのは間違い無しだね。

 

 きっとボクの為に生まれてきたであろうあの男の子は、今まで生きて来た人生の中で唯一無二の最高を味わえたことだろう。それを聞く事はもう出来ないけれど。

 

 歩き出してしばらく、なんせ時間帯が時間帯だからお腹もぐうぐうなり始める頃合い。今度は別の物を頂いちゃおう!

 と思った矢先、丁度いいところに屋台を発見だ。

 

 街の中心部の風水前。ありきたりな所だけど、だからこそ趣を感じるボクは風流すらも理解出来る女だろう?

 

 そんなわけで早速屋台のおじさんからホットドッグを買おうとした時だった。

 

「なあ、お嬢さん? お腹が空いてるんだったらこれ、食べるかい?」

 

「え? いいの?」

 

 突然横から差し出されたのは、買ったばっかりと思われる出来立てのホットドッグだった。

 ちょっと怪しいけど~、せっかくくれるってのなら貰わないとね。親切は無駄にはするものじゃないからね。

 

 どうせ、ウィザードとして鍛えたこの体には毒の類は効かないし、こういうトコは便利なんだよね。

 

「じゃあお言葉に甘えて――」

 

「おっと、その前にだ。それやる代わりにちょっと付き合ってもらおうじゃないか」

 

「――ん?」

 

 おやおや? これはナンパの誘いかな?

 基本的にボクって自分から誘う専門なんだけどな~。ま、別にいいか。

 

 何かあったら返り討ちにすればいいしね。だったらせめて、イキのいい少年がいいんだけど。

 

 あれ? そういえばこの声をどこかで聞いたことがあるような……。

 

 そう思って、差し出されたホットドッグから視線を上げて見る。

 

 そこに居たのは――。

 

「え?」

 

「いいよな? 別に。ちょっと付き合うくらいよ。……だって俺は、お前に会う為に数ヶ月掛けたんだからな――ルロリア」

 

 居るはずのない人間。もう死んだはずの人。

 

 かつてのボクの仲間――サーライルがそこに居た。

 

 

 たどり着いたのは人の居ない裏通りだった。

 せっかく貰ったホットドッグを食べ終えたボクは、またどうして彼が生きていて、そして何ヶ月も経って現れたのかがわからず頭の中でハテナが浮かんでいた訳だ。

 

「キミってさ、ホントにあのサーライルなの?」

 

 というシンプルな質問。だってわかんないんだから仕方ない。

 

「見たまんまだ。ああ、でもそうだな。あの時のまんまって訳じゃないな」

 

「なにそれ? ……でもいいや。で? ボクをこんなところまで呼び出した理由ってなにかな~? 久しぶりにあった仲間と親交を温め合う――」

 

「な訳ないよなぁ」

 

「――だよねぇ」

 

 思えばちょっと雰囲気変わってるかも。

 あの頃のちょっとお調子者でお人よしだった彼の面影が見えない。

 

 と、なるとやっぱ理由はアレかな。

 

「仕返しに来たってことね。まさか生きてるなんて思わなかったから……この展開は想定外だな」

 

「俺も。死んだと思ったぜ? でも生きてる。生き残った以上は、やらないと。だろ? 覚悟はしなくていい。その方が――一思いにヤれる」

 

「へぇ、出来るんだ。この数ヶ月間でしっかり準備して来たって感じ~? でも、ボクも一端のウィザードなんだよね。勝てると思う?」

 

 どんな手を用意してきたのか知らないけれど、ボクは戦闘職で彼はサポート。

 

 戦いにおいてはこちらに一日の長がある。それに、さっきのナンパで力も蓄えたんだし、負ける要素がちょっと見えないんだよね。

 

「負ける訳ない。そう思ってんだろうが――残念ながらもう俺の勝ちだ」

 

「は? なに言って……、ん?」

 

 あれ? 手をかざして魔法を使おうとしても何も出ない。

 おかしい。そもそも魔力がどれだけ集中しても集まらない。体が沸いてこない感じに、正直焦る。

 

 どういうこと……?

 

「所詮お前の本性ってのは外道だったな。まさか人を襲って力を吸収してたなんてよ。それが仇になるとは思わなかったろうが」

 

「まさかさっきの!? でもおかしい、確かに魔力を吸い取る感覚はあった。あれは人間――じゃなかったのか!? それがキミの用意した手だったのか!」

 

「俺が作った幻だ。吸い取ったら毒が流れるおまけ付きのな」

 

 幻? ウィザードのボクが勘違いする程に精巧な偽物を生み出したっていうの?

