アークナイツ リザレクション   作:サツキタロオ

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タイトルのリザレクションの意味は特に無いです()。
なんか語呂良いなって感じで付けました。


STORY.2:灰色の街

 

アーミヤとレイヴンは、aceの言った目印――赤い屋根に白い壁の家を探して廃街を進んだ。

瓦礫の山を越え、破壊された路地を抜けると、やがて目的の建物が視界に入った。

 

壁は灰にまみれて黒ずみ、ところどころ崩れ落ちている。

屋根も傾き、今にも落ちそうなほどに損壊していたが、確かに指定された特徴を備えていた。

 

「……ここですね。」

 

アーミヤが小さく息を呑んで呟く。

 

「早速入ってみろよ。」

レイヴンは特に緊張した様子もなく、アーミヤの後ろへ下がり、周囲を警戒しながら片手を軽く上げた。

アーミヤは頷き、ほこりの積もった扉をそっと叩く。

 

ギィ……と軋む音とともに扉が開く。

中を確認したオペレーターの一人が、驚いた顔で二人を手招きした。

「アーミヤ…!無事だったのか……。それに……ドクターも。」

「あっ……aceさん……!ドーベルマンさんまで……!」

 

室内は薄暗く、窓に貼られた板の隙間からわずかに光が差し込んでいる。

その中で、aceとドーベルマンが状況を把握するようにアーミヤへ駆け寄った。

 

「アーミヤ、無事で良かった。」

ドーベルマンの声は安堵と警戒が入り混じっていた。

「……そちらが例の人物か?」

「はい。ドクターです……でも、記憶がなくなっているんです。」

 

「……何ッ……」

ドーベルマンは目を見開いたが、すぐに険しい表情へ戻り、腕を組んだ。

「困ったな……指揮能力が戻らなければ作戦にも支障が出る。」

 

aceも黙って重々しく頷いている。

二人の会話を、レイヴンは少し離れた場所で静かに眺めていた。

 

(……俺の話だろうな。)

気まずさよりも、状況を探る冷徹な観察の光が彼の瞳に宿っていた。

レイヴンは特に声をかけられることもなく、ふらりと部屋の奥へ歩き出す。

 

合流地点の内部も、先刻の混乱をそのまま反映していた。

医療機器が無造作に転がり、床には子どものおもちゃや小さなベッドが横倒しになっている。

ここがかつて“誰かを助けるための場所”だったことは、一目で分かった。

 

「……ここは……」

反応する前に、背後から声がした。

「ここは闇病院。感染者の症状を抑えるための……非合法の診療所です。」

 

レイヴンが振り返ると、馬の耳を持つ少女フェンと、悪魔の角を生やした少年ニールが立っていた。

「お前らは?」

「俺はニール。こっちはフェン。」

ニールは控えめに手を上げた。

「アンタが噂のドクターなのか?」

「……悪いが、記憶がねぇんだ。お前たちのことも知らない。」

 

「……そう、なんですか。」

フェンは困惑を隠しきれないまま、それでも丁寧に頭を下げた。

「とにかく、よろしくお願いします。」

 

ニールは持っていた端末を閉じ、レイヴンの近くまで歩いてくる。

観察するようにじっと上から下まで視線を滑らせた。

「身体には異常がないみたいだな。それどころか……なんというか、不思議な気配がある。」

「……そうか……」

 

レイヴンは自分の胸や腕を軽く触り、何か引っかかるような感覚を探したが、すぐに首を横に振った。

 

「気のせいか。それより……ドクター、アーミヤが話があるってさ。

そう言い残して、ニールは元の場所へ戻っていった。

レイヴンは軽く息を吐き、アーミヤの元へ歩み寄る。

 

「どうしたんだ、アーミヤ?」

アーミヤは少し緊張した面持ちで、彼を見上げた。

 

「ドクターは……この世界のこと、どれだけ覚えていますか?」

レイヴンはしばらく沈黙し、目を細めて記憶を手繰った。

だが結局、何も思い出せず、ゆっくりと首を振る。

 

「……ドクター。私たちロドス・アイランドは製薬会社で、鉱石病(オリパシー)の研究を行っているんです。」

「鉱石病?」

源石(オリジニウム)……この世界の文明を支えてきた物質です。それに人体が触れると……感染するんです。」

アーミヤは右手を胸に押さえた。

「感染すれば……非感染者から差別されてしまいます。時には迫害すら……」

 

