パーティの為に必死で働いてたらあっけなく捨てられた話。それと復讐の後日談   作:こまの ととと

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第3話 苦悩

 このリゾート地へとやって来て今日で三日になるな。それが何だと言えばそうだ。

 ……どうにもこの数ヶ月、今一つ寝起きがスッキリとしないな。

 

 隣に目を落とせば、同じベッドで寝ついていた人物はとっくに居なくなっていた。

 あの男……。どうでもいいことだが。

 

 シャワー室へと移動して、頭からぬるま湯を浴びる。

 こうでもしないとその日の気力を確保出来ないというか……一つの儀式のようになってしまっている。

 

 こんな調子でこれからの旅をどうするのか? そう問われれば自分でも上手い返しが思いつかない。

 

「今日も夢に見たな。……今更なんだって言うんだ」

 

 最近の不調の原因は分かっている。問題なのはそれを解決する方法が無いということだ。

 

 カウンセリングでも受ける? どうせ帰ってくる答えなど、原因と向き合えだなどと言われるだけだ。

 

 一時的に遊びに興じようとしても、一度自分の時間が訪れれば思い出す。

 

「お前は死んだんだ。何故私に纏わりつく? 何故頭の中に居座らせるのだ、私は……」

 

 人を殺す。この仕事をしてる上ではさして珍しくもない行為だ。

 大抵その相手は世間にとっては凶悪な犯罪者であり、その首に金の賭かったどうしようもない連中に過ぎない。

 

 そんな連中など気にも留めない。その価値も無いと幼い頃から教え込まれたからだ。

 

 あの時もそうだ。ただ人を一人処理したに過ぎない。

 違うのは、そいつが仲間であり……そして私の恋人であった。それだけなのだ。

 

「何が恋だ……」

 

 誰に聞こえるはずも無いからこそ、吐き捨てた言葉。

 体を洗い流すシャワーと共に排水溝にでも消えてくれ。

 

 

『よおラキナ! 愛しの彼氏がプレゼントを渡しに来たぜ!』

 

 

 蛇口を捻り、バスタオルで体を拭いてなお、それでも奴の笑顔は消えてくれなかった。

 

(悪霊が……)

 

 

 

 服装を整え、目元の隈をメイクで隠し、私は気分を変える為にホテルを出た。

 例えそれが一時のものでしかないにしろ、やらないという選択は無い。

 

 クアンとの関係が続いているのも、そんな気分を忘れたいからだったな。

 あの男の付き合い自体はもっと前だが……。

 

(思えば、それすら知らずにいたか。知らないで済んだのなら、むしろ自称彼氏にとって良かったんだろうが)

 

 気にしている? まさか。

 気のいい言葉を掛ければ私の言う事をなんでも聞いていただけの男のことなど、所詮利用価値の範囲での好意でしかない。

 

 

『気に入ってくれたか? その――』

 

 

(もう身に着けてなどいない。あんな物、見せつけられる体のいい愛情でしかない)

 

 今もジャケットの内ポケットに入れっぱなしのままのそれは、いい加減でそろそろ捨てようとしている程度の物でしかない。

 そうだな、今度ルロリアにでも押し付けてやろう。

 

 見せる相手などもう居ないのだからな……。

 

(価値とは利用出来る範囲で、そうして愛想を振りまいてやれば……)

 

「……何を考えてるんだ、私は」

 

 手放した男が私の気分を悪くする。

 くれてやった思い出と共に何故消えてくれない?

 

 私の忠誠は人に捧げるものでは無い。力を振るえる喜びと生活を潤す金と名声、それがナイトになった理由だというのに……。

 

 人恋しさなど、ストレスと共にその時の肉体の繋がりで晴らせる程度のものでしかない。

 

(どうにもいかん。何故か今日は嫌に脳がひりつく)

 

 せっかくのリゾート地だというのに、どうにも楽しむ気が起きない。

 ギャンブルは昨日やった。不思議と儲けたが、それでも気分だけは潤わなかったな。

 

 ここに来てからか? 思えばより酷くなった。

 

「何の為のリフレッシュだ、全く……」

 

 一人つまらなく愚痴を零す、我ながら滑稽だろうが。

 

 らしくなく自嘲していた矢先のこと、街中の人波の中に己の目を疑う男の姿を捉えた。

 

(な、に……?)

