パーティの為に必死で働いてたらあっけなく捨てられた話。それと復讐の後日談 作:こまの ととと
今日でここに来て四日が経った。
これまでに復讐したのは三人。それぞれ死体も処理した。
そもそもこの街で誰が死んだなんて気にする人間もいやしないだろうが。
今日で終わりにしてやる。
「次はいよいよお前だ――クアンっ!」
俺を直接手に掛けたお前だけは最後に取っておいたぞ。
◇◇◇
『サーライル、君の助けが必要なんですよ。……私は一人の神に仕える者として無辜の民を悪鬼から守る役目があります。ですがそれは決してこの身一つでは為せないこと。この旅は、君と共に行くからこそ大きな意味がある。一緒に冒険をしませんか? よく知ってる君だからこそ、誰より頼りに出来るんです』
村で一緒に育ったお前は、あの日俺にそう言った。
お互いに親はおらず、孤児として一緒に育った俺とお前は血を分けたも同然の兄弟。
そう思っていたの俺だけだったのか?
孤児院の中でも生まれつき魔力の扱いが得意だったお前は、先生達のようになりたいって神に仕える戦士――モンクになった。
対して、俺には得意ってもんがこれといってなかった。しいて言えば他人の仕事を率先して手助けして身に付いた筋肉と体力くらいだ。
村の外じゃ化け物が人を襲うって聞かされて、それなのにモンクとなって救済の旅に出たいと言ったお前は誰より眩しかったさ。
そんなお前に憧れて、俺に出来る範囲で旅の助けになるサポーターになって、人並みには粋がってみせた。
女子と見間違えられる程に美しい見た目に育ったお前は、常に目立って、主に女性から声援を浴びていたな。
それが羨ましくもあると同時に、誇らしくもあった。
だってそうだ、俺達は兄弟も同然。
身内の人間が認められて嬉しくないなんて事は無い。
旅の途中、訪れた町で変わり種の美少女”ルロリア”と出会って、それで俺とルロリアは不思議と馬が合って旅の仲間にしたいって言った。
……俺は人を見る目が無かったぜ。
その次に出会った”アモネ”にしても、”ラキナ”にしてもだ。
もっと言えばクアン、一緒に育ったからってお前を信用し切っていた時点で俺の目は腐っていたも同然だったんだろうがな。
それも今日で終わらせる。
俺の悪縁――頭の中を埋め尽くす復讐心を全て、お前の血で洗い流す為にな!
◇◇◇
街に来て奴らの動向を探ってる内に、クアンがここに来て毎日訪れる場所があるという事を知った。
中心街から離れた場所、入り組んだ路地を掻い潜った先にある教会だ。
といっても、とっくの昔に廃墟になってるらしいがな。
本来一般人は立ち入り禁止だが、奴はモンクだ。つまり関係者として入ってもおかしい事はない。
同じ理屈がアモネにも言えたが……来て初日にカジノに顔を出すような女だ。正直プリーストといってもそれほどの信仰心が本当にあったのか……、今となっては確かめようもないが。
が、それはさておき。
今は夕刻。
元々人通りの少ないこの場所に、この時間帯だ。
つまり今、ここら一体は俺と中に居るクアンしかいない。
何が起こったって気づく人間は居ない。
気合を入れ直し、ドアへと手を掛けた。
中に入ると埃の被った椅子が並ぶ。
それらの真ん中の通路の先、風化の目立つ彫像の前で膝をつく人間が居た。
天窓の夕陽に照らされ、腰まである長い金の髪を輝かせながらその男――クアンは祈りを捧げていたようだ。
これから自分の命を捧げる事になるとは……知りもしないだろうな。
「おや? どなたでしょう? 申し訳ありませんがこちらは現在、立ち入りを禁止しておりまして……」
背後から迫る俺の気配に気づいたのか、奴は間違えて入った観光客にでも注意するかのような優しい声色で振り返り、そして俺の姿を視界に捉える。
「……ほう。これはこれは……っ。お久しぶりですね――サーライル」
一瞬だけ、その切れ長の瞳を開いたかと思えば、しばらく会って無かった親友と再会したかのように――その美女の顔を笑みで満たし始めた。
◇◇◇
思えば、彼との出会いから”私”という人間が生まれたと言ってもいいかもしれませんね。
私があの孤児院に引き取られる前、実のところあまり記憶がありません。
かろうじてあるのは、私に向かって拳を叩きつける女性の姿……。もしや、彼女が私の母だったのやも。
まあ、今としてはどうでもいい事ですが。
引き取った先生曰く、ボロボロであったという私。孤児院に来たその日、心配そうに私の顔を覗き込む彼――サーライルの瞳を忘れた日はありません。
清純である、清楚である。そう表現すべきか。
ともかくその瞳に魅了された日から、”私”の記憶は新しく始まりました。
孤児院らしく神に仕える者が営むその施設、私が神に変わって悪鬼を討つモンクに憧れるには十分な環境……と周りは思ったでしょうね。
いえ、神に対する信仰は本物であるという自負はあります。しかし、私が力を振るう者となった一番の理由はサーライルの為。
彼を守る為? 確かにそれもあります。子供の時はそう思ってました。
私は常に彼の傍で過ごし、孤児院でも私達以上に仲の良い子供は居なかったと思います。
ただ純粋に彼との時間を尊んでいた。それだけでもよかったのですが、モンクとなると決めた以上は世の為の旅に出る事は避けられません。
だから彼を旅に誘った。どうしても彼と離れる気は起きなかった。
