パーティの為に必死で働いてたらあっけなく捨てられた話。それと復讐の後日談   作:こまの ととと

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第5話 殺意と歓喜と。そして……

「お久しぶりだ? 随分とご挨拶じゃねえか、俺を殺しかけて言う事がそれか」

 

「確実に仕留めたと思いました。ですからあれが別れの挨拶でしたが……こうして会うと上手な再開の言葉も思いつきませんね。しかしながら、よく生きてここまで来たものです。お互いの幸運を祝して、そうですね……言葉は思いつきませんが、再開のハグなどはいかがでしょうか?」

 

「ふざける余裕はあるみたいだな……っ」

 

 残念ですね、決してふざけてなどいないのですが……彼は気に入らなかったようで。

 私はこの神の祝福に感謝し、是非その身を抱きしめたいところなのですが。

 

 しかし、本当に彼がここに現れるとは思いませんでした。

 内心の興奮を顔に出さないようにするだけで精一杯ですよ。

 

 ああ、サーライル。しかし君は今まで私に見せた事のない憤怒の睨みを披露してくれる。

 

 全く知らない彼の表情を見れて、私は嬉しい限り。

 今、この瞬間において彼は私だけに意識を向ける。私だけを見て、私だけに生の感情をぶつけてくれる。

 

 神に祈りを捧げて来た私に対するご褒美と言って過言ではありませんね。

 今、彼の頭の中には私の事しかない。素晴らしい……!

 

 ある事を確認する為、質問を投げかけました。

 

「目的は復讐でしょうか? 私は何番目の復讐相手なのです?」

 

「喜べよ、お前でこの復讐劇はフィナーレだ。お前だけはトリに回さないと気が済まなかった。――どうして俺を裏切った? なあ兄弟!!」

 

 ――っ!!

 体をゾクゾクが駆け巡る感覚、思わず酔いしれてしまいそうで……。

 いけませんね、顔が赤くなりそうです。

 

 しかしそうですか、彼女達は全員死にましたか。

 という事はやはり、私だけが彼の”特別”だった。そう考えて問題無いのでしょう。

 

「ふふ、兄弟……兄弟ですか。ですがサーライル、私はあなたを兄弟だなんて思った事は無いのですよ。申し訳ございません」

 

「っ! そうかよ、わかっていたが……随分と薄情な奴だったみたいだ。あの時まで、俺はお前はいい奴だと思ってた。いつからそんな風になってんだ……!」

 

「ふふふっ」

 

 残念ながら、私は君が思うような良い子では無かったのですよ。元々、ね。

 ただ喜びを分かち合う兄弟では満足が出来無かった。

 

 手に入れたかったのですよ。君の感情も人生も。だから私の手で死へと追いやった。

 その人生を私の色で閉じる為に……!

 

「私は変わったつもりはありません、ただ君の前では自分を良く見せたかっただけです。好きな人には着飾って見せたいものでしょう?」

 

「ああそうかよ。俺もお前の事が好きだった、自慢だったぜ。――今は反吐が出る思いだけどな」

 

 わかってはいましたが、好きのニュアンスがお互い違うようで……そこは非常に残念です。

 

 ああ、どうして……君はその感情をラキナ”など”に向けていたのでしょう。

 ……あんな女。

 

 だからこれは、私からちょっとした意地悪です。

 

「そういえば、君は知りませんでしたね」

 

「……何がだ? せめてもの情けで遺言代わりに聞いてやる」

 

「そう怖い事を言わないでください。何、ちょっとした世間話ですよ。実の所君とラキナが付き合うように仕向けたのは私です」

 

「は?」

 

「ちょっとした遊びですよ。いつか冗談だと伝えるつもりでした。丁度それがあの時になったのは偶然ですが。ああ、それと……彼女と私は何度も床を共にしていました。でも安心してください、お互い体だけの付き合いでした。……あ、申し訳ありません。そういえば君は彼女とキスまでしかした事が無いのでしたか。――これはつまらない事を言ってしまいました」

 

「――クアンッッ!!!」

 

 彼がそれまでにない程に感情を爆発させ、首に掛けたペンダントを握り込みました。

 そしてその両手に黒い籠手のようなものを纏うと私に殴りかかってくる。

 

 同じくあの宝物の白い籠手を纏った腕で、私はその一撃を受け止めました。

 

 伝わってくる衝撃――興奮して仕方がない。

 視線だけで人を殺害出来てしまいそうになりそうな程の睨み。

 

(美しい……っ)

 

 彼の殺意の篭もった視線で、私の体を火照って来ました。

 あの目と視線を交わせた瞬間こそ、私にとって最高の喜びです。

 

 ああ……サーライル! 君だけが私を昂ぶらせる!! 私に生の歓びを感じさせてくれる!!!

 

 私はその興奮を抑えながら、彼の復讐を正面から受け止める。その一つ一つが私に捧げる健気な愛。

 

 こうなると彼を手に掛けるのは実に惜しい、ですから一つ質問を投げかけます。

 

「どうです? この際、今度こそ私達二人だけで旅を再び始めるというのは? 賑やかさは物足りないかも知れませんが……そういう静かな関係を楽しむというのも趣があると思うのですが……」

 

「聞く耳持たん!! 何が旅だ? お前はそうやってこれから先もっ、この俺を馬鹿にし続けるってのか!!」

 

 そんなつもりは無いのですが、すれ違いというものは悲しいものですね。

 しかし、仕方がありません。彼が旅を望まないのであれば……今度こそこの手で彼という作品を私の心の中心で永遠のものと変えて差し上げましょう。

 

 いつも二人、この一つの身に存在する。思わず高揚してしまいますね。

 なにより……彼が他人の物となる事も無い。

 