 

 疑問よりも早く、この足は我が儘にも動いていた。

 かつての仲間、私が殺した――元恋人を追うように。

 

 

 何故か私は、それが幻覚であるという可能性を排除していた。

 

 

 人込みに紛れたそれらしき人物を追って、それがいつの間にか消えた。と思えばまた見つけて追いかける。

 何をしているんだと自分でも思う。どうかしてるんじゃないかと、正気ではない。

 

 そもそも、何故死人に似た姿を追いかける必要がある? 私の人生において価値の無い男の幻影など、拭い去るように忘れてしまえばいいだけなのに。

 

 そう自分に言い聞かせても、私の足はそれを追いかけ、私の目はそれを捉え続ける。

 

 無駄な時間を続ける事、どれくらいか?

 気付けば奴と私の周りには人など居なくなっていて、此処は街の裏通り。

 

 それでも足を止めない奴は、未だ先を進んで行く。

 

(何処へ……?)

 

 何処だろうと、私には関係が無いというのに。

 

 悟られらないように気配を消して後をつける。

 ついには人の喧騒すらも聞こえなくなってしまった。

 

 街はずれ、朝だというのに薄暗い森の中へと入ってから気づいた。

 

「まさかついて来るなんてな」

 

 ついに奴が振り向いた。

 

(気づいていたのか。誘い込まれた……?)

 

 いや、そういう口ぶりではない。

 

「お前は誰だ? 何故、私の知っている男の姿をしている?」

 

 外れてくれという思いがほとんど、そうであってくれという思いを僅かに抱きながらも私は質問した。

 

「知っているだろうさ。だが信じられもしねえはずだ。自分の殺した男が姿を見せて、それで動揺もしないっては……それほど俺の事がどうでもいいって証拠か?」

 

 そう言われて、こちらは返す言葉に迷う。

 声が聴こえた時、半ば確信していた。その男の正体。

 

 この数ヶ月、私を惑わして来た男だ。悪霊ではない。生きて再び私の前に現れたのだ。

 

 あの頃、私の話し掛けてきた優しい声色など微塵もなく。

 唾を吐き捨てるような侮蔑が、その声とそしてその目元に浮かんでいた。

 

 腰から剣を抜く。そして男に剣先を向けるように突き付ける。

 敵を見れば行ういつもの行為。だが、私は剣に対していつもと違い感情を乗せていた。そんな気がする。

 

 敵とは処理するもの。あの時、この男にそうしたように。

 だが今は……。

 

「何故現れた? 生き延びたから復讐でもしたいとでも? お前はっ、恐怖に慄いたまま身を隠して過ごせばよかったのだ。そうすれば二度も死に目に合わずに済んだ」

 

「驕りってんだよ。お前、俺がそのつもりならそもそもこんな街にやって来やしないって分からないかよ?」

 

「……勝てるものか」

 

 呟く私の声に、さして思うところもないのか鼻を鳴らすだけで返してくる。

 

(何を恐れる、ただ死が先延ばしになっていただけだ。ここで仕留めればよし)

 

 そうだ、ここで悪縁を払い除ける。

 かつての恋人といっても、所詮は偽りのものでしかない。少なくとも私にとってはそうだ。

 

 

『ラキナ。お前には必要ないかもしれないけどもさ、何かあったら盾くらいにはなって逃がすくらいやってやるさ。情けない彼氏じゃ終われないってところをちゃんと見せてやるよ』

 

『馬鹿を言うな。私の男ならばらしき生きてみせろ。お前の骨など拾ってはやらんぞ』

 

 

 ……黙れ!

 

「今更っ、――私をまやかすんじゃない!!」

 

 勢いをつけて剣を振りかぶる。

 だがサーライルはそれを容易く避け、逆にこちらの腹に蹴りを打ち込んできた。

 

「かはッ!?」

 

 剣が手から離れ、その場に膝を付く私を見下ろす亡霊。

 そうだ、奴は亡霊でなくてはならないんだ!

 

 あの男はサポーターだったはず、なのに何故? これほどの技術はあの時のサーライルには無かった。

 

 あの時もそうだった。奴は何も出来ずに、罠からは逃げ出せなかった。

 私は見た、あの時のあの絶望に満ちたあの顔を!

 

 あれは嘘では無かったはずだ、嘘であったなら……!

 

「頭に住み着くな! 消えろ!! ……何故居続ける? あの時から今日まで。そうだ、お前は私を誑かす!!」

 

「あの時から? 一体何言ってんだ?」

 

 何故そんな不思議そうな顔をする?

 お前は死んでなきゃならない。私の過去を拭う為、汚点を消す為に!

 

 染みついたように消えてくれないお前は何者なんだ?!

 

 振り落した剣を拾うことも無く、蹲った私は、震える手で奴の服を掴んで視線を合わせた。

 

 暗い瞳だ。あの時の、私に夢中だった男の無邪気な目など最早無い。

 全てはあの時から変わったというのか。……いや、そんなことはわかっていた。

 

 わかっていて、あの時から動けないのは……私だとでも?