例え彼が戦う者として素質を持っていなかったとしても、それはさして重要な事ではありませんでしたね。彼と共に旅が出来るというだけで意味がありましたので。
彼もまた、喜んで私の旅に同行してくれました。わざわざサポーターとして。
そう、全ては私の為に……。
彼の心は幼い日のまま、清純であり続けた。それが実に眩しく……だから手放したくなかった。
二人で旅をしていた日常は、ただひたすらの充実を味わっていました。
ああ、あのままであればよかったのに……。
しかし残念ながら、世直しの為の旅というものは私の想像以上にままならないもので二人だけでは厳しい状況というものは割とすぐにやって来ました。
そうなると当然、仲間を増やすという選択が生まれる訳です。
とある町を訪れた時、ついにその瞬間はやって来ました。
ルロリア。
彼女はその町では変わり者として知られていましたが、実力は確かなウィザードでもありました。
ええ、彼の手前で難色など示しませんでした。ただ……。
『ここって他に女の子とか居ないんだね~。仕方ない、パーティの花になってあげるよ! せいぜい頑張ってよ荷物持ち君♪』
花――私にとって人を花で例えるならそれはサーライルをおいて他になく。
彼は白百合の如き清楚な心を持つ者。例えその見た目が無骨であろうと美しさに関係はありません。
なにより気に入らなかったのは、彼を自分の物かのような言い分。
その気があったはずです。彼女がそれに気づいて無かっただけで……。
彼は私の為にサポーターになったのに。
次に出会ったアモネは、私と同じ聖職者でこそありましたが……はっきり言って俗物。
他人を利用する対象ぐらいにしか思ってないのが透けて見えました。
……ただ少し違うのは、彼女はサーライルに対して素直ではない好意を持っていた事。
危険でしたね。何かの拍子でそれが表に出るのか分からなかった。
だから力を使うしかなかった。モンクの力には神に対する信仰を多少操る事も出来ますから。
彼女がプリーストでよかったと本気で思いました。
結果、ただ媚びを売るだけの女に出来ました。
醜さは増しましたが仕方ありません。
最も危機感を覚えたのは、やはりラキナ。
まさかサーライルが彼女に一目惚れしてしまうなんて、想定外とはまさにこのこと。
幸いにもラキナはサーライルに好意を持っていませんでしたので、それを利用しました。
彼女にサーライルと付き合うフリをさせたのは、いつか来る好意が裏切られるという事を彼に教える為。
ただ、それでも彼女に人一倍の愛想を振りまくのが面白くなかった私は、その裏で彼女と体の関係になりました。
ラキナは男女のアレコレに頓着しない性格でしたので。ただのストレス解消くらいにしか考えて無かったのでこれも問題はありません。
彼が好意を寄せる相手は、所詮尻の軽い売女でしかない。
彼女と体を重ねる度に、そんな彼女を貶める感覚で私の心は満たされていきましたので、そういう点では女性と関係を持つのも悪くはありませんでしたね。
私は世間では持て囃される容姿をしているようで、何度も女性に声を掛けられたりもしましたが……そも、私が美しさを磨いたのは彼の為だったのでさして嬉しくもありませんでした。
他人に言われて嬉しかったことと言えば、彼と並んで歩いている時に恋人と勘違いされた時くらいですか。
そんな日々が続いていくうち、この関係が変わらない事にどこか安心もしていましたが……それ以上にモヤモヤとした気持ちがありました。
何かが変わったのは、そうあの日――”宝物”の噂を聞いた時。
是が非でも欲しいと思った。
上手く言えませんが、これを手にした時、私の本当に欲しい物が手に入ると予感したのです。
彼を罠に嵌める計画を立てた時、彼以外の全員が乗り気だったのは意外でしたが好都合でもありました。
そして”アレ”を目撃した時、本当に欲しいものを理解したのです。
私は彼の永遠が欲しい。
だから彼を手に掛けた。彼の死に際の視線も、彼の死そのものも私だけのものとした。
変わらない関係ならば、いっそ時を私の中で永遠に止めてしまおう。
完遂した時、私の心はこれまでにない程に満たされました。
宝物を手に入れた私は全能感に満たされ、戯れに目についたアモネから彼の記憶を一部消した事もありましたか。身に着けた瞬間、そういう力があると理解しましたので。
実際、彼の名前を思い出せないようでしたね。一度は好意を抱いた相手だというのに、所詮俗物は俗物でした。
ああそういえば、ルロリアの暴走に拍車を掛けさせた事がありました。
他人の感情と記憶に手を加えるこの力は、我が物ながら恐ろしいものですね。
ラキナに関して言えば、何もしてないにも関わらず勝手にやつれて行きました。
理由は謎です。本人も話してくれませんでしたし。とりわけ私と夜を共にした後に不機嫌さが増していましたが、多少面白かったのでその後も関係は続きました。
休養という名目でこの地に来た私達、この廃墟となった教会に毎日のように足を運んだのは聖職者としての懺悔の為。彼の永遠を手に入れた私はこんなに幸せでよろしいのかと思いましたので。
しかしながらそんな私に、なんと神はさらなる祝福を授けたのです。
「……ほう。これはこれは……っ。お久しぶりですね――サーライル」
彼が実は生きていて、私の為に会いに来る機会を下さいました。