「どうしてだ?! どうして俺を傷つける! 俺の何がそこまで気に入らなかった?!!」

 

 おや? やはりと言いますか、彼は誤解をしているようです。

 気に入らない。そんなはずはありません。

 

 私にとって、サーライル程に愛おしい存在などない。

 

「逆ですよ。さっきも言いましたが、好きだからこそ手に掛けたい。君と共に過ごしたこの記憶は私の最大の宝物。君のその感情も――」

 

 拳打を掻い潜り、その懐へと潜り込むと……彼の耳元へ口を近づけ囁きました。

 

「――君の声もその肌の匂いも、全て。さらなる芸術へと完成させる為には私の手で終わらせなけれなばならない」

 

「ッ!!? イカれてやがる……!」

 

「一般的なまともな感性など持っていては……愛というものは理屈で手には出来ないものですので」

 

「聖職者の言う事か!!」

 

「神に仕えるからこそ、ですよ。人の考えのままでは人を助ける事も導く事も出来ません。超越とは倫理を超える事です。おわかりになりましたか?」

 

「わかってたまるかよッ!」

 

 この問答は楽しい。命のやりとりの中に生の実感を得られ、私は彼の魂がさらなる輝きを放つのを感じずにはいられません。

 

 ですが、時間とは限りあるもの。いつまでも楽しんではいられません。

 

 この両手の籠手に力を込め、次の一撃に全てを掛けて挑む。

 

「わからない……わからねぇが――」

 

「ん?」

 

 彼が両手をだらりと下ろし、ブツブツと何かを呟いていました。

 とうとう覚悟を決めたのでしょうか? 私の物となる覚悟を。

 

 では、その期待に応えてその”死”を頂くといたしましょうか。

 

「さあ――フィナーレですッ!」

 

 足に込めた力を解放、勢いよく飛び出して彼に向けて拳を向けます。

 

(これからは私の中で溶け合いましょう……今度こそ、私の……っ)

 

 

 この拳が彼に到達した時、――そこに感触は無く、彼はその身を黒く染めると霧のように消えてしまいました。

 

「え? ――がッ!?」

 

 突然、後頭部を万力のような力で押さえられ、激しい痛みが襲いました。

 一体何事かと思い、必死に視線だけを横に向けました。

 

「お前の考えはわからない。でもな! お前を絶望させる方法ならわかったぜ」

 

「な、なに……を……!?」

 

 私の頭を掴んでいたのは彼の手。その彼が何かを叫ぶと、その黒い籠手が鈍く光ったような気がしました。

 

 次の瞬間、私の中から”何か”が消えていく感覚に襲われました。

 

 

 これは……記憶!?

 

 

 次々と私の記憶が無くなっていく感覚。

 

 まずは最近の……何故ここに私が居るのか?

 

 何故私は旅に出たのか? 

 

 何故君が私を傷つける?

 

 

 ……どうして”ぼく”にこんなことをするの?

 

 

「あ、あなたは誰? 何をしてるの? ど、どうしてぼくの頭を……?」

 

「……さあ、大好きなお友達の名前でも叫んでみたらわかるんじゃないのか?」

 

「友達……? そ、そうだ! サー……あえ? とも、だち? ――アアアッッ!!?」

 

 だれ? なに? ……ぼくは、だれ?

 

「あ、ああ……」

 

「一つわかった事があった。ただお前を殺したって、きっとそれはそれでお前は満足するんだってな」

 

「ぁ……」

 

「だから記憶を奪ってやった。お前の大事な”俺”の記憶もな。――あばよ、どこかの誰かさん」

 

 だれかが、ぼくのむかってこぶしをむけてきた。

 あれは……。

 

「おかあさ――」

 

 

 ◇◇◇

 

 

「……クアン、せめてまとな家庭で生まれてたなら」

 

 最早物言わぬ死体となり果てたかつての親友の姿を見る。

 

 虐待の末に引き取られたんだったな。

 こいつの母親は幼いこいつを殴るだけ殴った後、浴びるように酒を飲んで……そのまま死んだらしい。父親はどこの誰かはわからない。

 

 その話を聞いたのは俺が村を出る前の日、先生の呼び出されて聞かされたんだったな。

 それはこいつも知らない話だ。孤児院に来る前の記憶があやふやになっていたから。

 

 あの孤児院に来た時点で、こいつはもう壊れてたんだろう。

 

「だからって、同情なんて全く出来ないがな……」

 

 こいつが俺にした事は、何があったって許せるもんじゃない。

 俺の人生を滅茶苦茶にしていい権利がこんな奴にあっていい訳がない。

 

 ……もう、滅茶苦茶になっちまった後だけどな。

 

 

 

 周りに人も居ない廃教会だ、いくら騒いでも問題無かった。

 死体も庭に埋めたし、発見される頃には骨になってるだろう。

 

 あいつが持っていたアイテムは、あいつが死ぬと同時に綺麗に消えてなくなった。

 そんな俺が持っていたあの籠手にしたって、同じように消えてしまったしな。

 

 結局何だったのか……。

 

 夜になって賑わいを見せる街を、その街から離れた丘の上から見下ろしながら物思いに軽くふけっていた。

 

「……これで終わった。さて、これから一人で何処に行こうか……」

 

 宛ては無い。だが故郷にはまだ戻る気にもなれない。

 唯一つ確かなのは、色々あったあの街からは離れたいって気持ちだ。

 

 

 もうここに来る事も無いだろうし、来たくも無い。

 

 

 ペンダントが無くなった首元に寂しさを覚え、ふと、ポケットに入れていた物を取り出して代わりに身に着ける事にした。

 

 

 俺がその昔、好きだった女にプレゼントした――。

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