 

「恰好の悪いもんだな。あのラキナともあろう女が、よ。お前はパーティの花型だった。いつだって先陣切って剣を振り下ろして……そういうお前に憧れたし、そんなお前の為に役に立ちたいといつも思っていた……。数ヶ月ってのは長いもんだな。もう、そんな気持ちも遠い過去に感じるぜ」

 

 過ぎ去った思い出を語ってるのか。

 自分はもう振り切ったと? ただ恨みだけが残って私の目の前に現れたと?

 

 

『偶にはお前の背中以外を見てやりたいもんだぜ。後ろでコソコソっては、やっぱ彼氏として情けなくないかねえ』

 

『それが仕事だろう? 己の本分で成果を出しているのなら、他人の評価なぞ聞くに与えしない。私の彼氏だと言うならもっと胸を張れ』

 

『そうか? ……そうだな、そうだ! 俺がお前を助けてるなら、それが俺って男の生き様だよな。ありがとよ、そうやって励ましてくれるお前が彼女だから、お前の為に頑張れるってもんだ。――ははっ、…………ぜラキナ!』

 

 

 愛など……っ、愛など意味は無い! 私を縛り付ける力などお前にあるはずもない!

 ……なのにっ!

 

 

『ラキナ、ちょっとした余興でもしませんか? いえなに、本当にちょっとした暇潰しですよ。サーライルに――』

 

 

「切り捨てたのは私だ!! 私の人生に恋などッ!!」

 

「っ!?」

 

 

『――好きだって言って付き合うんですよ。大丈夫でしょう、彼は女性に対して免疫があまりない。その見目の麗しさなら二つ返事で答えないなんてありません。他でもない、”よく知っている”私が保証しますよ』

 

 

 最早自分でも何を口走っているのか、切り捨てたはずの、かつてに偽りの恋人にすがりつく。

 己の中にこんな女々しさがあったなど、私も知らなかった。だが、そんなことはどうでもいい!

 

 何をしたいのかはわからない、だがここでどうにかしないと……あの時のままだ。何もかもが!!

 

「力だ、分かるかサーライル! 何人も私の領域に踏み込めない力と名声があれば見苦しく他人にすがる必要も無い。男が何だ? 所詮愛など、その時の鬱憤晴らしに過ぎない。心が繋がるなどまやしなのだ! なのにっ、私を抱いたことも無い男がいつまで纏わりつく!!」

 

「……そうかよ。あの時の俺は、ただお前と過ごせる時間が素敵だった。それだけで満たされたさ」

 

「……何?」

 

「だってな、例えお前に分からなくたって――」

 

 

『愛してるぜラキナ!』

 

 

「愛してたんだラキナ。それが俺の答えで、お前の為の全てだった。……全部過去だ、お前が終わらせてくれた”未練”だ」

 

 …………未練? 終わらせた? 誰が? 私がか?

 

 未練。

 

 掴んだ力が抜けていく、何か一つ当てはまった気がして。それがどうしようもない脱力となった。

 

 今、やっとわかった。

 あの時、私がお前を見殺しにした時に残ったもの。

 そして、お前の中にはもう残ってないもの。

 

「……はっ。悪霊が戻って来て、言うことがそれか。そうさせた私が憎くて仕方ないだろうな」

 

「何を当たり前なこと言ってんだ? ……もういい、そろそろ本当に終わりにしてやる」

 

 最早運命は定まった。いや、あの時から決まっていた。

 ならば、例え死ぬとしても――。

 

「あばよ」

 

「っ!!? ……ふっ」

 

「ッ!?」

 

 この体をその拳で貫かれながらも、サーライルの唇を奪う。

 

 いつもそうだったな、お前からは無かった。

 奥手だったから、最初のキスだってお前は目を閉じていたから口を直前まで差し出すだけで、そんなお前が憐れだったから私が合わせた。

 

 きっとお前は、あの時自分から私の唇を奪ったのだと勘違いしていたのだろうな。

 

 だからこそ、これが私の最後の意地だ。

 

 そしてこれも……。

 

 倒れながらも、意識を失うギリギリで己の懐に手を伸ばす。

 

 倒れて直ぐに仰向けになった。死にゆく背中は見せたくなど無かったから。

 

 広げた右腕の先に握り込んだ物。

 

 そうだ、ずっとここにあったんだ。私の……――。

 

 

「何だったんだ、最後のは? ……ん? こいつ何を持って? ――ペンダント、あの時のプレゼントか」

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