語る言葉ひとつひとつが痛みを含んでいた。

レイヴンは黙って見つめているだけだったが、その赤い瞳の奥で何かがわずかに揺れた。

 

「……アーミヤ。お前……頑張ってんだな。」

レイヴンの声は普段より幾分か柔らかく、彼自身も気づかないほど自然に滲み出たものだった。

「そんな……まだまだですよ。私は……」

 

アーミヤはかすかに首を振り、耳がしゅんと垂れる。

だがその仕草を見たレイヴンは、少しだけ目を細めて言葉を重ねた。

 

「俺からしたら、スゲェ頑張ってるよ。」

アーミヤの肩が微かに震える。

その表情には、励まし慣れていない彼の言葉だからこそ響いたような、控えめな安堵が浮かんでいた。

 

しばし沈黙が落ちる。

レイヴンはふと視線を落とし、腕を組み、次の疑問を口にした。

 

「……なぁ、感染したら治せないのか?」

アーミヤは口を結んだまま小さく頷いた。

「それに関しては……まだ治療の術が見つかっていないんです。私たちができるのは……症状を抑えることだけで……」

 

声が次第に弱くなる。

しかし、アーミヤはそのまま視線を逃がさず、しっかりとレイヴンを見据えた。

 

「でも、いつかは……いつかは治療を可能にして……この世界から差別や迫害を無くしたいです。」

 

幼い願いではない。

世界の重さを背負った者だけが口にできる、静かな決意だった。

 

「……そうか。」

 

レイヴンは短く答えた。

だがその声音には、ただの相槌ではない、重みのある共感が宿っていた。

 

――その時。

「みんな。」

ドーベルマンの鋭い声が室内の雑音を断ち切った。

壁に背を預けていた隊員たちが一斉に顔を上げる。

「ニアール隊やScout隊からの連絡が依然として途絶えている。状況は悪い。三分後にはここを離れ、脱出ルートを探る。全員、準備を整えろ。」

 

緊張が室内を縫うように広がった。

aceは拳を握り、フェンとニールもそれぞれ装備を締め直す。

 

ドーベルマンは最後にレイヴンへ視線を向けた。

その眼差しには警戒も、期待も、両方が混ざっている。

 

「ドクター。お前は指揮能力を失っているが……戦闘能力はあると聞いた。いざとなったら自衛は任せるが、いいか?」

レイヴンは肩を回し、軽く首を鳴らしながら答える。

 

「分かった。指示を聞くぜ。」

その声音は短く、迷いがない。

彼が記憶を失っていても、戦う覚悟だけは曇っていなかった。

 

……………………

 

霧は、気づけば足首を飲み込み、膝元まで這い寄っていた。湿り気を帯びた冷気が皮膚にまとわりつき、視界は急速に白く濁る。

 

「……おい。なんか変だぞ。」

レイヴンが短く呟く。その声音には、ただの違和感ではなく“危険を察知した者の勘”が滲んでいた。

アーミヤも辺りを見回すが、霧が立ち込める音すら聞こえてきそうなほど静まり返っている。

 

「……確かに。さっきより濃く……」

「敵のアーツの可能性がある。隊列を円形に。全周警戒だ。」

 

ドーベルマンの指示は低く鋭く、隊員達は迷いなく動いた。霧の向こうは完全に見えず、ただ白と影だけがゆらめく。

 

―バンッ。

 

空から突然の破砕音が響き、隊員達が反射的に頭上を見上げる。霧越しでもはっきり分かる爆光。偵察ドローンが火花を散らしながら落ち、代わりに黒い外殻のドローンがいくつも高度を下げてきていた。

 

「総員!木陰に退避、急げ!」

aceの声が鋭く飛び、全員がほぼ条件反射で木々の根本へと散る。レイヴンだけは飛来するドローンを正面から睨み上げ、腰の剣を静かに抜いた。刃が霧の白に溶け込みつつも、確かな存在感を放つ。

「威嚇射撃……誘導か。」

 

独り言のように呟いた声には、敵の意図を素早く読み取った者特有の確信があった。

アーミヤも警戒して霧の向こうへ視線を走らせるが、白すぎる視界には輪郭らしい輪郭すら見えない。距離感も方向も怪しい。胸の奥にざらりとした不安が積もっていく。

 

その時、背後からドーベルマンの低い声が飛んだ。

「アーミヤ。aceの部隊が敵からの攻撃を受けている。こちらから信号弾を上げる。他の隊員を連れて援護に――」

「……ドクターが居ません…!」

 