 それ程の力を、一体どうやって……?

 彼はただのサポーター、そんな技を持ってるはずないのに。

 

 そんなボクの困惑もお構いなしに、彼は言葉を続けた。

 

「……かつて信じた仲間。その正体が他人を実験の道具ぐらいとした思わない女だったとはな。この数ヶ月、復讐する為に情報だって集めた。お前らのパーティが訪れた場所じゃ行方不明になった少年が何人か居たってな。それも、決まって親がいない奴ばかり。必死になって探す人間もいないから、大して問題にもなってなかった。その辺のモンスターにでも襲われたとしか思われないだろうしな」

 

「それで、そこから推理したってこと? でも、どうしてボクがやったなんてわかったワケ? もうわかってるだろうけど、性格の悪さからいったらアモネあたりの方がよっぽどじゃない」

 

「腐ってもプリーストだからな。人一倍面の皮の厚いアイツが、教会にバレるリスクを負ってまで直接人間をどうこうしようとはしないだろ? 俺の時はパーティメンバーが全員共犯だからやったことだしな。他の線を考えた時真っ先に浮かんだのはウィザードのお前だった。危ない実験とは切っても切れない。……もし、俺が裏切られる前だったなら気づきもしなかったことだがな」

 

 あらま、御明察だ。これはもう言い逃れは出来ない雰囲気だね。

 

「ボクは元々こういう性格だったさ。ただ、キミが気づかなかっただけ。そうさ。鈍かったよね、ホント。だからラキナみたいなのにコロっといっちゃうんだ」

 

「不覚だったさ。まさか高潔な騎士様が裏切りだなんてするはずがない。そう思ってたからこのザマだ」

 

「そうそ。だからさ、彼女に騙されてないでボクに奉公していればよかったんだ。そうすればあんな目にだって合わなかったんだ。甘い汁だって吸わせてあげた、多分」

 

「……どういう意味だ?」

 

 どういう?

 はて? どうしてだろう?

 

 ボクは前々からラキナが気に食わなかった、自分本位なのはお互い様だけどさ。

 お腹の黒さだったらアモネの方が上だったんだけれど、よりいけ好かないのはラキナだったな。

 

 いつ頃からだっけ? あれは確か……。

 

「まあいい。お前をやったら次はラキナだ」

 

「……気に入らないな。仕方ないにしても、せめてボクを最後の相手にすべきだったよ」

 

 そんな事をつぶやくけれど、目の前には迫ってくる彼。そして黒く染まった彼の拳。

 幻だけじゃなかったんだ。

 

 

『よう! これからは俺達”三人”、仲良くやって行こうぜ!』

 

『ここって他に女の子とか居ないんだね~。仕方ない、パーティの花になってあげるよ! せいぜい頑張ってよ荷物持ち君♪』

 

『おいおい、俺は何もお前の召使いってんじゃないんだぞ』

 

 

 なんでボクがキミの最後じゃなかったんだろ? でもボクの人生の最後はキミが決めるんだな。

 ラキナの前なのは気に入らないな。でも、キミは……。

 

(思えば、男の子を襲い始めたのはキミがラキナと付き合ってからだったな。なんだかイライラして。それで偶々その日に出会った物乞いの男の子を手に掛けたんだった。あの子がなんとなくキミに見えて、それで……)

 

 ボクの中に溶かしたくなった。

 

 

 気付いた時は体を貫く衝撃。

 

 でも、それでもボクの目はキミの瞳を捉えていて……。

 

 

『なあ聞いてくれよ! 俺さ、ラキナから告白されてさっ』

 

『……へぇ、よかったじゃん。キミみたいのでも好きになってくれる女の子とか居たんだね』

 

『あ、ひっでぇなお前』

 

 

 ……そうか、妬いてたんだ。だから気に入らないんだ、彼女が。

 

 でももういいや。

 ボクの最後、キミにあげられたから。

 

 それでも……復讐は最後がよかったな。

 

 キミが見つめる最後の相手が、ボクだったなら……。

 

 

 

「やけに素直に死んだな……。でもどうでもいいか、そんなの」

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