アーミヤは反射的に周囲を探した。つい先ほどまですぐ隣にいたはずだ。視界に白い霧がかかる直前まで、その気配を確かに感じていた。

だが、今はどこにもいない。

足跡も、影も、気配すら、霧に食われたように跡形がない。

 

「何……?さっきまで一緒にいたのか……!?」

ドーベルマンの眉が険しく歪む。彼女ほどの観察眼をもってしても、レイヴンの消失に気づけなかったという事実が、逆に事態の異常さを物語っていた。

だが判断するには、あまりにも視界が悪すぎた。

 

……………………

 

霧の中に足を踏み入れたと思った次の瞬間、視界が白く弾け、気づけば背後を取られていた。腕を捻じられ、首元に冷たいものが押し当てられる。

「……誰だてめぇ……」

「見つけたぞ…」

振り向けぬ角度で囁くような女の声。赤い髪が肩越しに揺れ、血のように鮮やかな赤い瞳が横目でこちらを射抜いていた。口元は黒いマスクで覆われているが、その目だけで敵意が十分伝わる。

 

「動くな。騒げば殺す。」

刃がさらに喉元へ深く近づく。肌がひりつくほどの距離。

俺はわずかに呼吸を整え、筋肉の張りを計算しながら“反撃可能な瞬間”だけを探っていた。

 

「私は人を探してるんだ。忘れたとは言わせん……!」

「何も覚えてねぇんだよ……!」

素直にそう返すと、女は明らかに苛立ちを増した。刃先が喉の皮膚を掠め、薄い血の線が滲む。

その瞬間だった。

 

「困るなぁ……ここは僕の担当区域だろぉ?勝手に動くなら、報告しなきゃいけないよねぇ……クラウンスレイヤー?」

 

霧を裂くように軽い声が響き、銀髪の少年が影の中から歩み出た。

その笑顔は笑っているのに、目の奥だけがまったく笑っていない。

 

クラウンスレイヤーは舌打ちをし、俺の首から刃を離す。

「……チッ。お前が惨めに負けるのを楽しみにしてるよ。」

 

吐き捨てるように言うと、体を霧へ溶かすように消え去った。

束の間の沈黙。霧が揺れ、アーミヤ達が木々の間から姿を現す。

だが、銀髪の少年はその全てを計算していたかのように、ゆったりと両手を広げた。

 

「さて、皆さんお揃いで……歓迎するよ?」

 

その声に応えるかのように、霧の奥からレユニオンの構成員たちが音もなく現れ、円を描くように包囲を狭めてくる。

周囲の気配が一気に“敵”で満たされる。

 

「くっ……コイツら……!」

ace達が警戒して後退するが、包囲は逃げ場を塞ぐように形を変え続ける。

 

「僕はメフィスト。……今から僕と“ゲーム”をしないかい?」

軽い声。しかし、その奥底で蠢いているのは楽しげな狂気。

 

「何ぃ……」

「白髪の君、そう――君だよ? ドクター、と呼ばれているんだよね?」

 

俺を指で示し、嬉々とした声が続く。

 

「石棺から出てきた君のことが気になって仕方がないんだ。どうやってあんな場所で生きてた?どうやって命を繋ぎ止めていたんだい?……あぁ、知りたいなぁ。」

 

完全に“観察対象”を見る目だった。

 

そして、メフィストがひとつ手を振ると――

「始めようか。」

周囲の構成員の中から一人が前に出て、謎の攻撃を放った。空気が強制的に振動し、紫の光がフェン達の足元を薙ぎ払う。

「っ!?なんだ今の!?」

俺は突然の事で驚いた。

「アーツです……!源石の力を利用した攻撃……!」

 

アーミヤが叫び、仲間を下がらせ、敵の動きから距離を取る。

俺は反射的に踵を返し、迫る構成員を蹴り飛ばす。骨の軋む感触と、敵が倒れる重い音が霧の中に吸い込まれていった。

「説明が遅れてすみません……!今はとにかくここから脱出しましょう!」

 

アーミヤが短く指示し、全員が散開しながら脱出経路へ走り出す。

 

俺の胸の奥には、霧よりも重たい感覚が残っていた。

灰を飲み込んだような、喉奥にこびりつく嫌なざらつき。

 

“――まだ、何かが始まったばかりだ。”

 

その感覚だけが、不気味に確かなものとして残っていた。





プライム会員なったのでアニメ見ながら作ってます。
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